第204話 春の虹色祭り
「祭り...ですか?」
セレスティアが少し戸惑ったような表情で、私の提案を聞いていた。黒いローブを纏った彼女の紫の瞳が、不安そうに揺れている。
「そう!春の訪れを祝う小さな虹色祭りよ。魔王城で開催するの」
「城で祭りを開催するなんて、前例がありませんね...」
セレスティアが真面目な顔で考え込んでいる。でも、その表情には少しだけ興味もある様子。
「ふみゅ〜♪」
ふわりちゃんも賛成してくれている。
「セレスティア様、祭りは素晴らしいアイデアだと思います」
バルトルドが上品に微笑みながら言った。
「観光客の皆様も喜ばれるでしょうし、城の新しい魅力になります」
「でも、安全管理が...」
「その点は私にお任せください。完璧な誘導と安全確保を行います」
バルトルドの言葉に、セレスティアも少し安心したようだった。
「分かりました。では、春の虹色祭りを開催しましょう」
こうして、魔王城で初めての祭りの準備が始まった。
祭り当日。
城の中庭には色とりどりの飾り付けがされて、虹色の城壁がさらに美しく輝いている。
城門には「春の虹色祭り」という大きな看板が立てられて、観光客たちが次々と訪れていた。
「わあ!本当に虹色だ!」
「写真撮ろう!」
人々の楽しそうな声が響いている。
「バルトルド、入場者数は?」
セレスティアが真面目な顔で確認している。
「現在250名ほどでございます。予想を上回る人数ですが、問題なく対応できております」
「分かりました。各エリアの安全確認を怠らないでください」
「承知いたしました」
バルトルドが優雅に一礼して、スタッフたちに指示を出していく。
「セレスティア、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
私が声をかけると、セレスティアが少し照れたように笑った。
「初めての祭りですから、何か問題が起きないか心配で...」
「みんな楽しんでるみたいだし、きっと大丈夫」
中庭の特設ステージでは、虹色スライムたちの演出が始まっていた。
「プルルン♪」
先頭の虹色スライムが合図を送ると、虹色スライムたちが一斉に美しい虹色の泡を空に放った。泡がふわふわと舞い上がって、春の陽射しに反射してキラキラと輝く。
「わあ!綺麗!」
観客たちから歓声が上がった。
「ルナさん、今度はあなたの出番ですね」
「任せて!」
私は空間収納ポケットから調合道具を取り出した。『虹の粉』『春の花びら』『光の結晶』を調合鍋に入れる。
「えいっ!」
魔力を込めて混ぜると...
ーーポンッ!
小爆発と共に、虹色の煙がもくもくと上がった。煙が花の形になって、空中に美しい虹色の花畑が広がる。
「うわあああ!」
観客たちが感動の声を上げた。虹色の花が春風に揺れて、まるで本物のように見える。
「これは...美しいですね」
セレスティアも感動している。小さな黒い翼を少し広げて、虹色の花を見上げていた。
「展望台の方も盛況のようですわ」
バルトルドが報告に来た。
「展望台からは城全体が見渡せますから、虹色の演出が一層美しく見えるでしょう」
「よかった!」
私たちは展望台に向かった。階段を登っていくと、そこには多くの人々が集まっていて、虹色の城と春の景色を楽しんでいた。
「ここからの眺めは最高ですわ」
セレスティアが展望台の手すりに寄りかかって、城全体を見渡した。中庭では虹色の演出が続いていて、人々が楽しそうに踊ったり、写真を撮ったりしている。
「この光景を見ていると、城も春の喜びを分かち合える場所になったと実感します」
セレスティアの表情がとても穏やかだった。
「魔王城が人々の笑顔で溢れている。これは本当に素晴らしいことですね」
「そうね。みんなが楽しんでくれて、私も嬉しいわ」
その時、中庭から拍手が聞こえてきた。虹色スライムたちの演出が終わったようだ。
「次はカボチャ叩きゲームの時間です」
バルトルドが予定表を確認した。
「カボチャ叩き?」
「ええ、ルナ様が提案されたゲームです。以前暴走したカボチャの話から思いついたとか」
セレスティアが苦笑いした。
「あの時は大変でしたね」
「でも、今回は安全に楽しめるように調整してあるわ!」
私たちは中庭に戻った。そこには大きなカボチャが並んでいて、子供たちが木の棒で叩いて遊んでいる。
もちろん、暴走しないように魔法で固定してある。
「やった!当たった!」
子供が叩くと、カボチャから虹色のキャンディーが飛び出してきた。
「わあ!お菓子だ!」
子供たちが大喜びしている。
「この企画も大成功ですね」
バルトルドが満足そうに言った。
午後になると、城門近くで虹色スライムたちによる料理の屋台が開かれた。
「プルルン♪」
虹色スライムが作った虹色のクレープや、春野菜のスープが並んでいる。
「美味しい!」
観光客たちが満足そうに食べている。
「セレスティア様、本日は事故もなく、全て順調に進行しております」
バルトルドが報告に来た。
「ありがとう、バルトルド。あなたの完璧な誘導と安全確保のおかげですね」
「恐縮でございます」
夕方になって、祭りもクライマックスを迎えた。中庭に集まった人々の前で、最後の演出が始まる。
「それでは、最後に特別な虹色の花火をお見せします!」
私が宣言すると、観客たちが期待の眼差しで見守っている。
私は『光の結晶』『虹の粉』『春の魔力』を調合した。セレスティアが遠くから魔法でサポートしてくれている。
「せーの!」
ーードッカーン!
大きな爆発と共に、虹色の花火が空に打ち上げられた!七色の光が空を彩って、春の夕暮れに美しい虹の花を咲かせる。
「うわああああ!」
観客たちから大きな歓声が上がった。虹色の花火が次々と打ち上げられて、空全体が虹色に染まる。
「ふみゅみゅ〜♪」
ふわりちゃんも大興奮で羽ばたいている。
「これは...本当に美しいですね」
セレスティアが感動の涙を浮かべていた。小さな黒い翼を広げて、虹色の光を全身で受け止めている。
「城も、こうして人々と春の喜びを分かち合える場所になったんですね」
セレスティアの言葉に、私も頷いた。
虹色の花火が最後の大輪を咲かせて、祭りは終わった。
観客たちが帰っていく中、私たちは中庭で後片付けをしていた。
「今日は本当にお疲れ様でした」
バルトルドがお茶を持ってきてくれた。
「バルトルド、あなたのおかげで何事もなく終わりました」
セレスティアが感謝の言葉を述べた。
「いえいえ、皆様のご協力があってこそでございます」
「来年も春の虹色祭りを開催しましょうか?」
私が提案すると、セレスティアが微笑んだ。
「ええ。今回は初めてで少し不安でしたが、次はもっと自信を持って開催できそうです」
「それは楽しみね!」
春の夕暮れ、虹色の城は今日一日の賑わいを静かに見守っていた。
魔王城が、今では人々の笑顔を生み出す場所になった。
これも、みんなで作り上げた小さな奇跡なのかもしれない。
「また来年、素敵な祭りにしましょうね」
セレスティアの言葉に、私たちは皆で頷いた。
春の虹色祭り、大成功。今日もまた、魔王城に新しい歴史が刻まれた。