表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/258

第220話 海の授業遠征

夏の特別授業として、王立魔法学院3-Aは海辺へ実習に来ていた。

「本日は海洋魔物の生態観察と、水中での魔法使用について学びます」


フローラン教授が砂浜で説明している。青い海が眩しく輝き、波の音が心地よい。


「海ですわ!」

カタリナが嬉しそうに声を上げる。赤茶色の髪が海風に揺れて綺麗だ。


「ふみゅ〜!」

肩に乗っているふわりちゃんも、初めて見る海に興奮している。


「でも、泳ぎが苦手な人もいるでしょう」

フローラン教授が続ける。


「そこで、ルナさんに特別な薬を作っていただきました」

「え?」

私、ルナ・アルケミは突然名前を呼ばれて驚いた。


「ルナさんの『泳ぎ補助薬』があれば、泳ぎが苦手な生徒も安心して実習できます。説明をお願いします」

「あ、はい!」

私は慌てて前に出た。


手には小さな瓶がいくつか入ったカゴがある。中には青緑色の液体が入っている。

「これが『泳ぎ補助薬』です!飲むと、泳ぎが上手くなる効果があります」

「本当ですの?」

「うん!魚の鱗のエキスと、水の魔石を混ぜて作ったんだ。これを飲めば、水の中でスイスイ泳げるよ!」

私は自信満々に説明した。


「まあ、便利ですわね」

「じゃあ、僕も飲んでみようかな」


生徒たちが興味津々で瓶を手に取る。


「では、泳ぎが苦手な人は飲んでください。ただし――」


フローラン教授が注意を促す。

「効果時間は約一時間です。それ以降は効果が切れますから、注意してくださいね」


「はーい」

私も含めて、何人かの生徒が薬を飲んだ。

味は少し塩辛いが、悪くない。


「さあ、では海に入りましょう!」

教授の合図で、生徒たちが海へと駆け出す。


私も水着に着替えて、海へと向かった。


「わあ、気持ちいい!」

波が足に当たって、冷たくて心地よい。


そして、薬の効果が現れ始めた。


「あれ……?」

身体が軽い。というか、水の中に入りたくなる。


「ルナさん、どうかしまして?」

カタリナが心配そうに声をかけてくる。


「う、うん。なんか、泳ぎたくなって――」

私はそう言いながら、海に飛び込んだ。


すると――


「わあ!すごい!めっちゃ泳げる!」

身体が勝手に動いて、スイスイと泳ぎ出す。

それも、ただ泳ぐだけじゃない。

身体をくねらせて、アシカみたいに泳いでいる。


「え、ちょっと待って!止まらない!」

私はアシカのように水面をジャンプしながら泳ぎ続ける。


「ルナさん!?」

カタリナの驚いた声が聞こえた。


そして――


「うわあ!僕もアシカみたいになってる!」

「わたしも!」

薬を飲んだ生徒たち全員が、アシカのような泳ぎ方をし始めた。

水面をジャンプして、くるくる回って、尾びれのように足を動かして。


「これは……!」

フローラン教授が呆然としている。


「ルナさん、これは一体どういうことですの!?」

カタリナが叫ぶ。


「わ、分からない!でも、止まらないの!」

私はアシカのように泳ぎながら答える。

身体が勝手に動いて、楽しくて仕方がない。


「あはは!これ楽しい!」

「ジャンプできる!」

薬を飲んだ生徒たちは、アシカのように海で遊び始めた。


その様子を見て――


「あれを見て!」

「学生たちがアシカみたいに泳いでる!」

浜辺にいた観光客たちが集まってきた。


「すごい!」

「芸が細かい!」

「これは見世物ショーか!?」

観光客たちが拍手をし始める。


「ち、違います!これは授業で――」

フローラン教授が説明しようとするが、観光客たちは聞いていない。


「もう一回ジャンプして!」

「回転も見たい!」

観光客たちが声援を送る。


そして、私たちは――観光客の期待に応えるように、次々とアクロバティックな泳ぎを披露してしまった。


「くるくる〜!」

「ジャンプ!」


まるで本当のアシカショーのようだ。


「ルナさん……これは……」

エリオットもアシカのように泳ぎながら、困惑した表情で私を見る。


「ご、ごめん……」

私もアシカのようにジャンプしながら謝る。


「まあ、生徒たちは楽しそうですね」

フローラン教授が苦笑する。


「観光客の皆さんも喜んでいますし……これはこれで、良い経験かもしれません」

「先生!?」

カタリナが驚いて叫ぶ。


「だって、見てください。あの笑顔」


確かに、薬を飲んだ生徒たちは、アシカのように泳ぎながら心から楽しそうに笑っている。


「これ、めっちゃ気持ちいい!」

「泳ぐのが楽しい!」


そして、観光客たちも拍手と歓声で盛り上がっている。


「素晴らしいショーだ!」

「また来るよ!」


その光景を見て、私は――


「……新しい海水浴の形です!」

自信満々に宣言した。


「違いますわよ!」

カタリナの鋭いツッコミが海に響いた。


その後、約一時間後――


薬の効果が切れて、私たちは普通に泳げるようになった。


「ふう……やっと普通に戻れましたわ」

カタリナが疲れた表情で砂浜に座り込む。


「でも、楽しかったね」

エリオットが笑う。


「確かに……アシカの気持ちが分かりましたわ」

「そうそう!あの自由な感じ、最高だった!」

生徒たちは意外にも満足そうだ。


「ルナさん」

フローラン教授が私のところに来た。


「はい……すみません……」

私は謝ろうとしたが、教授は笑った。


「いえ、良い経験になりました。ただし――」

教授は真剣な顔になる。


「次回からは、副作用の確認をしっかりしてくださいね」

「はい……」


そして、観光客の一人が私たちのところにやってきた。


「あの、素晴らしいショーをありがとう!これ、チップだよ」

男性が金貨を差し出す。


「え、いや、これは授業で――」

「いいんだ、いいんだ! 楽しかったから! また来るよ!」

男性は笑顔で去っていった。


「……チップまでもらってしまいましたわね」

カタリナが呆れたようにため息をつく。


「まあ、悪いことではありませんね」

エリオットが苦笑する。


その夜、宿舎で――


「ルナさん、あの薬、もう一度飲んでもいいですか?」

何人かの生徒が私のところにやってきた。


「え、本当に?」


「はい!あの泳ぎ方、すごく楽しかったので!」

「明日の自由時間に、もう一度やってみたいです!」

生徒たちは目を輝かせている。


「分かった!じゃあ、明日用に作っておくね!」

私は笑顔で答えた。


「ルナさん……もう懲りないんですのね」

カタリナがため息をつく。


「だって、みんな楽しそうだったし!」

「まあ、それは……そうですけれど……」


翌日、私たちは再びアシカのように泳いだ。

そして今度は、観光客だけでなく、地元の漁師たちも見物に来た。


「これは面白い!観光資源になるぞ!」

「王立魔法学院の名物にしよう!」

漁師たちが盛り上がっている。


「ルナさん、あなたのおかげでこの海辺が有名になりそうですわ」

カタリナが複雑な表情で言う。


「それって……良いことだよね?」

「良いのか悪いのか、もう分かりませんわ……」


こうして、王立魔法学院の海の授業遠征は、予想外の形で地元の観光名物となった。

後日、その海辺には「王立魔法学院アシカショー見学ツアー」という観光プランまで誕生したらしい。


「ルナさんの影響力、恐るべしですわね……」

カタリナの呆れた声が、波の音に混じって消えていった。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも、なんだか誇らしげに胸を張っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ