第140話 天使の記憶と謎の使命!(未解決)
「セレーナ、今日は『記憶回復薬』改良版を作るわよ!」
翌朝、実験室に入るなり、私は意気込んで宣言した。
昨日ミラから教えてもらった天使の力の制御は順調で、セレーナはもう普通に見える状態まで光を抑えられるようになっている。
「お嬢様、また危険な実験を…前回は大爆発でしたし」
セレーナは心配そうに眉をひそめた。
「大丈夫よ!今度は爆発しないように改良したのよ!多分!」
「その『多分』が一番怖いです…」
「ふみゅ?」ふわりちゃんも私の肩で心配そうに鳴いている。
「でも、記憶が戻れば、セレーナの使命も分かるかもしれないじゃない!」
私は空間収納ポケットから新しい材料を取り出し始めた。
『安定の石』『穏やかな水』『記憶の花』…今回は爆発しにくい材料を選んでいる。
「今度はミラから教えてもらった『天使の記憶に特化した調合法』よ!」
その時、実験室の扉が優雅にノックされた。
「失礼いたします。ルナさん、また面白そうな実験をしていらっしゃいますのね」
優雅に入ってきたのはカタリナだった。赤茶色の縦ロールが朝日に美しく輝いている。
「カタリナ!ちょうど良いタイミング!今日はセレーナの記憶を取り戻す実験よ!」
「まあ、それは素晴らしいですわ。お手伝いさせていただきます」
カタリナが上品に微笑んだ。
「ありがとうございます、カタリナお嬢様」
セレーナが丁寧に頭を下げた。
「それでは、調合開始よ!」
私は魔力を込めた火で材料を熱し始めた。
今回は慎重に、温度を低めに保って進める。
「『記憶の花』のエキスを抽出して…」
ぐつぐつと音を立てて、淡いピンク色の液体ができあがった。
「いい香りですわね。花のような、優しい香りが…」
カタリナが感心したように呟いた。
「次に『安定の石』の粉末を少しずつ加えて…」
液体が薄紫色に変化していく。今度は激しい反応もなく、穏やかに混ざり合っている。
「順調ね!セレーナ、少し近くに来て」
「はい…」
セレーナが調合液に近づくと、液体がほんのりと光り始めた。
「反応してる!やっぱりセレーナは特別ね!」
「でも、前回のような激しい反応ではありませんのね」
カタリナが安心したように言った。
「最後に『穏やかな水』を加えて…完成!」
調合液は美しい薄紫色に輝いていて、とても穏やかな雰囲気を醸し出している。
「今度は爆発しなかったわね!」
私は満足そうに手を叩いた。
「セレーナ、この薬を一口だけ飲んでみて」
「は、はい…」
セレーナは緊張しながら薬を口に含んだ。
「どうですか?」
「甘くて…とても懐かしい味が…あ」
突然、セレーナの目が大きく見開かれた。
「何か思い出しました?」
「白い雲の上…たくさんの天使たちが歌を歌っている…そして、一人の美しい天使が私に話しかけて…」
セレーナが夢見るような表情で語り始めた。
『セレーナ、あなたには大切な使命があります』
「使命?」
私とカタリナは息を呑んだ。
「『地上で…』あ、あれ?」
セレーナが困ったような表情になった。
「どうしたの?」
「使命の内容が…思い出せません。重要な部分だけ、霧がかかったように…」
セレーナは頭を押さえた。
「無理をしてはいけませんわ」
カタリナが心配そうに言った。
「そして、地上に降り忘却の聖堂で記憶を封印されたのですね」
カタリナが納得したように頷いた。
「でも、肝心の使命の内容が思い出せないなんて…」
私は残念そうに呟いた。
「『必要な時がくれば思い出す』って言葉もぼんやりと覚えているんですが、それ以上は…」
セレーナが申し訳なさそうに言った。
その時、セレーナが私を見つめた。
「でも…なぜか、お嬢様と一緒にいると、とても安心するんです。まるで、正しい場所にいるような…」
「安心するのは当然よ。私たちは友達なんだから」
私は優しく微笑んだ。
「そうですわ。セレーナはもう私たちの大切な仲間ですもの」
カタリナも微笑んで頷いた。
「ふみゅ〜」ふわりちゃんが私の肩で嬉しそうに鳴いた。
「でも、セレーナの記憶が少しずつ戻っているのは良いことですし…」
セレーナが優しく微笑んだ。
その時、実験室の扉が開いてハロルドが入ってきた。
「お嬢様、また実験を…おや、今度は爆発していませんね」
「ハロルド!ちょうど良いところに!セレーナの記憶が少し戻ったのよ!」
「それは素晴らしいことですね。どのような…」
私は興奮してハロルドに説明した。
ただし、セレーナが天使だということは家族だけの秘密にするということも付け加えた。
「なるほど…確かに、セレーナがアルケミ家の前で倒れていたのも、何かの縁だったのかもしれませんね」
ハロルドが納得したように頷いた。
「でも、まだ使命の内容は思い出せないんです」
セレーナが申し訳なさそうに言った。
「大丈夫よ!少しずつ思い出していけばいいのよ!」
私はセレーナの手を握った。
その時、セレーナの背中にうっすらと翼の影が現れた。
「あ、翼が…」
「感情が高ぶると現れるのかもしれませんわね」
カタリナが興味深そうに観察した。
「セレーナのことは私たちだけの秘密にしましょう」
私は真剣な表情で言った。
「そうですわね。あまり多くの人に知られると、セレーナが困ってしまいますもの」
カタリナが頷いた。
「そうそう!勇者一行の皆にも口止めしないと!」
私は突然思い出して手を叩いた。
「あら、エドガーたちも知っていらっしゃいますのね?」
「今すぐ行きましょう!」
その時、ハロルドが心配そうに眉をひそめた。
「お嬢様、また外出ですか?今日はもう十分お疲れでしょうに…」
「大丈夫よ、ハロルド!これは重要な用事なの!」
一時間後、私たちは再び勇者一行の宿舎を訪れていた。
「よお、また来たのか」
エドガーが剣の手入れを止めて振り返った。
「実は大切なお願いがあるの!」
私は宿舎に集まった勇者一行を見回した。エドガー、リリィ、マーリン、そしてミラ。
「セレーナのことを他の人には秘密にしてもらえる?」
「秘密?」リリィが首をかしげた。
「天使だってことよ。あまり多くの人に知られると、セレーナが普通の生活を送れなくなっちゃうもの」
「ああ、なるほど」エドガーが納得したように頷いた。「確かに、天使だって知られたら大騒ぎになるな」
「そうじゃ。世の中には天使の力を悪用しようとする輩もおるからな」
マーリンが深刻そうに言った。
「分かったわ。私たちの口からは絶対に漏らさない」
ミラが真剣な表情で約束してくれた。
「ありがと〜♪私も誰にも言わないよ〜」
リリィも軽やかに手を振った。
「皆さん…本当にありがとうございます」
セレーナが深々と頭を下げた。
「気にすんな。仲間の秘密を守るのは当然だ」
エドガーが照れたように頭を掻いた。
「お嬢様…ありがとうございます」
セレーナが感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「ふみゅ〜!」ふわりちゃんも賛成するように鳴いた。
「ピューイ!」ハーブも応援の声を上げている。
「皆さん…ありがとう。セレーナのことを受け入れてくれて」
私は感動で胸が一杯になった。
その時、実験室に暖かい光が満ちた。セレーナから放たれる光だった。
「あ、また光が…」
「でも、今度はとても穏やかですわね」
カタリナが美しい光を見つめた。
「これは…愛と友情の光のようですね」
ハロルドが感慨深げに呟いた。
「愛と友情の光?」
「ええ。天使が大切な人への愛を感じた時に放つ光だと聞いたことがあります」
「まあ、なんて美しい…」
私たちは暖かい光に包まれて、幸せな気持ちになった。
「でも、まだ謎は残ってるのよね」
私は考え深げに呟いた。
「どんな謎ですか?」
「セレーナの本当の使命よ。きっと重要なことなのに、なぜ思い出せないのかしら…」
「きっと、これから明らかになりますわ」
カタリナが励ますように言った。
「そうですね。焦らず、少しずつ分かっていけば良いです」
セレーナも微笑んだ。
「よし!それじゃあ明日からは、セレーナの記憶をもっと詳しく調べてみましょう!」
私は拳を握りしめた。
「お嬢様…それもまた危険な実験になりそうですね」
セレーナが苦笑いを浮かべた。
「大丈夫よ!今度こそ爆発しない方法を見つけるから!」
私は自信満々に答えた。
「はい、どこまでもお供いたします」
セレーナが微笑むと、再び暖かい光が実験室を包んだ。
「ふみゅ〜」
「ピューイ!」
ふわりちゃんとハーブも嬉しそうに鳴いている。
夕日が実験室に差し込んで、光の粒子と調合液の輝きを美しく照らしていた。
セレーナの記憶の一部が戻ったものの、肝心の使命については まだ謎のままだった。
天使として何をするために地上に降りたのか…
でも、それがあるから研究しがいがある。
私は希望に満ちた表情で窓の外を眺めた。
「明日はどんな発見があるかしら?」
セレーナという大切な仲間と一緒なら、どんな謎も解明できそうだ。
「今日も充実した一日でしたね」
セレーナが掃除を始めながら微笑んだ。
「ええ、とても有意義でしたわ」
カタリナも満足そうに頷いた。
私は実験ノートに今日の発見を記録した。
『記憶回復薬改良版:成功。セレーナの記憶一部回復。使命については不明。今後の課題:セレーナの記憶の完全回復』
「明日からまた、新しい研究の始まりね!」
私は嬉しそうに呟いた。
セレーナの記憶が少しずつ戻ってきているが、まだまだ謎は深い。
でも、それこそが研究の醍醐味。
未知なるものを解明していく喜びは、何物にも代え難い。
「ピューイ!」ハーブが私の足元で元気よく鳴いた。
「ふみゅ〜」ふわりちゃんも満足そうに翼を広げている。
きっと明日も、素晴らしい一日になるだろう。そう確信しながら、私は実験室を後にした。