第254話 卒業試験はトラブルの予感
「では、最終試験の課題を発表します」
校長が、学院の大講堂で、そう宣言した。
三年生たちは、緊張した表情で、その言葉を待っていた。
「最終試験は『三人一組で、学院の危険区域を探索・制御せよ』です」
講堂から、ざわめきが起こった。
「危険区域……」
私は、つぶやいた。
その時、カタリナが、私に目配せした。
「ルナさん。Tri-Orderで、最後の試験をしませんか?」
「あ、そっか。Tri-Orderはまだ活動中だった」
エリオットが、近づいてきた。
「ルナさん、カタリナさん。僕たちで、最後の試験に挑みましょう」
試験の前日、私たちは、試験官から、任務の詳細を聞いた。
「Tri-Orderの皆さんには、『雪竜の棲む氷洞』を担当していただきます」
試験官は、淡々とそう言った。
「雪竜……」
カタリナは、眉をひそめた。
「それは、かなり危険な魔物ではありませんか?」
「そうですね。ですが、Tri-Orderなら、対応できると判断しました」
試験官は、そっと微笑んだ。
「では、明朝、出発してください」
翌朝、私たちは、学院の北側にある、氷洞の入り口に立っていた。
白い氷に覆われた洞窟。その深部から、冷たい風が吹き出ていた。
「では、行きましょう」
カタリナが、先頭に立った。
私とエリオットは、その後ろについた。
洞窟の中は、暗く、冷たかった。やがて、一つの広大な空間に出た。
そこには、巨大な雪竜が、眠っていた。
銀色に輝く鱗。その身体は、山のようにそびえ立っていた。
「わあ……」
私は、息をのんだ。
カタリナが、何かを詠唱し始めた。
「『魔物心理学』の知識を使って、雪竜を穏やかに導きます」
エリオットは、『古代魔法陣』を分析していた。
「洞窟全体に、『眠りの魔法陣』が刻まれていますね。これを利用すれば……」
「わかりました。では、ルナさんは、その魔法陣を安定化させるポーションを作ってください」
カタリナが、指示を出した。
「あ、わかった」
私は、すぐに、調合を始めた。
『鎮静液』『安定化結晶』『沈黙の草』を混ぜる。
だが、その時だった。
「あ……」
私の手が、調合瓶を落とした。
「ルナさん!」
ポーション入りの試薬が、洞窟全体に撒き散らされた。
その瞬間、雪竜が、目を開けた。
「あ、あああ……」
「これは……」
エリオットが、固まった。
雪竜は、その強大な鼻に、試薬の香りを感じた。
そして――
「ハ、ハ、ハァ――――」
巨大なくしゃみが、洞窟を震わせた。
「あああああ!」
雪竜の口から、冷たい氷ブレスが、連射で放たれた。
「ああああああ!」
カタリナが、背後に飛び下がった。
だが、その際、彼女の完璧なドレスが、氷ブレスの直撃を受けた。
「あ……」
彼女のドレスは、見る見る間に、凍結していった。
「カタリナ!」
「大丈夫ですわ。ですが……」
カタリナは、凍ったドレスの中で、身動きが取れなくなっていた。
一方、エリオットは、古代魔法陣を解析しながら、対応しようとしていた。
「『眠りの魔法陣』の周波数は……」
だが、その時、別の氷ブレスが、エリオットに向かった。
「え……」
彼は、逃げることができなかった。
その氷ブレスが、彼の体に当たった。
「あ……」
エリオットは、氷像になった。
だが、その状態でも、彼は、解析を続けていた。
「『眠りの魔法陣』の周波数は……1,200ヘルツ……」
氷像のエリオットから、声が聞こえた。
その時、私は、すべてを理解した。
エリオットが、解析した周波数。
カタリナが、用意していた『魔物心理学』の知識。
そして、私の『鎮静液』。
すべてを組み合わせれば、雪竜を鎮静化できるはずだ。
「カタリナ!」
私が、叫んだ。
「『心の共感の声』を、その周波数で放って!」
凍ったカタリナは、その指示を理解した。
彼女は、凍った状態のまま、『魔物心理学』の知識を使って、『心の共感の声』を詠唱した。
その声は、エリオットが解析した1,200ヘルツの周波数で、放たれた。
同時に、私は、撒き散らされたポーション入り試薬を、魔力で拡散させた。
『鎮静液』『安定化結晶』『沈黙の草』が、洞窟全体に満ちた。
カタリナの『心の共感の声』と、試薬の効果が、融合した。
雪竜は、その香りと声に、引き込まれた。
そして、ゆっくりと、眠りに落ちた。
「ああ……」
雪竜の大きな目が、閉じられた。
試験官は、洞窟の外で、私たちを待っていた。
私とカタリナ(凍ったドレスは融けていた)、そしてエリオット(氷像から解放されていた)が、帰還した。
「お疲れ様でした」
試験官は、笑った。
「Tri-Orderの皆さんの、最終試験の成績は……」
試験官は、紙を見つめた。
「『完璧なチームワーク』。満点です」
講堂から、歓声が起こった。
「おめでとうございます」
校長先生が、そう言った。
帰還後、私たちは、学院の中庭で、紅茶をいただいていた。
「では、Tri-Orderの最後の活動は、完璧に終了しましたね」
カタリナが、そう言った。
「あ、えっと。結果的に、うまくいったね!」
私が、そう言った時、エリオットが、眼鏡を直した。
「ルナさん。『結果的に』という言葉を、卒業後も使わないようにしてください」
「え?」
「卒業後、社会に出た時に、『結果的に成功しました』では、通用しません。計画的に、戦略的に行動することが、必要です」
エリオットは、真摯な表情で言った。
「ですが、ルナさんは、本来『結果的に成功する』人なのです。ですから、卒業後も、その才能を大切にしながら、もう少し計画性を持ってください」
「あ……」
「それでは、三人一緒に、社会に羽ばたきましょう」
カタリナが、そう言った。
「はい。Tri-Orderは、卒業しても、ずっと一緒ですわ」
「うん。絶対に、友達だからね」
三人は、ティーカップを掲げた。
ふわりちゃんは、私の肩の上で、ふみゅふみゅと鳴いていた。
その鳴き声は、何か、嬉しそうに聞こえた。
ハーブは、ポケットの中で、ピューイと満足げに鳴いていた。
卒業試験は、ドタバタしながらも、完璧に終わった。
王立魔法学院の最後の冬。
Tri-Orderの最後の活動。
だが、三人の絆は、絶対に、終わることはないのだ。
春が来て、学院を卒業した後も。
その絆は、何があろうと、ずっと続くのだ。
試験官は、その光景を見つめながら、微笑んでいた。
「完璧なチームワークだ。本当に、素晴らしい」




