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第202話 春の虹色散歩

「今日は春の陽気が気持ち良いね」


私は魔王城の美しい虹色の壁を見上げながら、廊下を歩いていた。以前の実験で外壁が虹色になってから、春の陽射しが当たると城全体がキラキラと輝いて、とても幻想的。


「ふみゅ〜♪」

肩の上のふわりちゃんも、虹色の光に嬉しそうに羽ばたいている。

ハーブは私のポケットの中で「ピューイ」と鳴いて、春の暖かさを楽しんでいるみたい。


「ルナさん、今日はどちらまで?」


後ろから落ち着いた声と共に、セレスティアが現れた。黒いローブを纏った美しい女性で、長い黒髪と紫の瞳、そして背中には小さな黒い翼がある。見た目は魔王だけど、実はものすごく真面目でまともな考え方の持ち主。


「セレスティア!一緒に城内を散歩しない?春の陽射しで虹色の城壁がとても綺麗なの」

「それは素敵ですね。では私もお供します」


セレスティアが優しく微笑みながら私の隣に並んだ。


私たちは虹色に輝く廊下を歩いていく。窓の外には、城の周りを散策している観光客たちの姿が見える。


「今日もたくさんの人が来てるね」

「ええ。皆さん、虹色の城壁を背景に写真を撮られていますね」


セレスティアが窓の外を見ながら言った。観光客たちは楽しそうに城の外側を歩き回って、美しい虹色の壁をバックに記念撮影をしている。


「城が皆さんに愛されているのは嬉しいことです。ルナさんの実験のおかげで、恐れられる城から美しい城になりましたから」

セレスティアの表情はとても穏やかだった。でも、その目には常に城の安全を気遣う真面目さが感じられる。


「ただし、城の安全は何よりも大切ですから、警備は怠れません」

「セレスティアはいつも真面目ね」


私が微笑むと、セレスティアも少し照れたように笑った。


その時、廊下の向こうから上品な紳士が現れた。白髪で燕尾服を完璧に着こなし、背筋をピンと伸ばしている。


「セレスティア様、ルナ様、本日のレストランの予約状況を報告いたします」

「ありがとう、バルトルド」


魔王城の執事、バルトルドが丁寧に書類を手渡した。


「本日も満席でございます。特に週一回のスライムの魔法料理は、三ヶ月先まで予約で埋まっております」

「虹色スライムたちも頑張ってくれていますね」


セレスティアが嬉しそうに言った。


「あ、そうだ!」


私は思いついた。


「春の光で虹色スライムの魔力が強くなるかどうか、実験してみたいの!」

「虹色スライムの実験ですか?」


「そう!春の陽射しと虹色の城壁の光が重なったら、特別な効果があるかもしれないのよ」


私は空間収納ポケットから、小さな虹色スライムのサンプルを取り出した。


「それは興味深い研究ですね。でしたら、安全のため私が付き添いましょう」

セレスティアが提案してくれた。真面目な性格だから、こういう時の安全確認はしっかりしている。


「バルトルド、城内の警備を頼みます」

「承知いたしました、セレスティア様」


バルトルドが優雅に一礼して、静かに去っていった。


私たちは城の庭園に向かった。春の花が咲き誇る美しい庭園で、虹色の城壁からの光がキラキラと反射している。


「ここなら実験に最適ね!」

私は調合道具を取り出して、虹色スライムのサンプルを小さな器に入れた。


「まずは通常の状態を記録して...」

スライムは普通の虹色で、小さくぷるぷると震えている。


「次に、春の光を集中させてみるわ」

私は『光収束の水晶』を取り出して、春の陽射しを虹色スライムに集めた。すると...


「わあ!色が変わった!」

虹色スライムがキラキラと輝き始めて、色が七色からさらに複雑な光の模様に変化した。


「これは素晴らしい現象ですね」

セレスティアが感心している。


「もう少し光を強くしてみよう」

私はさらに水晶の角度を調整した。その時...


ーーぽんっ!


小さな爆発が起こった!虹色の煙がもくもくと上がって、スライムが器から飛び出した!


「あ!逃げた!」

「ルナさん!」


セレスティアが瞬時に反応して、私を庇うように前に出た。


でも、虹色スライムは攻撃的ではなく、ただ嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね回っている。


「大丈夫のようですね」

セレスティアがほっと息をついて、翼を収めた。


「ごめんなさい、セレスティア。心配かけちゃって」

「いえ、こういう時のための付き添いですから」


セレスティアが優しく微笑んだ。真面目だけど、とても心優しい人なのよね。


虹色スライムは庭園の花の間を楽しそうに跳ね回って、最後は小さな池に「ぽちゃん」と飛び込んだ。


「あら、泳いでいますね」


池の中で虹色スライムが気持ちよさそうに泳いでいる。そして不思議なことに、池の水が薄く虹色に染まって、とても美しい。


「実験は...半分成功かな」

私が苦笑いすると、セレスティアも微笑んだ。


「結果的に庭園がより美しくなりましたね。冬の『癒しの泡温泉』に続いて、春の新しい魅力が加わりました」


確かに、虹色に染まった池と、その周りで咲く春の花々がとても幻想的な光景を作っている。


「少し休憩しませんか?」

セレスティアが庭園のベンチを指差した。


私たちはベンチに座って、春の景色を眺めた。虹色の城壁、美しい庭園、そして遠くで楽しそうに散策している観光客たち。


「こうして見ると、本当に平和な光景ですね」

セレスティアが穏やかにつぶやいた。


「そうね。昔は恐れられていた魔王城が、今では皆に愛される観光地とレストランで有名になるなんて」

「ええ。最初は驚きましたけれど、今ではこの変化を誇らしく思います」


セレスティアの表情がとても温かくなった。


「城が人々に愛されて、笑顔を与えられるなんて、とても素晴らしいことです」


その時、池の虹色スライムが私たちの方に近づいてきた。まるで挨拶をするように、小さく跳ねている。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんもスライムに挨拶している。


「実験の結果、新しい友達もできましたね」

セレスティアが微笑んだ。


「そうね!今度は他のスライムたちとも実験してみたいな」

「その時も、安全のためお付き添いします」


「ありがとう、セレスティア」


春風が私たちの髪を優しく撫でていく。虹色の城壁がキラキラと輝いて、庭園には花の香りが漂っている。


「あ、観光の方たちが写真を撮っているね」


セレスティアが城壁の方を見た。観光客たちが虹色の壁を背景に、楽しそうに記念撮影をしている。


「みんな幸せそうね」

「ええ。この城が皆さんの思い出作りに役立っているのは、とても嬉しいことです」


セレスティアの表情は誇らしげで、でも謙虚さも感じられた。


池の虹色スライムが小さな虹色の泡を作って、それがふわふわと空に舞い上がった。まるで小さな虹の花火みたい。


「今日の実験も、思わぬ美しさを生み出しましたね」

「ルナさんの実験はいつも予想外の結果をもたらしますが、それがまた魅力的です」


セレスティアが優雅に微笑んだ。


「今度はもう少し安全に実験できるよう、準備を整えましょうね」

「うん!」


春の陽射しの中、私たちは虹色の城で過ごす平和な時間を満喫していた。

観光客たちの楽しそうな声、花の香り、虹色の光、そして新しくできた虹色スライムの友達。すべてが春の魔王城の美しい一日を彩っている。


「また明日も、素敵な一日になりそうですね」

セレスティアがつぶやいた。


「うん!明日は何を実験しようかな」

私が答えると、セレスティアが少し心配そうな顔をした。


「...今度は事前に相談していただけますか?」

「あはは、もちろん!」


虹色スライムが池でぷくぷくと泡を作りながら、私たちの会話を聞いているようだった。


春の魔王城で過ごす穏やかな午後。王都から遠く離れたこの場所で、今日もまた、素敵な思い出が一つ増えた。

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