第251話 プレゼント交換、暴発注意
「わあ、クリスマス前だ」
私は、学院の掲示板を眺めていた。
『王立魔法学院恒例 匿名プレゼント交換会』
毎年恒例のイベントだ。学院の生徒全員が、誰かのために匿名でプレゼントを用意し、それをくじ引きで交換するという、楽しいイベントである。
「お嬢様、今年は何を用意するのですか?」
セレーナが、隣でニコニコしながら聞いた。
「あ、実はね。特別なものを作ろうと思ってたんだ」
「特別なもの?ですか?」
「うん。開けた瞬間に、気持ちが伝わる魔法箱」
セレーナが、首をかしげた。
「気持ちが伝わる……どういうことですか?」
「えっとね。その人が受け取った時に、相手の『あなたのことが好きです』とか『ありがとうございます』とか、そういう気持ちが、その箱から光として放たれるんだ」
「なるほど。それは素敵ですね」
セレーナは、微笑んだ。
「ですが、お嬢様。そういう『感情を伝える』系の錬金術は、予期しない反応を起こすことがありませんか?」
「え?」
「前に、『友情促進薬』で、カタリナお嬢様が感情を爆発させたとか……」
「あ、あれは別だよ。今回は完璧な設計だし」
セレーナは、ため息をついた。
「それが一番危険な台詞なんです」
数日後、私は、魔法箱の錬金術を完成させていた。
箱は、白く輝く特別な木製で、中には『感情の結晶』『心の共鳴石』『伝わりの水』を組み合わせた液体が、ゆっくりと流動していた。
「よし。完璧だ」
私は、満足げにつぶやいた。
「これなら、誰が開けても、相手の気持ちがちゃんと伝わるはず」
エリオットが、その箱を見つめていた。
「ルナさん。ちょっと質問いいですか?」
「何ですか?」
「『感情の結晶』『心の共鳴石』『伝わりの水』を組み合わせた場合、どのような相互作用が起こると予測していますか?」
「え?えっと……相手の感情が、光として放たれる……?」
エリオットは、眉をひそめた。
「感情というのは、非常に複雑な心理状態です。それを単純に『光として放つ』というのは、ある種の……『感情の増幅装置』を作っているのではないでしょうか」
「あ、だから『気持ちが伝わる』んじゃん」
「いや、ルナさん。その『増幅』の程度が、予測不可能なのです」
エリオットは、ため息をついた。
「もしかして、相手の『心の声』が、全員に聞こえるようになったりは……」
「そんなことあるわけないじゃん」
だが、その瞬間、私の心に、小さな不安が生まれた。
クリスマス前の午後、学院の講堂で、プレゼント交換会が始まった。
生徒たちは、くじ引きで番号を引き、その番号の箱をもらう仕組みになっていた。
カタリナは、優雅な衣装で、進行を担当していた。
「では、プレゼント交換会を始めます。皆さん、幸せな時間をお過ごしくださいね」
彼女の声は、講堂全体に響き渡った。
私も、一つの箱を受け取った。
「では、同時に開けていただきます」
カタリナの合図で、全員が、自分のプレゼント箱を開けた。
その時だった。
「あ……」
最初に箱を開けたのは、2年生の女の子だった。
彼女の箱から、淡い紫色の光が放たれた。
だが、光だけではなかった。
「実は……ルナさんの紅茶が大好きです……」
その女の子の『心の声』が、講堂全体に響き渡ったのだ。
「え!?」
私は、固まった。
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
「『気持ちが伝わる』というのは……こういうことだったんですか!」
別の箱から、また光が放たれた。今度は男性教師の箱だ。
「実は、副校長のメルヴィン様のギャグセンスを尊敬しています……」
「え!そんな!」
副校長が、赤面している。
次々と、箱が開けられた。
「カタリナ様を心から崇拝しています……」
「ルキウス様に一目ぼれしました……」
「実は、エリオットのメガネが好きです……」
「錬金術の爆発音は、実は好きなんです……」
講堂は、カオスになっていた。
生徒たちは、次々と、自分たちの『心の声』が暴露されていく中で、赤面していた。
「あ、あああ……」
私は、土下座寸前になっていた。
「ル、ルナさん……これは……」
エリオットが、眼鏡を持つ手が震えていた。
「これ、永久保存しないでくださいね…?」
彼は、真摯な表情で言った。
「これ、卒業した後、流出したら、学院の評判が……」
「ご、ごめんなさい!」
私は、悲鳴に近い声を上げた。
そんな中、一人、完璧に対応していたのが、カタリナだった。
彼女の箱から、淡い金色の光が放たれた。
「友達との時間が、最も大切です。皆さん、本当にありがとうございます」
カタリナの『心の声』は、非常に落ち着いていて、優雅だった。
講堂の全員が、その声に、一瞬、引き込まれた。
「カ、カタリナ……」
「なんか、完璧……」
カタリナは、その後、周りが混乱しているのに、何食わぬ顔で、自分のプレゼントを開けた。
そこには、手作りのお菓子が入っていた。
「まあ、素敵。誰からの贈り物でしょうか」
彼女は、そっと、お菓子を口に入れた。
「おいしい」
その一言で、周りの混乱は、少し落ち着いた。
カタリナの『優雅な平然装い力』が、全体の空気を、少し引き締めたのだ。
結局、全員の『心の声』がダダ漏れになったプレゼント交換会は、講堂の誰もが赤面したまま、終わった。
「ルナさん、何か言うことはありませんか?」
校長が、私に視線を向けた。
「あ、えと……本当に申し訳ございません。『感情の結晶』『心の共鳴石』『伝わりの水』の組み合わせで、感情が増幅されすぎて、『心の声』が音声化してしまいました」
「音声化……つまり、誰もが聞こえてしまった……」
校長は、眉をひそめた。
だが、その時、一人の男生徒が、手を上げた。
「あ、あの……」
「何か、言いたいことがあるのですか?」
「はい。ルナさんのプレゼント、本当に素敵でした」
他の生徒たちも、頷いた。
「確かに、恥ずかしいけど……自分の気持ちが伝わるって、悪くない」
「そっか。みんな、『心の声』が聞こえたから、もう、隠す必要がないんだ」
生徒たちは、少しずつ、赤面から解放されていった。
結局、プレゼント交換会は、記念撮影で終わった。
全員が、まだ少し赤面したまま、講堂の前で、カメラに収まった。
「では、皆さん。笑ってください」
写真係が、そう言った。
だが、全員は、笑うことができず、ぎこちない表情で、カメラに収まった。
その後ろには、私がいて、土下座寸前の姿勢で、謝っていた。
セレーナが、写真を見つめた。
「お嬢様。この写真、一生の思い出ですね」
「え?」
「はい。『全員の心の声がダダ漏れになった日』の記念写真。これ以上に、クラスの絆が深まる経験、あるでしょうか」
「あ……」
確かに、そうかもしれない。
恥ずかしい思いをしたが、その中で、自分たちの気持ちが、ちゃんと繋がったような気がした。
数日後、その写真は、学院全体に知れ渡っていた。
結局、プレゼント交換会から、一週間たった今でも、全員が少し赤面していたのだという。
クリスマス前の、王立魔法学院の、最高のカオスイベントだった。




