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第161話 魔王と錬金術師

エドガーたちが開いてくれた突破口を通って、私たちはついにリッチの城にたどり着いた。

セレスティアさん、セレーナ、人型になりそうなふわりちゃん、そして私の四人で、古代の魔導師と対峙する。


「クククク……愚かな……」


骸骨の城の奥から、黒いローブに身を包んだリッチが姿を現した。

その手には邪悪な魔力をまとった杖が握られ、空洞の眼窩に不気味な赤い光が宿っている。


「我は古代の魔導師、死を司る者なり!小娘どもが束になって来ようとも、塵芥に変えてくれる!」


「あなたがリッチですね」セレスティアが静かに前に出た。

「私は魔王セレスティア。あなたの無秩序な死の魔力、とても不快です」


私は『奇跡版』の薬瓶を握りしめた。今度こそ、絶対に決着をつける。



「『支配の魔法・領域展開』!」


セレスティアさんが両手を広げると、リッチの周囲に巨大な魔法陣が現れた。魔王の真の力が解放される瞬間だった。


「なっ、何だこの魔力は!?……拘束だと?」


リッチが狼狽した。古代の魔導師の力でさえ、魔王の『支配』の前では無力だった。


「動きを封じました」セレスティアさんがこちらを振り返った。「でも長くは持ちません。ルナさん、今です!」


「分かった!行くよ!」


私は星輝の棍棒を握って、ただひたすらリッチに向かって突撃した。

剣技も何もない、ただの猪突猛進よ!


「お嬢様!」セレーナが私の後ろから『衝撃』の魔法で、周囲のアンデッドを吹き飛ばしてくれた。


「ふみゅ〜」ふわりちゃんも浄化の光でルナの周りの邪悪な魔力を払ってくれる。


「『星の輝き』!」


棍棒が眩い光を放ち、リッチの視界を奪う。

でも私の目的は攻撃じゃない。薬をかけることよ!


「小娘め!舐めるな!」


リッチが怒り狂って杖を振り上げた。

セレスティアの拘束が、少し緩んだようだ。


「『死の波動』!」


リッチが杖を私に向けると、黒い波動が襲いかかってきた。

これに当たったら、きっとただじゃ済まない。


「危ない!」


私は咄嗟に横に飛んだ。

黒い波動が、私がいた場所の石床を粉々に砕く。


「こしゃくな!『呪いの槍』!」


今度は黒い槍が次々と飛んでくる。


「わあ!」


私は棍棒を振り回して槍を叩き落としながら、必死に避け続けた。


セレーナの衝撃魔法の援護で活路が見えた……気がした。


「ここだ!『生命の輝き・奇跡版』、直接投与!」


脳筋全開で突撃した私は、勢いそのままに薬瓶をリッチの頭蓋骨に叩きつけた。

虹色の薬液が、リッチの全身に派手に飛び散る。


「ギャアアアア!この光は……生命の力!?」


薬液がリッチの骨格を包むと、その全身が金色の光に包まれ始めた。

私の最高傑作の薬が、古代の魔導師の死の魔力を中和していく。


「うおおお!我の力が……薄れていく……」


「やった!脳筋突撃大成功!」


でも、まだリッチの魂の核は残っている。ここからが本当の勝負よ。


「セレーナ、ふわりちゃん、最後の仕上げをお願い!」



「はい!『神聖な光』!」


セレーナが両手を天に向けると、その虹色の髪が金色に神々しく輝き、背中に白い美しい翼が開いた。

天使としての真の力が解放される。


「ふみゅ〜」


そして、ふわりちゃんが眩い光に包まれた。

その小さな体が、人間の子供ぐらいの大きさに変化していく。


「ふみゅみゅ〜」


人型になったふわりちゃんは、真っ白なワンピースを着た美しい少女の姿になり、背中には半透明の小さな翼がある。

水色の瞳には星屑の輝きが浮かんでいる。


「私も最後の一発を!『生命の輝き・持続版』追加投与!」


私は残っていた薬瓶も投げつけた。


三つの力が合わさった瞬間、リッチの城全体が虹色の光に包まれた。


セレーナの『神聖な光』がまばゆい白い光を放ち、人型ふわりちゃんの『浄化の力』が温かい金色の光を広げ、私の『奇跡版』が虹色の希望の光を織り成す。


「美しい……こんなに美しい光が……まぶしい……」


リッチの声が、だんだん穏やかになっていく。邪悪な魔力が完全に消えると、そこには疲れ切った老人の魂だけが残っていた。


「長い間……本当に長い間……苦しかった……」


リッチの空洞だった眼窩に、一瞬だけ安らぎの光が宿った。


「ありがとう……優しい光よ……ようやく……安らかに眠れる……」


リッチは最後に微笑むと、光の粒子となって空に昇っていった。

それは破壊ではなく、救済だった。

長い苦しみから解放された魂の、静かな感謝だった。



戦いが終わると、崩れかけていた骸骨の城が美しい光に包まれて消えていった。

その跡地には、緑豊かな草原が広がっている。


「やった!」


「見事でした、ルナさん」セレスティアが満足そうに微笑んだ。


「お嬢様の錬金術が、本当に世界を救いました」セレーナが涙を浮かべて言った。


「ふみゅ〜」人型ふわりちゃんが嬉しそうに私の手を握ってくれた。


「みんなの力があったからよ。一人じゃ絶対に無理だった」



戦場だった砂漠に、生命の息吹が戻り始めた。三重の浄化の力が、大地そのものを癒してくれたのだ。


「本当に美しい光景ですね」セレスティアが満足そうに呟いた。

「私の魔王城も、きっと元の虹色に戻っているでしょう」


「今度遊びに行かせてもらうね!人型ふわりちゃんも一緒に」


「ふみゅ〜」人型ふわりちゃんが嬉しそうに頷いた。


「あ、あとセレスティア、セレーナの正体のことは……」


私が小声で言いかけると、セレスティアが優しく微笑んだ。


「もちろん、秘密にします。天使の力は貴重ですから」


セレーナが安堵の表情を浮かべた。


「ありがとうございます、セレスティア様」



バサーラサ王国は元の美しい砂漠と生命の息吹が芽生えた草原を持つ国に変わってしまった。

救われたのだから良しとしよう。


私は空になった薬瓶を眺めた。

小さな錬金術の実験が、こんなに大きな奇跡を起こせるなんて。


「次はどんな実験をしようかな」


「ふみゅ〜」人型ふわりちゃんが私に抱き着いて来ていた。


平和な日常が戻ってきた。

私の錬金術の旅は、まだまだ続いていく。

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