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第138話 天使の羽根とセレーナ

「今日こそセレーナの正体を解明するわよ!」


朝一番に実験室に駆け込んだ私は、既に材料の準備を始めているセレーナに向かって高らかに宣言した。


「お嬢様、おはようございます…って、またその目をしてますね」


セレーナは私の顔を見て、不安そうに眉をひそめた。

確かに私は今、研究者の血が騒いでいる時の顔をしているかもしれない。


「当然よ!昨日手に入れた天使の羽根、あれは間違いなく特別なものだもの!」

私は興奮で頬を紅潮させながら、空間収納ポケットから様々な実験器具を取り出し始めた。


「でも、天使の羽根なんて貴重なものを実験に使って大丈夫でしょうか?」

セレーナは胸元に大切そうに抱えた小さな箱を見つめた中には昨日『忘却の聖堂』で見つけた美しい白い羽根が入っている。


「大丈夫よ!多分!私の実験は常に安全だから!」

「お嬢様の『多分』と『安全』ほど怖いものはありません…」


セレーナがため息をついたその時、実験室の扉が上品にノックされた。


「失礼いたします。ルナさん、今日も研究に励んでいらっしゃるのですね」


入ってきたのは赤茶色の縦ロールが美しいカタリナだった。

いつものように完璧な身だしなみで、でも目は好奇心に輝いている。


「カタリナ!ちょうど良いところに!」

「まあ、まさかまた爆発する実験ではございませんでしょうね?この前の実験で、私の髪の毛先が少し焦げてしまいましたの」


カタリナは苦笑いを浮かべながら縦ロールを触った。


「今度は爆発しないわよ!きっと!」

「ルナさんの『きっと』ほど信用できないものはありませんわ」


「ふみゅ?」

私の肩に乗ったふわりちゃんも首をかしげている。足元でハーブがピューイと鳴いた。


「とにかく!今日は『天使の羽根解析薬』を作るの!この薬を使えば、羽根に込められた魔力や記憶を読み取れるはずよ!」


私は実験台に材料を並べ始めた。『解析の水晶』『真実の花』『透視の石』…どれも高価で入手困難な材料だ。


「まあ、素晴らしい材料ですわね。これらを揃えるのは相当大変だったでしょう」

カタリナが感心したように材料を見つめた。


「お金のことなんてどうでもいいのよ!錬金術の発展の前には!」

「お嬢様…家計のことも少しは考えてください」


セレーナが頭を抱えた。


「さあ、セレーナ、羽根を出して!」

「は、はい…」


セレーナは緊張しながら箱を開けた。

すると、羽根がふわりと宙に浮き上がって、美しく光り始めた。


「わあ!やっぱり特別な羽根ね!」


私は目を輝かせた。

カタリナも「まあ、なんと美しい…」と感嘆の声を上げている。


「それじゃあ、調合開始よ!」


私は魔力を込めた火で材料を熱し始めた。

『解析の水晶』を粉末にして、『真実の花』のエキスと混ぜ合わせる。


「いい感じね…あ、セレーナ、羽根を少し近づけて」


「こうでしょうか?」

セレーナが羽根を調合液に近づけた瞬間、液体が激しく光り始めた。


「きゃー!まぶしいですわ!」

カタリナが上品に手で目を覆った。


「これは…すごい反応ね!」

調合液が七色に輝きながら、まるで生きているように動いている。


「お嬢様、なんだか危険な感じが…」

「大丈夫よ!順調順調!」


私は興奮して調合を続けた。

『透視の石』を加えると、液体がさらに激しく光った。


その時、羽根が突然くるくると回転し始めた。


「あ、羽根が!」

「捕まえて!」


セレーナが慌てて羽根に手を伸ばしたその瞬間、羽根が調合液の中に飛び込んだ。


「あああー!」


ーードッカーン!


今日も予想通り…いえ、予想以上の大爆発が起こった。

実験室に眩いばかりの光が満ち、虹色の煙がもくもくと立ち上る。


「きゃあああ!」

カタリナとセレーナの悲鳴が響いた。


「ふみゅうう!」ふわりちゃんも慌てて私の肩にしがみついている。


煙が晴れると、私たちはみんな七色に光る粉まみれになっていた。


「まあ、髪がキラキラしていますわ」


カタリナが自分の縦ロールを見て苦笑いした。

確かに、赤茶色の美しい髪が虹色にきらめいている。


「セレーナは…あら?」

セレーナを見ると、彼女だけは粉がついていない。

それどころか、体全体が淡く光っている。


「お嬢様…私、なんだか変です」

「どう変なの?」


「体が軽くて、それに…」

セレーナが手を上げると、そこから小さな光の粒がきらめいた。


「まあ、セレーナったら光っていらっしゃいますわ。まるで天使のようですの!」

カタリナが興奮して手を叩いた。


「これは…羽根の力がセレーナに宿ったのかもしれないわね!」

私は目を輝かせた。これは予想外の大成功だ。


「でも、これは一時的なものでしょうか?」

セレーナが心配そうに自分の手を見つめた。


「多分大丈夫よ!きっと数時間もすれば元に戻る…と思う」

「『思う』って何ですか!?」


「まあまあ、細かいことは気になさらず」

カタリナが上品に手を振った。


その時、実験室の扉が開いて、ハロルドが入ってきた。


「またお嬢様が爆発を…って、セレーナ?なぜ光っているのですか?」

「それが…」


セレーナが説明しようとしたその時、彼女の後ろに薄っすらと翼のような影が見えた。


「あ!翼!」

「え?」


セレーナが振り返ると、翼の影は消えてしまった。


「今、翼が見えたのよ!やっぱりセレーナは天使なのね!」

「て、天使って…そんな大げさな」


セレーナは真っ赤になって手をひらひらと振った。


「でも、とても神々しいですわ!」

カタリナも優雅に興奮している。


「ふみゅ〜」ふわりちゃんも嬉しそうに鳴いた。

「ピューイ!」ハーブも応援するように鳴いている。


「とりあえず、経過観察が必要ですね」

ハロルドが冷静に状況を分析した。


「そうね。何か異常があったらすぐに教えて」

私はセレーナに真剣な表情で言った。


「はい…でも、なんだか体調はとても良いんです。むしろ、今まで感じたことのないような清々しさが…」

セレーナは不思議そうに呟いた。


「それは良い兆候ね!きっと羽根があなたの本来の力を呼び覚ましたのよ!」

「本来の力…」


セレーナは考え深げに呟いた。

その時、光の粒がセレーナの周りを舞い始めた。それはまるで小さな星屑のように美しかった。


「わあ…美しいですわ」

カタリナがうっとりと見とれている。


「これは間違いなく天使の力ね!」

私は興奮で胸が躍った。今日の実験は大成功だ。


「でも、お嬢様」セレーナが心配そうに言った。「こんな力を持っていても大丈夫でしょうか?」


「もちろんよ!力は使い方次第。セレーナなら絶対に正しく使えるわ」

私は自信を持って答えた。


「そうですわ。セレーナはとてもお優しい方ですから、きっと大丈夫ですわ」

カタリナは何も疑うことなく、優雅に微笑んで頷いた。


「皆さん…ありがとうございます」

セレーナの目に涙が浮かんだ。

すると、その涙も小さな光の粒となって舞い上がった。


「まあ、涙まで光るなんて…」

「本当に天使みたいね!」


私たちは感動で胸が一杯になった。


「さて、今日の実験結果をまとめましょう」


私は実験ノートを取り出した。


「結果:天使の羽根とセレーナの魔力が共鳴し、一時的に天使のような能力が覚醒。副作用:今のところなし。持続時間:観察継続中」


「お嬢様、いつも結果をまとめるのは爆発の後なんですね」

セレーナが苦笑いを浮かべた。


「当然よ!爆発してからが本番なんだから!」

「その発想が怖いです…」


実験室に私たちの笑い声が響いた。

セレーナの正体に関する謎は、今日また一歩解明に近づいた。


天使の羽根と共鳴する魔力、そして一時的とはいえ覚醒した天使のような能力。

きっとセレーナの過去には、もっと大きな秘密が隠されているに違いない。


「ピューイ!」ハーブが嬉しそうに跳ねている。

「ふみゅ〜」ふわりちゃんも満足そうだ。


「明日は光の粒子について詳しく調べてみましょう」

「お嬢様、明日は普通の家事をさせてください…」


セレーナの願いも虚しく、明日もきっと素晴らしい実験の日になるだろう。


そう思いながら、私は希望に満ちた気持ちで窓の外を眺めた。

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