表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/258

第229話 光るクラゲ

「夏休みの特別調査任務です」


ギルドマスターの穏やかな声が、王立魔法学院の一室に響いた。

私、ルナ・アルケミは、カタリナとエリオットと共に、任務の説明を受けていた。


「海辺の町、シーブリーズに大量発生した"光るクラゲ"の調査と被害防止をお願いします。漁師たちが困っているとのことで……」

ギルドマスターが地図を広げる。


「了解しました。早速準備を」

エリオットが真面目に頷く。

カタリナは優雅に「海辺ですのね。日焼け対策をしっかりしませんと」と呟く。


そして私は――

「やったー!!海だ海だ!バカンスだぁ!」

思わず立ち上がって叫んだ。


「……ルナさん、これは任務ですのよ」

カタリナが呆れた顔で私を見る。


「わかってるって!でも海だよ!?泳げるかな!?」

「多分、泳ぐことになると思いますよ」

エリオットが冷静に答える。


ギルドマスターは苦笑しながら「どうぞお気をつけて」と見送ってくれた。



馬車で数時間。

潮風が心地よい港町に到着した。

白い砂浜、青い海、カモメの鳴き声。


「うわぁ……綺麗!」

私は思わず感嘆の声を上げた。


カタリナは日傘を差して優雅に歩く。真っ白なドレスの裾を持ち上げて、砂に触れないように気を使っている。


「海辺の風情も、なかなか優雅ですわね」

「カタリナ、その格好で調査するの……?」

「当然ですわ。侯爵令嬢として、どんな場所でも優雅さを保ちますの」


エリオットは既に測定器具を取り出していた。

「海水の魔力濃度を測定します。異常があれば、原因が特定しやすくなるでしょう」


真面目だなぁ。


私はというと、持ってきた水着入りのバッグを抱えて、既にテンションが上がっていた。

「ねぇねぇ、昼間のうちに泳いじゃダメかな?」


「ルナさん……任務ですわよ?」

カタリナの冷たい視線が突き刺さる。


「わ、わかってるって!でも夜の調査の前に体慣らしって大事じゃない!?」

「それは詭弁ですわ」


ぐぬぬ。



港に行くと、困った顔の漁師たちが集まっていた。

「あの光るクラゲが出てから、もう漁にならねぇんだ」

「網が溶けちまうし、魚も逃げちまう」

「観光客は喜んでるけど、俺たちゃ生活がかかってんだよ」

深刻そうな様子に、私も真面目モードに切り替える。


「具体的に、どんな被害がありますか?」

エリオットが質問する。


「網に触れると、ジリジリって痺れてな。で、糸がほつれちまうんだ」

「魚も近づかねぇ。あのクラゲが怖いんだろうな」

なるほど。電気みたいなものを帯びているのかな。


「夜になると、もっと光が強くなるんだ。見た目は綺麗なんだがな……」


カタリナが優雅に頷く。

「承知しましたわ。必ず原因を突き止めて、解決いたしますわ」


漁師たちの顔がパッと明るくなる。

「ありがとうございます!貴族様方がわざわざ来てくださるなんて……」


「いえいえ、これも私たちの役目ですから」

エリオットが穏やかに微笑む。


私もハーブを肩に乗せて「任せてください!」と胸を張った。

ハーブが「ピューイ!」と元気よく鳴く。



日が沈むと、海辺の景色が一変した。

波打ち際が、青白く光り始めたのだ。


「うわぁ……綺麗……」


思わず息を呑む。

まるで星空が海に落ちてきたような、幻想的な光景。


「これは確かに観光資源になりますわね」

カタリナも感心したように呟く。

観光客たちが歓声を上げながら、光る海を撮影している。


「でも、これが問題なんですね」

エリオットが測定器具を海に向ける。

「魔力濃度が異常に高い。これは自然現象ではありません」


やっぱり。


私は錬金術の知識を総動員して考える。


「クラゲ自体が魔力を帯びているのか、それとも何か別の原因があるのか……」

「実際に近づいて調べる必要がありますわね」


カタリナが裾を少しだけ持ち上げて、波打ち際に近づく。


「ちょ、ちょっと待って!危ないかも!」

私が止める間もなく、小さな波がカタリナの足元を濡らした。


「……っ!冷たいですわ」

カタリナが少し顔をしかめる。

でも、優雅さは崩さない。さすがだ。


「ルナさん、クラゲを一匹捕まえられますか?」

「任せて!」


私は空間収納ポケットから、ガラス瓶を取り出した。

波打ち際で光るクラゲを探す。


「いた!」


手を伸ばして――「うわっ!ビリビリするー!!」

ガラス瓶を落としそうになる。

クラゲに触れた瞬間、強い電気ショックが走った。


「ルナさん!?」

カタリナが慌てて駆け寄る。

でも、ドレスの裾が波に濡れて「あ、あぁ……」と小さく悲鳴を上げた。


「カタリナ、大丈夫!?」

「え、ええ……優雅さを保つのは……難しいですわね……」

必死に取り繕うカタリナが可愛い。


エリオットが冷静にクラゲを観察する。


「電気的な性質を持っていますね。しかも、魔力で増幅されている」

「じゃあ、魔道具が原因ってこと?」

「その可能性が高いです」


なるほど。じゃあ、原因を突き止めないと。



漁師さんに小舟を借りて、クラゲの群れの中心へ向かうことにした。


「本当に大丈夫ですか?」

心配そうな漁師さんに、私たちは笑顔で頷く。


「大丈夫ですわ。必ず解決いたしますわ」

カタリナが優雅に微笑む。

でも、内心はドキドキだろうな。私もだけど。


小舟を漕ぎ出す。

エリオットが舵を取り、私とカタリナは両側に座る。


「ねぇ、クラゲ避けの薬、作ってきたんだけど……」

私は空間収納ポケットから小瓶を取り出した。


「本当ですの!?さすがルナさんですわ!」

「えへへ、でも実験段階だから……効果は半分くらいかも」


「半分……?」

カタリナとエリオットが同時に呟く。


「ま、まぁ、ないよりはマシだよね!?」

三人で薬を塗る。


ほんのり甘い香りがする。


「これで少しは安心ですわね」

カタリナが胸を撫で下ろす。


そして、クラゲの群れの中心へ。光が眩しい。

青白い輝きが、海面を照らしている。


「うわぁ……凄い数……」

「これは確かに、漁には影響が出ますね」

エリオットが頷く。


私は船の縁から海を覗き込む。


「あ、何か見える!海底に……」

光の中心に、何か黒い物体がある。


「あれが魔道具ですわね」

カタリナが指差す。


「よし、取ってくる!」

「ル、ルナさん!?」


私は勢いで海に飛び込んだ。

冷たい!


でも、クラゲ避け薬のおかげで、電気ショックは少しだけ。

「ビリビリするけど……我慢!」


海底に向かって泳ぐ。


黒い物体は、古代の魔道具だった。

複雑な術式が刻まれている。


「これが原因か……」手を伸ばして――「うわっ!」


強い電気ショックが走る。

やっぱり薬の効果は半分だった!慌てて海面に戻る。


「ルナさん!大丈夫ですの!?」

カタリナが心配そうに手を伸ばしてくれる。


「う、うん……でも、魔道具が強力すぎて取れない……」


「なら、封印薬を使いましょう」エリオットが提案する。


「そっか!それなら!」


私は船の上で、即席の封印薬を作り始める。

「『静寂の花』『封じの石』『深海の水』……よし!」


ーーぽんっ!


小さな爆発音と共に、青い煙が上がる。


「成功ですわ!」

カタリナが拍手する。


「じゃあ、投げ込むよ!」


私は封印薬の入った瓶を、海底の魔道具めがけて投げた。

瓶が割れて、青い液体が広がる。

魔道具の光が、ゆっくりと弱まっていく。


「エリオット、術式を止めて!」

「了解です」


エリオットが魔法陣を展開する。

『古代術式・停止』


複雑な光の線が、海底の魔道具を包み込む。


そして――


ーーパァン!


小さな破裂音と共に、魔道具の光が完全に消えた。

クラゲたちも、青白い光を失って、透明な姿に戻っていく。


「やった!成功だ!」


「優雅に解決できましたわね」

カタリナが満足そうに微笑む。

でも、ドレスの裾はびしょ濡れだし、髪も少し乱れている。

それでも、彼女は優雅さを保っている。さすがだわ。


「さぁ、魔道具を回収しますわよ」

カタリナが裾を持ち上げて、再び海に手を伸ばす。


「カタリナ、無理しなくていいよ?」

「いえ、これくらい……まるで宝石を拾うかのように、優雅に……っ」


波に揺られながら、必死に魔道具を掴む。


「取れましたわ!」

カタリナが誇らしげに魔道具を掲げる。

その姿は、確かに優雅……だったけど、ちょっと必死すぎて可愛かった。



港に戻ると、漁師たちが歓声を上げて迎えてくれた。

「やった!クラゲが普通に戻った!」

「これで漁が再開できる!」

「ありがとうございます、貴族様方!」


私たちは笑顔で頷く。


でも、観光客たちは少しがっかりしていた。

「えー、光る海が終わっちゃったの?」

「もっと見たかったのに……」


「あらら……」私は苦笑する。


「ルナさん、また感電したいですの?」

カタリナが呆れた顔で私を見る。


「いや、そんな趣味はないけど……ちょっと楽しかったかも」

「楽しいわけありませんわ!」


エリオットが真面目な顔で言う。

「代わりに花火を作れば、観光資源になりますね」


「え、花火?」

「はい。海辺の町なら、夏の風物詩として定着するでしょう」


なるほど。それはいいアイデアかも。


「じゃあ、試しに小さいの作ってみる?」


私は錬金術の知識を使って、簡単な花火を作り始める。

『火の粉』『光の結晶』『空の石』……


ーーぽんっ!!

小さな爆発音と共に、色とりどりの煙が上がる。


「成功!」


夜空に小さな花火が打ち上がる。

パチパチと音を立てて、赤や青の光が広がった。


「わぁ……綺麗……」

観光客たちが歓声を上げる。

漁師たちも「これはいいな!」と笑顔になる。


私たち三人は、浜辺で花火を見上げた。


「今日も騒がしい一日でしたわね」

カタリナが優雅に微笑む。


「でも、楽しかったです」

エリオットが穏やかに頷く。


私はハーブを抱きしめて、夜空を見上げた。

「うん、楽しかった!次はどんな調査かな?」


「もう少し、優雅な任務がいいですわ……」

カタリナの呟きに、私たちは笑った。


夏の夜は、こうして静かに更けていく。

騒がしいけど、心地よい夜だった。


そして、秋が訪れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ