表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/258

第200話 桜の精霊チェリブロ

「今日は完璧な桜の花びらを採取しましょう」


私は王立魔法学院の庭園にある大きな桜の木を見上げた。

満開の花が美しく咲き誇っていて、春の錬金術実験には最適な材料。


「ふみゅ〜」

肩の上のふわりちゃんも桜の美しさにうっとりしている。

ハーブは「ピューイ」と鳴いて、花の香りを楽しんでいるみたい。


「ルナさん、桜の花びらは何の実験に使うのですか?」

カタリナが美しい縦ロールを春風になびかせながら聞いてきた。


「春限定の『桜香スイーツ』を作るの!食べると口の中で桜吹雪が舞うような...」

「それは素敵ですわね」


エリオットも興味深そうに見ている。

「古代の記録にも、桜を使った錬金術の記載がありますね」


私は空間収納ポケットから小さなバスケットを取り出して、桜の花びらを集め始めた。ひらひらと散る花びらをそっと受け止めて...


「待てい!」


突然、大きな声が響いた。


「誰が勝手に私の花びらを持ち帰って良いと言った!」


桜の大樹がざわめくと、幹の中から美しい精霊が姿を現した。

桜色の髪に花びらの冠、薄桃色のドレスを着た愛らしい女性の精霊。


「わあ!桜の精霊よ!」

私は目を輝かせた。


「私はチェリブロ!この桜の大樹の守護精霊である!」

チェリブロが威厳たっぷりに宣言した。でも、その可愛らしい外見のせいで、あまり威圧感がない。


「あら、美しい精霊ですわね」

カタリナが感嘆の声を上げた。


「ふんっ!美しいのは当然である!問題はそこではない!」

チェリブロが私を指差した。


「貴様は何の許可もなく、私の大切な花びらを勝手に採取しようとした!これは桜への冒涜である!」

「え、えーっと...」


確かに、精霊に許可を取らずに花びらを採っちゃった。これは失礼だったかも。


「ごめんなさい!でも、桜スイーツを作って、みんなに春の喜びを分けてあげたかったの」

「言い訳は聞かん!桜の花びらは私の分身も同然。それを勝手に持ち帰るなど、許されざる行為である!」


チェリブロが手を振ると、桜の花びらが舞い踊って、小さな竜巻を作った。


「うわあああ!」

私たちは慌てて後ろに下がった。


「決闘を申し込む!貴様の錬金術と、私の桜の力、どちらが上か勝負するのだ!」


「決闘?」

「そうだ!勝った方が桜の花びらの使用権を得る。負けた方は...永久に桜に近づいてはならぬ!」


それは困る!桜の花びらは春の錬金術に欠かせない材料なのに。


「分かったわ!その勝負、受けて立つ!」


私は調合道具を取り出した。


「ルナさん、大丈夫ですの?」

カタリナが心配そうに聞いてくる。


「任せて!錬金術で精霊さんの心を動かしてみせる!」


「それでは始めようか!第一戦、美しさ勝負!」

チェリブロが手を振ると、桜の花びらが空中で踊り始めた。花びらが光って、美しい桜色の光の帯を作る。


「うわあ、綺麗...」

でも、負けてられない!


「私も美しさで勝負よ!」

私は『光の花びら』『虹の雫』『星の粉』を調合鍋に入れた。エリオットが協力して魔法の火を起こしてくれる。


材料がキラキラと光り始めて、七色の光を放った。


ーーぽんっ!


小爆発と共に、虹色の煙がもくもくと上がる。

甘い香りが辺りに広がって、煙が晴れると美しい虹色の花が空中に浮かんでいた。


「ほう...なかなかやるではないか」

チェリブロが感心している。


「第一戦は引き分けである!では第二戦、美味しさ勝負!」


チェリブロが再び手を振ると、桜の花びらが集まって小さなお菓子の形になった。


「桜餅である!私の力で作った特製桜餅を食べてみよ!」

精霊が作った桜餅は、とても美しくて良い香りがする。一口食べてみると...


「美味しい!口の中で桜の香りが広がって、まるで花見をしているみたい!」

「ふふん、当然である!」


でも、私も負けない!


「私の桜スイーツも食べてみて!」

私は急いで『桜の花びら』『甘露の蜜』『幸福の粉』を調合した。カタリナが美しい炎で火加減を調整してくれる。


「今度は失敗しないように...」

材料がふんわりと混ざり合って、淡いピンク色の生地ができた。優しく火を通すと...


ーーぽんっ!


今度は小さくて可愛い爆発。薄紫の煙と共に、桜の香りが広がった。


「桜クッキーの完成!」

出来上がったクッキーは桜の花の形をしていて、食べると口の中でほんのり温かい幸福感が広がる。


「むむ...これも美味である」

チェリブロが認めてくれた。


「第二戦も引き分け!では最終戦、楽しさ勝負である!」


「楽しさ勝負?」

「そうだ!私は桜の下で花見をする人々の笑顔を見るのが一番の喜び。貴様は桜でどんな楽しさを作り出せるか!」


これは得意分野かも!


「それなら...」

私は『遊びの石』『笑顔の草』『友情の雫』を取り出した。これに桜の花びらも加えて...


「何を作るつもりですの?」

カタリナが興味深そうに見ている。


調合鍋の中で材料がぐつぐつと踊っている。桜の花びらが回転しながら、他の材料と混ざり合っていく。


「えいっ!」

最後に魔力をたっぷり込めて...


ーードッカーン!


いつもより大きな爆発!ピンク色の煙がもくもくと立ち上って、甘い香りが辺り一面に広がった。


煙が晴れると...


「わあ!」

空中に小さな桜の木のミニチュアが浮かんでいた。

手のひらサイズの可愛い桜の木で、小さな花びらがくるくると回っている。


「桜のオルゴールよ!」

ミニチュアの桜が美しいメロディを奏でながら、花びらを舞わせている。まるで小さな春の世界。


「おお...これは...」


チェリブロが目を輝かせた。

「美しく、楽しく、そして心温まる...」


「ふみゅみゅ〜♪」

ふわりちゃんも桜のオルゴールに夢中になっている。


「私の負けである!」


チェリブロが深々と頭を下げた。


「貴様...いや、貴方の錬金術は、確かに桜の美しさと喜びを表現している」

「チェリブロさん...」


「桜の花びらを使う許可を与えよう。ただし!」

チェリブロが指を立てた。


「桜を愛する気持ちを忘れてはならぬ。そして、作ったものでみんなを幸せにするのだ」

「約束するわ!」


私が答えると、チェリブロが微笑んだ。


「それでは...和解の証に」

チェリブロが手を振ると、桜の大樹から美しい花びらが舞い散った。

まるで雪のように、空から花びらが降り注ぐ。


「桜吹雪ですわ!」

カタリナが感動の声を上げた。


「これは美しい光景ですね」

エリオットも見とれている。


「みんなで花見宴会をしませんか?」

私が提案すると、チェリブロが嬉しそうに頷いた。


「それは良い案である!」


私たちは桜の木の下にシートを敷いて、即席の花見宴会を始めた。

桜クッキーに桜餅、そして桜のオルゴールの音楽付き。


「プルルン♪」

スライムキングたちも魔物保護施設からやってきて、花見に参加してくれた。


「ころころ〜♪お花見〜♪」

雪丸も桜色の雪を降らせて、花見を盛り上げてくれる。


「これは賑やかな花見ですわね」

カタリナが楽しそうに笑っている。


「春らしくて良いですね」

エリオットも満足そう。


「あ、そうだ!」

私はアルケミ領の特製ブドウジュースを取り出した。


「チェリブロさんにも飲んでもらいましょう」

「ほほう、これは何だ?」


チェリブロがジュースを一口飲むと、その美しい桜色の髪がさらに輝いた。


「美味である!体が温かくなって、力が湧いてくる」

「気に入ってもらえて良かった」


桜吹雪の中でのお花見。精霊さんとの交渉バトルも楽しかったし、最後はみんなで仲良くお茶会。


「来年の春も、また一緒に花見をしましょう」

私が言うと、チェリブロが嬉しそうに頷いた。


「約束である!その時は、もっと美しい桜を咲かせてお待ちしよう」


『ルナちゃん、また面白い友達ができたヨ〜』

スライムキングの心の声が聞こえた。


「ふみゅ〜♪」

ふわりちゃんも満足そう。


「今日の実験報告書のタイトルは何にしましょう?」

カタリナが聞いてきた。


「『桜の精霊との友好交渉及び春季錬金術実験成果報告』かな」


「さすがですわ、ルナさん。精霊との決闘も実験扱いですのね」

カタリナが苦笑いしている。


桜の花びらが舞い散る中、私たちの特別な花見宴会は続いた。

チェリブロという新しい友達もできたし、今日も素敵な一日になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ