第182話 魔法かるた大会
「みなさん!今日は遊びサークル主催の魔法かるた大会にようこそ!」
王立魔法学院の大講堂で、3年生のサークル部長が元気よく挨拶している。
私たちミックスワンダー全員—私、カタリナ、エリオット、そして1年生のフラン、エミリ、ノエミ様も一緒に参加することになった。
「魔法かるたって、普通のかるたと何が違うんでしょうか?」
カタリナが首をかしげている。
私も同じことを思っていた。
「それがですね、取った札の内容が立体幻影で再現されるんです!とっても面白いですよ!」
部長の説明に、みんな「へえ〜」と感心している。
「ルナっち〜!これ楽しそうじゃん♪」
フランが目をキラキラさせている。
普段のギャル系とは違って、こういうイベントでは素直に楽しそうにするのが可愛い。
「ルナ先輩、頑張りましょうね」
エミリも弓の練習で鍛えた集中力を発揮しそうな雰囲気。
「みんなで楽しく遊びましょう」
ノエミ様も王女らしい品のある笑顔で参加の意気込みを見せている。
「ふみゅ〜」
肩の上のふわりちゃんも、何やら楽しそうに羽ばたいている。
ハーブは今日も私のポケットの中でちょこんと座っていた。
「では、ルールを説明します!読み上げられた札を取ると、その札の内容が幻影で再現されます。ただし、幻影は数分で消えますのでご安心を!」
なるほど、それは面白そう。
「お嬢様、くれぐれも普通に遊んでくださいね」
セレーナが心配そうに囁く。今日は付き添いで来ている。
「大丈夫よ!今日は実験じゃなくて、ただのかるただから!」
「それでは始めましょう!最初の読み上げです!『燃え上がる炎の如く、熱き心を持ちて〜』」
「あ!『炎』の札ね!」
私は素早く手を伸ばして札を取った。
その瞬間—
ボワッ!
私の手の上に本物そっくりのミニ火球が浮かんだ!
「きゃあ!」
「うわあ!」
周りの参加者たちが驚いて後ずさる。
「あ、あれ?これ本当に幻影よね?」
火球は確かに熱を発していて、とても幻影とは思えない。
「大丈夫です!ちゃんと安全な幻影ですから!」
部長が慌てて説明している間に、火球はふわりと消えた。
「びっくりした〜」
ほっと一息ついていると、次の読み上げが始まる。
「『空高く舞い踊る鳥よ、自由なる翼にて〜』」
「『鳥』!」
今度はエリオットが札を取った。すると—
「ホーホー!」
立派なフクロウの幻影が羽ばたきながら出現した!しかもかなりリアル!
「わあ、綺麗!」
でも、そのフクロウは何故か講堂の中を自由に飛び回り始めた。
「あ、あれ?フクロウが勝手に...」
「これも正常な動作です!」
部長は相変わらず慌てている。
「『美しき花の園にて、香り高く咲き誇り〜』」
「『花』ですわ!」
カタリナが優雅に札を取ると、彼女の周りに色とりどりの花が咲き乱れた。これは確かに美しい。
でも、咲いた花から本物のような甘い香りが漂ってくる。
「この香り、本物みたい...」
「『雷鳴轟く空の下、光と共に駆け抜けり〜』」
「『雷』だ♪」
フランが元気よく札を取った瞬間—
バリバリバリッ!
講堂に小さな稲妻が走った!
「きゃあああ!」
「これ本当に安全なの!?」
みんなが大騒ぎしている。
「あの、部長さん」
エリオットが冷静に質問する。
「この幻影、本当に『幻影』ですか?かなりリアルすぎるような...」
「あ、ああ...実は今回使っているかるたは、古代魔法学研究部からお借りした特別製でして...」
「特別製って?」
「実際の魔法効果が少し混じってるかもしれません...」
「えええええ!?」
みんなで抗議の声を上げる。
「でも大丈夫です!危険はありませんから!」
その時、次の読み上げが響いた。
「『大地を揺るがす巨人よ、力強き足取りにて〜』」
「あ、『巨人』?」
私が手を伸ばした時、エミリも同時に手を伸ばした。そして—
「同時取り!」
私たちが同時に札に触れた瞬間、とんでもないことが起こった。
ーードドドドド!
講堂の床から、本当に巨大な巨人の足が現れたのだ!
「ぎゃあああ!」
「本物の巨人よ!」
みんなが逃げ惑う中、巨人は講堂の天井を突き破らんとする勢いで立ち上がろうとしている。
「ただのかるたなのに、なんで戦場みたいになってるの!?」
私は巨人の足を見上げながら叫んだ。
「お嬢様!早く逃げてください!」
セレーナの悲鳴が聞こえる。
その時、ふわりちゃんが私の肩から飛び立った。
「ふみゅみゅ〜!」
小さな体で精一杯羽ばたきながら、浄化の光を放つ。
すると、巨人の足がゆっくりと透明になっていく。
「ふわりちゃん!ありがとう!」
でも、まだフクロウは飛び回っているし、花の香りは充満したまま、稲妻の残り香もピリピリしている。
「みなさん!一旦落ち着いてください!」
ノエミが王女らしく毅然とした声で呼びかける。
「このまま続けたら本当に危険だわ。何か対策を考えましょう」
「そうですわね。でも、この古代魔法のかるたをどう止めるかが問題ですわ」
カタリナが冷静に分析している。
その時、私に名案が浮かんだ。
「そうだ!『終了』の札があるかも!」
私は残りの札を必死に探す。そして、見つけた!
「あった!『静寂』の札!」
私が『静寂』の札を取った瞬間—
シーン...
講堂が嘘のように静かになった。フクロウも花も稲妻も、全て綺麗に消えてしまった。
「やった!元に戻った!」
「ふみゅ〜」
ふわりちゃんも嬉しそうに私の肩に戻ってくる。
「すみません!古代魔法のかるたは予想以上に強力でした!」
部長が深々と頭を下げる。
「でも楽しかったです♪」
フランが意外にもケロッとしている。
「確かに、普通のかるたでは体験できない迫力でしたね」
エリオットも興味深そう。
「ちょっと危険でしたけど、面白い体験でした」
エミリも笑顔を見せている。
「来年はもう少し安全なかるたでお願いします」
ノエミ様のまともな提案に、みんなが頷いた。
「でも、今日が一番スリリングなかるた大会だったかも!」
私がそう言うと、みんなで笑った。
「お嬢様、今日は実験しなかったのに、結局大騒動でしたね」
セレーナが苦笑いしている。
「私のせいじゃないわよ!今回は!」
「ピューイ」
ハーブがポケットの中で同意するように鳴いた。
魔法かるた大会は予想外の展開になったけれど、みんなでワイワイ騒げて楽しかった。
来年は普通のかるたでも充分面白そうだけど、やっぱりちょっとした魔法があった方が盛り上がるのかも。
「次回は『安全な魔法かるた』を開発してみようかしら」
「お嬢様、それ以上ややこしくしないでください!」
セレーナの必死の制止に、私はへへへと笑うしかなかった。
でも、きっと面白いかるたができると思うな!




