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第193話 冬の記憶の本とティナの光

雪の夜だった。

王立魔法学院の廊下を歩いていると、突然明かりが消えた。


「あら?」

停電だった。外では激しい吹雪が吹き荒れていて、魔法の明かりの魔法に影響が出たのかもしれない。


「ふみゅ〜」

肩の上のふわりちゃんが不安そうに鳴いている。真っ暗な廊下は、いつもより静寂に包まれていた。


「大丈夫よ、ふわりちゃん。図書館に避難しましょう」

図書館なら暖炉があるし、ミスト・リアーナ先生もいるはずだった。手探りで階段を上がって、図書館の扉を開く。


でも、図書館も真っ暗だった。暖炉の火も消えていて、シンとしている。


「あれ? リアーナ先生はいないのかしら」


暗闇の中を慎重に歩いていると、突然柔らかい光が現れた。


「あら、こんな夜に誰かしら」

振り向くと、長い銀髪に青い瞳の美しい女性が立っていた。透明感のある肌が、闇の中でほのかに光っている。


「ティナ!」

本の精霊ティナだった。全ての本の守り神として、図書館に住まう精霊。


「ルナちゃん、こんな夜中にお疲れ様。停電で困っているのね」

ティナが優しい笑顔で近づいてきた。彼女の周りには、小さな光の粒子がふわふわと舞っている。


「暖炉に火をつけましょう」

ティナが手をかざすと、暖炉に温かい炎が灯った。図書館が一気に暖かくなる。


「ありがとう、ティナ。助かったわ」


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも安心したように鳴いた。


「ところで、ルナちゃん」

ティナが振り返った。


「こんな特別な夜だもの。素敵な本を見せてあげる」


ティナが本棚の奥から取り出してきたのは、美しい青い表紙の本だった。

雪の結晶のような模様が刻まれていて、触れるとひんやりと冷たい。


「これは『冬の記憶の本』。過去の冬に起こった奇跡や美しい出来事が記録されているの」

「冬の記憶?」


ティナが本を開くと、ページから淡い光が溢れ出した。そこには美しい文字で、様々な物語が書かれている。


「ほら、これを見て」

最初のページには、雪に覆われた村の絵が描かれていた。


「昔、ある村で大雪に閉ざされた時、一人の少女が光の魔法で村人たちを救ったという話よ」

絵が動き出して、まるで生きているようだった。少女が手をかざすと、雪の中に温かい光の道ができる。


「すごい…本当に動いてる」

「これもね」


次のページには、氷の湖で踊る妖精たちの物語があった。美しい妖精たちが氷の上で踊ると、湖全体がキラキラと光り始める。


「どのページも美しいわね」

「そうでしょう?冬には特別な力があるの。浄化と再生の季節だから」


その時、ふわりちゃんが興味深そうにページに触れた。


「ふみゅ?」

すると、突然ページから光の粒が舞い始めた。小さな粒子がふわふわと空中に浮かんで、図書館中を漂い始める。


「あら! この光の粒は…」

私は驚いた。この光の粒子、以前作った『浄化の光』にそっくりだった。


「ルナちゃん、この光に見覚えがある?」

「ええ!私が錬金術で作った『浄化の光』と同じよ」


「そう、実はこの光の粒子は、古代から存在する自然な浄化の力なの」

ティナが教えてくれた。


「あなたが錬金術で作り出したのは、この古代の浄化の光を再現したものなのよ」


ふわりちゃんがもう一度ページに触れると、今度はさらに多くの光の粒が舞い上がった。図書館全体が幻想的な光に包まれる。


「美しい…」

本棚の本たちも、光の粒子に反応してほのかに光り始めた。まるで図書館全体が生きているようだった。


「この『冬の記憶の本』は特別なの」

ティナが説明してくれた。


「純粋な心を持つ存在が触れると、過去の記憶と現在を繋ぐ光を放つの。ふわりちゃんの純粋さが、本の力を引き出したのね」


「ふみゅみゅ〜」

ふわりちゃんも嬉しそうに鳴いている。


「それで、私の『浄化の光』も同じ原理だったのね」

「そう。あなたの錬金術は、実は古代の叡智を現代に蘇らせていたのよ」


ページをめくるたびに、新しい光の粒子が舞い上がって、美しい光のショーが続いた。

雪の精霊の話、氷の城の物語、冬の妖精の舞踏会…どれも息を呑むほど美しかった。


「ティナ、この光景をもっと多くの人に見せてあげたいわ」


「そうね。でも、この本は特別だから…」

ティナが少し考えた後、微笑んだ。


「そうだ!明日から『冬の記憶展示会』を開催しましょう。図書館を開放して、みんなにこの美しい光景を見せてあげる」


「本当に?」

「ええ。ただし、純粋な心で本に向き合う人にだけ、本当の美しさが見えるの」


翌日、図書館に『冬の記憶展示会』の看板が立った。

展示会初日、多くの生徒たちが図書館にやってきた。


「わあ、本当に光ってる!」

「すごい、まるで魔法みたい!」


カタリナも感動していた。

「なんて美しい光景でしょう。まるで古代の記憶が蘇っているようですわ」


フランも珍しく静か(?)に見入っている。

「マジで神秘的〜♪これは一生忘れられないわ〜♪」


メルヴィン副校長も大興奮だった。

「これぞ冬のショー!いや、これは芸術の域じゃあ!」


でも、一番驚いたのは生徒たちが本に真剣に向き合い始めたことだった。

普段は勉強嫌いの生徒も、この美しい光景に魅了されて、静かに本を読んでいる。


「ティナ、みんな本当に本を愛し始めたみたいね」

「そうね。美しいものには、人の心を変える力があるの」


夜が更けて、図書館が静かになった頃、私とティナとふわりちゃんは再び『冬の記憶の本』を開いていた。


「今日は素晴らしい一日だったわね」

「ルナちゃんのおかげよ。あなたがふわりちゃんと一緒に来てくれたから、この展示会が実現したの」


光の粒子が静かに舞い踊る中、私たちは古代の美しい物語に耳を傾けていた。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも満足そうだ。


「きっと、これからも多くの人がこの図書館を訪れて、本の美しさに触れるでしょうね」

「ええ。そして、新しい冬の記憶も、この本に刻まれていくの」


暖炉の炎が静かに燃える中、雪はまだ降り続いていた。

でも、図書館の中は温かい光に満ちていて、まるで小さな宇宙のようだった。


「昨夜の停電も、実は素晴らしい出会いの始まりだったのかもしれないわね」

「そうね。時々、予想外の出来事が最高の贈り物になることがあるの」


ティナの言葉に深くうなずきながら、私は今夜の美しい記憶を心に刻み込んだ。


きっと、この夜のことも『冬の記憶の本』の新しいページに書き加えられるのだろう。

そんなことを考えながら、私は静かな図書館の夜を満喫していた。

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