表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/258

第162話 バサーラサ王国からの感謝と友好の証

リッチ討伐から一週間後、私が実験室で『特製ブドウジュース』の改良に取り組んでいると、ハロルドが慌てて駆け込んできた。


「お嬢様!王宮からお呼びです!」


「王宮から?何かあったの?」


「バサーラサ王国の使節団が到着されたとのことです。リッチ討伐の件で、正式な感謝の意を表したいとか」


「えっ、そんな大袈裟な!」


私は慌てて実験を中断した。

肩のふわりちゃんも「ふみゅ?」と首を傾げている。


「セレーナ、一緒に来てくれる?」

「もちろんです、お嬢様」


王宮の謁見の間は、いつもより華やかに飾られていた。

セレヴィア王国の王族たちに加えて、エドガーたちや他の冒険者たちも招待されている。


そして正面には、見たことのない豪華な民族衣装を着た人々が並んでいた。


「あ、ルナ!」


エドガーが手を振ってくれた。

一週間前の疲労困憊した様子とは打って変わって、すっかり元気になっている。


「エドガー!みんなも元気そうね」


「おかげさまで、完全回復したよ」リリィがピンクの髪をくるくると巻きながら言った。「でも、今日は主役はルナちゃんよ!」


「わしも楽しみじゃのう」マーリンが杖を持ちながらにこにこしている。


「みんなで表彰されるなんて……緊張します」ミラも少し照れくさそうだった。


「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」


セレヴィア王国の王が開式を宣言すると、バサーラサ王国の使節団が前に出た。


先頭に立つのは、日焼けした肌に砂漠の民らしい風格を持った中年の男性だった。


「私は、バサーラサ王国宰相アブデルと申します」


宰相が深々とお辞儀をした。


「この度は、我が国の危機を救っていただき、心より感謝申し上げます。特に、勇者エドガー殿、錬金術師ルナ・アルケミ殿、そして魔王セレスティア様には、国民を代表して最大の謝意を表したく参りました」


「実は、皆様にお伝えしたいことがございます」


宰相の表情が深刻になった。


「リッチの被害は、当初の予想を遥かに上回るものでした。もしも皆様の活躍がなければ、我が国は完全に滅亡していたでしょう」


会場がざわめいた。


「死の魔力による汚染は、国土の8割に及んでいました。作物は枯れ果て、家畜は倒れ、人々は避難を余儀なくされました」


私は胸が痛んだ。そんなに深刻な状況だったなんて。


「しかし、皆様のおかげで……」


宰相の顔に笑顔が戻った。


「リッチが滅ぼされた瞬間、死の魔力が完全に浄化され、大地に緑が戻ったのです。それも、以前より豊かな土地に変わっていました」


「特に、ルナ・アルケミ殿と魔王セレスティア様」


宰相が私たちに向き直った。


「お二人の協力がなければ、この奇跡は起こりませんでした。ルナ殿の『生命の輝き』とセレスティア様の魔王の力が合わさって、まさに我が国の救世主となられました」


私は恥ずかしくて顔を赤らめた。


「セレスティアがいてくれたから成功したんです」


「私も、ルナさんの錬金術があってこそでした」セレスティアさんが謙虚に微笑んだ。「みんなで力を合わせた結果ですね」


「その謙虚さも、素晴らしいですね」

宰相が温かい笑顔を浮かべた。



「では、感謝の印として、心ばかりの品をお納めください」


バサーラサ王国の従者たちが、美しい箱を運んできた。


「エドガー殿には、我が国の伝統工芸『バサーラサの剣』を」


エドガーに手渡されたのは、砂漠の夕日のような美しい色合いの剣だった。


「すげぇ……こんな美しい剣は初めて見る」


「そしてルナ・アルケミ殿には……」


私の前に置かれたのは、虹色に輝く美しい宝石だった。


「これは『砂漠の心』と呼ばれる、我が国の秘宝です。錬金術の触媒として、きっとお役に立つでしょう」


「わあ、すごく綺麗!」


宝石に触れると、温かい魔力が感じられた。これは確かに、錬金術に使えそうだ。


「ふみゅ〜」ふわりちゃんも興味深そうに宝石を見つめている。


「そして、魔王セレスティア様には……」


セレスティアさんの前に置かれたのは、美しく装飾された古い巻物だった。


「これは我が国に伝わる『古代魔法の奥義書』です。魔王様のお力にふさわしい、貴重な魔法の知識が記されています」


「これは……素晴らしいものをいただいて恐縮です」セレスティアが感動したように巻物を受け取った。



リリィには『風切りの短剣』、マーリンには『賢者の杖』、ミラには『聖なる鐘』がそれぞれ贈られた。


「わしの杖より、こっちの方が魔力の通りが良いのう」


「この鐘、とても神聖な力を感じます」


セレーナにも『風断ちのブレスレット』が贈られた。


「お嬢様のお世話係として、いつもご苦労をおかけしているとお聞きしました」

「そんな、恐縮です」


「そして最後に」


宰相が厳かに宣言した。


「バサーラサ王国は、セレヴィア王国との間に永続的な友好条約を結びたいと思います」


「いつでも我が国にいらしてください。最高のもてなしをご用意いたします」



式典の後は、盛大な宴会が開かれた。

バサーラサ王国の料理は、香辛料が効いていてとても美味しかった。


「実際に現地に行って研究してみたいな。砂漠の薬草とか、面白そう」


「その時は、私たちも一緒に行きましょう」ミラも笑顔で言った。


「ふみゅ〜」ふわりちゃんも楽しそうに羽ばたいている。


宴会が終わって家に帰ると、私は『砂漠の心』を実験台に置いた。


「この宝石を使って、どんな薬が作れるかな」


「きっと、素晴らしい発見がありますわ」

実験室に入ってきたカタリナが、興味深そうに宝石を眺めた。


「カタリナも来てたの?」


「ええ、式典を見学させていただきました。ルナさんの活躍、本当に誇らしかったですわ」

「ありがとう。でも、本当にみんなのおかげよ」


私は窓の外を見つめた。

今日もまた、平和な王都の夜景が広がっている。


でも今度は、遠い砂漠の国にも新しい友達ができた。


「次はどんな実験をしようかな」


「ふみゅ〜(楽しみ)」


そして夏が終わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ