表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/213

第22話 魔法陣暴走事件

「お嬢様、今日もダンジョンですか?」


朝の身支度をしながら、セレーナが心配そうに尋ねた。


「ええ、昨日のスライムたちに会いに行くの。それに、ダンジョンの奥にまだ未探索区域があるって教授が言ってたから」


「また何か実験なさるのでは……」

「今日は『古代遺跡調査キット』を持参したから大丈夫よ」


私が特製のポーチを見せると、セレーナが不安そうに眉をひそめた。


「そのキットの中身が心配でございます……」


「『魔力測定薬』『古代文字解読液』『遺跡活性化剤』『時空間安定薬』……完璧な装備よ」

「『遺跡活性化剤』って何でございますか?」


「古い魔法陣を復活させる薬よ。きっと面白い発見があるわ」


「スライムに会いに行くのでは?」

「ダンジョンと言えば古代遺跡よ!あれば役に立つわ!」


——学院にて——


「ルナ・アルケミさん、カタリナさん、エリオットさん」


授業後、グリムウッド教授に呼び出された。


「はい、先生」

「実は、昨日発見した古代魔法陣の調査をお願いしたいのです」


教授が資料を見せてくれた。


「古代魔法陣? どんなものでしょう?」


カタリナが質問すると、教授が詳しく説明してくれた。


「複雑な幾何学模様の魔法陣で、用途は不明です。おそらく数百年前のものでしょう」

「数百年前……ロマンがありますわね」


「なぜ私たちに?」

エリオットが疑問を口にする。


「君たち三人なら、きっと興味深い発見をしてくれると思うのです。特にルナ・アルケミさんの独特な観察眼には期待しています」

「分かりました。お受けします」


「調査は慎重に行ってください。古代の魔法は予測不能な場合があります」


教授の注意を聞きながら、私は『古代遺跡調査キット』を確認した。今日こそ大発見ができそうな予感がする。


——ダンジョン深部——


教授と一緒に、昨日よりも奥の区域に進むと、壁に複雑な魔法陣が刻まれた大きな部屋があった。


「すごい……」


部屋の中央に、直径5メートルほどの巨大な魔法陣が床に描かれている。複雑な幾何学模様と古代文字が組み合わさった、美しい芸術品のようだ。


「これは見事ですわね」

カタリナが感嘆の声を上げている。


「文字が読めませんが、相当古いものですね」

エリオットが古代文字を調べている間に、私は『魔力測定薬』を取り出した。


「まずはどのくらいの魔力が残っているか調べましょう」

薬を一滴、魔法陣の端に垂らすと——


——ピカッ


薄く光った。まだ魔力が残っているようだ。


「反応がありますね」

「でも微弱ですわ。長年使われていないのでしょう」


グリムウッド教授も興味深そうに観察している。


「慎重に調査を進めてください」


次に『古代文字解読液』を使って、文字の意味を調べることにした。


「この液体をかけると、文字の意味が分かるの」

魔法陣の文字部分に液体をかけると——


——キラキラ


文字が光って、現代語に翻訳されて浮かび上がった。


「『次元転送陣』……『時空を超えて、求める場所へ』……」


「時空転送? すごい魔法陣ですわ」

カタリナが驚いている。


「でも動かないのでしょうね。魔力が不足していそうです」

エリオットの指摘通り、魔法陣は美しいが静かなままだった。


「そうだ!『遺跡活性化剤』を使ってみましょう」

私が瓶を取り出すと、三人が警戒した。


「ルナさん、慎重に……」

カタリナが心配してくれる。


「分かってるわ」


でも教授も興味深そうに見守ってくれているし、きっと大丈夫だろう。


魔法陣の中央に、慎重に一滴だけ垂らした。


——ジワ〜


薬が魔法陣に浸透していく。


——ピカピカ


魔法陣が薄く光り始めた。


「動き始めましたわ!」

「でもまだ弱いですね。もう少し必要かも……」


私がもう一滴加えようとした瞬間——


——ドボドボ


手が滑って、大量に垂らしてしまった。


「あ……やばっ」


——ピッカァァァ!


魔法陣が激しく光り始めた。


「明るすぎますわ!」


——ブゥゥゥン


魔法陣から低い唸り声のような音が響く。


「これは……暴走してますね」

エリオットが慌てて分析している間に、魔法陣の光はさらに強くなった。


「教授! どうすれば!」

「落ち着いて!『時空間安定薬』はありますか?」


グリムウッド教授が冷静に指示を出してくれる。


——ピカピカピカピカ


「止まらない……」


私が『時空間安定薬』を探していると——


——ビリビリビリ


空間が歪み始めた。


「空間が不安定になってますわ!」

カタリナが魔法で防護壁を作ろうとするが——


——バリバリバリ


魔法陣から電撃のような光が飛び散る。


「危険です! 離れましょう!」

四人で後ろに下がったが、魔法陣の暴走は止まらない。


——ゴゴゴゴゴ


部屋全体が震え始めた。


「『時空間安定薬』は……あった!」

慌てて瓶を取り出し、魔法陣に向かって投げた。


——パシャ


薬が魔法陣にかかると——


——シュ〜〜


少し光が弱くなった。でもまだ暴走は続いている。


「足りないのね……」


その時、魔法陣から虹色の渦が立ち上った。


「あれは……転送の兆候?」


——ブワァァァ


突然、強い風が吹いて、私たちは魔法陣の方に引き寄せられ始めた。


「きゃあああ!」

「つかまって!」


エリオットが壁の突起に掴まろうとするが、風が強すぎる。


——ゴゴゴゴゴゴ


「このままでは転送されてしまいますわ!」


カタリナが必死に魔法で抵抗しているが、古代魔法の力には敌わない。


「『転送中断薬』はありませんの?」

「そんなもの持ってないわよ!」


その時、私は閃いた。


「そうだ! 逆転の発想よ!」

「何ですって?」


「転送を止めるんじゃなくて、転送先を安全な場所に変更するの!」


私は『空間座標変更薬』を取り出した。


「そんな薬があったのですか?」

「昨日作った試作品よ!」

「都合良すぎませんかしら?」


瓶を魔法陣に向かって投げた瞬間——


——ピッカァァァ


魔法陣が一瞬、緑色に光った。


——ブワァァァァ


そして私たちは虹色の光に包まれて——


——シュゥゥゥン


転送された。


気がつくと、見慣れた場所にいた。


「あれ? ここは……」

「学院の中庭ですわ」


なぜか学院の中庭の真ん中に、四人で倒れていた。


「転送先が変更されたのね。上手くいって良かったわ」


立ち上がって周りを見ると、クラスメートたちが驚いた顔でこちらを見ている。


「教授! ルナたち! どうしていきなり現れたんですか?」


トーマス君が駆け寄ってきた。


「古代魔法陣の転送事故よ」

「転送事故って……」


グリムウッド教授が立ち上がりながら説明した。


「古代魔法陣が暴走して、全員転送されてしまったのです」

「暴走? なぜ?」


私が『遺跡活性化剤』の瓶を見せると、トーマス君が大笑いした。


「やっぱりかぁ……でも結果的に貴重な体験ができたんだね」

「そうですわね。古代転送魔法を実際に体験できるなんて」


カタリナがフォローしてくれる。


「『空間座標変更薬』が効いたのね」


その時、私たちの足元に小さな魔法陣が現れた。


——ポンッ


魔法陣から小さな巻物が出てきた。


「何でしょう?」


エリオットが巻物を開くと、古代文字で何かが書かれている。


「『転送実験成功者への贈り物』……『時空の知識を授ける』……」


巻物を読んでいると、文字が光って私たち四人の頭に知識が流れ込んできた。


「あ……空間魔法の原理が分かる……」


「私も錬金術と魔法の融合理論が……」


「僕は古代の技術が理解できます」


「私は古代魔法の解析方法が……」


四人とも、それぞれ新しい知識を得ていた。


「これは古代魔導師からの贈り物ですね」

教授も驚いている。


「調査が思わぬ成果をもたらしましたわ」

カタリナも喜んでくれている。


——その夜、屋敷にて——


「今日得た知識を使って、新しい実験をしてみましょう」


実験室で、私は『時空間錬金術』の研究を始めた。古代の知識と現代の錬金術を組み合わせれば、何かすごいことができそうだ。


「『時間加速薬』を作ってみましょう」


『時の砂』『速度増幅液』『因果安定剤』を組み合わせて調合を開始。

古代の知識があるおかげで、配合比率が直感的に分かる。


「今度こそ完璧に……」


慎重に材料を混ぜていく。


——キラキラ


薬が美しく光って、時計の針のような模様が浮かび上がった。


「成功!」


完成した薬は透明で、中に小さな時計の歯車のようなものが回っている。


「試してみましょう」


薬を一滴、時計に垂らすと——


——チッチッチッ


時計の針が倍速で回り始めた。


「時間が加速してる!」


「お嬢様、それは危険では……」

セレーナが心配そうに言った瞬間——


——チッチッチッチッチッ


時計がさらに早く回って——


——ピーン


針が一回転した時に元の速度に戻った。


「効果時間は短いけれど、確実に時間を加速できるわ」

「これは革命的な発見ですわね」


翌朝、カタリナが完璧な縦ロールをなびかせて、実験結果を聞きに来た。


「時間加速の実験は成功しましたの?」

「ええ、でも効果時間が短いのよ。もう少し改良が必要ね」


「でも古代の知識があれば、きっと素晴らしい発明ができますわ」

「そうね。今度は『瞬間移動薬』に挑戦してみようかしら」


「また転送系ですの? 今度は慎重にお願いしますわ」

カタリナの心配そうな表情を見て、私は苦笑いした。


「大丈夫よ、今度は屋敷の庭で実験するから」

「それでも心配ですが……」


二人で笑いながら、今日の授業に向かった。


古代魔法陣の暴走事件は、結果的に貴重な知識を得る機会となった。

失敗から学ぶことの大切さを、改めて実感した一日だった。


「今度ダンジョンに行く時は、もっと慎重にしましょう」

「それが一番ですわ」


カタリナと約束しながら、私は次の実験のアイデアを練っていた。


時空間錬金術の可能性は無限大だ。きっともっと面白いことができるはず。


明日も素晴らしい発見が待っているだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ