第222話 海辺の大騒動
夏休みのある日、私たちは海へ遊びに来ていた。
「海ですわ!」
カタリナが嬉しそうに声を上げる。水着姿も優雅だ。
「広いですね」
エリオットも水着に着替えて、海を見渡している。
「ふみゅ〜!」
肩に乗っているふわりちゃんも、キラキラと輝く海に大喜びだ。
「さあ、泳ぎましょう!」
私、ルナ・アルケミは張り切って海へ駆け出そうとした。
その時――
「待ってくださいまし、ルナさん」
カタリナが私を呼び止めた。
「日焼け止めを塗らないと、大変なことになりますわよ」
「あ、そうだった!」
私は慌てて、持ってきた瓶を取り出した。
「これ、自作の日焼け防止クリームなんだ!」
「……ルナさんの自作ですの?」
カタリナとエリオットが、不安そうな顔で私を見る。
「大丈夫大丈夫!今回はちゃんと試作したから!」
私は自信満々に答えた。
実は昨日、このクリームを作る時に一度爆発させてしまったが、二回目は完璧だった。多分。
「材料は『冷気の結晶』と『光の花びら』と、それから――」
「詳しい説明は結構ですわ。とにかく、副作用はありませんわね?」
カタリナが念を押す。
「ないない!絶対に!」
私は瓶の蓋を開けて、クリームを手に取った。
真珠のような白いクリームで、ほんのり甘い香りがする。
「それじゃあ、塗るね」
私は腕にクリームを塗り始めた。
すべすべとした感触で、肌にスッと馴染む。
「おお、いい感じ!」
カタリナとエリオットも、恐る恐るクリームを手に取って塗り始めた。
「確かに、肌触りは良いですわね」
「冷んやりして気持ちいいです」
私たちは全身にクリームを塗って、準備完了。
「さあ、泳ごう!」
私たちは海へと駆け出した。
波が足に当たって、冷たくて気持ちいい。
「きゃあ、冷たい!」
カタリナが笑いながら波と戯れる。
「これは楽しいですね」
エリオットも穏やかに笑っている。
そして、陽光が降り注ぐ中――
「……あれ?」
私は自分の腕を見て、固まった。
腕が――キラキラと光っている。
まるでラメを塗ったように、七色に輝いている。
「ルナさん……あなた、光ってますわよ……」
カタリナが呆然と私を見る。
「え、カタリナも光ってる……」
エリオットも、自分の腕を見て驚いている。
私たちは、全身がキラキラと輝いていた。
クリームを塗った場所が、まるでディスコボールのように光を反射している。
「な、なんで……!?」
「ルナさん、副作用はないと言いましたわね!?」
カタリナの鋭い視線が刺さる。
「だ、だって、試作の時は光らなかったんだもん!」
「それは室内で試したからではありませんか!?」
エリオットが冷静に指摘する。
「あ……」
そうだ。昨日は屋敷の中で試作したから、陽光を浴びていなかった。
つまり、このクリームは太陽光に反応して光るのだ。
「これは……目立ちますわね……」
カタリナがため息をつく。
確かに、私たちは浜辺でひときわ目立っていた。
キラキラと輝く三人組――いや、ふわりちゃんも一緒だから四人組。
「わあ、見て! キラキラしてる人がいる!」
子どもたちの声が聞こえた。
「本当だ!すごい!」
「キラキラお姉ちゃんだ!」
気づけば、子どもたちが私たちの周りに集まってきていた。
「わあ……」
「触ってもいい?」
「どうやったらそんなに光るの?」
子どもたちが目を輝かせて質問攻めにしてくる。
「え、えーと……」
私は困惑しながら答える。
「これは、日焼け防止のクリームで――」
「すごい!僕も塗りたい!」
「私も!」
子どもたちが一斉に手を伸ばしてくる。
「ちょ、ちょっと待って!」
「ルナさん、どうしますの?」
カタリナが小声で尋ねる。
「え、えーと……」
その時、子どもたちの親が慌てて駆け寄ってきた。
「すみません、子どもたちが騒いで……」
「いえいえ、大丈夫です」
私は笑顔で答えた。
「あの、これは日焼け防止クリームなんです。良かったら、お子さんたちにも塗ってあげましょうか?」
「本当ですか!?」
親たちも目を輝かせる。
「ええ、効果は抜群ですから」
こうして、私は子どもたち全員にクリームを塗ってあげることになった。
子どもたちは、キラキラと光る自分の腕や足を見て大喜び。
「すごい!僕、お星様みたい!」
「私、お姫様になった気分!」
子どもたちは浜辺で楽しそうに遊び始めた。
そして――
「ねえ、キラキラお姉ちゃん、一緒に遊ぼう!」
「砂のお城作ろう!」
子どもたちが私を引っ張る。
「え、ちょっと――」
「ルナさん、行ってらっしゃいませ」
カタリナが優雅に微笑む。
「カタリナも来てよ!」
「私も混ぜてもらえますか?」
エリオットも笑って加わる。
結局、私たちは子どもたちと一緒に砂のお城を作ったり、波と遊んだりして、楽しい時間を過ごした。
「キラキラお姉ちゃん、ありがとう!」
「また来てね!」
子どもたちが手を振ってくれる。
「うん、また来るね!」
私も笑顔で手を振った。
夕方、海から帰る途中――
「結局、楽しかったですわね」
カタリナが微笑む。
「はい。子どもたちの笑顔が見られて良かったです」
エリオットも穏やかに笑う。
「うん!でも、次はもっとちゃんとしたクリームを作るね」
「お願いしますわ」
カタリナがため息をつく。
「ただ、あのキラキラ効果……意外と評判が良かったですわね」
「本当ですね。親御さんたちも喜んでいましたし」
エリオットが頷く。
「じゃあ、『キラキラ日焼け防止クリーム』として商品化しようかな!」
私が提案すると――
「ルナさん、それは真面目に考えてもいいかもしれませんわね」
カタリナが真剣な顔で言った。
「え、本当に?」
「ええ。子どもたちが喜ぶ商品は、需要がありますわ」
「確かに。海辺の売店で売れそうですね」
エリオットも同意する。
こうして、私の『キラキラ日焼け防止クリーム』は、後に海辺の名物商品となった。
「子どもが大喜び!」
「写真映えする!」
「安全で効果抜群!」
親たちからも高評価を得て、夏の定番商品になったのだった。
「ルナさんの失敗は、いつも成功に繋がりますわね」
カタリナの呆れたような、感心したような声が、夕暮れの海辺に響いた。
「ふみゅ〜」
ふわりちゃんも、キラキラと光りながら満足そうに鳴いていた。




