表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
253/258

第251話 プレゼント交換、暴発注意

「わあ、クリスマス前だ」


私は、学院の掲示板を眺めていた。


『王立魔法学院恒例 匿名プレゼント交換会』


毎年恒例のイベントだ。学院の生徒全員が、誰かのために匿名でプレゼントを用意し、それをくじ引きで交換するという、楽しいイベントである。


「お嬢様、今年は何を用意するのですか?」

セレーナが、隣でニコニコしながら聞いた。


「あ、実はね。特別なものを作ろうと思ってたんだ」

「特別なもの?ですか?」


「うん。開けた瞬間に、気持ちが伝わる魔法箱」

セレーナが、首をかしげた。


「気持ちが伝わる……どういうことですか?」


「えっとね。その人が受け取った時に、相手の『あなたのことが好きです』とか『ありがとうございます』とか、そういう気持ちが、その箱から光として放たれるんだ」


「なるほど。それは素敵ですね」

セレーナは、微笑んだ。


「ですが、お嬢様。そういう『感情を伝える』系の錬金術は、予期しない反応を起こすことがありませんか?」


「え?」


「前に、『友情促進薬』で、カタリナお嬢様が感情を爆発させたとか……」

「あ、あれは別だよ。今回は完璧な設計だし」


セレーナは、ため息をついた。

「それが一番危険な台詞なんです」


数日後、私は、魔法箱の錬金術を完成させていた。

箱は、白く輝く特別な木製で、中には『感情の結晶』『心の共鳴石』『伝わりの水』を組み合わせた液体が、ゆっくりと流動していた。


「よし。完璧だ」

私は、満足げにつぶやいた。


「これなら、誰が開けても、相手の気持ちがちゃんと伝わるはず」


エリオットが、その箱を見つめていた。


「ルナさん。ちょっと質問いいですか?」

「何ですか?」


「『感情の結晶』『心の共鳴石』『伝わりの水』を組み合わせた場合、どのような相互作用が起こると予測していますか?」

「え?えっと……相手の感情が、光として放たれる……?」


エリオットは、眉をひそめた。


「感情というのは、非常に複雑な心理状態です。それを単純に『光として放つ』というのは、ある種の……『感情の増幅装置』を作っているのではないでしょうか」


「あ、だから『気持ちが伝わる』んじゃん」

「いや、ルナさん。その『増幅』の程度が、予測不可能なのです」


エリオットは、ため息をついた。


「もしかして、相手の『心の声』が、全員に聞こえるようになったりは……」

「そんなことあるわけないじゃん」


だが、その瞬間、私の心に、小さな不安が生まれた。


クリスマス前の午後、学院の講堂で、プレゼント交換会が始まった。

生徒たちは、くじ引きで番号を引き、その番号の箱をもらう仕組みになっていた。


カタリナは、優雅な衣装で、進行を担当していた。


「では、プレゼント交換会を始めます。皆さん、幸せな時間をお過ごしくださいね」

彼女の声は、講堂全体に響き渡った。


私も、一つの箱を受け取った。


「では、同時に開けていただきます」

カタリナの合図で、全員が、自分のプレゼント箱を開けた。


その時だった。


「あ……」


最初に箱を開けたのは、2年生の女の子だった。

彼女の箱から、淡い紫色の光が放たれた。


だが、光だけではなかった。


「実は……ルナさんの紅茶が大好きです……」


その女の子の『心の声』が、講堂全体に響き渡ったのだ。


「え!?」

私は、固まった。


「ちょっ、ちょっと待ってください!」

「『気持ちが伝わる』というのは……こういうことだったんですか!」


別の箱から、また光が放たれた。今度は男性教師の箱だ。


「実は、副校長のメルヴィン様のギャグセンスを尊敬しています……」


「え!そんな!」

副校長が、赤面している。


次々と、箱が開けられた。


「カタリナ様を心から崇拝しています……」

「ルキウス様に一目ぼれしました……」

「実は、エリオットのメガネが好きです……」

「錬金術の爆発音は、実は好きなんです……」


講堂は、カオスになっていた。

生徒たちは、次々と、自分たちの『心の声』が暴露されていく中で、赤面していた。


「あ、あああ……」


私は、土下座寸前になっていた。


「ル、ルナさん……これは……」

エリオットが、眼鏡を持つ手が震えていた。


「これ、永久保存しないでくださいね…?」

彼は、真摯な表情で言った。


「これ、卒業した後、流出したら、学院の評判が……」

「ご、ごめんなさい!」


私は、悲鳴に近い声を上げた。


そんな中、一人、完璧に対応していたのが、カタリナだった。

彼女の箱から、淡い金色の光が放たれた。


「友達との時間が、最も大切です。皆さん、本当にありがとうございます」


カタリナの『心の声』は、非常に落ち着いていて、優雅だった。

講堂の全員が、その声に、一瞬、引き込まれた。


「カ、カタリナ……」

「なんか、完璧……」


カタリナは、その後、周りが混乱しているのに、何食わぬ顔で、自分のプレゼントを開けた。

そこには、手作りのお菓子が入っていた。


「まあ、素敵。誰からの贈り物でしょうか」

彼女は、そっと、お菓子を口に入れた。


「おいしい」

その一言で、周りの混乱は、少し落ち着いた。

カタリナの『優雅な平然装い力』が、全体の空気を、少し引き締めたのだ。


結局、全員の『心の声』がダダ漏れになったプレゼント交換会は、講堂の誰もが赤面したまま、終わった。


「ルナさん、何か言うことはありませんか?」

校長が、私に視線を向けた。


「あ、えと……本当に申し訳ございません。『感情の結晶』『心の共鳴石』『伝わりの水』の組み合わせで、感情が増幅されすぎて、『心の声』が音声化してしまいました」


「音声化……つまり、誰もが聞こえてしまった……」

校長は、眉をひそめた。


だが、その時、一人の男生徒が、手を上げた。


「あ、あの……」

「何か、言いたいことがあるのですか?」


「はい。ルナさんのプレゼント、本当に素敵でした」


他の生徒たちも、頷いた。


「確かに、恥ずかしいけど……自分の気持ちが伝わるって、悪くない」

「そっか。みんな、『心の声』が聞こえたから、もう、隠す必要がないんだ」


生徒たちは、少しずつ、赤面から解放されていった。


結局、プレゼント交換会は、記念撮影で終わった。

全員が、まだ少し赤面したまま、講堂の前で、カメラに収まった。


「では、皆さん。笑ってください」

写真係が、そう言った。


だが、全員は、笑うことができず、ぎこちない表情で、カメラに収まった。

その後ろには、私がいて、土下座寸前の姿勢で、謝っていた。


セレーナが、写真を見つめた。


「お嬢様。この写真、一生の思い出ですね」

「え?」


「はい。『全員の心の声がダダ漏れになった日』の記念写真。これ以上に、クラスの絆が深まる経験、あるでしょうか」

「あ……」


確かに、そうかもしれない。

恥ずかしい思いをしたが、その中で、自分たちの気持ちが、ちゃんと繋がったような気がした。


数日後、その写真は、学院全体に知れ渡っていた。


結局、プレゼント交換会から、一週間たった今でも、全員が少し赤面していたのだという。

クリスマス前の、王立魔法学院の、最高のカオスイベントだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ