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第164話 王立魔法学院体育大会 ~無茶ぶり障害物走も大混乱~

「さあさあ、第二種目の準備が整たぞおおおお〜!」


メルヴィン副校長の声が響く中、屋上の巨大な虹色キノコはまだもくもくと胞子を撒き散らしている。

空がほんのりと虹色に染まって、なんだか幻想的だ。


「ルナさん、あのキノコ本当に大丈夫なのでしょうか?」

カタリナが心配そうに見上げている。


「うーん、多分大丈夫だと思うよ。そのうち自然に消えるんじゃないかな?」

実は私もちょっと心配だけど。


「第二種目は『無茶ぶり障害物走』じゃ!」


メルヴィン副校長が両手を広げて大声で発表する。


「ルールは簡単!コース途中に教師の皆様が待ち構えており、そこで様々な『無茶ぶり』をする!審査に合格しなければ先に進めんぞ〜!」


観客席からは期待と不安の入り混じった声が聞こえてくる。


障害物コースには5つのチェックポイントがあって、それぞれに違う先生が待機している。

最初のポイントにはグリムウッド教授、次にモーガン先生、その次がフローラン教授、4番目がイザベラ・ハーモニカ先生、最後がカンナバール教官だ。


「うわあ、カンナバール教官が最後って……」


私は思わずぞっとする。

あの威圧感満点の教官が最後に何を要求してくるのか想像もつかない。


「ふみゅ〜」

肩の上のふわりちゃんが心配そうに鳴いている。

私の気持ちを察してくれているのね。


「それでは、1年生Aチームから順番に参りましょう〜!」


最初の挑戦者はフランだった。赤いツインテールを揺らしながら颯爽とスタートラインに立つ。


「行くっしょ〜♪ ルナっちも応援よろしく〜♪」

彼女は私に向かって手を振ってくれる。


「頑張って、フラン!」

私も手を振り返す。


「よーい……スタート!」


フランが勢いよく駆け出した。最初のチェックポイントでグリムウッド教授が待っている。


「フランさん、こちらで即興ダンスを披露してください。テーマは『春の訪れ』です」

「マジっすか〜?でも任せといて〜♪」


フランちゃんは全く動じることなく、その場でくるくると回り始めた。

手を花びらのようにひらひらと動かして、確かに春らしい軽やかなダンスを踊っている。


「おお、素晴らしい表現力です!合格です!」

グリムウッド教授が感心して拍手を送る。


次のモーガン先生のポイントでは……

「短歌を詠んでください。お題は『錬金術の美しさ』です」


「えー、短歌っすか〜?」フランがちょっと困った顔をする。「えっと〜……『るつぼには〜、きらめく夢が〜、舞い踊り〜、今日も明日も〜、実験だっしょ〜♪』」


「……まあ、情熱は伝わりますね。合格です」

モーガン先生が苦笑いしながら手を上げる。


3番目のフローラン教授のところでは、魔物の鳴き声の物真似を要求された。

「『キューキュー』っていう魔物の鳴き声をお願いします」


「きゅ〜きゅ〜♪ きゅっきゅ〜♪」

フランちゃんの物真似は想像以上に上手くて、観客席からも笑い声が起こった。


4番目のイザベラ先生のところでは……

「魔物の気持ちになって、『お腹が空いた時の表現』をしてください」


「お腹空いたっしょ〜♪ ぐ〜ってなってるっしょ〜♪」

フランちゃんがお腹を押さえながら可愛らしくアピールする。


「魔物の気持ちがよく伝わりました!合格です!」


そして最後、カンナバール教官のところに到着したフラン。教官の威圧感に少しだけ顔が強張る。


「腕立て伏せを10回、大きな声で数を数えながらやれ!」


「うっし!やったるっしょ〜♪」

フランちゃんは元気よく腕立て伏せを始めた。


「いち〜♪ に〜♪ さん〜♪ し〜♪ ご〜♪ ろく〜♪ なな〜♪ はち〜♪ きゅ〜♪ じゅ〜♪」

「合格だ。よくやった」


カンナバール教官が満足そうに頷く。

フランはそのままゴールに向かって走り、見事にクリアした。


「やった〜♪」


ゴールでポーズを決めるフランに、観客席から大きな拍手が送られる。


続々と各チームの代表が挑戦し、3年生の先輩も難なくクリア。そしていよいよ私の番がやってきた。


「ルナさん、頑張って!」

カタリナが応援してくれる。


「ルナ先輩!」

エミリも声をかけてくれた。

まだ髪がくるくるになったままだけど、元気そうで良かった。


「よーし、行くぞ〜!」

私はスタートラインに立つ。


ふわりちゃんも肩の上で「ふみゅ〜♪」と応援してくれている。


「スタート!」


私は勢いよく駆け出した。最初のグリムウッド教授のところに到着。


「ルナさん、こちらで即興コントをお願いします。一人二役で『錬金術師と助手の会話』をどうぞ」


「えー、一人二役?」

ちょっと戸惑ったけど、やってみよう。私は声色を変えて演技を始めた。


「『あ、先生!実験が成功しました!』」高い声で助手役。

「『おお、それは素晴らしい!……あ、でも何か煙が出てるぞ?』」低い声で先生役。

「『きゃー!爆発します〜!』」

「『みんな逃げろ〜!』」


私は実際に慌てたような動きも加えて、コミカルに演じてみた。


「ははは!まさにルナさんらしいコントですね!合格です!」

グリムウッド教授が大笑いしながら合格を出してくれた。


次のモーガン先生のところでは……

「俳句を詠んでください。お題は『失敗の美学』です」


「俳句ね……えーっと……『実験で〜、今日も爆発〜、また成功?』」


「……確かにルナさんにとっては爆発も成功の一種かもしれませんね。合格です」

モーガン先生が苦笑いしながら手を上げる。


3番目のフローラン教授のところでは……

「魔物と会話している様子を実演してください」


「それなら得意よ!」

私は目を閉じて、頭の中で近くにいる魔物を探してみる。あ、いた!


「こんにちは〜、元気にしてる?」

私が空中に向かって話しかけると、どこからともなく小さな光の玉がふわふわと現れた。


「あ、本当に魔物が来ましたわ!」

カタリナの驚いた声が聞こえる。


「この子はライトウィスプっていう光の精霊なの。とっても優しいのよ」

光の玉がくるくると私の周りを舞いながら、きらきらと光っている。


「素晴らしい!本物の魔物との意思疎通ですね!合格です!」

フローラン教授が感激して拍手してくれた。


4番目のイザベラ先生のところでは……

「魔物の子守唄を歌ってください」


「子守唄かあ……」


私は少し考えてから、優しいメロディーで歌い始めた。


「♪ねんねん ころりよ〜、魔物の赤ちゃん〜、お月様見てる〜、きらきら光る〜♪」

すると、さっきのライトウィスプがゆらゆらと揺れながら、本当に眠そうな動きを始めた。


「あら、本当に効果があるみたいですね!合格です!」

イザベラ先生が微笑んでくれる。


そしていよいよ最後、カンナバール教官のところだ。

威圧感のある教官が、なぜかにやりと笑っている。


「ルナ、最後の課題だ。私と腕相撲をして、10秒間耐えてくれ」

「え、腕相撲?」


私は恐る恐る教官の向かいに座る。

教官の腕は私の腕の3倍はありそうだ。


「よし、始め!」


教官が本気を出したら一瞬で終わってしまいそうだけど、幸い手加減してくれているみたい。

でも10秒も耐えるのは大変だ。


「うううう……」


私は必死に耐える。5秒、6秒、7秒……


「ふみゅ〜!」

ふわりちゃんが応援してくれている。

その声に励まされて、なんとか10秒耐えきった。


「よくやった。合格だ」

カンナバール教官が満足そうに頷いてくれる。


私はそのままゴールに向かって走った。

途中で振り返ると、コース上に散らばった魔法的副作用で、グラウンドがとてもカラフルになっている。

光の粒子が舞い踊り、小さな花が咲き乱れ、なんだかファンタジーの世界みたいだ。


「やったー!」

ゴールにたどり着いた私に、みんなが拍手を送ってくれる。


「お疲れ様でした、ルナさん!」

カタリナが駆け寄ってきてくれた。


「ルナ先輩、すごかったです!」

エミリも嬉しそうに手を振っている。


「素晴らしい無茶ぶり障害物走じゃった!」メルヴィン副校長が満足そうに手を叩く。「特にルナさんの魔物との会話は圧巻じゃ!来年は『魔物と一緒に障害物走』を検討してよう!」


「それは勘弁してよ〜」


私は苦笑いしながら答える。でも確かに、今回も楽しい種目だった。


そんな時、空を見上げると屋上の虹色キノコがさらに大きくなっているのに気がついた。

しかも何だか歌声のようなものが聞こえてくる。


「あれ?キノコから音楽が……?」


「ルナさん……まさかそのキノコ、歌うんじゃ……?」

カタリナが不安そうに呟く。


すると突然、キノコから美しいハーモニーが響き始めた。

まるで天使の合唱のような、神秘的な歌声だ。


「うわあ、きれい……」


観客席からも感嘆の声が上がる。

でもよく考えてみると、巨大なキノコが歌っているってちょっと異常事態よね?


「ふみゅ〜♪」

ふわりちゃんも歌声に合わせて鳴いている。なんだかとても楽しそうだ。


「まあ、とりあえず綺麗だからいいんじゃない?」


私がそう言った瞬間、キノコから光の粒子がきらきらと降り注いできた。

触れてみると、温かくて心地よい。


「これはこれで美しい演出かもしれませんわね」

カタリナも諦めたような笑顔を浮かべる。


体育大会はまだまだ続く。次はどんな種目が待っているのかな?

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