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第139話 ミラに聞く天使の秘密!

「セレーナ、今日は勇者一行の宿舎に行きましょう!」


翌朝、私は朝食のテーブルで勢いよく宣言した。

昨日の実験で天使のような能力を覚醒させたセレーナは、まだ淡く光っていて、時々光の粒子がきらめいている。


「勇者一行の方々に?でも、私なんかが…」


セレーナは困ったような表情を浮かべた。

確かに彼女の体はまだほんのりと光を放っていて、普通の状態とは言えない。


「ミラなら元聖女だから、セレーナの状態について詳しく分かるかもしれないの!」


「なるほど、それは良い考えだね」

兄さんが紅茶を飲みながら頷いた。


「でも、お嬢様…こんな状態で人前に出ても大丈夫でしょうか?」

セレーナは自分の光る手を見つめて不安そうに呟いた。


「大丈夫よ!ミラたちは魔物とも戦ってる人たちよ。光るメイドくらいで驚いたりしないわ!多分!」

「その『多分』が不安です…」


セレーナがため息をついた。


「ハロルド!馬車を用意して!」

「承知いたしました。準備をいたします」


ハロルドが深いため息をつきながら頭を下げた。


一時間後、私たちは馬車で勇者一行が滞在している宿舎に向かっていた。

セレーナは使用人用のマントで体を包んでいるけれど、それでもほんのり光が漏れている。


「ふみゅ?」ふわりちゃんが私の肩で心配そうに鳴いている。

「ピューイ」ハーブも膝の上で緊張しているようだ。


「大丈夫よ、みんな。きっと何か分かるわ!」


宿舎に着くと、エドガーが剣の手入れをしていた。


「よお、ルナ。今日はどうした…って、なんか光ってない?」

エドガーがセレーナを見て首をかしげた。


「それなのよ!ミラはいる?」


「ああ、部屋にいるぞ。でも、その光は一体…」

「説明は後で!」


私はセレーナの手を引いて宿舎の中に駆け込んだ。


ミラの部屋の扉をノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえた。


「失礼します!ミラ、相談があるの!」


扉を開けると、ミラが祈りの本を読んでいた。

彼女がセレーナを見た瞬間、本を落としてしまった。


「こ、この魔力…まさか」

ミラの目が見開かれた。


「やっぱり分かる?昨日の実験で、セレーナがこうなっちゃったのよ!」


私は興奮してセレーナを前に押し出した。

セレーナは恥ずかしそうに頭を下げている。


「天使の羽根を使った実験って言ったわね…まさか、本物の天使の羽根だったの?」

ミラが驚いた表情で立ち上がった。


「そうよ!『忘却の聖堂』で見つけたの!」

「忘却の聖堂…あそこは確か」ミラは考え深げに眉をひそめた。「堕天使の聖堂と呼ばれていた場所」


「堕天使?」

「天界から地上に降りた天使たちが、最初に立ち寄る場所。そこで天界の記憶を封印されるの」


ミラはセレーナをじっと見つめた。


「あなた…もしかして」

その時、セレーナの背中にぼんやりと翼の影が現れた。


「翼!やっぱりセレーナは天使なのね!」

私は興奮で飛び跳ねた。


「間違いない」ミラが確信を持って頷いた。「この魔力、この光…純粋な天使の力」


「でも、私には天使だった記憶がありません」

セレーナが困ったような表情で言った。


「それは当然。地上に降りる天使は、人間社会に溶け込むために忘却の聖堂に降りて記憶を封印される」

ミラが説明した。


「でも、なぜ記憶が封印されるんですか?」

「天使としての記憶や使命を持ったまま人間社会で生活するのは難しいから。でも、本当に必要な時がくれば、力は自然と目覚める」


ミラはセレーナの光る手を見つめた。


「昨日の実験が、きっかけになったのね」


その時、セレーナの周りの光の粒子がより美しく舞い始めた。


「あ…何か思い出しそうな…」

セレーナが頭を押さえた。


「白い雲の上…美しい歌声…そして、大切な使命…」

「無理をしてはだめ」ミラが優しく制止した。「記憶は徐々に戻るもの。急ぐ必要はないわ」


その時、部屋の扉が開いて、マーリンが顔を出した。


「なんじゃ、騒がしいと思ったら…おお!これは珍しい」

マーリンがセレーナを見て目を輝かせた。


「天使の覚醒じゃな!久しぶりに見たぞい」

「マーリンさんも天使を見たことがあるんですか?」

「もちろんじゃ!わしは長生きじゃからな。昔、天界から降りた天使と出会ったことがある」


マーリンが興味深そうにセレーナを観察した。


「その天使はどうなったんですか?」

「人間として幸せに暮らしておったよ。天使だった頃の記憶はなかったがな」


「そうなんですか…」

セレーナは少し安堵したような表情を浮かべた。


「でも」マーリンが続けた。「その天使は、困った人を見ると自然と助けておった。天使の本質は変わらんのじゃ」


「セレーナもそうね!」私は手を叩いた。「いつもみんなのことを心配して、優しくて…」

「お嬢様…」


セレーナの目に涙が浮かんだ。

すると、その涙も小さな光の粒となって舞い上がった。


「まあ、涙まで光るなんて美しい…」

ミラが感動したように呟いた。


その時、リリィが部屋に入ってきた。


「なにこの光?すっごく綺麗じゃん!」

ピンクの髪をしたリリィが目を輝かせてセレーナを見つめた。


「天使の覚醒よ」ミラが説明した。


「天使!?マジで!?すげー!」

リリィは興奮して手を叩いた。


「でも、なんで記憶がないの?」

「地上に降りる時に封印されるのよ」


「なるほどー。でも、覚醒したってことは何か理由があるんでしょ?」

リリィの鋭い指摘に、みんな考え込んだ。


「確かに…天使の力が覚醒するには、それなりの理由があるはずね」

ミラが顎に手を当てた。


「もしかして」私はハッとした。「セレーナに何か重要な使命があるのかもしれない!」


「使命…」

セレーナは自分の光る手を見つめた。


「でも、今は焦る必要はないわ」ミラが優しく微笑んだ。「力が完全に覚醒すれば、自然と分かること」


「そうですね…」

セレーナは少し安心したような表情になった。


「それより」マーリンが興味深そうに言った。「この力、うまく制御できるかの?」


「制御?」

「光りっぱなしじゃ、日常生活に支障があるじゃろう」


確かに、セレーナは今もほんのりと光っている。

これでは普通の生活は難しそうだ。


「大丈夫」ミラが自信を持って言った。「天使の力は本来、意思で制御できるもの。練習すれば必ずできるようになるわ」


「本当ですか?」

「ええ。試してみて。力を内側に込めるイメージで」


セレーナは目を閉じて集中した。すると、光がだんだん弱くなってきた。


「あ、光が…」

「できてるじゃない!」


私は興奮して手を叩いた。


「すごいじゃん!」リリィも拍手している。


「ふみゅ〜!」ふわりちゃんも嬉しそうに鳴いた。

「ピューイ!」ハーブも応援するように鳴いている。


「ありがとうございます、皆さん」

セレーナは涙を浮かべて微笑んだ。

光は完全には消えていないけれど、かなり弱くなっている。


「これで普通の生活もできそうです」


その時、エドガーが部屋に入ってきた。


「なんだ、みんなここにいたのか。それより、その子の正体が分かったのか?」

「天使だったのよ!」


私は得意げに答えた。


「天使?マジか?」エドガーが驚いた表情になった。「俺の右手が疼くぜ…」

「エドガー、それいつものことでしょ」リリィが呆れたように言った。


「でも確かに、特別な存在だってことは分かるな」

エドガーがセレーナを見つめた。


「ありがとうございます」

セレーナが丁寧に頭を下げると、エドガーも照れたように頭を掻いた。


「今日は本当にありがとうございました」

私はミラたちに深々と頭を下げた。


「いえいえ、こちらこそ貴重な体験をさせてもらったわ」

ミラが微笑んだ。


「また何か困ったことがあったら、いつでも来るがよい」

マーリンも優しく言ってくれた。


「はい、ありがとうございます」


私たちは宿舎を後にした。

帰りの馬車の中で、セレーナは静かに外を見つめている。


「少しずつ分かってきたわね」

「はい…でも、まだ自分のことながら不思議な気持ちです」


「大丈夫よ。天使でも人間でも、セレーナはセレーナよ」

私はセレーナの手を握った。


「ありがとうございます、お嬢様。皆さんがいてくださるから、怖くありません」

セレーナが微笑むと、抑えられた光がほんの少しだけ強くなった。


「ピューイ!」ハーブも嬉しそうに鳴いている。

「ふみゅ〜」ふわりちゃんも満足そうだ。


夕日が馬車を温かく照らしていた。

セレーナの正体がついに明らかになった。彼女は記憶を封印された天使だったのだ。


でも、まだ多くの謎が残っている。なぜ地上に降りたのか、どんな使命を持っていたのか…


「明日はもう少し詳しく調べてみましょう」


私は希望に満ちた表情で言った。


「はい、お付き合いします」

セレーナも微笑んだ。


きっと明日も、新しい発見が待っている。そう思うと、わくわくして眠れそうにない。


今日は勇者一行の皆さんのおかげで、セレーナの正体と力の制御方法が分かった。

特にミラの専門的な知識は本当に助かった。


「でも、まだまだ謎だらけね」


私は嬉しそうに呟いた。謎があるからこそ、解明する楽しみがある。

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