表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/218

第189話 踊茸の冬祭り

「踊茸ちゃんの元気がないですわね」


カタリナが心配そうに、特別教室の隅で小さくうずくまっている踊茸を見つめていた。いつもなら赤いキノコの傘をゆらゆらと揺らしながら、楽しそうに踊っているはずなのに、今日は白い斑点も何だか色あせて見える。


「そうなのよ。冬になってから、全然踊らなくなっちゃって」


私は机の上でぐったりしているハーブを撫でながらため息をついた。ハーブも寒さで毛がぺちゃんこになっている。


「ピューイ…」


元気のない鳴き声が、教室の静寂を破った。


「ふみゅう…」


肩の上のふわりちゃんも、いつもよりふわふわ度が控えめだ。みんな冬の寒さにやられているようだった。


そんな時、踊茸がゆっくりと私の方を向いた。


「…ルナちゃん」


心の声が聞こえてきた。いつもの元気いっぱいな調子とは違って、しょんぼりとしている。


「寒くて…踊れないヨ。体が重いヨ…」


「踊茸ちゃん…」


確かに、魔物であっても寒さは辛いものだろう。特に踊茸は踊ることが生きがいなのに、それができないなんて。


「そうだわ!」


私は突然ひらめいた。


「踊りたい気持ち増幅薬を作ってあげる! しかも冬仕様で!」


「本当ヨ?」


踊茸の心の声が、少しだけ明るくなった。



さっそく錬金術の準備に取りかかった。いつもの『踊りたい気持ち増幅薬』に、冬の寒さに負けない要素を加える必要がある。


「えーっと、基本の材料は…『リズムの草』『弾む石』『楽しい水』…」


材料を並べながら、冬仕様の追加要素を考えた。


「寒さに負けないように…『温かい心の花』と、『情熱の結晶』を加えましょう」


調合台に火をつけて、慎重に材料を投入していく。今回は特に慎重にしなければ。踊茸ちゃんのためだもの。


「温度は中火で…魔力もいつもより多めに…」


ぐつぐつと煮える音と共に、甘い香りが立ち上ってきた。順調、順調。


「あ、そうそう。冬だから『雪解けの雫』も入れてみましょう」


私が雪解けの雫を加えた瞬間、突然鍋の中身が光り始めた。


「え?」


そして、次の瞬間。


ーードッカーン!


いつもの爆発が起こった。今度は虹色の煙がもくもくと上がって、教室中に甘い香りと共に、何だかうきうきするような感覚が広がった。


「あ…あら?」


煙が晴れると、踊茸が立ち上がっていた。そして、小さな足(?)でぴょんぴょんと跳ね始める。


「わ〜い♪踊れるヨ〜♪」


踊茸の心の声が弾んでいた。赤い傘がくるくると回って、白い斑点がきらきらと光っている。


「やった!成功ね!」


でも、そこで異変に気づいた。教室の床に飛び散った薬が、キラキラと光る粒子になって舞い上がっているのだ。


「あれ?この光る粒子は…」


粒子に触れてみると、体が軽やかになって、何だか踊りたい気分になってきた。


「カタリナ、あなたも何だか…」


振り向くと、カタリナが小さくステップを踏んでいる。


「あら、不思議ですわね。体が勝手に…」


「ピューイ♪ピューイ♪」


ハーブまで跳ねるように歩いている。


「ふみゅみゅ〜♪」


ふわりちゃんも翼をぱたぱたさせながら、空中でくるくる回っている。


そんな時、教室のドアが勢いよく開いた。


「祭りじゃああああ!」


メルヴィン副校長が、カラフルな服を翻しながら登場した。でも、一歩教室に入った途端、光る粒子に包まれて…


「おおお!この軽やかさ!これはダンスの神様のお告げじゃあ!」


副校長が突然タップダンスを始めた。


「これぞ冬のショー!学院中にお知らせするのじゃ!」



メルヴィン副校長の号令で、学院中の生徒と教職員が特別教室に集まってきた。そして、教室に入った瞬間、みんな光る粒子に包まれて踊り始める。


「わあ!体が軽い!」


「踊りたくなってきた!」


「これは楽しい!」


生徒たちが次々と踊り始めた。カタリナも優雅にワルツを踊り、フランはヒップホップのような激しいダンスで盛り上げている。


「ルナっち〜♪この薬、マジでヤバイ〜♪超楽しい〜♪」


エミリとノエミ様も手を取り合って、くるくると回っている。


そんな中、魔物保護施設からスライムキングたちがやってきた。


「プルルン♪」「プルルルル〜ン♪」


スライムキングが嬉しそうに跳ねながら現れた。光る粒子を浴びると、体がさらにぷるぷると弾むようになる。


「わあ、スライムキングも来てくれたのね」


『ルナちゃん〜、楽しい香りがするから来たヨ〜』


スライムキングの心の声が聞こえてきた。


『みんなで踊るヨ〜♪』


スライムキングが虹色の泡を次々と作り始めた。泡がぽんぽんと弾ける音が、まるでリズムのようだった。


「プルル♪プルルル♪プルルン♪」


スライムキングの仲間たちも加わって、泡のリズムセッションが始まった。虹泡スライムの美しい泡も混じって、教室がまるでコンサートホールのようになる。


「すごいわ!完璧なリズム!」


踊茸も大喜びで、スライムたちと一緒に踊っている。赤い傘をくるくる回しながら、まるでバレリーナのようだ。


「踊れるヨ〜♪寒くても踊れるヨ〜♪」


踊茸の心の声が弾んでいた。そして、踊っているうちに、踊茸の体に変化が起き始めた。


「あら?踊茸ちゃんの色が…」


赤い傘に、雪の結晶のような白い模様が現れ始めた。そして傘の縁が、薄いブルーに変色している。


「これは…進化?」


踊茸がくるくると回ると、小さな雪の結晶が舞い散った。でも冷たくない、温かい雪だった。


「わ〜い♪冬でも踊れる茸になったヨ〜♪」


踊茸の心の声が誇らしげだった。


「氷雪踊茸に進化したヨ〜♪」



即興の冬祭りは、夕方まで続いた。光る粒子の効果が切れても、みんな楽しい気持ちのまま踊り続けていた。


「いや〜、素晴らしいショーでしたぞ!」


メルヴィン副校長が満足そうに汗を拭いている。


「来年の冬の行事は、これで決まりじゃな!『氷雪踊茸祭り』と名付けよう!」


踊茸も嬉しそうに跳ねている。新しい姿になって、寒さなんて全然平気そうだった。


「ルナちゃん、ありがとうヨ〜♪今度は一年中踊れるヨ〜♪」


「良かったわね、踊茸ちゃん」


私が頭を撫でようとすると、踊茸から小さな雪の結晶が舞い散って、とても綺麗だった。


「プルルン♪」


スライムキングも満足そうだった。


『楽しかったヨ〜♪また一緒に踊るヨ〜♪』


「ええ、また遊びましょう」


こうして、偶然の爆発から始まった冬祭りは、踊茸の新たな進化と、学院の新しい名物行事の誕生という、素晴らしい結果をもたらした。


後日、グリムウッド教授から報告書の提出を求められたけれど、それはまた別のお話。


「ピューイ」


ハーブも満足そうに鳴いている。君も楽しそうに踊ってたものね。


「ふみゅ〜」


ふわりちゃんも嬉しそうだ。


私は窓の外に降り始めた雪を見ながら、今日の成功を静かに喜んでいた。冬も悪くないものね。


特に、みんなで踊る冬は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ