表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
235/258

第235話 魔王城・秋の観光フェス

「ルナさん、今回の企画書を見てください」


セレスティアが魔王城の応接室で、分厚い書類を広げた。

魔王城に来るのは久しぶりだけど、相変わらず外壁は虹色に輝いていて美しい。


「秋の観光フェス?」

「はい。夏の虹色スライムレストラン、冬の癒しの泡温泉に続く、秋の新企画です」


セレスティアの目が輝いている。真面目な魔王様は、観光地経営にも本気だ。


「今回は『秋限定スライムスイーツ』を目玉にしたいと考えております」


「スライムスイーツ?」

「はい。栗、柿、さつまいもなどの秋の味覚をスライムに吸収させて、特別なスイーツを作る企画です」


「面白そう!」


「ふみゅ〜♪」

肩のふわりちゃんも賛成してくれている。


「それで、ルナさんに錬金術での調整をお願いしたいのですが……」

「任せて!」


私が元気よく答えると、セレスティアの表情が少し曇った。


「あの……今回は、慎重にお願いできますか?」

「もちろん!今回は失敗しないよ!」


「その言葉、何度聞いたことか……」

後ろでバルトルドが小さく呟いた。


---


翌日、魔王城の地下にあるスライム飼育場に集合した。


「おおお!久しぶりだな、ルナ!」

エドガーが右手を押さえながら現れた。


「エドガー!来てくれたんだ!」

「当然だ!我が右手が、今回の任務を求めて疼いている!」


「また始まった……」

リリィがピンクの髪を揺らしながらため息をつく。


「ルナちゃん、久しぶり〜!また何か面白いことが起こりそうで楽しみだわ!」

「リリィちゃん、そういうこと言わないで……」


「わっはっは!ルナちゃん、今回はどんな爆発が起こるのかのう?」

マーリンが杖を突きながら笑っている。


「マーリンさん、爆発は起こさないよ!」


「本当に?」

ミラが疑わしそうな目で私を見る。


「本当だよ!」

「……信じられませんけど」


「ミラちゃん、もうちょっと信じてよ……」

「過去の実績が、ルナちゃんを信じることを許しませんわ」


確かに否定できない。


「それでは、作業を開始いたします」


セレスティアが大きな籠を運んでくる。中には秋の味覚がぎっしり詰まっていた。


栗、柿、さつまいも、かぼちゃ、きのこ類。


「すごい量だね!」


「今回は100体のスライムに吸収させる予定です」

「100体!?」


飼育場を見ると、確かに虹色スライムがたくさんぷるぷる揺れている。


「それでは、ルナさん。錬金術で秋の味覚を『吸収しやすい形』に変えていただけますか?」

「わかった!」


私は錬金道具を取り出して、材料を鍋に入れ始めた。

栗、柿、さつまいもを砕いて、特製の魔力水と混ぜる。


「火加減は弱火で……」

「ルナちゃん、本当に弱火で大丈夫かのう?」


マーリンが心配そうに覗き込む。


「大丈夫だよ!今回は慎重にやってるから!」


鍋の中がゆっくりと混ざり合い、オレンジ色の液体になっていく。

「うん、いい感じ!」


「次は『吸収促進剤』を加えますね」

セレスティアが小瓶を渡してくれる。


「これを数滴……」

慎重に数滴垂らす。すると、液体が少し泡立ち始めた。


「あれ?ちょっと反応が……」


「ルナさん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫……たぶん」


「たぶん!?」

リリィが後ずさりする。


でも液体は落ち着いて、綺麗なオレンジ色になった。

「よし、完成!これをスライムに与えれば……」


その時だった。

鍋から甘い香りが立ち上り、スライムたちが一斉に反応したのだ。


「ぷるるるる!」

100体のスライムが、鍋に向かって突進してきた。


「うわああ!待って待って!」

「ルナちゃん、だから言ったじゃろう!」


マーリンが杖を振る。

「雷の壁!」


電撃の壁がスライムたちを阻む。でもスライムたちは止まらない。


「ぷるるるる〜!」

「やばい、止まらない!」


エドガーが剣を抜く。


「我が右手よ、今こそ力を解放せよ!縮地斬り!」

エドガーが高速でスライムの前に回り込むけど、スライムたちは液体をすり抜けて鍋に殺到した。


「あああ!鍋が!」

鍋が倒れて、オレンジ色の液体がスライムたちにかかる。


「ぷるるる……ぷるるるる……ぷるるるるるる!」

スライムたちの体が急激に膨れ上がり始めた。


そして次の瞬間。

スライムたちが栗の形に変形し始めたのだ。


「え?栗?」


「ぷるるる!」(栗型スライム)

100体の栗型スライムが、飼育場を転がり回り始めた。


「セレスティア、これって……」


「栗きんとん型スライムに進化しました……」

セレスティアが呆然としている。


「ぷるるる!ぷるるる!」

栗型スライムたちは転がりながら壁にぶつかり、さらに合体し始めた。


「合体してる!?」


「わっはっは!これは面白い!」

マーリンが笑っている。


「笑ってる場合じゃないわ!このままじゃ城中が栗だらけになるわよ!」

リリィが叫ぶ。


巨大化した栗型スライムは、もはや部屋いっぱいの大きさになっていた。


「ぷるるるるるる〜!」

「どうしよう……」


「ルナさん、何か方法は!?」

セレスティアが慌てて尋ねる。


「えっと……あ、そうだ!『砂漠の心』を使えば!」

私はポケットから『砂漠の心』を取り出した。バサーラサ王国から貰った秘宝だ。


「これを錬金術の触媒にして……」

『砂漠の心』を握りしめて、魔力を込める。

すると、秘宝から淡い光が放たれ、巨大栗型スライムを包み込んだ。


「ぷるる……?」

スライムの動きが止まる。


「効いてる!」

光は強くなり、やがてスライムの体が元の大きさに戻り始めた。


「ぷるる……ぷる……」

そして最後には、100体の小さな栗型スライムに分離した。


「やった!」

「ふみゅ〜!」


でも、栗型スライムたちは元のスライムには戻らなかった。


「あの……栗型のままなんだけど」

「まあ、これはこれで可愛いですね」


セレスティアが一匹を持ち上げる。


「ぷるる♪」

栗型スライムが嬉しそうに揺れている。


「わしの雷で焼き栗にしてやろうか?」

マーリンが杖を構える。


「ダメだよ!」

「冗談じゃ、冗談」


「それにしても、これは観光の目玉になりそうだわ!」


リリィが目を輝かせている。


「華麗なる栗狩り術で、栗型スライムを狩る体験とか?」

「それは栗狩りじゃなくてスライム狩りでは……」


「細かいことは気にしない!」


「我が右手も、この栗型スライムとの戦いを望んでいる!」

エドガーが右手を押さえながら言う。


「戦わなくていいから……」


---


結局、栗型スライムは『栗きんとんスライム』として正式に商品化されることになった。


「触ると柔らかくて、ほんのり甘い香りがします」

セレスティアが満足そうに言う。


「食べられるの?」

「はい。スライムの一部を削ると、本物の栗きんとんの味がします」


「すごい!」

「しかも自己再生するから、無限に食べられます」

「それは画期的だね!」


「わっはっは!ルナちゃんの失敗が、また成功になったのう!」

マーリンが笑う。


「失敗じゃないよ!予想外の成功だよ!」


「同じことですわ……」

ミラがため息をつく。


こうして、魔王城の秋の観光フェスは『栗きんとんスライム狩り体験』として大成功を収めた。

来場者は栗型スライムと触れ合い、一部を削って栗きんとんを味わい、大満足で帰っていった。


「ルナちゃん、また面白いことになったわね!」

リリィが笑いながら言う。


「うん、でも今回は誰も被害を受けなかったからよかったよ!」

「それは確かに……」


「ルナさん、次回の企画も楽しみにしております」

セレスティアが微笑む。


「次回?」

「はい。冬には『雪見スライム大福』を企画しております」


「また何か起こりそう……」

エドガーが右手を押さえながら呟いた。


「ふみゅ〜♪」

ふわりちゃんだけは、栗型スライムと一緒に遊んで幸せそうだった。


「ぷるる♪」

栗型スライムもふわりちゃんが大好きみたいで、一緒にぷるぷる揺れている。


夕焼けに染まる魔王城を眺めながら、私たちは今日の成功(?)を祝って乾杯した。


「乾杯〜!」

「乾杯じゃ!」

「乾杯です!」


こうして、魔王城の秋の観光フェスは、栗型スライムと共に無事(?)に幕を開けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ