第152話 王都夏祭り二日目と花火ルーレット大会
王都夏祭りの二日目。
昨日の花火錬金術実演が大成功だったおかげで、今日は街中の人から「昨日の光のショー、素晴らしかったね!」と声をかけられる。
「お嬢様、今日も人気者ですね」
セレーナが苦笑いしながら言う。
確かに、歩くたびに人だかりができてしまって、なかなか前に進めない。
「ふみゅ〜」
ふわりちゃんも肩の上で得意げに胸を張っている。
昨日の活躍を覚えているのかもしれない。
「今日は何をして遊びましょうか?」
カタリナが楽しそうに提案する。
エリオットも昨日より緊張が解けて、リラックスしている様子だ。
「あ、みんな〜♪今日も集合〜!」
フランが元気よく手を振りながら駆けてくる。エミリとノエミ王女も一緒だ。
「フラン、今日も元気ね」
「当然〜♪祭りは二日目が一番楽しいって言うじゃん〜?」
その時、街の向こうから派手な音楽が聞こえてきた。太鼓と笛の賑やかな音色に、人々がざわめき始める。
「あれは何でしょう?」
エリオットが首をかしげる。
音楽の方向を見ると、煌びやかな装飾を施した大きな舞台が組まれていて、そこには見覚えのある人物が立っていた。
「皆の者〜!今宵は特別な催し物があるぞ〜!」
バルナード侯爵だった。
王都の娯楽大臣として有名な彼が、いつもの派手な服装で大きく手を広げている。
「あら、あれはバルナード侯爵ですわね」
カタリナが言う。
「今夜は『花火ルーレット大会』を開催する!参加者全員に夜空からの贈り物があるぞ〜!」
花火ルーレット?聞いたことがない催しだけど、なんだかとても面白そうだ。
私たちは人の波に押されるようにして舞台前の広場に向かった。
既にたくさんの人が集まっていて、みんなワクワクした表情で待っている。
「それでは説明しよう!夜空に大輪の花火を打ち上げる!その光の欠片が皆の手元に降ってくるのだ!」
バルナード侯爵が身振り手振りを交えて説明する。
「当たりの欠片は便利なアイテムに変わる!しかしハズレの欠片は...ふふふ、お楽しみということにしておこう!」
なんだか少し不安になってきた。
バルナード侯爵の「お楽しみ」は、いつもとても個性的だから。
「面白そうですわね」
カタリナが目を輝かせている。
「ちょっと怖いような...」
エリオットが心配そうにつぶやく。
「大丈夫だよ〜♪きっと楽しいって〜!」
フランは相変わらず楽観的だ。
ノエミ王女の周りには、今日も護衛の方々がさりげなく配置されている。
屋台の店主に扮した人や、祭りの観客として紛れ込んだ人たち。でも今夜は彼らも少し興味深そうに舞台を見ている。
「それでは、始めるぞ〜!」
バルナード侯爵が大きく手を上げると、夜空に巨大な花火が打ち上がった。
色とりどりの光が空中で弾けて、美しい大輪を描く。
そして信じられないことに、花火の光の粒が本当に私たちの方に降ってきた!
まるで星屑のように、キラキラと輝きながら舞い散る光の欠片。
「わあ!」
みんなが手を伸ばして光の欠片をキャッチしようとする。
私も慌てて手を伸ばすと、小さな光の玉が手のひらに落ちてきた。
温かくて、少しくすぐったい。そして光の玉がパッと弾けると、手の中に小さな団扇が現れた。
「あ、これは...」
団扇を振ってみると、近くの焼き鳥屋台から香ばしい匂いが漂ってきた。
なんと、扇ぐだけで焼き鳥が自動で焼けるようだ!
「おお!炎の団扇じゃな!それは当たりじゃぞ!」
バルナード侯爵が嬉しそうに言う。
カタリナは透明なスリッパを手に入れていた。
「これを履くと、人混みをすり抜けられるそうですわ!便利ですのね!」
エリオットは水玉模様の帽子をかぶっている。
「屋台の飲み物が自動で冷えるそうです。暑い夜には助かりますね」
みんな当たりを引いているようで、私も嬉しくなってきた。
しかし、そんな喜びも束の間だった。
「あれれ〜?ルナちゃん、何か変じゃない〜?」
フランが私の頭上を指差している。
見ると、小さな妖精のような生き物が私の頭に乗っていた。
「はじめまして〜!私はツッコミ妖精のペコよ〜!」
高い声でしゃべる小さな妖精。でも何かイヤな予感がする。
「あ、あの...」
「ちょっとちょっと!その団扇の使い方、全然だめじゃない!もっとこう、優雅に扇がなきゃ!」
いきなりツッコミが始まった。
「え、でも普通に扇いでるつもりなんだけど...」
「はい、そこ!『つもり』じゃダメなのよ!『つもり』は結果じゃないの!もっと気持ちを込めて!」
うるさい。とてもうるさい。
隣を見ると、エミリが困り果てた表情をしている。
彼女の足元には小さな石像があって、勝手にしゃべり続けている。
「この焼きそばの麺は、小麦粉を水で練って延ばしたものでありまして、その歴史は古く...」
「あの、別に聞いてないんですけど...」
「いやいや、知識は大切ですよ!焼きそばソースの成分についても説明いたしましょう!」
エミリが完全にうんざりした顔になっている。
そしてノエミ王女の肩には、小さな小悪魔が乗っていた。
「ねえ、踊ろ?ねえねえ、踊ろうよ〜♪」
「あの、今は皆と一緒にいたいので...」
「踊ろ踊ろ〜!楽しいよ〜♪ね、踊ろ?」
王女様が困り果てている。そして周りの護衛の方々も、どう対処していいのか分からない様子で困惑している。
「あはは〜♪ハズレ組も楽しそうじゃん〜♪」
フランは透明な髪飾りを手に入れて、それを付けると髪が虹色に光る効果があるようだ。当たりを引いている。
「これはなかなか興味深い現象ですね」
エリオットも当たり組で、冷静に状況を観察している。
「皆さん、大丈夫ですの?」
カタリナが心配そうに声をかけてくれる。
「ちょっとちょっと!心配するなら、もっと具体的に心配しなさいよ!『どう大丈夫?』って聞かなきゃダメでしょ!」
ペコ妖精のツッコミが容赦ない。
「う、うるさいなあ...」
「はい!そこで『うるさいなあ』じゃなくて、『ご指摘ありがとうございます』でしょ!礼儀を忘れちゃダメよ!」
もう嫌だ。この妖精、本当にうるさい。
「ふみゅ?」
ふわりちゃんがペコ妖精を見て首をかしげている。
そして何かを察したように、小さく光った。
すると不思議なことに、ペコ妖精の声が少し小さくなった。
「あら?何かしらこの感じ...まあいいわ、とにかくルナちゃんは...」
声のボリュームが下がっただけで、相変わらずツッコミは続いている。でも少しマシになった。
「ふみゅ〜」
ふわりちゃんが得意そうに羽をパタパタしている。きっと彼女なりに助けてくれたのだろう。
「バルナード侯爵、これはいつまで続くんですか?」
エリオットが舞台の方に向かって質問する。
「ああ、それは日が変わるまでじゃ!つまり、あと3時間ほどかな!」
「3時間も!?」
私とエミリとノエミ王女が同時に絶望的な声を上げた。
「大丈夫大丈夫〜♪慣れれば可愛く見えてくるって〜!」
フランが楽観的に笑っている。
「小麦粉の製粉技術について、詳しく説明いたしましょう...」
「ねえ、踊ろ?ちょっとでいいから踊ろうよ〜♪」
「ルナちゃんその歩き方も変よ!もっとシャキッと歩きなさい!」
三人の絶望的な夜が始まった。
でも不思議なもので、しばらくすると本当に慣れてきた。
ペコ妖精のツッコミも、よく聞いてみると時々的確だったりする。
「あ、それは確かにそうかも」
「でしょ?私、ツッコミのプロだからね!」
少し親しみやすくなったペコに、ふわりちゃんも「ふみゅ〜」と挨拶している。
エミリの石像も、実は博識で面白い話をたくさん知っていることが分かってきた。
「へえ、綿あめって昔はこんな風に作ってたんですね」
「そうですそうです!知識は人生を豊かにしますからね!」
ノエミ王女も、小悪魔と一緒に少しだけ踊ってみたら、意外と楽しそうだった。
「これはこれで、新鮮な体験ですね」
「でしょ〜?踊るの楽しいよ〜♪」
結局、3時間があっという間に過ぎて、日が変わる頃には私たちはハズレマスコットたちとすっかり仲良くなっていた。
「さあ、時間じゃ!マスコットたちは元の場所に帰るぞ〜!」
バルナード侯爵の声と共に、ペコ妖精、石像、小悪魔たちがふわりと光って消えていく。
「バイバイ、ルナちゃん! また今度、ツッコんであげる!」
「さようなら! また知識を共有いたしましょう!」
「また一緒に踊ろうね〜♪」
少し寂しいような、ほっとしたような複雑な気持ちだった。
「今日も楽しかったですわね」
カタリナが満足そうに言う。
「うん!最初は困ったけど、なんだか新鮮だった」
「ハズレも悪くないってことじゃん〜♪」
フランが笑っている。
王都夏祭り二日目も、こうして楽しく過ぎていった。
明日は最終日。どんな催し物が待っているのか、今から楽しみだ。
でも一つだけ確かなのは、バルナード侯爵の企画は絶対に予想がつかないということだ。
明日は一体どんなことになるのやら。
「ふみゅ〜」
ふわりちゃんも今日一日を楽しんだようで、満足そうに羽を休めている。
きっと明日も、素敵な一日になるだろう。




