第203話 高級レストランは大混雑
「本日も満席でございます、セレスティア様」
バルトルドが予約リストを手に、丁寧に報告した。魔王城のレストランは春の観光シーズン真っ盛りで、朝から大賑わい。
「ありがとう、バルトルド。今日は特に混雑しそうですね」
セレスティアが真面目な表情で予約リストを確認している。今日もレストランの秩序を守るために気を引き締めていた。
「ふみゅ〜」
私の肩の上でふわりちゃんが鳴いた。レストランの入り口には既に長い列ができている。
「すごい人気ね、虹色スライムの高級料理」
「ええ。週に一度しか提供できませんから、皆さん楽しみにされているんです」
セレスティアが窓の外を見た。虹色の城壁を背景に、観光客たちが写真を撮りながら列に並んでいる。
「ルナさん、今日もサポートをお願いできますか?」
「もちろん!任せて」
私は空間収納ポケットから小さな魔法道具を取り出した。料理の味や見た目をさらに良くする補助魔法のための道具。
レストランのホールに入ると、既に多くのお客さんで賑わっていた。虹色スライムたちが厨房で準備をしている様子が見える。
「セレスティア様!お客様が10組ほど予約なしで来られています」
スタッフの一人が慌てて報告してきた。
「分かりました。空席状況を確認して、可能な限り案内してください。ただし、予約のお客様が最優先です」
セレスティアがテキパキと指示を出している。真面目で責任感の強い彼女らしい対応。
「こちらの列の皆様、お待たせしております。順番にご案内いたしますので、もう少々お待ちください」
セレスティアが丁寧に観光客たちに声をかけて回る。その優しい笑顔に、待っている人たちも安心した様子。
「ルナさん、厨房の様子を見てきてもらえますか?」
「任せて!」
私は厨房に向かった。そこでは虹色スライムたちが魔法で料理を作り出している。
美しい虹色の光が食材を包み込んで、見る見るうちに豪華な料理に変わっていく。
「わあ、今日のメニューも豪華ね」
春野菜のテリーヌ、虹色のスープ、魔法のハーブで香り付けされた魚料理、そして特製デザート。どれも高級レストラン級の美しさ。
「ピューイ」
ハーブも料理の香りに興味津々。
「それじゃあ、私の出番ね」
私は『香り増幅の粉』と『色彩強化の液体』を使って、料理にさらに魔法をかけていく。すると...
ーーぽんっ!
小さな爆発と共に、料理の色がより鮮やかになって、香りも一層良くなった。
料理が次々とホールに運ばれていく。お客さんたちの「わあ!」という歓声が聞こえる。
私がホールに戻ると、セレスティアが慌ただしく動き回っていた。
「申し訳ございません、こちらの席が空きましたので...」
「セレスティア、大丈夫?」
「ええ、何とか秩序は保てています」
その時、デザートを運んでいた観光客の一人が、虹色のゼリーを誤って落としてしまった。
「あ!」
ゼリーが床に「ぷるん」と落ちて、虹色の光がきらきらと散った。
「す、すみません!」
観光客の若い女性が真っ青になって謝っている。
「大丈夫ですよ」
セレスティアが優しく微笑んで、すぐに駆け寄った。
「お怪我はありませんか?」
「は、はい...でも、せっかくの料理を...」
「気になさらないでください。すぐに新しいデザートをお持ちします」
セレスティアが手を振ると、虹色スライムが新しいデザートを作り始めた。
「本当に申し訳ございません...」
女性がまだ恐縮している。
「楽しい思い出を作りに来てくださったのですから、こんな小さなことで気を落とさないでくださいね」
セレスティアの優しい言葉に、女性もほっとした表情になった。
「ありがとうございます!」
私も横から魔法で床の掃除を手伝った。虹色の光がきらきらと集まって、あっという間に床が綺麗になる。
「ルナさんの魔法は本当に便利ですね」
セレスティアが小さく笑った。
「えへへ、こういう時は役に立つのよ」
新しいデザートが運ばれてきて、女性は感激しながら受け取った。
「本当にありがとうございます!」
その後も次々とお客さんが来て、レストランは大賑わい。セレスティアは列の整理をしたり、案内をしたり、トラブル対応をしたりと大忙し。
私も料理の補助でをしたり、席の案内を手伝ったりした。
昼過ぎになって、ようやく混雑が落ち着いてきた。
「ふう...」
セレスティアが小さくため息をついて、ホールの片隅のカウンターに寄りかかった。
「お疲れ様、セレスティア」
「ルナさんもお疲れ様です。今日は本当に助かりました」
私たちは厨房を覗いた。虹色スライムたちも満足そうにぷるぷると揺れている。
「バルトルド、今日の売上報告は?」
「はい、セレスティア様。本日も過去最高を更新いたしました」
バルトルドが嬉しそうに報告した。
「皆さんのおかげですね」
セレスティアが虹色スライムたちに微笑みかけた。
「セレスティア、さっきの対応素敵だったよ。デザートを落としちゃった人、とても安心してたもの」
「あれくらい当然のことです。お客様に楽しんでいただくのが一番ですから」
セレスティアが優しく答えた。
窓の外を見ると、観光客たちが虹色の城壁を背景に楽しそうに写真を撮っている。レストランから出てきた人たちも、満足そうな笑顔。
「春の賑わいは、城に新しい命を与えてくれますね」
セレスティアがしみじみとつぶやいた。
「昔は恐れられていた魔王城が、今では人々の笑顔で溢れている。これは本当に素晴らしいことです」
「そうね。みんなの笑顔を見ていると、私も嬉しくなるわ」
「ルナさんの実験で城が虹色になった時は驚きましたけれど、今では感謝しています」
セレスティアが心から微笑んだ。
「春だけでなく、夏も秋も冬も、この城はたくさんの人々に愛されるようになりました。冬の『癒しの泡温泉』も人気ですし」
「来年はもっと素敵な城になるといいわね」
「ええ。でも、今度新しい実験をする時は、事前に相談してくださいね」
セレスティアが少し困ったような顔で付け加えた。
「あはは、約束する!」
「ふみゅ〜♪」
ふわりちゃんも満足そうに羽ばたいている。
午後の陽射しが虹色の城壁に当たって、レストランのホールに美しい光の帯を作っている。
虹色スライムたちも休憩しながら、次の週の準備について相談している様子。
「ルナさん、来週も手伝っていただけますか?」
「もちろん!春の観光シーズンはまだまだ続くものね」
「ありがとうございます。あなたがいてくれると、とても心強いです」
セレスティアの言葉に、私も嬉しくなった。
魔王城の春は、人々の笑顔と美味しい料理で満ちている。
恐れられていた城が、今では愛される場所になった。それは、みんなで協力して作り上げた小さな奇跡なのかもしれない。
「また明日も、素敵な一日になりそうですね」
セレスティアがつぶやいた。
「うん!明日も頑張ろうね」
春の魔王城で過ごす賑やかな一日。今日もまた、たくさんの思い出と笑顔が生まれた。