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第21話 初めてのダンジョン探索

「皆さん、今日は実践授業として『ライトダンジョン』に向かいます」


グリムウッド教授の発表に、教室がざわめいた。


「ダンジョン? 初めて!」

「危険じゃないの?」


クラスメートたちの不安そうな声を聞きながら、私は興味深そうに手を挙げた。


「先生、そのダンジョンにはどんなモンスターが?」

「主にスライムですね。初心者向けの安全なダンジョンです」

「スライム! あの粘液質の……」


私の目がキラキラと輝いた。スライムの粘液は貴重な錬金素材なのだ。


「ルナさん、またその目をしてますのね」

隣でカタリナが苦笑いしている。


「何か企んでいるのでは?」

エリオットも心配そうだ。


「大丈夫よ! ちょっとした実験を考えてるだけ」

「その『ちょっとした』が一番危険ですの……」


準備時間に、私は特製の実験用ポーチを確認した。


「『粘液分析薬』『成分抽出液』『生物活性化剤』……完璧ね」

「ルナさん、『生物活性化剤』って何に使いますの?」


カタリナが不安そうに尋ねた。


「生き物を元気にする薬よ。きっと弱ったスライムの治療に役立つわ」

「治療……ですか?」

「そう! モンスターだって生き物だもの。痛みを感じるかもしれないでしょう?」


私の優しい心遣いに、カタリナが感動している。


——ダンジョン入口にて——


「それでは班に分かれて入りましょう。ルナ・アルケミさん、カタリナ・ローゼンさん、エリオット・シルバーブルームさんは第一班です」


三人一組でダンジョンに入ることになった。


「よろしくお願いしますわ」

「こちらこそ」


ダンジョンの入口は洞窟のような構造で、魔法の明かりが薄っすらと通路を照らしている。


「湿度が高いですね。スライムには最適な環境です」


エリオットの解説を聞きながら歩いていると——


「あ、いた!」


通路の向こうに、プルプルと震える青いスライムが現れた。


「可愛い……」

私が感激していると、スライムがゆっくりとこちらに向かってくる。


「戦闘準備を!」

カタリナが魔法の杖を構えた瞬間——


「待って!」


私が飛び出した。


「まず観察よ。このスライム、なんだか元気がなさそう」


スライムの動きは鈍く、体の色も薄い。


「病気かしら?」

「ルナさん、危険ですわ!」


カタリナが止めようとするが、私はもう『粘液分析薬』を取り出していた。


「少し失礼するわね」

スライムに向かって薬を一滴垂らすと——


——ピカッ


薬が光って、スライムの成分が分析される。


「なるほど! 栄養不足と水分不足ね。可哀想に……」

「栄養不足?」


エリオットが驚いている間に、私は『生物活性化剤』を準備した。


「これで元気になるわ」

瓶を開けて、スライムにかけようとした瞬間——


——ドボドボドボ


手が滑って、大量にかけてしまった。


「あ……」


——ブクブクブク


スライムが泡立ち始めた。

「あれ? おかしいわね……」


——ブクブクブクブク


泡はどんどん大きくなって——


——プルンッ!


突然、スライムが倍の大きさになった。


「大きくなった!」

「これは……成長促進効果?」


エリオットが分析している間にも、スライムはさらに膨らんでいく。


——プルルンッ!


今度は三倍の大きさに。


「止まらないわね……」

慌てて『成長抑制薬』を探していると——


——プルルルンッ!


スライムが巨大化し、通路いっぱいの大きさになってしまった。


「巨大スライム誕生ですわ……」

カタリナが呆れている。


「でも元気になったわよ! ほら、色も鮮やかになったし」


確かに、スライムは美しい青色に輝いて、とても健康そうに見える。


「プルルン〜♪」


巨大スライムが嬉しそうに鳴いた。


「喜んでるわ!」

「しかし、これでは通れませんね……」


エリオットの指摘通り、巨大スライムが通路を完全に塞いでしまっている。


「大丈夫! 『サイズダウン薬』があるから——」

ポーチを探していると——


——プルルルルンッ!


スライムがさらに大きくなって、今度は天井に頭がつかえてしまった。


「天井に届いてますわ……」

「『生物活性化剤』の効果が予想以上ね」


その時、スライムが分裂し始めた。


——プルン、プルン


一つだったスライムが二つに分かれて——


——プルン、プルン、プルン、プルン


さらに四つに分裂。


「増えてる!」

「これは大変ですわ!」


四匹の巨大スライムが通路にひしめき合っている。


「えーっと……『分裂抑制薬』は……ない」

「なぜ持ってこなかったのですか!」


エリオットがツッコんでいる間に、スライムたちがこちらを見つめた。


「プルルン〜♪」


「プルプル〜♪」


どのスライムも嬉しそうに鳴いている。


「あら、懐いてるのね」

私が手を伸ばすと、スライムたちが喜んで近づいてくる。


「危険ですわ!」

カタリナが心配するが、スライムたちは攻撃する様子がない。むしろ——


「プルルン♪」


一匹が私の手を優しく包み込んだ。ひんやりとして気持ちいい。


「友好的ですね……」

エリオットも安心したようだ。


「でも、このままでは他の班が通れませんわ」


カタリナの指摘はもっともだ。何とかしなければ。


「そうだ! 『移動誘導薬』を使いましょう」


新しい薬を取り出すと、スライムたちが興味深そうに見つめた。


「この薬の香りに誘導されて、脇道に移動してくれるはず」

瓶を開けて、横の小部屋に向かって薬をまいた。


——シュ〜


甘い花のような香りが通路に広がる。


「いい香りですわね」


「プルルン♪」


スライムたちも香りに興味を示して、ゆっくりと横の部屋に向かい始めた。


「成功ね!」

喜んでいると、通路の奥から新しいスライムが現れた。


「あら、まだいるのね」


今度は緑色のスライムだった。


「今度は慎重に……」

『粘液分析薬』で調べると、やはり栄養不足。

「でも今度は少しだけ」


慎重に『生物活性化剤』を一滴だけ垂らすと——


——キラキラ


スライムが美しく光って、健康的な色になった。大きさは変わらない。


「今度は成功!」


「プルル〜♪」


緑スライムも嬉しそうに鳴いている。


「ルナさんのスライム治療院みたいですわね」


カタリナが笑っている間に、さらに奥から赤いスライム、黄色いスライム、紫のスライムが現れた。


「わあ、カラフル!」

私が興奮していると——


「おい、何だこの騒ぎは?」


別の班の声が聞こえてきた。


「あ、トーマス君たち!」


クラスメートのトーマス、アリス、ベンが現れた。


「ルナ! なんでスライムがこんなに……」


「治療してたの」

「治療?」


三人が驚いている間に、私は残りのスライムたちにも『生物活性化剤』を使った。


——ピカピカピカ


各色のスライムが美しく光って、とても健康そうになった。


「すげー、虹色のスライム軍団だ」


トーマス君が感激している。


「プルルン♪」「プルプル♪」「プリプリ♪」


スライムたちが合唱を始めた。


「音楽的ですわね」


その時、ダンジョンの奥から巨大な影が近づいてきた。


「何ですの、あれは?」


現れたのは、今まで見たことがない巨大な王冠を被ったスライムだった。


「スライムキング!」

「こんな浅いダンジョンにいるはずないのに……」


エリオットが困惑している。


スライムキングがゆっくりと近づいてくる中、治療したスライムたちが前に出た。


「プルルルン!」


スライムたちがスライムキングに何かを伝えているようだ。


「あ、私たちのことを説明してくれてるのね」


スライムキングがこちらを見つめて——


「プルルルルル〜ン♪」


とても優雅に鳴いた。


「感謝されてるみたい」


その時、スライムキングが小さな宝箱を差し出した。


「お礼?」


宝箱を開けると、美しく光る『スライムの王冠結晶』が入っていた。


「うわあ、超レアアイテム!」


トーマス君が興奮している。


「これは『生命力増幅結晶』ですわね。最高級の錬金素材ですの」

カタリナも驚いている。


「スライムたちを治療したお礼でしょうね」

私が結晶を受け取ると、スライムたちが嬉しそうに鳴いた。


「プルルン♪」「プルプル♪」「プリプリ♪」


「みんな、ありがとう」

手を振ると、スライムたちも小さな触手を振って返してくれた。


——ダンジョン出口にて——


「第一班、お疲れ様でした。成果はいかがですか?」


グリムウッド教授が迎えてくれた。


「『スライムの王冠結晶』を入手しました」


私が結晶を見せると、教授が目を丸くした。


「これは……伝説級のアイテムですね。どうやって?」

「スライムの治療をしたら、お礼にもらいました」


「治療?」

「栄養不足だったので、『生物活性化剤』で元気にしてあげたんです」


教授が感心していた。


「今日は爆発しなかったでしょ!」

「それは奇跡ですわ……」


カタリナが安堵のため息をついている。


「でも代わりにスライムが巨大化しましたけど」

エリオットの報告に、教授が苦笑いした。


「相変わらずですね、ルナさんは」


「でも結果的に成功ですわ」

カタリナがフォローしてくれる。


その夜、屋敷に戻って『スライムの王冠結晶』を研究していた。


「この結晶、すごい生命エネルギーを発してるわ」

結晶に『エネルギー分析薬』をかけると——


——ピッカー


虹色の光が実験室を照らした。


「美しい……これを使えば『究極回復薬』が作れるかも」

「お嬢さま、また夜中の実験ですか?」


ハロルドが心配そうに覗きに来た。


「大丈夫よ、今日は爆発しないから」

「そのお言葉、何度お聞きしたでしょう……」


結晶を使って『生命力増強薬』の調合を始めた。


『王冠結晶の粉末』『生命の雫』『活力増進液』を慎重に混ぜていく。

「今度こそ完璧に……」


最後に結晶の欠片を入れた瞬間——


——ポンッ


小さく光って、美しい金色の薬が完成した。


「やった! 爆発しなかった!」


薬は優雅に光りながら、薔薇のような甘い香りを放っている。


「これで疲労回復効果が飛躍的に向上するはず」


試しにセレーナに飲んでもらうと——


「あら! 体が軽やかになりました! それに髪の艶も……」

セレーナの髪が美しく輝いている。


「副効果で美容効果もあるのね」

「お嬢様の作る薬は、いつも予想外の効果がございますね」


満足して実験を終え、ベッドに入った。


今日は初めてのダンジョン探索だったが、戦闘よりも治療に専念した一日だった。


「モンスターも生き物だもの。仲良くなれて良かった」


窓の外を見ると、月が美しく輝いている。


明日はどんな実験をしようかな。


『スライムの王冠結晶』があれば、もっと面白い薬が作れそうだ。


「今度はスライムたちに会いに行こうかしら」


楽しい想像をしながら、私は眠りについた。

きっと明日も、素晴らしい一日になるだろう。

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