表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/258

第133話 料理は爆発、味は未知

「セレーナ、今度の実験は一緒にやってみない?」


私が屋敷の実験室でセレーナに提案すると、彼女の虹色の髪が興味深そうに揺れた。


「どのような実験でしょうか?爆発しませんか?」

「しないわよ!『自走するスイーツ』よ!カボチャ叩き祭りで成功したから、今度はもっと本格的なお菓子で試してみたいの」


セレーナの目がきらりと光る。

セレーナは本来、錬金術には興味深々なのだ。


「承知いたしました。でも、今日はバルナード侯爵様が視察にいらっしゃる予定ですが……」

「大丈夫大丈夫!午前中に終わらせるから」


ポケットの中でハーブが「ピューイ?」と心配そうに鳴いた。



キッチンには材料が並んでいる。

チョコレート、小麦粉、卵、そして私の特製『動力の結晶』。


「まず、普通にチョコレートケーキとカップケーキを作りましょう」

「はい!お任せください」


セレーナの手際は本当に素晴らしい。

あっという間に生地が完成し、オーブンに入れられた。


「焼いている間に、『動力の結晶』を細かく砕いて……」

私が薬研でごりごりと結晶を砕いていると、セレーナが興味深そうに覗き込む。


「この結晶が、お菓子を動かすのですね」

「そうよ。でも分量が難しくて、多すぎると……」


その時、オーブンから甘い香りと共に「ポン!」という音が聞こえた。


「あら?」


オーブンを開けると、中のカップケーキがぴょんぴょんと跳ね回っていた。


「わあ、もう動き始めてる!」

「これは……結晶の粉が焼く前に反応してしまったのですね」


セレーナが冷静に分析する間に、カップケーキたちは次々とオーブンから飛び出してきた。

ふわふわのスポンジがまるで小さな生き物のように、キッチン中を駆け回る。


「ピューイピューイ!」

ハーブが興奮してカップケーキを追いかけ始めた。


「待って、チョコレートケーキの方は……」


振り返ると、大きなチョコレートケーキが優雅にワルツを踊っていた。

まるでダンサーのようにくるくると回転している。


「美しい動きですね」

セレーナが感心していると、キッチンのドアが開いた。


「お嬢様、バルナード侯爵様がお見えに……」

ハロルドが入ってきた瞬間、カップケーキの一つが彼の頭に着地した。


「……なっていますが」

ハロルドの頭に乗ったカップケーキが得意げに揺れている。


「これはまた……」

バルナード侯爵は玄関で飛び跳ねるカップケーキたちを見て、目を丸くしている。


「バルナード侯爵、いらっしゃいませ。ちょっと実験の最中で……」

私が慌てて説明しようとした時、チョコレートケーキがダンスしながら侯爵に近づいていった。


「おお、これは素晴らしい……」


侯爵が感動していると、突然カップケーキたちが一斉に空中に舞い上がった。

まるで小さな妖精のように、部屋中をひらひらと飛び回る。


「まさに魔法のようですな!」


侯爵が手を叩いて喜んでいる間に、カップケーキの一つが彼の肩に止まった。


「可愛いものですな」


でも次の瞬間、他のカップケーキたちも侯爵の周りに集まってきた。

肩に、頭に、腕に、まるで鳥の群れのように。


「あの、侯爵様……」

「大丈夫、大丈夫。可愛らしい……わあああ!」


カップケーキたちが一斉に侯爵に飛び込んできた。

あっという間に侯爵はスイーツの山に埋もれてしまう。


「侯爵様!」


「『衝撃』!」


セレーナが魔法を使って、カップケーキたちを侯爵から引き離した。

見えない衝撃波で優しくスイーツたちを押し戻す。


「ありがとう、セレーナ」


私が『魔力鎮静薬』をスプレーすると、カップケーキたちはようやく大人しくなった。

チョコレートケーキも最後の一回転をして、テーブルの上に静かに着地する。


「大丈夫ですか、侯爵様?」

スイーツまみれになった侯爵を助け起こすと、彼は意外にも笑顔だった。


「いやはや、こんな楽しい視察は初めてですな」

クリームまみれの顔を拭いながら、侯爵が微笑む。


「ところで、この味は……」

侯爵が指についたクリームを舐めて、目を見開いた。


「素晴らしい!こんなに美味しいケーキは久しぶりですな」

結局、予想外の展開だったが、バルナード侯爵は大満足で帰って行った。


私がカップケーキを一口食べると、確かに絶品だった。

動き回った分、なぜか生地がふわふわになっている。


「ピューイ〜」

ハーブも満足そうにクリームを舐めている。


「でも次回は、もう少し制御できるようにしないとね」


「はい!今度は『自走するプリン』に挑戦してみたいです」

セレーナの提案に、私は苦笑いした。


「それは……ちょっと危険かも」


「大丈夫です!爆発しませんでしたし!」

セレーナの自信に満ちた笑顔を見ていると、なんだか次の実験も楽しくなりそうだった。


キッチンに残ったチョコレートケーキが、まだ小さく揺れているのを見て、私たちは顔を見合わせて笑った。


「料理は爆発、でも味は保証済み」

「いつものことですね」


夕暮れのキッチンで、私たちの笑い声が響いていた。


失敗から生まれる成功こそ、錬金術の醍醐味なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ