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第151話 王都夏祭りと錬金術の花火大会

王都の夏祭りは、一年で最も華やかなイベントの一つだ。

三日間にわたって開催される祭りの初日、石畳の道には色とりどりの屋台が立ち並び、甘い香りと楽しげな笑い声が街全体を包んでいる。


「お嬢様、今日は髪がとても綺麗ですね」

セレーナが私の隣を歩きながら言う。

今日の彼女の虹色に輝く髪は、夜の祭りにとても映える。


「ありがとう、セレーナ!それにしても、すごい人出ね」


肩の上のふわりちゃんが「ふみゅ〜」と嬉しそうに鳴いている。

これがまた破壊的に可愛い。

ポケットの中のハーブも「ピューイ」と祭りの雰囲気を楽しんでいるようだ。


「ルナさん、こちらですわ!」


カタリナの声が聞こえた。

振り返ると、彼女が手を振っている。

いつものお嬢様らしい上品さに、祭りの華やかさが加わって、まさに絵に描いたような美しさだ。


「カタリナ!今日も素敵ね」


「ありがとうございます。ルナさんもお元気そうでなによりです」


エリオットも現れた。普段の控えめな印象とは違って、なんだか楽しそうだ。


「皆さん、お疲れ様です。祭りの準備、大変でしたね」


そう、実は今回の夏祭りには、私たちサークル『ミックス・ワンダーズ』が特別参加しているのだ。

副校長のメルヴィン先生に「学生の錬金術実演で祭りを盛り上げてはどうか」と提案され、花火の錬金術実演をすることになったのである。


「うっし〜!みんな揃った〜? 超楽しみ〜♪」


フランが現れた。いつものギャル系の明るさで場が華やかになる。


「フランちゃん、元気ね!」


エミリも現れて、いつもより嬉しそうだ。彼女も今日は特別な日を楽しみにしているようだ。


「エミリちゃんもすっごく可愛い〜♪」


そしてノエミ王女も参加してくれている。さすが王女様の品格が漂っている。


「皆さん、今日は楽しい夜になりそうですね」


彼女の周りを何気なく歩いている人々の中に、明らかに警戒しながら移動している者たちがいることに気づく。

街の雑踏に紛れているけれど、その動きは訓練されている。

きっと王女護衛部隊の方々が、さりげなく警護してくれているのだろう。


「それでは、実演会場へ向かいましょうか」


私たちは祭りの喧騒の中を歩いていく。

屋台では焼きそばやたこ焼き、綿あめなどの香ばしい匂いが立ち込めている。子供たちがボールすくいに夢中になっていたり、カップルが魔法射的を楽しんでいたり、祭りならではの光景があちこちで繰り広げられている。


「あ、ルナちゃん!」


振り返ると、2-Aのクラスメートであるトーマス君やアリスたちが手を振っている。


「みんなも祭り楽しんでる?」


「うん!でもルナちゃんの花火実演、楽しみにしてるよ!」


そうこうしているうちに、実演会場に到着した。

既にたくさんの人々が集まっている。

貴族から庶民まで、老若男女問わず、みんなが期待に満ちた表情で待っている。


「おお!来たな、ルナ君!」


メルヴィン副校長が派手な祭り装束で現れた。今日はいつもよりさらにカラフルだ。


「準備はどうじゃ? 観客を『わあ〜!』と言わせるような演出を頼むぞ!」


「はい!頑張ります!」


実は今日のために、私は特別な花火錬金術を準備していた。

普通の花火に錬金術を組み合わせることで、色とりどりの光が音楽に合わせて踊るような効果を狙っているのだ。


実演台に材料を並べる。

『光の花びら』『音響の結晶』『虹の粉末』そして秘密の材料『祭りの心』——これは実際には『絆の草』を特殊調合したものだ。


「それでは皆さん、今日は王都夏祭り花火錬金術実演にお越しいただき、ありがとうございます!」


観客から拍手が起こる。私は緊張と興奮で胸がドキドキしている。


「まずは基本の『光花火』から始めますね!」


魔力を込めた火で材料を熱する。『光の花びら』が溶けて、鍋の中で美しく光り始める。


「おお〜」という声が観客席から聞こえる。


「次に『音響の結晶』を加えて...」


材料を投入すると、鍋から美しい音色が響き始めた。まるでオルゴールのような、優雅な旋律だ。


「素敵な音ですわ!」


カタリナが感嘆の声を上げる。


「そして『虹の粉末』で色を付けて...」


粉末を振りかけると、鍋の中身が七色に変化し始めた。

光が踊るように混ざり合って、見ているだけでうっとりしてしまう。


「最後に秘密の材料『祭りの心』を...」


しかし、ここで予期せぬことが起こった。

ふわりちゃんが興味深そうに鍋を覗き込んだ瞬間、彼女の神聖な力が錬金術と反応してしまったのだ。


「ふみゅ?」


突然、鍋から巨大な光の柱が立ち上がった!


「きゃあああ!」


観客席がざわめく。でも私は慌てない。

これは爆発ではなく、光の魔法的増幅現象だと分かったからだ。


「大丈夫です!これは予定通りです!」


嘘だけど、観客を安心させるために言った。


光の柱はどんどん高くなって、ついには王都の空全体を照らし始めた。

そして信じられないことに、光は音楽に合わせて踊り始めたのだ。

まるで巨大なオーケストラのように、色とりどりの光が夜空でワルツを踊っている。


「うわあああ!すごいいい!」

「なんて美しいんだ!」


観客から歓声が上がる。私自身も思わず見とれてしまった。


「ルナさん、これは一体...」

エリオットが驚いている。


「え〜っと...実は私にも...」


「ふみゅ〜♪」

ふわりちゃんが嬉しそうに羽をパタパタしている。

どうやら彼女の力が偶然にも錬金術を大幅にパワーアップさせたらしい。


光のショーは約10分間続いた。観客は皆、空を見上げて感動している。

子供たちは「きれー!」と声を上げて飛び跳ねているし、大人たちも涙を流している人もいる。


やがて光がゆっくりと収まり、夜空には美しい星屑のような光の粒が舞い散った。

まるで雪のように、優しく地面に降り注ぐ。


「すごいですわ、ルナさん!これはまさに芸術ですのね!」

カタリナが興奮している。


「いや〜、実は私も予想以上で...」


「謙遜しないで〜♪ 超すごかったよ〜!」

フランも大興奮だ。


観客席からは割れんばかりの拍手が響いている。メルヴィン副校長なんて、嬉しさで踊っている。


「素晴らしい!これぞエンターテイメントじゃ!学問と芸術の融合じゃあああ!」


でも一番嬉しかったのは、観客の皆さんが心から楽しんでくれていることだった。

家族連れも、恋人同士も、友達同士も、みんなが同じ美しいものを見て、同じ感動を共有している。


「お嬢様、お疲れ様でした」

セレーナが労いの言葉をかけてくれる。


「セレーナも、みんなも、ありがとう!」


実演が終わった後は、私たちも祭りを楽しんだ。


カタリナと一緒に魔法射的をやったら、彼女が見事に的を全部当てて景品をゲット。さすがの集中力だ。


エリオットは輪投げに挑戦していたけど、理論派の彼らしく角度と力加減を計算しながら投げている姿が微笑ましい。


フランは綿あめを頬張りながら「超甘〜い♪」と幸せそう。

ノエミ王女はボールすくいで優雅にボールをすくっていて、周りの人たちが「さすが王女様」と感嘆している。


エミリは焼きそばを食べながら「ルナ先輩の錬金術、本当にすごかったです!」と目を輝かせている。


「ピューイ!」

ハーブもポケットから顔を出して、祭りの雰囲気を楽しんでいる。

ハチミツ菓子の甘い香りに誘われているようだ。


「ふみゅ〜♪」

ふわりちゃんも満足そう。

今日の彼女の活躍は予想外だったけど、結果的に素晴らしいショーになった。


夜も更けてきて、祭りもそろそろ終わりの時間だ。

でも王都の空にはまだ、私たちの花火錬金術の余韻が漂っている。

街角では人々が「今年の祭りは特別だったね」「あの花火は一生忘れられない」と話している。


「今日は楽しかったですわね」

カタリナが満足そうに言う。


「うん!みんなに喜んでもらえて、本当に良かった」


「ルナさんの錬金術は、いつも人を幸せにしますね」

エリオットの言葉に、私の胸が温かくなった。


確かに私の実験は時々失敗して、屋敷を煙だらけにしたり、予想外のことが起こったりする。

でも今日みたいに、たくさんの人を笑顔にできる時があるから、錬金術を続けていて良かったと思える。


「来年も、もっとすごいのを作りたいな」


「それは楽しみですわ!でも、あまり無茶はしないでくださいね」

「はーい」


家路につく途中、振り返ると王都の街がまだほんのり光っている。

今日の花火錬金術の魔法が、まだ完全には消えていないのかもしれない。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんが眠そうにあくびをしている。今日は彼女も頑張ってくれた。


「お疲れ様、ふわりちゃん。今日はありがとう」

そっと彼女の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。


屋敷に着くと、ハロルドが玄関で待っていてくれた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。祭はいかがでしたか?」


「とっても楽しかったよ!ハロルドも見に来れば良かったのに」

「いえいえ、私は屋敷でお帰りをお待ちするのが役目ですから」


でも彼の目が少し寂しそうなのに気づく。


「あ、そうだ!」


私は急いで部屋に戻って、祭りで買ってきた王都名物の「セレヴィアタルト」を持ってきた。


「これ、お土産!」


「ありがとうございます、お嬢様」

ハロルドが嬉しそうに微笑む。


部屋で今日一日を振り返る。

錬金術の実験が成功して、たくさんの人に喜んでもらえて、友達とも楽しい時間を過ごせた。


そして何より、ふわりちゃんの新しい力を発見できたのも収穫だった。

今度はもう少し制御された形で、この現象を研究してみよう。


「明日からまた、新しい実験に挑戦しよう」


ベッドに入りながら、私は既に次の研究計画を考え始めていた。

今度は「祭の思い出保存薬」なんてどうだろう? 素敵な瞬間をそのまま保存して、いつでも思い出せるような...


「ふみゅ〜...」

ふわりちゃんが私の隣でスヤスヤ眠り始める。

ハーブも専用クッションの上で丸くなって寝息を立てている。


窓から見える夜空には、まだ星が美しく輝いている。

今日の花火錬金術も、きっとあの星たちのように、見た人の心の中でずっと輝き続けるだろう。


私も幸せな疲れと共に、深い眠りについた。

夢の中でも、きっと色とりどりの光が踊っているに違いない。


明日もきっと、新しい発見と楽しい失敗が待っているだろう。


そしてそれが、私にとっては何よりも幸せなことなのだ。


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