最終話 永遠に続く三人の物語
卒業前夜。学院の部屋に三人が集まっていた。
私は机の上に、何か特別なものを準備していた。
「これ、何ですの?」カタリナが静かに聞いた。
「あ、えっと。『未来を少しだけ見せる紅茶』を調合してみたんだ」
「『未来を見せる』?」エリオットが眉をひそめた。
「時間魔法と錬金術の融合ですね。理論的には可能かもしれませんが、制御が難しいのではないでしょうか」
「大丈夫だよ。一回だけなら失敗しないと思う」
ルナは三つのティーカップに紅茶を注いだ。淡い紫色の液体の中には、光がゆっくりと流動しているように見えた。
「では、飲みましょう」カタリナが言った。
「同時に」
三人は同時にティーカップを手にした。紅茶を飲んだ瞬間、世界が変わった。
~映し出される未来
最初に見えたのはエリオットの背中だった。
大きな研究所の机の上には、古代魔法陣の図面が積み重ねられている。彼の手は丁寧にその図面をスケッチしていた。集中した表情には深い満足感が満ちていた。研究に没頭するエリオット。それが彼の未来だ。
次に見えたのはカタリナの背中だった。
豪華な宮殿の中、彼女は大勢の人々に囲まれていた。外交の場で、完璧で優雅な姿勢で話をしている。その言葉ひとつひとつが人々を導いていた。外交の場で多くの人々をまとめるカタリナ。それが彼女の未来だ。
最後に見えたのはルナの背中だった。
彼女は旅の途中にいた。砂漠、山、海。様々な風景が彼女の周りに広がっている。手に握った調合器で、旅先でも常に新しい錬金術を生み出していた。旅の途中でも新しい発見を続けるルナ。それが彼女の未来だ。
~ 再会の約束
その時だった。
もう一度、ティーカップが映った。
別の場所で、三人が再び紅茶を飲んでいる。映像からは場所ははっきりしなかったが、三人の表情は明るく、笑い合っていた。ティーカップを手にして、笑い合う三人。確かに再会の約束がそこにあった。
~現実へ戻る
映像は消えた。
三人の瞼から現実が戻ってきた。三人は同時に目を開け、互いに見つめた。
「見えた?」ルナが聞いた。
「ええ、見えました」カタリナは静かに答えた。
「私たちは、それぞれの道を歩むのですね」
「そうですね」エリオットが淡々と言った。
「ですが、最後に我々は再び集うみたいですね」
「うん」ルナが頷いた。
「紅茶を飲みながら、笑い合う」
三人は同時にティーカップを伏せた。
その瞬間、光が一度だけティーカップから放たれた。その光は三人の約束を象徴していた。別れではなく再会。終わりではなく新しい始まり。すべてがティーカップに閉じ込められたように見えた。
~最後の言葉
「ルナさん。素敵な紅茶をありがとうございました」カタリナは優雅に微笑んだ。
「これ以上の卒業の思い出は、ありませんわ」
エリオットも眼鏡を直した。
「理論的には、この『未来を少しだけ見せる紅茶』の成功率は極めて低いはずでした」
「成功しましたね」彼は珍しく笑った。
「ルナさんの『予期しない錬金術』は、本当に素晴らしい」
「ありがとう」ルナは頭を下げた。
「そしてね。約束だよ。必ずまた会う。紅茶を飲みながら」
「ですわね」カタリナが手を握った。
エリオットもその手に自分の手を重ねた。私もその上に手を重ねた。
~ 別れと新しい始まり
卒業式の後、三人は学院の前で別れを告げた。
「では、それぞれの道へ」
「ええ。頑張ります」
「また、どこかで」
三人はそれぞれの方向へ歩んでいった。
~毎年冬に訪れる奇跡
だが毎年冬になると、不思議なことが起きる。
それぞれ別の場所にいる三人の元に、同じ時刻に、あの時のティーカップが現れるのだ。その中には『未来を少しだけ見せる紅茶』が一杯だけ用意されていた。
三人はその時刻に紅茶を飲んだ。そして、その中に互いの姿を見た。遠く離れていても、一杯の紅茶で繋がっていた。
それはルナの最後の錬金術の余韻なのか。それとも単なる偶然なのか。だが三人はその理由を問い掛けることはなかった。ただ一杯の紅茶で繋がっていることを大切にしたのだ。
ふわりちゃんとハーブも、その光景を見守り続けたという。
~エピローグ
『未来を少しだけ見せる紅茶』
それはルナが作った最も大切な錬金術だった。別れの中に再会を映し出す紅茶。友情を永遠に閉じ込める紅茶。その味は決して消えることがなかったという。
毎年冬の夜。三人はそれぞれの場所で一杯の紅茶を飲む。そして、その中に互いの笑顔を見る。
それが彼らの約束だった。
永遠の約束。
ルナ・アルケミの錬金術。
転生者として、がむしゃらな3年間で彼女が創った光は、決して消えることなく、毎年冬の夜三人を照らし続けるのだ。
~おわり~




