第145話 優雅な乗馬会と爆発の華麗なる競演
夏休みが始まって三日目。
今日は、ローゼン侯爵家の屋敷で催される乗馬会が話題の中心。
カタリナが主催する優雅な社交イベントには、多くの貴族子女が招待されていた。
一方、アルケミ伯爵家の屋敷では…
「お嬢様、今度こそ爆発させないでくださいね」
セレーナが心配そうに実験道具を運んでいる。虹色の髪がキラキラと輝いて、相変わらず美しい。
「大丈夫よ!今日は『馬用スタミナ薬』を作るの。カタリナの乗馬会に間に合わせたいのよ」
「それでしたら、もう少し早く始めるべきでしたね」
時計を見ると、すでに午後二時。カタリナの乗馬会は三時から始まる予定。
「間に合うわよ!錬金術は気持ちが大事なの」
「ふみゅ~」
肩の上のふわりちゃんが心配そうに鳴いている。
「ピューイ♪」
ポケットの中のハーブも不安そう。みんな私を信用してない。
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同じ頃、ローゼン侯爵家の美しい乗馬場では、優雅な光景が繰り広げられていた。
「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
カタリナが美しい乗馬服に身を包み、白い馬に跨って挨拶をする。
赤茶色の縦ロールが風に揺れて、まさに絵画のような美しさ。
「今日は私の愛馬『ジョグリーヌ』をご紹介させていただきますの」
招待された貴族の子女たちから感嘆の声が上がる。
「さすがカタリナ様」「美しいわ」「まるで騎士物語の姫君のよう」
カタリナはジョグリーヌと共に、軽やかに乗馬場を駆け抜けた。
その馬上での所作は完璧で、観る者すべてを魅了する。
「あの優雅さ、どうやったら身につくのかしら」
「生まれ持った才能もあるでしょうけど、きっと相当な努力もなさっているのね」
貴族の令嬢たちが憧れの眼差しでカタリナを見つめている。
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その頃、アルケミ家では…
「材料の準備完了よ!『活力草』『疲労回復の石』『持久力の花』、そして特別に『陶酔の雫』も少し」
実験室で材料を並べながら、遠くから聞こえる馬のいななきや貴族たちの笑い声に耳を傾けた。
「カタリナの乗馬会、盛り上がってるみたいね」
「お嬢様も招待されていたのでは?」セレーナが尋ねる。
「実験の方が大事よ!それに、この薬が完成したら、きっとカタリナも喜んでくれる」
鍋に活力草を入れて火にかける。魔力を込めた青い炎が美しく揺らめいた。
すると、甘い草の香りが立ち上る。これは良い兆候。
「順調ね…疲労回復の石を粉末にして…」
石を細かく砕いて鍋に投入。液体が淡い緑色に変わった。
「持久力の花も加えて…」
花びらを一枚ずつ丁寧に入れていく。すると、液体がキラキラと光り始めた。
「最後に陶酔の雫を一滴…いえ、効果を高めるために二滴…」
「お嬢様、それは多すぎるのでは?」
「大丈夫よ!計算済み…あ」
スポイトから勢いよく雫が落ちた。二滴どころか五滴くらい。
「あらら…」
しゅわわわわ…
鍋の中身が激しく泡立ち始めた。
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乗馬場では、カタリナが華麗な技を披露している最中だった。
「次は『花咲の騎乗術』をお見せしますの」
カタリナが杖を取り出し、馬上から魔法を唱える。
淡い光の花びらが宙に舞い、それはまるで踊るように美しかった。
「すばらしい…」
「魔法と乗馬の完璧な融合」
観客たちが息を呑んで見守っている。
そのとき…
ーードーン!!
遠くの方から大きな爆発音が響いた。
「今のは…」
みんなが音のした方向を見る。アルケミ家の屋敷の方から、紫色の煙がもくもくと上がっていた。
「あ…ルナさんですわね」カタリナが苦笑いする。
「ルナ・アルケミさんの実験ですか?」
「夏休み中も相変わらずね」
貴族たちがくすくすと笑っている。もはや王都では有名な話らしい。
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「やっちゃった…」
実験室は紫色の煙でいっぱい。でも今回の煙は甘い花の香りがして、なんだか元気が出てくる。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
セレーナが衝撃波の魔法で煙を外に飛ばしてくれた。
煙が晴れると、鍋の中には美しく光る紫色の液体があった。
「あら、成功してる?」
恐る恐る小瓶に分けて、一口飲んでみる。
「わあ!体が軽い!すごく元気になった!」
「本当ですか?」セレーナも試してみる。「確かに疲れが吹き飛びますね」
「ピューイ♪」ハーブも元気いっぱい。
「ふみゅみゅ♪」ふわりちゃんも嬉しそう。
「急いでカタリナのところに持って行きましょう!」
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乗馬場に到着すると、ちょうどカタリナが華麗な演技を終えたところだった。
「カタリナ!お疲れ様!」
「ルナさん!さっきの爆発音は…」
「大成功よ!馬用スタミナ薬ができた!」
小瓶を差し出すと、カタリナが興味深そうに受け取った。
「まずジョグリーヌに飲ませてみますしょう」
愛馬に薬を飲ませると、ジョグリーヌが生き生きとした表情になった。
「すごい効果ですのね!」
カタリナが再びジョグリーヌに跨る。すると今度は先ほど以上に軽やかで美しい騎乗を見せてくれた。
「素晴らしい!」
「馬と騎手の息がさらに合っている!」
観客たちから大きな拍手が起こった。
「他の馬にも試してみましょう!」
招待客の馬たちにも薬を分けてあげると、どの馬も見違えるほど元気になった。
「これは革命的な薬ですわ!」
「ぜひレシピを教えてくださいな」
貴族たちが興奮している。
「えへへ、陶酔の雫を間違えて多く入れちゃったのが成功の秘訣かも」
「やっぱり偶然だったんですのね」カタリナが苦笑い。
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夕方、乗馬会が盛況のうちに終わった後。
「ルナさん、今日はありがとうございました。おかげで素晴らしい会になりました」
「こちらこそ!カタリナの乗馬、本当に美しかった」
「それでは、私は明日からローゼン領に帰りますの。バカンスを楽しんできますわ」
カタリナが上品に微笑む。
「いいなあ、海の近くだものね」
「ええ。美しい港町で、新鮮な魚介類も楽しみですの。ルナさんもまたいらしてくださいな」
「絶対行く!そのときは海用の実験も持参するわ」
「海で実験は危険ですのでお控えください」セレーナが慌てて制止する。
「大丈夫よ!海水と錬金術の組み合わせなんて、きっと面白い発見があるわ」
「それが心配なのです…」カタリナとセレーナが同時にため息をついた。
翌朝、カタリナは優雅な馬車でローゼン領へと向かった。
見送りながら、私は新しい実験のアイデアが次々と浮かんできた。
「海の実験かあ…『潮風薬』とか『波乗り薬』とか作れそう」
「お嬢様、それは絶対に危険ですからやめてください」
「ふみゅ~」ふわりちゃんも心配そう。
でも夏はまだ始まったばかり。きっと楽しいことがいっぱい待ってる。
遠ざかっていくカタリナの馬車を見ながら、次の実験への期待で胸が弾んだ。
「ピューイ♪」
ハーブの元気な鳴き声が、新しい夏を告げていた。