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第148話 星の光と天空の花

翌朝、鳥のさえずりで目を覚ました私は、すぐに星の雫草のことを思い出した。


「セレーナ、おはよう!今日は星の雫草の様子を見に行かなくちゃ!」


「おはようございます、お嬢様。まずは身支度を整えてからにしましょう」

セレーナが苦笑しながら、いつものように完璧にお世話をしてくれる。


「ピューイ♪」

ハーブも元気よく鳴いて、私のポケットに飛び込んできた。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも肩に乗って、小さな翼をぱたぱたと動かしている。


---


食堂でグリーンフィ家の皆さんと朝食をとっていると、マティスがそわそわしていた。


「ルナさん、星の雫草の様子、気になりませんか?」

「もちろん!食事が終わったらすぐに見に行きましょう」


グリーンフィ子爵が微笑む。

「息子が昨夜からずっとそわそわしておりまして」


「あら〜、マティスったら可愛いじゃん♪」

フランがからかうように言うと、マティスが真っ赤になる。


「そ、そんなことは……」

「私も楽しみです」エミリが上品に微笑む。


---


朝食後、みんなで実験施設へ向かった。培養室に入ると——


「わあああ!」


私たちは一斉に声を上げた。


昨日まで元気のなかった星の雫草が、まるで小さな星座のように美しく光っていたのだ。

青白い光が葉の先端で静かに瞬き、まさに天空の星屑を散りばめたような幻想的な光景だった。


「信じられない……本当に成功したんですね!」

マティスが感動で声を震わせる。


「魔力蓄積薬が夜の間にゆっくりと効果を発揮したのね」

私も感激している。前世の化学知識と、この世界の錬金術が見事に融合した瞬間だった。


「超綺麗〜♪ これって夜だけじゃなくて昼間も光ってるの?」

フランが目をキラキラさせて尋ねる。


「いえ、本来は夜だけなんですが……」

マティスが困惑している。


「あ、多分魔力蓄積薬の効果で、蓄えられた夜の魔力が昼間でも少し漏れ出してるのよ」

私が分析すると、マティスが納得したような表情を見せる。


「なるほど!それで微弱ながら昼間でも光が見えるんですね」

「これなら夜の収穫だけじゃなく、昼間の観察も可能になるわ」


「ピューイ!」

ハーブも嬉しそうに鳴く。星の雫草の美しさに魅了されているようだ。


「ふみゅみゅ〜」

ふわりちゃんも満足そうにふわふわしている。


---


星の雫草の成功に気を良くした私たちは、次の目標である天空花の採取に向かった。

グリーンフィ領の奥にある断崖絶壁の上に、青い小さな花を咲かせる天空花が自生しているのだという。


「あそこです」

マティスが指差す方向を見上げると、確かに崖の中腹あたりに青い花が見える。


「うーん、確かに普通じゃ届かない場所ね」


「私の弓でも、あの高さは難しそうです……」

エミリが弓を構えて距離を測るが、首を振る。


「でも、『測り目』の魔法で花の状態は確認できるはず」

「そうですね。どの花が一番状態が良いか見極められます」


その時、私にひらめきが降りた。


「そうだ!『浮遊薬』を使えばいいのよ!」


「浮遊薬?」

マティスが首をかしげる。


「『風の羽根』『軽やかな水』『浮力の石』を組み合わせた薬よ。一時的に物体を浮遊させることができるの」

「そんな薬があるんですか!?」


「作ったことがあるもの。エミリちゃんの矢に浮遊薬を付けて、天空花の近くまで飛ばして……」

「あ!それで花を採取できるんですね!」


エミリが目を輝かせる。


「でも、制御が難しそう……」


「大丈夫!」私がひらめく。「風の魔法で軌道をコントロールできるかも」


「風の魔法なら僕も少し使えます」

マティスが控えめに言う。


「それに、天空花は朝露のあるうちに採取すると効果が高いって聞いたことがあるわ」


「じゃあ今がチャンス♪」

フランが元気よく言う。


---


早速、浮遊薬の調合に取り掛かる。

いつものように材料が光り始め、甘い香りが立ち込める。


「今度は爆発しないでくださいね?」

セレーナがハラハラしながら見守る。


「大丈夫よ!今日は慎重にやるから!」

そう言った瞬間、やはり小さな爆発が起こる。


ーーぼんっ!


今度は金色の煙がもくもくと上がった。


「お嬢様……」

「あ、でも今回の煙の色、すごく良い予感がするわ!」


煙が晴れると、透明感のある美しい青緑色の薬が完成していた。


「わあ、綺麗な色♪」


「この輝き方……通常より効果が高そうですね」

マティスが感心する。


エミリが矢の先端に浮遊薬を塗り、『測り目』の魔法で天空花の位置を正確に把握する。


「あの花が一番状態が良さそうです」


「よし、行くよ!」


マティスが風の魔法を準備し、エミリが矢を放つ。


矢は美しい弧を描きながら宙に舞い、浮遊薬の効果でふわりと浮上していく。

マティスの風の魔法で軌道が微調整され、見事に天空花の茎を切断した。


「やった〜!」


花が矢と一緒にゆっくりと降りてくる。


「すごい連携プレーじゃん♪」

フランが拍手する。


「ピューイピューイ!」

ハーブも興奮して鳴いている。


「ふみゅみゅ〜♪」

ふわりちゃんも嬉しそうだ。


---


採取した天空花を観察していると、朝露をまとった花びらが虹色に輝いている。


「本当に美しいですね。これなら『天空の薬』も作れそうです」

マティスが感動している。


「天空の薬?」

「古代の文献にある、空中浮遊を可能にする薬です。天空花が主要な材料なんです」


「それ、超面白そう♪ 空飛べるの?」

フランが目を輝かせる。


「ただ、調合が非常に難しくて……」

「大丈夫!みんなで協力すれば作れるわよ」


私の言葉に、皆が賛同する。


「そうですね。一人では難しくても、皆さんと一緒なら……」

「じゃあ、今度は天空の薬作りに挑戦しよう♪」


---


午後は採取した天空花の処理と、星の雫草の詳細な観察を行った。

どちらも予想以上の成果を上げている。


「今回の実験で、魔力供給の時間差制御という新しい技術が確立できました」

マティスが嬉しそうに記録をまとめている。


「この技術、他の薬草栽培にも応用できそうよ」

「本当ですか?」


「『月光キノコ』の栽培も、もっと安定させられるかも」

「それは素晴らしい!」


夕方、グリーンフィ家の庭園で、今日の成果を振り返りながらお茶をいただく。

星の雫草から採れた花びらを使ったお茶は、ほのかに光る美しい飲み物だった。


「このお茶、飲むと魔力が少し回復する感じがしますね」

エミリが驚く。


「星の雫草には魔力回復効果もあるのよ」


「知らなかった〜♪ 超お得じゃん」

フランが嬉しそうにお茶を飲む。


「明日は王都に戻りますが、また実験の続きをしに来させていただけますか?」


私が尋ねると、グリーンフィ子爵夫妻が快く承諾してくれた。


「いつでもお越しください。息子にとっても、皆様にとっても、貴重な学びの機会ですから」

「ありがとうございます」


こうして、星の雫草の成功と天空花の採取という、二つの大きな成果を上げた充実の一日が終わった。


「次は天空の薬作りね。楽しみ!」


「ピューイ♪」

「ふみゅ〜」

ハーブとふわりちゃんも同感のようだ。


「また爆発が起きませんように……」

セレーナのため息が夕暮れの空に響いている。

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