第130話 2年生のルナ、学院祭リベンジ戦記
「今年こそは絶対に成功させるわ!」
王立魔法学院の学院祭当日、私はサークルの実験室で気合いを入れていた。
去年の惨事を思い出すと顔が真っ赤になるけれど、あの失敗があったからこそ、今年は完璧に準備したのだ。
「ルナちゃん、その『絶対』って言葉が一番危険な気がするんだけど〜♪」
フランが赤いツインテールを揺らしながら、興味深そうに私を見つめている。
今日は春らしく、制服のリボンも桜色に変えていて、とても可愛らしい。
「大丈夫よ! 今年はみんなと一緒だもの」
サークル『ミックス・ワンダーズ』として参加する今年の出し物は『体験型錬金術ワンダーランド』。
カタリナが安全管理、エリオットが理論監修、ノエミ様が接客、フランが実演サポート、エミリが記録係という完璧な布陣だ。
「ルナさ~ん〜、準備はいかがですの?」
カタリナがエプロン姿で現れた。
今年は彼女が『安全第一』の責任者として、全ての実験に『安全確認済み』のお墨付きを与えてくださる。
「ばっちりよ! 今年の目玉は『感情色彩薬』なの。飲んだ人の気持ちに合わせて、周りの空気が色づく錬金術よ」
「それは素敵ですわね。でも、副作用はございませんの?」
「もちろん確認済み! 最悪でも一時間で効果は切れるし、体に害はないわ」
去年の反省を活かし、今年は事前に自分で飲んで実験済みだ。
結果、私が飲むと周囲がピンク色に輝いて、ハロルドに「お嬢様、恋でもなさったのですか?」と真顔で聞かれたのは内緒だ。
「ふみゅ〜?」
肩の上のふわりちゃんが首をかしげている。今日は小さな天使形態で、春の陽射しを受けてふわふわの毛が輝いている。
「ピューイ」
足元でハーブが鼻を鳴らしている。彼も今日のために特別に『薬草ナビゲーター』として参加する予定だ。お客さんに薬草の効能を教える、重要な役割だ。
---
午前10時、学院祭開始。
「いらっしゃいませ〜! 『ミックス・ワンダーズ』の体験型錬金術ワンダーランドへようこそ〜♪」
フランの元気な声が響く。
彼女の赤いツインテールが朝日に映えて、とても可愛らしい。
「最初の体験は『気分爽快薬』です〜♪ 飲むと心がスッキリして、嫌なことを忘れちゃいます〜♪」
エミリが小さな試験管を配りながら説明している。
この薬は本当に効果抜群で、テスト期間の学生には大人気だ。
「おお、これは良い! 頭がスッキリするな」
体験した男子学生が感心している。順調な滑り出しに、私は安心した。
「次は私の『感情色彩薬』よ!」
準備万端の特設テーブルで、私は自信満々に実演を始めた。
「この透明な薬を一滴……」
慎重に薬を舌に落とすと——
ーーほわーん
「わあ! ルナ先輩の周りが光ってる!」
見学していた1年生の女の子が指差す。私の周りにふわりとピンク色の光が漂っている。
「素敵ですわ! まるでオーロラのようですの」
カタリナが拍手してくださる。今度は成功だ!
「では、お客様も体験してみませんか?」
順番に薬を配ると、会場が様々な色に染まり始めた。
楽しい気持ちの人は黄色、穏やかな人は青色、ワクワクしている人は紫色に光っている。
「これは面白いな! 私の色は何だろう?」
中年の魔法使いが薬を飲むと——
ーーほわわーん
「おや、緑色ですね」
エリオットが記録を取りながら答える。
「緑は『自然体で落ち着いている』という意味です」
「なるほど! 確かに今日は穏やかな気分だ」
順調に進む実演に気を良くしていると、突然異変が起きた。
「あれ? 色が変わってきた……」
最初に薬を飲んだ女の子の周りの黄色が、だんだん赤くなってきている。
「もしかして……お腹が空いてきた?」
女の子がくすくす笑う。
どうやら『感情色彩薬』は感情の変化もリアルタイムで表示するらしい。
「面白いですわね。感情の移り変わりが手に取るように分かりますもの」
ところが、だんだん会場の色が激しくなってきた。
「わあ、あの人真っ赤!」
「こっちは真っ青になってる!」
感情が高ぶってきた人たちの色がどんどん濃くなって、会場全体がカラフル過ぎる状態になってしまった。
「これは……少し派手すぎるかしら」
そんな時、フランが機転を利かせてくれた。ナイス!フラン!
「はい、はい〜♪ お次は『薬草ナビゲーター』のハーブくんで〜す♪」
「ピューイ!」
ハーブが小さな前足を上げて挨拶すると、会場の雰囲気が和む。
「可愛い〜!」
「薬草ウサギね!」
子供たちが集まってきて、ハーブを囲んで薬草の勉強が始まった。
「ピューイ、ピューイ」
ハーブが鼻で薬草を指すと、エミリが説明してくれる。
「この『元気草』は疲労回復に効果があります」
「ピューイピューイ」
「こちらの『安眠花』は不眠症に良いそうですわ」
エミリが答えると、カタリナが補足していく。
和やかな薬草教室が続く中、私はホッと一息ついた。
「今年も波乱万丈ね……」
「でも、去年よりはずっと良いですわ」
カタリナが微笑みかけてくれる。確かに、去年のような大惨事にはなっていない。
午後になると、より多くの人が訪れるようになった。
「噂を聞いてきました! 感情が色で見えるって本当ですか?」
3年生の先輩たちが興味津々でやってくる。
「はい! でも効果は1時間程度ですから」
今度は慎重に量を調整して配る。
午前中の反省を活かし、色が濃くなりすぎないよう改良版を用意していた。
「おお、これは面白い!」
「自分の感情が客観視できるな」
先輩たちも満足してくれて、だんだん自信を取り戻してきた。
そんな時、予想外の来客が——
「ルナ・アルケミさん、賑やかですね」
校長先生が現れた。
「こ、校長先生!」
校長先生は興味深そうに『感情色彩薬』を見つめている。
「私も試してみても良いでしょうか?」
「え、ええ……もちろんです」
薬を渡すと——
校長先生の周りがゆっくりと金色に光り始めた。
「おお……これは美しいですね」
「金色は『深い智慧と慈愛』を表しておりまして」
エリオットが説明すると、校長先生は嬉しそうに微笑まれた。
「君たちの錬金術は、人の心を映し出すのですね。とても素晴らしい研究です」
校長先生のお墨付きをもらって、私たちのブースは一気に有名になった。
夕方まで大盛況が続いて、最後に『色彩花火薬』でフィナーレを飾ることにした。
「みなさん、今日は本当にありがとうございました! 最後に小さな花火をお見せします」
小さな試験管に火薬を詰めて、空に向かって放つ——
——パンパンパン!
色とりどりの小さな花火が夜空に咲いた。
「綺麗〜!」
「最高のフィナーレね!」
観客から大きな拍手が起こる。
「やったあ! 今年は大成功よ!」
仲間たちと手を取り合って喜んでいると、セレーナが近づいてきた。
「お疲れさまでした、お嬢様。今年は本当に素晴らしかったです」
「去年の失敗があったからこそ、今年の成功があるのよ」
振り返ってみれば、去年の大失敗も今となっては良い思い出だ。
失敗から学ぶことで、本当に人を喜ばせる錬金術ができるようになった。
「ふみゅ〜」
ふわりちゃんも満足そうに羽を広げている。
「来年はもっとすごいのを作るわ!」
「今から来年の心配をするのは早すぎますわ」
カタリナの言葉に、みんなで笑い合った。
夜空に星が輝く中、私たちの学院祭は幸せな終わりを迎えた。
来年もまた、きっと素敵な実験ができるはずだ。
「ピューイ」
ハーブの鳴き声が、今日一日の充実感を表しているようだった。




