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第29話 薬草料理コンテスト

「お嬢様、本日は王都中央広場で『薬草料理コンテスト』が開催されるそうです」


朝食後、ハロルドが新聞を片手に告げた。

眼鏡の奥の目が少し心配そうなのは、きっと昨日の『自動攪拌薬』の実験で、スプーンが一人でに踊り続けているのを見たからだろう。


「薬草料理コンテスト?面白そうね」


「市民の皆様が参加できる催し物だそうです。優勝者には『金の薬草鉢』が贈られます」

「それは素敵ね。でも私、料理はそんなに得意じゃないのよ」


錬金術は得意だが、普通の料理となると話は別だ。

薬を作るのと料理を作るのは、似ているようで全然違う。


「お嬢様、錬金術で作るスパイスを使えば、きっと素晴らしい料理ができます!」

セレーナが虹色の髪を揺らしながら提案した。今日の髪は朝の光を受けて、虹のように美しく輝いている。


「そうね!錬金術スパイスがあれば、普通の料理も特別になるかも」

「参加されるのですか?」

「ええ!飛び入り参加してみましょう」


——王都中央広場・午前10時——


広場には色とりどりのテントが並び、美味しそうな香りが漂っている。

参加者たちが既に調理を始めていて、活気に満ちていた。


「まあ、賑やかですわね」


隣を見ると、見慣れた赤茶色の縦ロールが見えた。今日も優雅だ。


「あら、カタリナ!あなたも参加するの?」

「ルナさん!ええ、料理も貴族の嗜みの一つですもの」


カタリナは完璧な笑顔で微笑んだ。隣にはローゼン家のメイド、ジュリアがいる。


「私たちも飛び入り参加なのよ」

「それでは、良きライバルとして頑張りましょう」

「こちらこそ」


二人のお嬢様がにこやかに挨拶を交わす横で、セレーナとジュリアも会釈した。

「セレーナさん、今日もお美しい髪色ですわね」

「ありがとうございます、ジュリアさん」


——調理開始——


「さて、何を作りましょうか?」


私とセレーナに割り当てられたのは、広場の端の調理台だった。基本的な調理器具と食材が用意されている。


「お嬢様、こちらの食材を使って『薬草シチュー』はいかがでしょうか?」

「いいアイデアね!それなら私の錬金術スパイスが活躍できるわ」


カバンから『万能調味料の素』を取り出す。

これは基本的な調味料に魔法の力を込めたもので、料理の味を格段に向上させる効果がある。


「まずは野菜を切りましょう」


セレーナが手際よく玉ねぎとニンジンを切り始めた。

さすが、メイドの仕事で鍛えられているだけある。


「私は薬草の処理をするわ」

『治癒草』と『活力草』と『美味草』を丁寧に洗って刻む。

これらの薬草は食べても安全で、むしろ体に良い効果がある。


——隣のテントから——

「ジュリア、火加減はそのくらいで」

「かしこまりました、お嬢様」


カタリナのテントからも良い香りが漂ってくる。

さすがに完璧主義者らしく、手際が良い。


「負けてられないわね」

私は『万能調味料の素』に『香り増幅薬』を少し混ぜてみた。


——シュワシュワ


薬が反応して、とても良い香りが立ち上った。バラとラベンダーを混ぜたような、上品な香りだ。


「わあ、素敵な香りです」

「でしょう?今度は『味深化薬』も加えてみるわ」

『味深化薬』は料理の旨味を何倍にも増幅する薬だ。ほんの少し加えるだけで、普通の料理が高級料理のような味になる。


——グツグツグツ


シチューが順調に煮えている。薬草の緑色が美しく、湯気からは食欲をそそる香りが漂った。


「もう少し特別感を出したいわね」

私は『色彩変化薬』を取り出した。これは見た目を美しくするための薬で、料理に加えると虹色に輝く。


「お嬢様、それは安全でしょうか?」

セレーナが心配そうに尋ねる。


「大丈夫よ。食用の色素と同じ原理だから」

『色彩変化薬』を数滴加えると——


——キラキラ


シチューが美しい虹色に輝き始めた。まるで宝石のような美しさだ。

「綺麗です!」


でも、まだ何かが足りない。私は考えた。


「そうだ!『会話促進薬』を加えてみましょう」

「会話促進薬?」

「食べた人同士の会話を弾ませる薬よ。パーティーで使うと盛り上がるの」


小さな瓶から『会話促進薬』を数滴垂らした。すると——


——ポンッ


小さな爆発と共に、シチューから小さな泡がぷくぷくと立ち上がった。


「あら?」


なんだか様子がおかしい。シチューの表面で泡がパチパチと弾けて、まるで生きているみたいだ。


「お嬢様、シチューが…動いてませんか?」

セレーナが指差すと、確かにシチューがぐるぐると自分で混ざっている。


「きっと『会話促進薬』の効果ね。問題ないわ」


でも次の瞬間——


「あー、あー、聞こえますか〜?」

シチューが喋った。


「えぇ!?」

「私、とっても美味しくできましたー!みんなに食べてもらいたいですー!」


シチューが元気いっぱいに喋り続ける。


「お嬢様!シチューがお喋りしてます!」

「う、うーん…『会話促進薬』の効果が予想以上だったみたい」


——隣のテントから——

「まあ、隣のシチューが喋ってますわ」

カタリナが驚いた様子でこちらを見ている。


「ルナさん、また何か面白い実験をしていらっしゃるのね」

「あ、あはは…ちょっと予想外で…」


でも負けてられない。私は『風味向上薬』も加えてみることにした。


「お嬢様、これ以上は危険では…」

「大丈夫よ。きっと」


『風味向上薬』を加えると——


——ブクブクブク


シチューがさらに活発になった。


「わーい!新しいお友達ー!今度は何のお薬かなー?」

シチューが嬉しそうに喋る。


そして——


「みんなー!こっちに来てー!美味しいよー!」

シチューの声に反応して、他の調理台の料理たちがザワザワし始めた。


「あら?」


隣のテントのカタリナのスープが——


「私も美味しいですのよ〜」

喋り始めた。


「え?私のスープまで?」

カタリナが困惑している。

どうやら『会話促進薬』の効果が他の料理にまで伝染しているようだ。


「ルナ様の薬の影響ですわね」

ジュリアが苦笑いしている。


——会場全体——

「僕はハンバーグだよ〜」

「私はサラダです〜」

「俺はステーキだぜ〜」


会場中の料理が次々と喋り始めた。参加者たちは最初驚いていたが、すぐに面白がり始めた。


「すごいわ!料理が喋ってる!」

「まるで魔法みたい!」

「これは面白いイベントになったわね」


審査員の方々も苦笑いしながらも、楽しそうに見ている。


「さあ、審査の時間ですが…」


「私を食べてください〜!とっても美味しいですよ〜!」

私のシチューが積極的にアピールしている。


「僕も僕も〜!」

カタリナのスープも負けずに自己主張した。


「これはユニークな審査になりそうですね」

審査員長が笑いながら言った。


——審査——


「では、まずこちらの虹色シチューから」

審査員が私のシチューを一口食べると——


「あー!食べられちゃいました〜!でも美味しく食べてくれて嬉しいです〜!」

シチューが喋る。


「味は…素晴らしいですね。薬草の風味が絶妙で、体がポカポカと温まります」


「ありがとうございます〜!」

シチューが嬉しそうに答える。


次にカタリナのスープを審査。


「こちらも…上品な味ですね。完璧なバランスです」


「当然ですわ〜。私は完璧に作られましたもの〜」

スープが誇らしげに言う。


他の料理たちも次々と自分をアピールして、会場は大盛り上がりだった。


——結果発表——


「優勝は…」


審査員長が発表する。


「今回は特別に、『最も話題になった料理』として、ルナ・アルケミ様の虹色シチューと、その影響で喋るようになった全ての料理を表彰いたします!」

会場から大きな拍手が起こった。


「やったー!」

シチューが飛び跳ねるように喜ぶ。


「おめでとうございます、ルナさん」

カタリナが優雅にお祝いを言ってくれた。


「カタリナのスープも美味しかったわ」

「ありがとうございます。でも今回はルナさんの勝ちですわね」


——夕方・片付け——


「お疲れ様でした、お嬢様」

セレーナが疲れた様子で言った。虹色の髪がちょっと乱れている。


「今日も予想外のことが起こったけど、楽しかったわ」

「はい。でも次回は、もう少し控えめな薬にしましょうね」


「そうね」

『金の薬草鉢』を受け取りながら、私は振り返る。会場では他の参加者たちが、まだ喋っている料理と楽しく会話していた。


「また面白いことができそうね」

「お嬢様…まだ何かするおつもりですか?」


セレーナが不安そうに尋ねる。


「今度は『歌う料理』でも作ってみようかしら」

「それは…」


セレーナが頭を抱えた。


「ハーブ、今日もお疲れ様」

「ピューイ」


薬草ウサギが満足そうに鳴いた。

彼も今日のシチューを少し分けてもらって、とても美味しそうに食べていた。


窓の外を見ると、まだ会場で喋っている料理たちの声が微かに聞こえてくる。

明日の新聞にはきっと「料理が喋った奇跡の料理コンテスト」という見出しが躍るだろう。


「明日からまた新しい実験ね」


今度はどんな予想外のことが起こるだろうか。それもまた、錬金術師の日常の楽しみだった。



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