第141話 エビバデフクロウの謎
王立魔法学院の廊下を歩いていると、ギルドマスターから呼び出しの連絡を学院から受けた。
放課後、冒険者ギルドに向かうと、そこには困り果てた表情のギルドマスターが待っていた。
「ルナお嬢様、カタリナお嬢様、エリオット様、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。実は緊急の調査依頼が舞い込んでおりまして」
ルナは興味深そうに身を乗り出す。
肩の上のふわりちゃんも「ふみゅ?」と首をかしげている。
「王都東の森で、村人たちが困っておりまして。『エビバデフクロウ』という謎の魔物が現れ、村の日常生活が大変なことになっているとのことです」
「エビバデフクロウ、ですの?」
カタリナが美しい縦ロールを揺らしながら優雅に首をかしげた。
「はい。派手な見た目のフクロウとのことですが、現れると突然『エビバデ!』と叫んで、その場にいる全員を強制的に踊らせるとのことです」
エリオットが真面目な表情で尋ねる。「それは魅了系の魔法でしょうか?」
「申し訳ございませんが、それが分からないのです。誰もかれもお構いなしに踊らせるとのことで、村人は困惑しております。皆様の専門性を活かして、調査していただけますでしょうか」
ルナの目がキラキラと輝いた。「面白そう!きっと何か理由があるはず!」
「ありがとうございます。では王都東の森への調査を正式にお願いいたします。くれぐれも安全第一でお願いいたします」
翌朝、Tri-Orderの三人は準備を整えて王都東の森へ向かった。
ルナは『星輝の棍棒』を背負い、空間収納ポケットには調査用の薬草や錬金術道具をぎっしり詰め込んでいる。
ハーブも小さなポケットの中で「ピューイ」と鳴いて調査への意気込みを見せている。
「それにしても、なぜフクロウが『エビバデ』なのでしょうの?」
カタリナが『月灯りの剣』を腰に佩いて歩きながら疑問を口にする。
「古代の祭礼や儀式との関係があるかもしれません」エリオットが『鋼の剣』の柄を確認しながら答える。
森の入り口で、村人の案内人と合流した。中年の男性で、明らかに疲労困憊している。
「ああ、調査の方ですか!助かります。もう村では何も手につかない状態で…」
「どのような状況なのですか?」カタリナが上品に尋ねる。
「それが、井戸の水を汲みに行こうとしても、薪を取りに行こうとしても、あのフクロウが現れて『エビバデ!』と叫ぶんです。そうすると、もう体が勝手に踊り出して…」
案内人は思い出すだけで身震いをした。
「踊りはどのくらい続くのですか?」エリオットが実用的な質問をする。
「だいたい10分ほどでしょうか。その間は完全に体の自由が利きません。でも不思議なことに、疲労感はないんです。むしろ踊った後は体調が良くなるような…」
ルナの目が再び輝いた。「それって、もしかして…」
森の奥へ進むと、突然大きな羽音が響いた。
見上げると、枝の上に信じられないほど派手なフクロウがいる。
羽根は虹色に輝き、目はキラキラと宝石のように光っている。
まるで祭りの装飾のような華やかさだった。
「あ、あれがエビバデフクロウ…」案内人がひそひそ声で言った瞬間だった。
「エビバデ!!!」
フクロウの大きな声が森に響き渡る。その瞬間、ルナたちの体が勝手に動き出した。
「わああああ!?」ルナは錬金術の知識も何も関係なく、リズムに合わせて手を振り上げている。
肩の上のふわりちゃんも「ふみゅみゅ♪」と楽しそうに羽をパタパタさせながら踊っている。
「これは一体…!」カタリナも優雅な動きで踊らされているが、その表情は困惑そのものだった。
エリオットも理論的思考を保とうとしていたが、足は勝手にステップを踏んでいる。「何だか...体が勝手に...」
案内人も慣れたように踊っている。「ほら、言った通りでしょう?」
強制的な踊りの最中でも、ルナの観察眼は働いていた。
フクロウの動きを見ていると、どこか寂しそうな表情をしていることに気づく。
(あれ?このフクロウ、楽しそうに見えるけど、目が寂しそう…?)
10分後、踊りが止まった。確かに疲労感はなく、むしろ体がすっきりしている。
「ふぅ…」カタリナが縦ロールを直しながらため息をついた。「確かに体調は良くなりましたの」
「不思議ですね...魔力も何だか活発になったような」エリオットが自分の状態を確認している。
ルナはフクロウを見上げて、得意の魔物意思疎通を試みた。
心を開いて、優しく語りかける。
「こんにちは!君は寂しいの?」
フクロウがハッと振り返る。大きな瞳がルナを見つめ、ゆっくりと首を縦に振った。
「やっぱり!」ルナが嬉しそうに叫ぶ。
「君は一人で踊るのが寂しくて、みんなに一緒に踊ってもらいたかったんだね?」
フクロウは再び首を縦に振り、今度は小さく「クルル…」と鳴いた。
その声には確かに寂しさが込められている。
カタリナが『探知の魔法』でフクロウの魔力を調べると、驚くべきことが分かった。
「これは…祭りの魔法ですの!古い祭礼の魔法が込められていますわ」
エリオットも魔法で詳しく調べてみる。「確かに...何だか特別な魔法のようですね。踊りに関する古い魔法かもしれません」
「つまり、このフクロウは一人で祭りを続けていたってこと?」ルナの表情が切なくなった。
案内人が驚く。「祭りの魔法…?そういえば最近、森の実りが豊かになったような…」
ルナはポケットから『友情促進薬』を取り出した。以前調合した、『絆の草』『信頼の石』『温かい水』を組み合わせた薬だ。
「これを飲んで、一緒に踊ってあげよう!強制じゃなくて、友達として!」
フクロウに薬を差し出すと、フクロウは嬉しそうに飲んだ。すると、周囲に温かい光が広がる。
「エビバデ♪」
今度は強制ではない。でも、なぜかみんな自然と踊りたくなった。
ルナを中心に、カタリナもエリオットも案内人も、そしてふわりちゃんも楽しそうに踊る。
「ふみゅ〜♪」ふわりちゃんの可愛い声が響く中、フクロウの目に初めて本当の喜びが宿った。
踊りが終わると、フクロウはルナの前に舞い降りた。
「君は一人じゃないよ。でも、村の人たちは突然踊らされると困っちゃうから、お祭りの時だけ一緒に踊ろうね」
フクロウは理解したように「クルル♪」と鳴いて、頭を下げた。
「村で月に一度、豊穣祭を開いてはいかがでしょうか?このフクロウさんと一緒に踊れば、きっと素晴らしい収穫が得られますわ」
案内人の顔が明るくなった。「それは素晴らしいアイデアです!村のみんなも喜びます」
エリオットがメモを取りながら言う。「踊りの魔法と豊穣の関係...これは珍しい発見ですね」
こうして、エビバデフクロウは村の守り神として迎え入れられることになった。
新たな村のイベントとして、週一の「エビバデタイム」が開かれることになった。
強制的な踊りではなく、お祭りの時の楽しい踊りとして。
まずは依頼元のギルドへ報告に向かった。ギルドマスターが安堵の表情で迎えてくれる。
「皆様、お疲れさまでございました。調査の結果はいかがでしたでしょうか?」
ルナが元気よく報告する。「エビバデフクロウは悪い魔物じゃありませんでした!一人で寂しくて、みんなに一緒に踊ってもらいたかっただけなんです」
カタリナが上品に補足する。「祭礼に関する魔法を持つフクロウでしたの。村では月例のお祭りと週一回の小さな祭りみたいなものを開催することで解決いたしました」
エリオットが調査結果を説明する。「踊りの魔法が土地に良い影響を与えているようです。共生関係を築けました」
「素晴らしい!さすがは皆様ですね。村の方々も大変喜んでおられるでしょう。こころから感謝を申し上げます」
その後、王立魔法学院に戻ると、フローラン教授が待っていた。
「おお、Tri-Orderの皆さん、お疲れさまでした。調査の結果はいかがでしたか?」
ルナが元気よく報告する。「エビバデフクロウは古代の踊りの魔法を一人で守っていた、寂しがりやのフクロウだったんです」
カタリナが上品に補足する。「祭礼魔法の研究にも大変有用な発見でしたの。村では月例の豊穣祭と週一回の小さな祭りみたいなものを開催することになりました」
エリオットが学術的な側面を説明する。「踊りの魔法と土地の魔力活性化という観点でも、非常に興味深い事例でした」
フローラン教授が満足そうに頷いた。
「素晴らしい!これこそが真の魔物研究ですね。恐怖や敵対ではなく、理解と共生を目指す。君たちの報告書を楽しみにしています」
肩の上のふわりちゃんが「ふみゅ〜♪」と嬉しそうに鳴き、ハーブも「ピューイ♪」と誇らしげに返事をした。
その夜、ルナは日記に書いた。
『今日の調査で学んだこと、見た目が派手でも悪い魔物とは限らない。
一人でいると寂しくなるのは人間も魔物も同じ。
問題の解決は、相手の気持ちを理解することから始まる。
踊りは楽しい!(強制じゃなければ)
エビバデフクロウが幸せになってくれて良かった。次はどんな魔物に会えるかな?』
窓の外では、王都東の森の方角から微かに「エビバデ♪」という楽しそうな声が聞こえてきた。
きっと森の仲間たちと一緒に踊っているのだろう。