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第19話 転校生エリオットと爆発する自己紹介

「お嬢様、今日は新しいクラスメートがいらっしゃるそうですよ」


朝の身支度をしながら、セレーナが教えてくれた。


「転校生? この時期に?」

「ええ、王立錬金術学院の上級クラスから転校してこられるそうです」

「上級クラス出身なら、きっと優秀な人ね」


期待を胸に学院に向かうと、教室には既に見慣れない人影があった。

背が高くて銀髪、整った顔立ちの男子生徒が窓際の席に座っている。


「皆さん、紹介します。本日より我がクラスに転校してきたエリオット・シルバーブルーム君です」


グリムウッド教授の紹介に、エリオットが立ち上がった。


「はじめまして、エリオット・シルバーブルームです。よろしくお願いします」


丁寧なお辞儀と共に、彼が小さな瓶を取り出した。


「ささやかですが、自己紹介として『挨拶の薬』を調合させていただきました」


『挨拶の薬』? 聞いたことがない錬金術だ。


エリオットが瓶の蓋を開けると——


——ポンッ!


小さな爆発と共に、美しいキラキラした煙が立ち上った。


「すごーい!」

「何あの煙、綺麗!」


クラスメートたちが感嘆の声を上げる中、煙がゆっくりと文字の形になっていく。


『よろしくお願いします』


空中に浮かぶ光る文字に、教室中が拍手に包まれた。


「見事な錬金術ですね、エリオット君」


グリムウッド教授も感心している。


「私も負けていられませんわね……」


隣でカタリナが呟いているが、確かにこれは高度な技術だ。


「それでは、席はルナ・アルケミさんの隣にしましょう」

「え? 私の隣?」


教授の指示で、エリオットが私の右隣の席に座った。


「よろしくお願いします、ルナさん」

「こ、こちらこそ……」


近くで見ると、彼の銀髪は美しく輝いていて、紫色の瞳は知性に満ちている。

何より、さっきの錬金術の腕前が気になる。


「あの『挨拶の薬』、どうやって作ったの?」

「ああ、あれですか? 『煙形成剤』に『文字描画粉』を混ぜて、『光沢付与液』で仕上げただけです」

「だけって……それは高等技術よ」


エリオットが謙遜していると、最初の授業が始まった。


「今日は『浄化薬』の調合を行います。汚れた水を綺麗にする基本的な薬ですね」


グリムウッド教授の説明を聞きながら、私は材料を準備した。

『浄化の粉』『清澄液』『透明化剤』……どれも見慣れた材料だ。


「ルナさん、一緒に作りませんか?」


エリオットの提案に、私は頷いた。


「ええ、でも私の錬金術は少し……派手になりがちなの」

「派手? それは興味深いですね」


エリオットの興味深そうな表情を見て、私は調合を始めた。


「まずは汚れた水を用意して……」


鍋に泥水を注ぐ。茶色く濁った水が、いかにも汚そうだ。


「次に『浄化の粉』を一つまみ……」


慎重に粉を加える——


——シュワ〜


泡立ちながら、水が少しずつ透明になっていく。


「順調ですね」


エリオットが感心してくれる。調子に乗って、次の材料を加えた。


「『清澄液』を三滴……」

一滴、二滴、三滴——


——ボコボコボコッ!


急に激しく泡立ち始めた。


「あれ? おかしいわね……」

「分量が多かったのでは?」


エリオットの指摘通り、確かに少し多めに入れてしまったかもしれない。


「大丈夫よ、『透明化剤』を加えれば……」

瓶を傾けて液体を注ごうとした瞬間——


——ドボドボドボ〜


手が滑って、大量に入ってしまった。


「あ……」


——ブクブクブクブクッ!!


鍋が激しく泡立ち、泡が机の上に溢れ始めた。


「うわあ、泡だらけに!」

「皆さん、離れてください!」


グリムウッド教授が注意を呼びかける中、泡はどんどん増えていく。


——ブクブクブクブクブクッ!!!


「止まらない……」


慌てて『泡消し液』を探していると、エリオットが立ち上がった。


「僕が何とかします」


彼が小さな瓶を取り出し、鍋に向かって一滴だけ落とすと——


——シュ〜〜〜


まるで魔法のように、泡がすっと消えていった。


「すごい! 何を使ったの?」

「『即効泡消し薬』です。こういう時のために常に持ち歩いているんです」


「常に持ち歩く……つまり、よくこういうことがあるの?」

「ええ、僕も昔は失敗ばかりでしたから」


エリオットの言葉に、私は親近感を覚えた。


「でも今は完璧な錬金術師よね?」

「いえいえ、まだまだです。実は今朝も朝食を作ろうとして……」


——ドカーン!!


突然、エリオットの鞄から爆発音がした。


「きゃー!」

「今度は何!?」


煙が立ち上る中、エリオットが慌てて鞄を開けた。


「あ、あはは……『携帯調理薬』が暴発したみたいです」


鞄の中から焦げたパンのようなものが出てきた。


「携帯調理薬?」

「外出先でも料理ができるように開発中の薬なんですが……まだ改良が必要みたいです」


エリオットの苦笑いを見て、私は安心した。完璧に見えた彼も、実は私と同じような失敗をするのだ。


「面白そうね! 今度一緒に改良しましょう」

「本当ですか? ルナさんなら斬新なアイデアをくれそうです」

「斬新って……まあ、確かに普通ではないかも」


そんな会話をしていると、昼休みになった。


「エリオット君、良ければ一緒にお昼を食べませんか?」

カタリナが声をかけてくれた。


「ありがとうございます。ぜひお願いします」


学院の中庭で、三人でお弁当を広げた。


「エリオット君は、どうしてこの学院に?」

カタリナの質問に、エリオットが答えた。


「実は、実家の『シルバーブルーム錬金術工房』の後継者として修行するためです。でも上級クラスは理論ばかりで……」


「理論も大切ですが、実践も重要ですものね」

カタリナの理解に、エリオットが頷いた。


「はい。こちらの学院は実践重視だと聞いて、転校を決めました」

「実践なら任せて! 私の錬金術は実践だらけよ」

「それは頼もしいですね」


お弁当を食べながら楽しく話していると、エリオットが提案した。


「午後の自由実習時間に、一緒に何か作りませんか?」

「いいアイデアね! 何を作る?」


「そうですね……『友情確認薬』はいかがでしょう?」

「友情確認薬?」


「友達同士が一緒に飲むと、きれいな色に光る薬です」

「素敵ですわね!」


カタリナも賛成してくれて、午後は三人で実験することになった。


実験室で、エリオットが材料を説明してくれた。


「『友情の粉』『絆強化液』『光彩発生剤』を使います」

「へえ、聞いたことがない材料ばかり」


「僕が独自に開発したものです。でも、分量を間違えると……」


「どうなるの?」

「光りすぎたり、変な味になったりします」


エリオットの注意を聞きながら、調合を始めた。


「まずは『友情の粉』を……」


私が粉をサラサラと鍋に入れる。薄いピンク色の粉が、水の中でキラキラと舞っている。


「次に『絆強化液』を少しずつ……」


今度はカタリナが慎重に液体を注ぐ。透明な液体が混ざると、薄紫色に変化した。


「美しい色ですわね」


カタリナが感嘆している間に、エリオットが最後の材料を用意した。


「最後に『光彩発生剤』を三滴だけ……」


彼が慎重に液体を落とすと——


——ピカッ!


鍋が優しく光り始めた。


「成功ね!」

「きれいに光ってますわ」


三人分の小さなカップに分けて、一緒に飲むことにした。


「せーので飲みましょう」

「せーの!」


三人同時に飲むと——


——ピカピカピカ〜!


私たちの周りが虹色に光り始めた。


「すごい! 本当に光ってる!」

「友情が目に見えるみたいですわ」


喜んでいると、光がだんだん強くなってきた。


「あれ? 光が強すぎない?」


——ピカピカピカピカ!


まるでディスコのように激しく光り始める。


「分量を間違えたかも……」


エリオットが慌てている間に——


——ドッカーーーン!!!


大爆発が起こり、実験室中が虹色の光に包まれた。


「きゃああああ!」

「まぶしい!」


光が収まると、私たち三人は虹色に光る粉まみれになっていた。


「あ、あはは……」

「カタリナも虹色よ」

「僕もですね……」


三人とも虹色に光りながら、顔を見合わせて笑い出した。


「でも、これはこれで友情の証かもしれませんわね」

カタリナの言葉に、みんなで頷いた。


「確かに! これで本当に友達になれたわね」

「僕も嬉しいです。こんなに楽しい錬金術は初めてです」


エリオットの笑顔を見て、私は新しい友達ができた喜びを実感した。


「明日からもよろしくね、エリオット」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


虹色に光りながら握手を交わす私たち。


新しいクラスメートとの出会いは、文字通り「光る」友情の始まりとなった。

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