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第126話 決戦!山影の守護者

私たちがダンジョンの最奥に着くと、そこには今までとは比べ物にならない巨大な空間が広がっていた。天井は見えないほど高く、古代の魔法陣が床一面に刻み込まれている。


「すごい魔力だ…」


エドガーが剣の柄を握り締める。

勇者である彼でさえ、この場の圧迫感を感じているようだった。


「この魔法陣、完全に起動してますね」


エリオットが銀髪を揺らしながら床の魔法陣を調べる。

「召喚術の最終段階ですね。きっと、この部屋の主がいると思います」


その時、部屋の奥から重い足音が響いてきた。


ドスン、ドスン、ドスン…


現れたのは、私たちの想像を超える巨大な馬だった。

しかし、その体は金属のような硬い外殻に覆われており、普通の馬とは全く違う。

体長は優に3メートルを超え、四肢は太い柱のようで、蹄が石床を踏む度に火花が散る。


「でかすぎる…」

リリィが思わず呟く。


「ヒヒーン!」

馬が威嚇するように鳴くと、部屋全体に衝撃波が走った。


「みんな、気をつけろ!この魔物は今までとは格が違う!」

エドガーが緊張した声で警告する。


「よし、作戦を変更する」

エドガーが瞬時に状況を判断し、指示を出す。

これが勇者と呼ばれる所以だろう。


「あの外殻を破らないと致命傷を与えられないと思う。まず、硬い部分の弱点を探すぞ」


「了解〜♪」

フランが軽やかに答える。


「リリィ、俺と一緒に正面から気を引く。マーリン、魔法で援護。ミラは治癒に専念」


「任せて〜♪」

「うむ、わしに任せるのじゃ」


「皆さん、お気をつけて」


勇者一行の連携は見事だった。

エドガーが『縮地斬り』で馬の前脚に攻撃を仕掛けると、リリィが影のように回り込んで後脚を狙う。


「『雷の槍』!」


マーリンの雷魔法が馬の外殻に直撃するが、金属質の表面で弾かれてしまう。

「硬い!魔法が効かない!」


「ヒヒーン!」

馬が前脚を振り上げ、エドガーに向かって踏みつけようとする。


「速い!」

エドガーが『縮地斬り』で回避するが、馬の蹄が石床を砕き、大きな亀裂を作る。

その威力は凄まじいものだった。


「カタリナちゃん、一緒に〜♪」

フランが自然にカタリナに声をかける。


「ええ、行きましょう

二人は息の合った動きを見せ始めた。


「『拘束の蔦』!」

カタリナの魔法で馬の足を絡め取る一方、フランは複数の属性魔法を効率よく組み合わせていく。


「火で注意を引いて〜♪」

フランの火魔法が馬の顔面に向かう。馬が首を振って回避すると、


「氷で足元を滑らせて〜♪」

今度は氷魔法で床を凍らす。

馬がバランスを崩した隙に、


「『花咲の剣技』!」

カタリナが美しい光の花びらを舞わせながら、月灯りの剣で外殻の隙間を狙う。


「そこ〜♪」

フランも土魔法で馬の動きをさらに制限し、風魔法で精密な攻撃をサポートする。


二人の連携は見事だったが、馬の外殻はびくともしない。


「やっぱり硬いわね」

「うん〜、でも隙間はあるね〜♪」


フランが敵の外殻をじっと観察する。

その洞察力の鋭さに、カタリナも感心する。


「みんな、この子も心がないわ!完全に魔法で動いてる!」

私が魔物との意思疎通を試みた結果を報告する。


「だったら、魔力の流れを断ち切れば止められるかも!」


私が『魔力可視化薬』を取り出して振りかける。

すると、馬の体に魔力の流れが青白い光として浮かび上がった。


「見えた!胸の部分に魔力の核がある!」


「ナイス、ルナ!」

エドガーが満足げに頷く。


「でも、その核は外殻の一番厚い部分にあるみたい」

私が『星輝の棍棒』を構える。


「ちょっと実験してみるわ!」

いろんなの角度から外殻を叩き、変則軌道からの再攻撃。外殻にひびが入った!


「やったね、ルナちゃん!」


「エミリさん、あの隙間を狙えますか?」


「はい!『測り目』!」

エミリの緑の瞳が魔法で強化され、遠距離から精密射撃が可能になる。


「そこ!」

矢がルナが作った隙間に正確に突き刺さり、ひびをさらに広げた。


「素晴らしい射撃ですわ」

ノエミ様が感心しながら、治癒の魔法でみんなの疲労を回復させる。


「皆さん、もう少しです」

王女らしい凛とした声に、みんなの士気が上がる。


「ヒヒーン!」

馬が怒りの咆哮を上げると、部屋の魔法陣が活性化し始めた。


「まずい、何かが起こる!」

床から光の柱が次々と立ち上がり、私たちを襲う。


「散開!」

エドガーの指示で、みんながバラバラに散る。


「危ない〜♪」

フランが光の柱を軽やかにかわしながら、氷の魔法で馬の動きを封じようとする。


「『氷の矢』〜♪」

氷の矢が馬の足を狙うが、やはり外殻で弾かれる。


「やっぱり硬いね〜♪」


「わしの出番じゃな!『特大・雷の嵐』!」


マーリンが大規模な雷魔法を発動する。

さすが「だいたい何でも使える」と評される実力は本物で、巨大な雷が馬を包む。


しかし、金属の外殻が雷を吸収してしまい、逆に馬のパワーが増してしまった。


「あ、雷は逆効果だった〜♪」


「みんな、一点集中攻撃よ!」


私が叫ぶと、カタリナとフランが再び息を合わせる。


「フランさん、私が隙間を広げるから、そこに魔法を集中させて」

「オッケー〜♪」


「『治癒の光』!」

カタリナが治癒魔法を逆に使い、金属の「治癒」を阻害して劣化させる応用技を見せる。


「今よ〜♪」

フランが風・氷・土の三属性を組み合わせ、カタリナが作った弱点に集中攻撃を仕掛ける。


ガキン!バリバリ!


外殻にさらに大きなひびが入る。


「よし!」

その瞬間、エドガーとリリィが同時に動いた。


「せえの!」

二人の同時攻撃で、ついに外殻の一部が崩れ落ちた。


「やった〜♪」

外殻が破れると、中から青白く光る魔力の核が露出した。


「あそこね!」

私が指差すと、エドガーが最終攻撃の準備に入る。


「みんな、俺が決める。援護を頼む」

「『縮地斬り』!」


エドガーが勇者としての真の実力を見せつける。

瞬間移動のような速度で馬の胸元に迫り、魔力を込めた一撃を核に向けて放つ。


「オラアアア!」

剣が魔力の核に深々と突き刺さる。


「ヒヒーン…」

馬の鳴き声がだんだん小さくなり、巨大な体がゆっくりと崩れていく。


そして…


ーーポフワーン!


今までよりも大きな白い煙が立ち上がり、馬は巨大で美しい馬のぬいぐるみになった。

それは芸術品と言えるほど精巧で、たてがみ一本一本まで丁寧に作られている。


「すっげー!」

リリィが興奮して叫ぶ。

「こんなに大きなぬいぐるみ、見たことないわ」



「みんな、お疲れ様」

エドガーが汗を拭いながら言う。


「エドガーさん、さすがですわ。あの最後の一撃、お見事でした」

カタリナが拍手する。


「フランちゃんとカタリナの連携も完璧だったね」

私が二人を褒めると、フランが照れる。


「えへへ〜、カタリナちゃんが上手にサポートしてくれたからだよ〜♪」

「いえいえ、フランさんの判断力があったからこそですわ」


二人が互いを褒め合う様子を見て、みんなが微笑む。


「でも、やっぱりこの馬も心がなかった」

私が首をかしげる。

「この大きさの魔物なのに、意識が全くないなんて…」


エリオットが馬のぬいぐるみを詳しく調べる。

「やはり、内部に複雑な魔法陣が織り込まれています。これは…」


紫の瞳が驚きで見開かれる。


「『魔物生命模倣技術』の技術です!」


「魔物生命模倣技術?」

「古代の最高峰技術の一つです。生命のない物質に、完全に生命を模倣した動きを与える技術なんです」


「つまり、このダンジョン全体が古代の技術実験場だったということですわね」

カタリナが推理をまとめる。


「魔法生物の製造技術を研究していた場所で、ここにいる魔物は全て人工的に作られたもの」


「でも、なぜぬいぐるみに戻るんだろう〜?」

フランが素朴な疑問を口にする。


「おそらく」エリオットが説明する。

「元々がぬいぐるみなんです。ぬいぐるみに魔法をかけて生き物のように動かし、魔力が尽きると元の姿に戻る」


「すごい技術ですね」

ノエミ様が王女らしい品のある驚きを見せる。


「古代の人々の知恵は計り知れませんね」


「それにしても」私が大きな馬のぬいぐるみを撫でながら言う。

「このぬいぐるみたち、すごく精巧で美しいね」


「そうだね〜♪ なんだか、もったいない気がする〜♪」

フランが小さな狼のぬいぐるみを抱きしめる。


「研究材料としても貴重ですが、これだけ美しいと芸術品としての価値もありますね」

エリオットが感心する。


「学院に持ち帰って、詳しく調べましょう」

「でも、この大きい馬のぬいぐるみ、どうやって運ぶの?」


私が空間収納ポケットを確認する。

「生きてるものは入らないけど、ぬいぐるみなら大丈夫ね」



ダンジョンから出る道すがら、みんなで今回の発見について話し合った。


「それにしても、フランちゃんとカタリナの連携、すごかったね」

私が感心すると、二人が照れる。


「フランさんの戦術眼が鋭いから、合わせやすかったんですの」

「カタリナちゃんこそ、私の動きをすぐ理解してくれて助かったよ〜♪」


「エミリちゃんの射撃も完璧だったし、ノエミ様の治癒魔法のおかげで安心して戦えたわ」

「みんなで協力したから勝てたんですね」


エミリが嬉しそうに微笑む。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも満足そうに鳴いている。


「ピューイ♪」

ハーブも無事に探索を終えられて安心している。


学院に戻って、私たちは詳細な報告書を作成した。


「結論として」エリオットがまとめる。


「山影のダンジョンは古代の『魔物生命模倣技術』技術の実験場でした。そこにいた魔物は全て、ぬいぐるみをベースに作られた人工的な魔法生物です」


「この技術、現代でも応用できるかもしれませんわね」

カタリナが知的な興味を示す。


「でも、危険性もあるから、慎重に研究する必要があるわね」

私が前世の知識も踏まえて意見を述べる。


「今回の調査で、私たちの結束も深まりましたわね」

カタリナが嬉しそうに言う。


「そうだね〜♪ みんなと一緒だと、すっごく心強い〜♪」

フランの言葉に、みんなが頷く。


「エドガーさんたちとも連携できて、良い経験になりました」

エリオットが満足げに言う。


「エドガーさんの指揮能力、本当にすごかったわ」

私も感心する。あの冷静な判断力と瞬時の決断力は、さすが勇者だ。


「それで、このぬいぐるみたちをどうするの?」

私が集めたぬいぐるみたちを実験台に並べる。


「研究サンプルとして学院に提出するのが原則ですが」モーガン先生が考え込む。


「一部は皆さんの手柄として、持っていても構いませんよ」


「やった〜♪」

フランが小さな狼のぬいぐるみを大切そうに抱く。


「私はこのコウモリちゃんがいいですわ」

カタリナも可愛らしい一面を見せる。


「じゃあ、私はこの小さな熊ちゃん」

エミリも恥ずかしそうに選ぶ。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんもぬいぐるみたちに興味津々だ。


「でも、一番大きい馬のぬいぐるみは学院で研究してもらいましょう」


私が提案すると、みんなが同意する。


「今回の調査、本当に勉強になったわ」

私が満足そうに言う。


「古代技術の発見、チームワークの向上…」

小さなぬいぐるみたちを見つめながら続ける。


「うん〜♪ 次はどんなダンジョンかな〜♪」

フランも楽しそうに言う。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも同感のようだ。


こうして、私たちの最初の大型調査は大成功に終わった。

新しい発見、そして自分たちの成長…


でも今日は、ちゃんと報告書を書き終えてから、新しい薬の調合に取りかからなくちゃ。

このぬいぐるみたちの魔法陣を参考にして、何か面白いものが作れるかもしれない…


「ルナさん、また危険な実験を考えてるでしょう」

カタリナの鋭い指摘に、私は慌てて首を振った。


「そ、そんなことないわよ!」


でも、心の中では既に次の実験計画でいっぱいだった。

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