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第143話 夏の魔王城と清涼爆弾

「お嬢様、今日もまた魔王城へいらっしゃるのですか?」


セレーナが呆れたような声で尋ねてくる。

私は錬金道具を空間収納ポケットに詰め込みながら振り返った。


「そうよ!セレスティアから『夏の暑さ対策を何とかしてほしい』って手紙が来たの。魔王城が観光地になったのはいいけど、お客さんが暑さでバテちゃうんですって」


「ふみゅ~♪」

肩の上でふわりちゃんが嬉しそうに鳴いている。


「私も同行いたします」とセレーナが虹色の髪を揺らしながら言った。

「ハーブをポケットに入れて準備完了。魔王城への道中、カタリナとも合流する予定。


「それにしても」セレーナがため息をついた。

「魔王城がレストランと観光地になるなんて、一年前には想像もできませんでしたね」


そうなのよね。セレスティアに頼まれた自動錬金術陣での爆発で城の外壁が虹色になって、そこから生まれた虹色スライムたちの料理の腕前が話題になって…今では週末になると観光客でごった返している。


魔王城の門前に着くと、すでにカタリナが待っていた。


「ルナさん、ごきげんよう。今日はどのようなことを?」

「夏の暑さ対策よ!『清涼爆弾』を作ろうと思うの」


カタリナの美しい顔が一瞬青ざめた。「爆弾…ですの?」


「大丈夫よ!爆発するのは涼しさだけ!多分!」

「多分って何ですの!?」


城の中に入ると、魔王のセレスティアと執事のバルトルドが出迎えてくれた。

セレスティアは相変わらず真面目で優しい雰囲気を纏っている。


「ルナさん、いつもありがとう。お客様方が『暑い』と仰っていて…」

「任せて!今日は特製の『清涼爆弾』で一気に解決よ!」


バルトルドの顔がピクリと動いた。「爆弾…と仰いましたでしょうか?」


「涼しさが爆発するのよ!」


城の一角に設けられた実験室で、早速準備開始。

材料は『氷の結晶』『風の草』『涼風の石』、そして秘密兵器として『時の砂』を少しだけ。


「お嬢様、時の砂は危険では…」

「ちょっとだけよ!効果を瞬間的に広げるために必要なの」


鍋に氷の結晶を入れて、魔力を込めた火で溶かしていく。

ここが肝心なポイント。火加減を強くして魔力をたっぷり注ぎ込む。


「ふわぁ…いい香りですのね」カタリナが上品に呟く。


さわやかなミントのような香りが部屋に漂い始めた。これは成功の兆し!


風の草を細かく刻んで加える。すると液体が淡い青色に変化して、キラキラと光り始めた。


「おお、美しい色合いですな」バルトルドが感心している。


「ピューイ!」ポケットの中でハーブも興奮している様子。


最後に涼風の石を粉末状にして投入。ここで時の砂をほんの一摘み…


「お嬢様、それは本当に少しですか?」

「大丈夫よ!前回より断然少な—」


ーーボンッ!


小爆発と共に、部屋中に青い煙がもくもくと立ち上った。

でも今回は煙が冷たい!そして甘い花の香り!


「成功よ!」

煙が晴れると、鍋の中には美しく輝く青い球体が浮かんでいた。


「これが清涼爆弾ね。投げると周囲一帯が涼しくなるはず!」


「素晴らしいですが…」セレスティアが少し心配そうに言った。「お客様に当たったりしませんか?」


「大丈夫!当たっても涼しくなるだけよ!試してみましょう!」


城の中庭に出ると、確かに暑い。観光客の皆さんも扇子であおいだり、木陰を探したりしている。


「それではいくわよ!」

清涼爆弾を宙に向かって投げた。


ーーパァーン!


爆弾が弾けると、まるで花火のように青い光の粒子が舞い散った。

そしてひんやりとした風が吹き抜けていく。


「わあ、涼しい!」

「何この気持ちいい風!」


お客さんたちから歓声が上がった。大成功!


「ルナさん、ありがとう。これで夏のお客様にも快適に過ごしていただけるわ」

セレスティアが嬉しそうに微笑む。


「ふみゅみゅ~♪」ふわりちゃんも満足そう。


「でも一つ気になることが…」カタリナが空を見上げた。


「何?」

見上げると、空に青い雲がぽつぽつと浮かんでいる。


「まさか…」

次の瞬間、青い雲から冷たい雨がぽつりぽつりと降り始めた。それも、ミントの香りがする雨。


「あら、予想外の効果ね」

「予想外って…お嬢様、お客様たちが…」


振り返ると、観光客の皆さんがミント雨に打たれて、すっかりリフレッシュした表情になっている。

中には「気持ちいい~」と雨を浴びて踊っている人も。


「これはこれで成功かしら?」


「確かに涼しくはなりましたが…」バルトルドが困ったような顔をしている。

「大丈夫ですわ。お客様も喜んでいらっしゃるようですし」カタリナがフォローしてくれた。


「次回はもう少し効果範囲を限定した方がよろしいかもしれませんね」セレーナが冷静にコメント。


そのとき、虹色スライムたちがぷるぷると現れて、ミント雨を美味しそうに飲んでいる。

「あ、スライムたちが新しいレシピを覚えちゃう!」


案の定、夕方にはメニューに「ミント風味の特製冷製スープ」が追加されていた。

これがまた絶品で、お客さんたちは大喜び。


「結果オーライですのね」

カタリナの言葉に、みんなでくすくす笑った。


夕日が虹色の城壁に反射して、とても美しい光景。

こんなドタバタも悪くない。明日はどんな実験をしようかしら?


「ピューイ♪」

ハーブの鳴き声と共に、また新しい一日への期待が膨らんでいく。


魔王城の夏は、まだまだ始まったばかりだ。

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