第253話 錬金年越しカウントダウン
「わあ、もう大晦日だ」
私は、学院の講堂を眺めていた。
年越しパーティーの準備が、次々と進められている。装飾、食べ物、それから音楽も。
「ルナさん、今年も年越しを盛り上げるんですか?」
エリオットが、隣で聞いた。
「うん。だから、錬金式カウントダウン花火装置を作ろうと思ってたんだ」
「え?」
「時刻と同期して、爆音で時間を知らせる装置。街全体で、カウントダウンを聞こえるようにしたら、素敵だと思わない?」
エリオットは、眉をひそめた。
「ルナさん。その『時刻と同期』というのが、危険なのです」
「え、そう?」
「時間魔法と錬金術を組み合わせるというのは、極めて複雑な計算が必要です。もしも、計算を間違えたら……」
「大丈夫だよ。試してみるし」
エリオットは、ため息をついた。
数日後、私は、錬金式カウントダウン花火装置を完成させていた。
『時刻同期結晶』『爆音の粉』『魔力増幅石』を組み合わせた、特別な装置だ。
「よし。完璧だ」
私は、満足げにつぶやいた。
「時刻が変わるたびに、自動的に爆音を発生させる仕組みだ」
「ルナさん」
カタリナが、その装置を見つめていた。
「その『時刻が変わるたびに』というのは、どのくらいの周期ですか?」
「え?1時間ごと……」
「それは……」
カタリナは、眉をひそめた。
「23時から0時まで、毎時間、爆音が鳴るということですね?」
「あ、そっか。でも、大晦日だし、皆喜ぶと思う」
「……そうですわね」
カタリナは、何か言いたそうだったが、何も言わなかった。
大晦日の夜、学院の講堂は、年越しパーティーで満杯だった。
生徒たち、教授たち、そして王都からも多くの人が集まっていた。
私は、錬金式カウントダウン花火装置を、講堂の一番高いところに設置した。
「では、これから、毎時間、爆音でカウントダウンを知らせます」
「いいですね」
王都の有力者たちが、期待に満ちた表情で、装置を見つめた。
23時になった。
その時だった。
ーードーン!
ものすごい爆音が、街全体に響き渡った。
「ぎゃあああ!」
王都全体の人々が、びっくりして、空を見上げた。
「あ、あああ……」
私は、自分が何をしたのか気づいた。
エリオットが耳を押さえていた。
「ルナさん……これ……」
「え、えっと……」
私は、冷や汗をかいていた。
ーー ドーン、ドーン、ドーン……
23時。
ーードーン!
24時(0時は「ドーン!」ではなく、花火になる予定)。
あ、違う。
23時から0時までは、毎時間ではなく、毎分だった。
うっかり、時刻と魔力波がリンクしており、設定を「1時間ごと」ではなく「1分ごと」にしてしまったのだ。
ーードーン!
23時1分。
ーードーン!
23時2分。
ーードーン!
街全体が、「ドーン!ドーン!ドーン!」の中で、呆然としていた。
カタリナは、相変わらず、優雅に微笑んでいた。
「皆さんが、まるで大砲のような音に包まれていますね」
彼女は、そっと、ティーカップを手にした。
「ですが、これも、今年の賑やかさの証だと思いますわ」
カタリナは、そのまま、「ドーン!ドーン!ドーン!」の中で、優雅に乾杯をした。
「では、今年最後のティーパーティーを開きましょう」
教授たちや王都の有力者たちが、その優雅さに、引き込まれた。
「ああ、素敵だ」
「本当に、完璧ですわ」
ーードーン!
23時10分。
ーードーン!
23時15分。
ーードーン!
23時30分。
ーードーン!
23時45分。
街全体が、もはや、爆音に慣れ始めていた。
ーードーン!
ーードーン!
ーードーン!
爆音は、止まらない。
私は、装置を止めようとしていた。
だがエリオットが止めた。
「ルナさん。もし、今、装置に触ったら、『時刻同期結晶』が暴走する可能性があります」
「え、本当?」
「はい。最後まで、このまま走り続けるしかないです」
エリオットは、淡々と言った。
ふわりちゃんは、爆音に驚きながら、私の肩にしがみついていた。
「ふみゅう……ふみゅう……」
彼女の声は、もはや聞こえない。
23時59分59秒
ーードーン!
ーードーン!
ーードーン!
爆音が、1秒ごとに鳴り始めた。
いや、最初からそうだったのだ。
ーードーン!
ーードーン!
ーードーン!
街全体が、このリズムに包まれていた。
カタリナは、相変わらず、優雅に紅茶をいただいていた。
「皆さんが、まるで新年を迎えるための太鼓を叩いているようですわね」
彼女の貴族力は、すべての状況を、行事に昇華させていた。
「今年も、賑やかですわね」
0時。
最後の爆音が、鳴った。
ーードーン!
その瞬間、花火が、夜空に打ち上がった。
色鮮やかな花火が、王都全体を照らした。
その光景は、本当に素晴らしかった。
「あああ……」
王都の人々が、歓声を上げた。
「素敵!」
「本当に、素晴らしい」
「これが、今年の新年の幕開けなんだ」
爆音の中での年越しは、予想外に、素敵なものになっていたのだ。
王都の人々は、その『ドーン!ドーン!ドーン!』の爆音を、「幸運の音」と呼び始めたのだという。
そして、翌年の大晦日には、同じような『爆音カウントダウン花火装置』が、王都の複数の場所で、設置されるようになったのだ。
「ルナさん。また、歴史を作ってしまいましたね」
エリオットが、笑った。
カタリナは、相変わらず、優雅に、微笑んでいた。
「ルナさんは、本当に素敵ですわ」
ふわりちゃんは、私の肩から、ふみゅふみゅと、満足げに鳴いていた。
そして、私は、ハーブのポケットから聞こえてくる、かすかな「ピューイ……」という鳴き声を聞いていた。
「あ……」
私は、両耳を押さえた。
「うぅ、耳が幸せじゃないですぅ……」
その姿を見て、講堂から、笑いが起こった。
王立魔法学院の年越しは、爆音で始まり、爆音で終わった。
だが、それは、最も記憶に残る、素敵な年越しになったのだという。




