表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/258

第158話 希望の新薬開発

エドガーからの手紙が王都に届いたのは、私が『特製ブドウジュース』の実験をしていた時だった。


「お嬢様、緊急の手紙です!」


ハロルドが血相を変えて実験室に飛び込んできた。

普段は冷静な執事が、これほど慌てているのを見るのは初めてだった。


「エドガーからですって?」


私は手紙を受け取って読み始めた。

血のように赤いインクで書かれた文字を見るだけで、現地の緊迫した状況が伝わってくる。


『ルナへ。緊急事態だ。バサーラサ王国で古代の魔導師リッチが覚醒し、無数のアンデッドが大陸を脅かしている。俺たちは一週間戦い続けているが、アンデッドが無限に復活してしまい、もう限界だ。頼む。アンデッドを撃退できる薬を作ってくれないか。お前の錬金術が、俺たちの最後の希望だ。時間がない。この手紙が届いたら、すぐに研究を始めてほしい。エドガー』


「アンデッド……リッチ……」


私はなんとなくで思いついた。

死の魔力で動くアンデッドなら、その逆の力……浄化の力で対抗できるかもしれない。


「ハロルド、すぐにカタリナに連絡を!それから、兄さんにも事情を説明して!」


「承知いたしました!」


ハロルドが慌てて駆け出していく。私は肩のふわりちゃんを見つめた。


「ふわりちゃん、エドガーたちを助けられる薬、一緒に作ろうね」


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんが小さく羽ばたいて、決意を示してくれた。


一時間後、カタリナがローゼン侯爵家から急いで駆けつけてくれた。


「ルナさん、大変な事態ですわね」


カタリナの表情も普段より引き締まっている。

蒼い瞳に心配の色が浮かんでいた。


「うん、でもね、何か手伝えることがあるかもしれない」


私は実験台に材料を並べ始めた。『光の花びら』『浄化の水晶』『聖なる水』……


「アンデッドは死の魔力で動いているでしょ?だったら、その逆の力を持つ薬を作れば、何か対抗できるかも」


「なるほど、浄化系の錬金術ですわね」カタリナが目を輝かせた。

「私も手伝います。私の魔力で浄化の力を増幅できるかもしれませんわ」


セレーナも駆けつけてくれた。


「お嬢様、私にも何かお手伝いできることはありませんか?」


「セレーナ!ちょうど良かった。あなたの天使の力も借りたいの」


実験は難航した。

普通の浄化薬では、古代の魔導師の死の魔力には太刀打ちできそうにない。


「うーん、もっと強力な浄化効果が必要ね」


私が悩んでいると、ふわりちゃんが「ふみゅ〜」と鳴いて、小さな翼から光の粉を振りまいた。その瞬間、実験台の材料がきらきらと輝き始めた。


「ふわりちゃん!そうだ!浄化の守護者!」


私はふわりちゃんの光の粉を新しい材料として加えることにした。

『光の花びら』と『浄化の水晶』、『聖なる水』に、ふわりちゃんの『浄化の光の粉』を組み合わせる。


「カタリナ、魔力をお願い!」


「承知いたしましたわ!」


カタリナが魔力をかけると、調合鍋の周りに光る花が咲き乱れた。そして調合液が美しい金色に変化していく。


「セレーナも天使の力を!」


「はい!」セレーナが両手を調合鍋にかざすと、薬がより深い金色に輝いた。


「成功!」


出来上がった薬は『生命の輝き』と名付けた。

アンデッドの死の魔力を中和し、無力化する効果があるはずだ。


「でも、これだけじゃ足りないわね」


私はさらに考えを巡らせた。

現地で効果的に使うには、広範囲に効果を及ぼす必要がある。


「あ、そうだ!『魔力可視化薬』の応用で、『薬効拡散薬』を作れるかも!」


「『友情促進薬』の『絆の草』を加えてみたらどうでしょう?」セレーナが提案した。

「死者を生者の世界に繋ぎ止めているのは、もしかすると歪んだ絆かもしれません」


「セレーナ、それ天才的な発想よ!」


私は早速『絆の草』を追加した調合を試してみた。

すると、薬の色がより深い虹色に変化した。


「これなら、リッチの支配からアンデッドを解放できるかも。『絆断ち薬』と名付けましょう」


カタリナも強めの魔力で薬の効果を安定させてくれた。


「ルナさんの錬金術と私の魔法、そしてふわりちゃんの浄化の力とセレーナさんの発想……みんなの力が合わさった薬ですわね」


「ふみゅ〜」ふわりちゃんも嬉しそうに羽ばたいている。


「ピューイ」ハーブも小さく鳴いた。



「兄さん、この薬をエドガーたちに届けてもらえる?」


兄さんは、いつもの落ち着いた表情で薬の瓶を受け取った。


「分かった。王国最速の馬で向かう。二日で現地に着けるはずだ」

「でも、二日も待てるかしら……」私は心配になった。


「大丈夫ですわ、ルナさん」カタリナが私の肩に手を置いた。

「エドガーさんたちは強い方々です。きっと持ちこたえてくださいます」


「そうですね。私たちの薬を信じて、頑張ってくれているはず」


私は窓の外の南の空を見つめた。

遠い戦場で、友人たちが命をかけて戦っている。


兄さんが出発した後も、私たちは改良を続けた。

もしかすると、もっと効果的な薬を作れるかもしれない。


「『時の砂』を少量加えてみましょうか」私が提案した。「薬効の持続時間を延ばせるかも」


「それは素晴らしいアイデアですわ」


カタリナと一緒に、さらなる改良版に取り組む。

『時の砂』『速度増幅液』『因果安定剤』を組み合わせて、効果時間を延長する。


「これで『生命の輝き・持続版』の完成ね」


三種類の薬ができあがった。『生命の輝き』『絆断ち薬』『持続版』。

これらを組み合わせれば、きっとリッチに対抗できるはず。


「お嬢様、追加の薬も準備できました」セレーナが報告してくれた。

「ありがとう、セレーナ。これで準備万端ね」


私は完成した薬瓶を眺めた。

金色、虹色、そして青白い光を放つ三つの薬。

これが、エドガーたちの希望になってくれるはず。


「急いで二便目を送りましょう」

私はハロルドに頼んで、改良版の薬も現地に送ることにした。


「きっと間に合う。エドガーたちなら、薬が届くまで絶対に諦めない」


「ふみゅ〜(信じてる)」ふわりちゃんが私の頬を小さな翼で撫でてくれた。


窓の外では、夕日が西の空に沈んでいく。遠い戦場で戦う友人たちを思いながら、私は静かに祈った。


「みんな、無事でいて」


実験室には、薬草の甘い香りが漂っていた。これは、希望の香りだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ