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第223話 夏の魔導図書館

夏休みのある日、私は王都の大図書館を訪れていた。


「わあ、すごい……」


天井まで届く本棚、無数の蔵書、静かに読書する人々。

ここは王国最大の『王都魔導図書館』。魔法や錬金術に関する貴重な書物が数多く収蔵されている場所だ。


「ふみゅ〜」

肩に乗っているふわりちゃんも、興奮を抑えられない様子でキョロキョロしている。


「ルナさん、静かにしてくださいまし」

隣のカタリナが小声で注意する。


「ごめんごめん」


今日は、カタリナと一緒に夏休みの勉強をしに来たのだ。


「古代錬金術の資料を探したいんだけど……」

「それでしたら、三階の奥にある特別資料室ですわね」

カタリナが案内してくれる。


私たちは階段を上り、静かな廊下を進んで特別資料室へと向かった。


「ここですわ」

重厚な扉を開けると、そこには古い本がぎっしりと並んでいた。


「すごい……宝の山だ……」

私は目を輝かせる。


「では、私はこちらで魔法理論の本を読みますわ」

カタリナは別の棚へと向かった。


私は古代錬金術のコーナーで、興味深そうな本を次々と手に取る。


『失われし調合法』『古代の知恵』『禁断の錬金術書』――

「これも面白そう!」

私は『古代召喚術大全』という分厚い本を開いた。

ページをめくると、見たこともない文字がびっしりと書かれている。


「古代語……かな?」

でも、不思議なことに――何となく読める気がする。


「えーと……『星の輝きによりて、時の彼方より……』」

私は無意識に、書かれている文字を声に出して読み始めた。


すると――

本から淡い光が立ち上り始めた。


「あれ……?」

光はどんどん強くなり、部屋全体を包み込む。


「ルナさん!?何をしていますの!?」

カタリナが慌てて駆け寄ってくる。


「わ、分からない!本を読んでただけなのに!」


その時――


ーーーードオォォォン!


轟音と共に、光の中から巨大な影が現れた。

体長は三メートルほど。ライオンのような身体に、鷲の翼、そして蛇の尾を持つ幻獣だ。


「グルルルル……」

幻獣が低く唸る。


「ひいいいい!!」

図書館中から悲鳴が上がった。


「幻獣だ!」

「逃げろ!」

人々が慌てて逃げ出す。


「ル、ルナさん!あなた、何を召喚しましたの!?」

カタリナが青ざめて私を見る。


「し、知らない!ただ本を読んでただけなのに!」

幻獣はゆっくりとこちらを向いた。


鋭い目が、私を見つめる。


「ふ、ふみゅぅぅぅ……」

ふわりちゃんが震えながら私の首元に隠れる。


「ど、どうしよう……」


その時――


幻獣が、本棚の方へと歩き出した。


「あ、逃げるチャンスですわ!」

カタリナが私の手を引こうとする。


しかし――

幻獣は本棚の前で立ち止まり――

本を、一冊取り出した。


「え……?」

そして、幻獣は器用に本を開き――読み始めた。


「……読んでる?」

私とカタリナは呆然とした。

幻獣は静かに本を読み、ページをめくる。

数分後、本を棚に戻すと――今度は別の本を取り出した。


「あの……もしかして、本が好き……?」


私が恐る恐る尋ねると、幻獣はこちらを向いて――

こくりと頷いた。


「本好きの幻獣……ですの……?」

カタリナが信じられないという顔をする。


その後、幻獣は本棚を見回し始めた。


そして――乱雑に並んでいた本を、整理し始めたのだ。

大きな前足で器用に本を並べ替え、分類し、綺麗に整頓していく。


「お、整理してる……?」

私は驚いた。


幻獣は次々と本棚を整理していく。

高い場所にある本も、翼を広げて飛び、きちんと配置する。


「す、すごい……」


見る見るうちに、乱雑だった特別資料室が整然と整理されていった。


「あの、ありがとう……?」

私がお礼を言うと、幻獣は満足そうに頷いた。


そして――

本を一冊取り出して、私に差し出した。


「え、これを……?」


それは『古代錬金術の秘伝』という本だった。


「私に……くれるの?」

幻獣は再び頷く。


「ありがとう!」


私が本を受け取ると、幻獣は――

ゆっくりと光に包まれ始めた。


「あ、帰っちゃうの……?」

光はどんどん強くなり――


ーーパッ!


幻獣は光と共に消えていった。


「……行ってしまいましたわね」

カタリナがため息をつく。


「うん……でも、綺麗に整理してくれた」


確かに、特別資料室は見違えるほど整然としていた。


その時――


「一体何が起こったんだ!?」

図書館の司書たちが駆け込んできた。


「幻獣が現れたと聞いたが……」


「あ、あの……すみません……」

私は申し訳なさそうに頭を下げた。


「私が、古代の召喚術を無意識に読み上げてしまって……」

「なんてことを……!」


司書たちが青ざめる。


「でも、幻獣は本棚を整理して、帰っていきましたわ」

カタリナが説明する。


「整理……?」


司書たちが部屋を見回すと――

「本当だ……こんなに綺麗に……」

「しかも、分類まで完璧だ……」

「長年の懸案だった整理が、一瞬で……」

司書たちは驚きと感動の表情を浮かべた。


「これは……もしかして、伝説の『図書幻獣』では……?」

年老いた司書が呟く。


「図書幻獣……?」

「ああ。古代に存在したという、本を愛する幻獣だ。本を整理し、守り、知識を伝える存在と言われている」


「まあ……」

私は驚いた。


「あの子が、図書幻獣だったんだ……」

「何百年も召喚された記録がなかった。まさか、この時代に現れるとは……」

司書たちは感慨深そうに頷き合った。


「ルナさん」

年老いた司書が私に歩み寄る。


「君は、図書幻獣に認められたのだ。その本を大切にしなさい」

「はい……」

私は幻獣からもらった本を、大切に抱きしめた。


その後、図書館の館長から丁寧にお礼を言われた。


「長年の整理問題が解決しました。ありがとう」

「い、いえ……結果的に、ですけど……」


そして、特別に古代錬金術の資料を閲覧する許可をもらった。


「ただし、今度から召喚術は読み上げないように」

「はい!気をつけます!」


図書館を出る時――


「ルナさん、あなたは本当に……予想外のことばかり起こしますわね」

カタリナがため息をつく。


「ごめん……」


「まあ、結果的には良かったですけれど」

カタリナは微笑む。


「でも、幻獣に認められるなんて、すごいことですわよ」

「そうかな……」

私は照れくさそうに笑った。


その夜、幻獣からもらった本を読むと――

そこには、誰も知らない古代の錬金術が記されていた。


「すごい……こんな技術があったなんて……」

私は夢中で本を読み続けた。


そして、その知識は後に私の研究に大きな影響を与えることになる。


「図書幻獣……また会えるかな……」

私は夜空を見上げた。


どこかで、あの幻獣も本を読んでいるかもしれない。

そう思うと、なんだか嬉しくなった。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも、満足そうに鳴いていた。


夏の魔導図書館探訪は、予想外の出会いと、貴重な知識をもたらしてくれた。


そして今でも、王都魔導図書館では――


「あの日、幻獣が現れて本棚を整理してくれたんだ」

「本当に?」

「ああ、伝説だよ」

――という話が、語り継がれているらしい。

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