第180話 新年祝宴と光る料理
「わあ、王宮っていつ見ても豪華ね!」
私は王宮の大広間を見回しながら、目を輝かせていた。
「お嬢様、お行儀よくしてくださいね」
セレーナが心配そうに私の隣で囁く。
今日は特別に正装したセレーナも、虹色の髪をエレガントにまとめて、とても美しく見える。
「ふみゅ〜」
肩の上のふわりちゃんも、今日は特別に小さなリボンをつけて正装だ。
ハーブはお留守番だ。
「ルナさん!こちらですわ!」
カタリナの声が聞こえて振り返ると、赤茶色の縦ロールを美しくセットした彼女が手を振っている。
隣にはエリオットもいて、いつもより格式高い服装をしていた。
「カタリナ!エリオット!」
私たちは合流して、大広間の一角に陣取った。
周りには王国の重要な貴族たちがたくさんいて、なんだか緊張してくる。
「しかし、ルナさんの実験のおかげで王都中が光に包まれるなんて、さすがですね」
エリオットが感心したように言う。
「あれは偶然よ。でも結果オーライだったから良かった!」
「偶然で王都を光らせるなんて、ルナさんらしいですわ」
カタリナがクスクス笑っている時、突然大広間にファンファーレが響いた。
「国王陛下のお成り〜!」
セレヴィア王が威厳ある姿で入場される。
その後ろには王妃、第一王子のアルカデ様、第二王子のセラフ様、そして王女のノエミ様も続いている。
ノエミ様とは学院で顔見知りだけど、こうして正式な場で見ると改めて王族の品格を感じる。
「皆、新年おめでとう。今年も王国の繁栄のために共に励もう」
国王陛下の挨拶に、大広間中から「新年おめでとうございます!」の声が響く。
その時、陛下の視線が私たちの方に向いた。
「アルケミ伯爵家のルナ嬢、前に出なさい」
「え、私?」
周りがざわめく中、私は緊張しながら前に出た。ふわりちゃんも一緒に肩に乗ったまま。
「年末に王都を美しい光で包んでくれたこと、改めて感謝する。これを受け取りなさい」
陛下から手渡されたのは、美しい宝石がちりばめられた小さなペンダント。
「これは『王国貢献章』。ありがとうございます!」
「うむ。今後も王国のために尽力してくれることを期待している」
私が席に戻ると、周りの貴族たちがひそひそと話している。
「あの若い令嬢が例の...」
「王都を光らせたという...」
「爆発錬金術令嬢だそうですよ」
なんだか注目されて恥ずかしい……褒められてるのか?
「さあ、祝宴を始めよう!」
陛下の声と共に、楽団が美しい音楽を奏で始めた。給仕たちが色とりどりの料理を運んでくる。
「わあ、美味しそう!あ、これなんの料理かしら?」
私が興味深そうに見ていると、近くの給仕さんが説明してくれる。
「こちらは王室特製の『祝福のスープ』でございます。新年に飲むと一年間健康でいられると言われております」
「祝福のスープ?私の祝福薬と似てるかも!」
そう言って一口飲んでみると...うん、確かに温かくて優しい味。でも何か物足りない感じがする。
「もう少し『幸運の要素』を加えたら、もっと効果的になるかも...」
私がぶつぶつ考えていると、セレーナが慌てた声で囁いた。
「お嬢様、まさかここで実験しようなんて考えてませんよね?」
「え?そんなことないわよ...でも、ちょっとだけ改良してみたら...」
「絶対にダメです!」
でも、好奇心が抑えられない。
私はこっそり空間ポケットから『希望の金粉』を少しだけ取り出した。ほんの少しスープに混ぜるだけなら...
「お嬢様、やめて!」
セレーナの制止も虚しく、私は金粉をスープに落としてしまった。
すると—
ーーキラキラキラ〜!
スープが突然光り始めた!しかも、その光がだんだん強くなっていく!
「あ、あれ?」
「きゃあ!スープが光ってる!」
周りの貴族たちが騒ぎ始める。
私のスープからあふれた光が、隣のテーブルの料理にも移っていく。
「これは一体...?」
国王陛下の困惑した声。
「ルナ嬢、何をしたのかね?」
「あの、ちょっとだけ『希望の金粉』を...」
その瞬間、大広間中の料理が一斉に光り始めた!
「うわああああ!」
パンが光る!肉料理が光る!デザートのケーキまで光ってる!まるで大広間が巨大なイルミネーション会場になったみたい。
「ふみゅみゅ〜!」
ふわりちゃんも嬉しそうに羽ばたいている。
どうやら光に反応して、ふわりちゃんの浄化の力も発動してしまったようだ。
「お嬢様!また大変なことに!」
「でも綺麗よね?」
光る料理たちはとても幻想的で美しい。でも、貴族たちは皆困惑している。
その時、第二王子のセラフ様が興味深そうに近づいてこられた。
「これは面白い現象ですね。錬金術による食物への魔法付与でしょうか?」
「はい!『希望の金粉』の効果で、料理に幸運と健康の効果が付与されたんです!」
「なるほど。では、この光る料理を食べると何らかの恩恵があると?」
「多分!」
セラフ様は、光るパンを一口食べてみられた。
すると—
「おお!体が軽やかになるような...これは確かに何らかの効果がありますね」
それを聞いた他の貴族たちも、恐る恐る光る料理を口にし始める。
「本当だ!体調が良くなったような...」
「疲れが取れた気がする!」
「これは素晴らしい!」
あっという間に、大広間は「光る料理の試食会」になってしまった。
「ルナ嬢」
国王陛下が苦笑いしながら私に近づいてこられた。
「またしても予想外の出来事を起こしてくれたな」
「申し訳ございません...」
「いや、結果的に皆が喜んでいる。これも一種の新年の奇跡だろう」
陛下はそう言って、光るスープを一口飲まれた。
「うむ、確かに体が温まる。来年の新年祝宴でも、この『光る料理』を正式なメニューにしてはどうかね」
「本当ですか?」
「うむ。ただし、今度は事前に相談してからにしなさい」
「はい!」
結局、新年祝宴は「史上初の光る料理祝宴」として語り継がれることになった。
貴族たちも最初は驚いていたけれど、実際に効果を感じて大満足の様子。
「ルナさん、またやってくれましたわね」
カタリナが呆れたように言う。
「王宮で爆発させなくて良かったですね」
エリオットの言葉に、私たちは皆で笑った。
「来年はもっと計画的に実験するわ!」
「それ、毎回言ってますよね」
セレーナの突っ込みに、私はへへへと笑うしかなかった。
「ふみゅ〜」
ふわりちゃんも満足そうに鳴いている。
光る料理に囲まれた王宮での新年祝宴は、きっと一生忘れられない思い出になるだろう。
新年早々、また大騒動を起こしてしまったけれど、結果的にみんなが幸せになったから、これも立派な成功よね!




