第179話 年末の盛大ないつものやつ
「今年最後の実験は、やっぱり盛大にいかないとね!」
私は実験室で、色とりどりの材料を前にワクワクしていた。
もうすぐ新年だし、何か特別な薬を作って今年を締めくくりたい。
「お嬢様、『盛大に』という言葉が不安しかありません...」
セレーナが眉をひそめながら、実験室の換気扇を全開にした。
「ふみゅ〜」
肩の上のふわりちゃんが心配そうに鳴いている。
ハーブはといえば、既に実験室の隅っこで丸くなって震えていた。動物の勘って凄いなあ。
「大丈夫大丈夫!今度は『新年祝福薬』を作るの。飲むと一年間幸運になる薬よ!」
「それ、本当に可能ですか?」
「やってみなきゃわからない!」
(前世の記憶によると、日本には『福茶』っていうのがあったから、きっと似たようなものが作れるはず!)
材料を並べる。
『幸運の四つ葉』『希望の金粉』『笑顔の水』『絆の結晶』。
どれも王都の魔法材料店で「縁起物コーナー」から選んできたものだ。
「ピューイ?」
ハーブが不安そうに鳴いた。君の予感は大体当たるんだよね...
「まずは基本の調合から!」
私は錬金鍋に『笑顔の水』を注いで、魔力を込めた炎で温め始めた。
すると、水面がキラキラと光って、なんだか見ているだけで楽しくなってくる。
「おお、良い感じ!次は『幸運の四つ葉』を...」
四つ葉を鍋に落とした瞬間、ぶくぶくと泡立ち始めた。そして鍋から虹色の湯気が立ち上る。
「綺麗ですね」とセレーナが感心している間に、私は『希望の金粉』をぱらぱらと振りかけた。
すると突然、鍋の中身が黄金色に輝き始めて—
「あ、あれ?なんか光が強すぎない?」
「お嬢様!目を瞑って!」
ーーピカーッ!
実験室が閃光に包まれた。
目を開けると、鍋の周りに小さな光の玉がふわふわと浮いている。
まるで小さな太陽が踊っているみたい。
「わあ、綺麗!でもこれ、祝福薬になってるのかな?」
「それより、この光の玉は一体...」
セレーナがそう言いかけた時、光の玉の一つがハーブの鼻先に触れた。
「ピューイ!」
すると、ハーブの茶色い毛がキラキラと金色に光り始めた!
「ハーブが光ってる!」
「ふみゅみゅ〜!」
ふわりちゃんも興味深そうに光の玉に近づいていく。
触れた途端、ふわりちゃんの白い毛がさらにふわふわになって、背中の小さな翼がキラキラと虹色に輝いた。
「これは...『幸運付与効果』ですね」
「やった!大成功じゃない!最後に『絆の結晶』を入れて完成よ!」
私は嬉しくて、勢いよく結晶を鍋に投げ込んだ。
その瞬間—
ーードーーーン!
「きゃあああ!」
実験室が爆発した。
いや、正確には爆発じゃなくて、超巨大な花火が室内で炸裂したような感じだ。
色とりどりの煙がもくもくと立ち上り、部屋中にキラキラした粉が舞い散った。
「お嬢様ーーー!」
煙の向こうからハロルドの悲鳴が聞こえる。
扉がバタンと開いて、白髪の執事が眼鏡を斜めにしながら駆け込んできた。
「また爆発ですか!年末の大掃除が終わったばかりなのに!」
「ハロルド、大丈夫よ!今度のは良い爆発だから!」
「良い爆発って何ですか!?」
煙が晴れると、実験室がとんでもないことになっていた。
壁や天井に色とりどりの粉がくっついて、まるで虹の洞窟みたい。
そして部屋中に小さな光の玉がふわふわ浮いている。
「これは...」
「新年装飾の完成ね!」
実際、とても綺麗だった。
キラキラ光る粉と、ふわふわ浮かぶ光の玉のおかげで、実験室が魔法的なパーティー会場みたいになっている。
「ルナ、今度は何を爆発させたんだ?」
兄さんが書類を抱えて顔を出した。
「爆発じゃなくて『新年祝福薬』の調合よ!ほら、見て!」
鍋を覗き込むと、中で金色の液体がとろりと輝いている。
匂いを嗅いでみると、甘くて暖かい香り。まるで焼きたてのクッキーと花の蜜を混ぜたような匂い。
「これ、本当に祝福薬になってるのか?」
「試してみる?」
「やめておく」
兄さんは即答だった。賢明な判断だと思う。
その時、マリアが慌てて駆け込んできた。
「お嬢様!外が大変なことになってます!」
「外?」
窓を開けて覗いてみると—わあ。
屋敷の庭に、さっきの爆発で飛び散った光の粉が降り積もって、雪みたいになっている。
そして庭の木々や花壇が、全部キラキラと光っている。
「これ、王都中に飛び散ってません?」
セレーナの指摘通り、遠くの街並みもところどころキラキラ光っているのが見える。
「あ、あああ...」
「お嬢様、またやらかしましたね」
その時、屋敷の門の方から声が聞こえてきた。
「アルケミ伯爵家の方はいらっしゃいますか!」
窓から見ると、王都の役人らしき人が何人か立っている。うわあ、怒られるかな?
「私が出ます」
ハロルドが深いため息をついて階段を降りていく。
しばらくして戻ってきた時の顔は...意外にも笑顔だった。
「お嬢様、どうやら今回は良い知らせのようです」
「え?」
「王都中が美しく光って、市民の皆さんが『新年の奇跡だ!』と大喜びしているそうです。それで国王陛下から『新年祝福の功績』として感謝状をいただけることになりました」
「え!」
「ふみゅー!」
ふわりちゃんが嬉しそうに羽ばたいている。
ハーブはまだ金色に光ったままだけど、なんだか誇らしげだ。
「とりあえず、実験室の掃除はちゃんとしてくださいね」
「はーい」
結局、新年祝福薬は大成功だった。
飲み物としてはまだ完成していないけれど、王都を幸せな光で包むことができたんだから、これも立派な祝福薬よね。
「来年も頑張って実験するわよ!」
「お嬢様、せめて爆発の規模は抑えてください...」
セレーナの嘆息と共に、キラキラ光る王都の夜が更けていく。
光の玉はまだふわふわと浮いていて、きっと新年まで王都を照らしてくれるだろう。
年末最後の実験は、予想以上の大成功だった。来年はどんな発見が待っているかな?
「ピューイ!」
ハーブの嬉しそうな鳴き声と共に、私たちの年末は幸せな光に包まれて終わった。




