表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/258

第144話 夏休み前の爆発注意報発令中

大陸のはるか南、灼熱の砂漠が広がる古の王国。そこで封印されていた古代の魔導師リッチが、長い眠りから目覚めつつあった。死の魔力が砂漠に染み出し、次々とアンデッドが蘇り始めている。しかし、その不穏な兆候は、まだセレヴィア王国には届いていない。


---


「お嬢様、今度は何を爆発させるおつもりですか?」


セレーナが心底疲れたような声で尋ねてきた。

確かに今週だけで実験室を3回も煙だらけにしちゃったけど、そんなに責めなくても…


「今日は絶対に爆発させないわよ!夏休み前だし、みんなにプレゼントする『暑さ知らず薬』を作るの」


「ふみゅ~?」

肩の上のふわりちゃんが首をかしげている。


そうよね、まだ説明してなかった。


「飲むと一日中涼しく過ごせる薬なの!これがあれば夏休みも快適よ」

「またそうやって油断するから…」セレーナがぼそりと呟く。天使のくせして随分と辛辣。



王立魔法学院の2-Aの教室では、みんなが夏休みの予定について話し合っていた。


「僕は実家の工房で古代技術の研究をする予定です」エリオットが控えめに言った。

「私は領地に帰って、バラ園のお手伝いをしますの」カタリナが上品に微笑む。


「ルナちゃんは?」トーマス君が興味深そうに聞いてきた。

「私は新しい錬金術の研究よ!この間魔王城で作った清涼爆弾の改良版を…」


教室がざわめいた。みんな私の実験を恐れているのかしら?


そのとき、グリムウッド教授が慌てた様子で教室に入ってきた。


「皆さん、大変です!ルナさんの実験用防護結界の設置を忘れていました!」

「え?今から実験するんですか?」クラスメートたちが一斉に席を立ち上がる。


「待って待って!まだ何もしてないわよ!」

でも時すでに遅し。半分以上の生徒が教室の外に避難してしまった。ひどい。


「大丈夫ですわ、ルナさん。私は信じていますわ」

カタリナが優雅に席に残ってくれた。

エリオットとトーマス君、アリスも残っている。あ、マークも無言で座ったまま。


「それでは、実験開始よ!」


机の上に材料を並べる。

『涼風の花びら』『氷雪草』『清涼ミント』、そして秘密の隠し味として『陶酔の雫』を一滴だけ。


「ルナさん、アルケミ領地のワインは…」

「ジュースにしてあるから大丈夫よ!でも魔法的効果は残ってるの。これで薬の効き目が長持ちするはず」


小さな鍋に氷雪草を入れて、魔力を込めた火でゆっくりと煮詰めていく。

青白い煙がふわりと立ち上り、教室にひんやりとした空気が流れた。


「いい感じね…」


涼風の花びらを加えると、液体が美しい水色に変化した。

甘い花の香りが部屋中に広がって、残った生徒たちからも「いい匂い」という声が聞こえる。


「ピューイ♪」

ポケットの中のハーブも嬉しそう。


清涼ミントを細かく刻んで投入。すると液体が淡く光り始めた。


「最後に陶酔の雫を一滴…」

スポイトで慎重に一滴垂らす。


しゅわぁ~

泡立ちながら、液体がキラキラと虹色に輝いた。これは成功の証!


「完成よ!」

小瓶に分けて、みんなに配る。


「本当に爆発しませんの?」カタリナが念のため確認。

「大丈夫よ!飲んでみて」


みんなで一緒に飲む。


「わあ、涼しい!」アリスが驚いた声を上げた。

「体の中からひんやりしますね」エリオットも感心している。


そのとき、教室の扉が勢いよく開いた。


「ルナちゃん~♪また実験してるって聞いて…あれ?」

入ってきたのは1-Cのフラン。相変わらず派手なギャル風の格好ね。


「フランちゃん♪タイミングばっちりよ!これ飲んでみて」

「え?大丈夫なの~?ルナちゃんの実験って大体爆発するじゃん♪」


「今日は絶対大丈夫よ!」


フランが恐る恐る飲む。

「あ、本当に涼しい♪これいいじゃん~!」


そのとき、教室の窓から虹泡スライムがぷるぷるとやってきた。

学院の魔物保護施設から遊びに来たのね。


「あ、スライムちゃん♪」

フランがスライムを見つけて駆け寄る。


虹泡スライムが美しい泡を作り出すと、その泡が暑さ知らず薬と反応した。


きらきらきら…


泡が虹色に輝いて、教室中に漂った。それはとても美しくて幻想的な光景だった。


「きれい…」

みんなが見とれていると、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。


「なんですか、この虹の光は!?」

「また2-Aで何か起きたのでは!?」


モーガン先生が慌てて飛び込んできた。


「ルナさん!今度は何を…あら?」

教授も虹の泡に見とれている。


「実験は大成功です!」


そのとき、メルヴィン・フェスティバル副校長が現れた。


「おお!これは素晴らしい!夏休み前の最後の授業にふさわしい美しさじゃああ!」


副校長は何でもショー扱いする。


「学生諸君!これぞ学問の美しさよ!知識と努力が生み出した奇跡じゃ!」

大げさに手を広げる副校長。でも、確かに虹の泡はとても美しかった。


そこへ校長先生も白髪を揺らしながらやってきた。


「何事ですか…おお、美しい」

校長先生まで虹の泡に魅了されている。


「ふみゅみゅ~♪」

ふわりちゃんも嬉しそう。


「ルナ・アルケミさん。それで、この薬の効果はいかほどですか?」校長先生が興味深そうに尋ねた。


「一日中涼しく過ごせるはずです!」

「素晴らしいですね。夏休み前にいいものができましたね」


その時、避難していた生徒たちが恐る恐る戻ってきた。


「あ、爆発してない…」

「虹色で綺麗…」

「ルナの実験で爆発しないなんて珍しい」


ちょっと!失礼ね。


「みんなにも分けてあげる!」

残った薬をみんなに配る。飲んだ瞬間、教室中から「涼しい~」という歓声が上がった。


「これで夏休みも快適に過ごせるわね」


そのとき、イザベラ・ハーモニカ先生が魔物心理学の資料を持って現れた。


「あら、虹泡スライムちゃんもいるのね。とても嬉しそうだわ」

「スライムちゃんは、みんなが涼しくて嬉しそうなのを見て、自分も嬉しくなっているのよ」


「そうなの?」


虹泡スライムがぷるぷると頷いているように見えた。


「魔物も私たちと同じように、友達の幸せを喜ぶの。とても心優しい子よ」


なんだか心がほっこりした。


放課後、カタリナと迎えに来たセレーナと一緒に帰路についた。


「今日の実験は本当に成功でしたわね」

「そうでしょう?たまには爆発しないのよ」


「『たまには』って…」

セレーナが苦笑いしている。


「夏休みは実験以外は、何をいたしますの?」カタリナが尋ねた。

「そうね、私も領地にいこうかしら?あ、そうそう、魔王城にも遊びに行かなきゃ」


「また何か爆発させるんですか?」セレーナの声に諦めが混じっている。


「大丈夫よ!今度は絶対に…」

「『絶対に』は禁句ですの」カタリナがくすくす笑った。


夕日が美しく輝く中、私たちは楽しい夏休みへの期待を胸に歩いていく。


遠い南の砂漠で蘇りつつある古代の脅威のことは、まだ誰も知らない。


「ピューイ♪」

ハーブの鳴き声が、平和な日常の尊さを物語っていた。


「ふみゅ~♪」

ふわりちゃんも満足そう。こんな穏やかな日々がずっと続けばいいのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ