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第123話 ダンジョン探索と魔物の心

ーードーン!


屋敷の私の部屋から、いつもの小爆発音が響いた。

今度は鮮やかな緑色の煙がもくもくと立ち上がる。


「お嬢様!また何か爆発しましたね!」


セレーナが慌てて部屋に駆け込んでくる。

虹色の髪が朝の光でキラキラ輝いている。


「大丈夫、大丈夫!今度はいい感じよ」


私は手をひらひらと振って煙を払った。

実験台の上には美しいエメラルド色の液体が入った小瓶が置かれている。


「『魔物感知薬』の改良版よ。今日の課外実習で使えるかもしれないの」

「魔物感知薬ですか。確かに今日はダンジョン探索でしたね」


セレーナが納得したように頷く。

そうそう、今日は2年生だけの課外実習で、学院近くの『古の墓所』に魔物の生態調査に行くのだ。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんが心配そうに鳴く。

いつものように私の肩に乗って、くるんとしたまつげをひらめかせている。


「ハーブも一緒に行く?」

ポケットの中の薬草ウサギに問いかけると、「ピューイ!」と元気よく返事が返ってきた。


朝食を済ませて学院に向かう。

今日は普通の制服ではなく、動きやすい探索用の服装だ。

腰には『星屑の輝き』を持った棍棒を装備している。


「おはようございます、ルナさん」

学院の集合場所で、エリオットが声をかけてくれた。

彼は鋼の剣を腰に下げて、いつもより凛々しく見える。


「おはよう、エリオット。準備万端ね」

「ええ。古代技術の痕跡が見つかるかもしれませんからね」


エリオットが期待に満ちた表情を見せる。


「今日は爆発なしでお願いしますわよ」

カタリナが呆れたような笑顔で近づいてくる。

縦ロールが美しく揺れて、腰の『月灯りの剣』が上品に光っている。


「今度は大丈夫よ。ちゃんと魔物感知薬も改良したし」


私が自信満々に言うと、カタリナとエリオットが顔を見合わせた。


「それがかえって心配ですわ」

カタリナの鋭い突っ込みが胸に刺さる。


「ルナさん、カタリナさん、エリオットさん」

グリムウッド教授が名簿を確認しながら声をかけてくる。


「今日の探索では、魔物との不要な戦闘は避け、生態観察を中心に行ってください。特にルナさん、あなたの実験用防護結界は忘れずに」


「はい、分かりました」


私は素直に返事をする。

でも内心では、魔物と意思疎通ができる私には戦闘なんて必要ないと思っている。


『古の墓所』の入り口は、学院から徒歩30分ほどの森の中にある。

石でできた古い霊廟のような入り口で、中からはひんやりとした空気が漂っている。


「それでは、班ごとに分かれて探索を開始してください。連絡用の魔法石は必ず携帯すること。『古の墓所』はアンデッド系の魔物が多いので、十分に注意してください」


グリムウッド教授の指示で、私たちは3人一組でダンジョンに入った。


ダンジョン内部は薄暗く、ひんやりとしている。

壁には古い墓石が並び、不気味な雰囲気が漂っている。


「ここはアンデッドのダンジョンですのね。死者の魔力を強く感じますわ」

カタリナが『探知の魔法』を使いながら周囲を確認する。


「古代の建築技術が随所に見られますね」

エリオットが壁の模様を興味深そうに観察している。


「あ、魔物の気配がする」

私は改良した魔物感知薬を一滴手のひらに垂らした。

エメラルド色の液体が手の上で光って、前方を指し示している。


「どちらの方向ですか?」

エリオットが鋼の剣に手をかける。


「前方よ。でも、なんだか嫌な感じ……」

私たちが歩いていくと、骨だけの姿をしたスケルトンが数体、カタカタと音を立てて現れた。


「スケルトンですわね」

カタリナが杖を構える。


私は魔物との意思疎通を試してみたが、何も聞こえてこない。

アンデッド系の魔物には心がないのか、意思疎通が全くできない。


「だめね、この子たちとは話ができない」

私が困っていると、スケルトンたちがガチャガチャと武器を構えて襲いかかってきた。


「仕方ありませんわ。戦うしかありませんのね」

カタリナが『拘束の蔦』を発動して、スケルトンの動きを封じる。


「骨相手なら打撃が一番よ!」

私は棍棒を振り回してスケルトンを殴りつける。

骨がバキバキと音を立てて砕けていく。


ガンガンガン!


「うりゃああああ!」


私は脳筋全開で、とにかく殴る。

特技なんて使わなくても、物理攻撃で十分だ。


「『軌道修正』」

エリオットが魔法で攻撃の軌道を調整しながら、鋼の剣でスケルトンを斬り倒していく。


バキッ!ボキッ!ガシャーン!


あっという間にスケルトンたちは骨の山になった。


「アンデッドは意思疎通ができないのですのね」

カタリナが残念そうに呟く。


「そうみたい。心がないから、私の能力が使えないのよ」

私も少し落ち込む。

いつもは魔物と友好的に接することができるのに、今回は戦うしかない。


「でも奥まで進んでみましょう。調査が目的だから」

私の提案に、エリオットとカタリナが頷いてくれた。


さらに奥へ進んでいくと、今度は魔物感知薬が赤く光った。

相当強い魔物のようだ。


「相当強い魔物のようですわね」

カタリナが杖を構える。


その時、前方から「ガアアアア」という不気味な声が聞こえてきた。

現れたのは大きな鎧を着た亡霊騎士、デスナイトだった。


「グアアア……生者ヨ……立チ去レ……」

デスナイトが剣を構えて威嚇する。


私は魔物との意思疎通を試してみたが、やはり何も聞こえない。


「この子とも話ができないわ。アンデッドには心がないのね」


「仕方ありませんわ。全力で行きますわよ」

カタリナが戦闘態勢に入る。


「『花咲の剣技』!」


カタリナの周りに淡い光の花びらが舞い、デスナイトの視界を遮りながら美しい突きを放つ。

しかし、剣は鎧に弾かれてしまう。


「剣では鎧が硬すぎますわ!」

カタリナが後ろに下がる。


「『戦術強化陣』!」

エリオットが古代魔法陣を設置して、私たちの能力を底上げしてくれる。

しかし、彼の鋼の剣も鎧にはほとんど通用しない。


「鎧相手には剣は不利ですね!」

エリオットも苦戦している。


「任せて!こういう時は打撃よ!」


私は棍棒を両手で握りしめた。

鎧相手には剣より棍棒の方がずっと有効だ。


ガンガンガン!


私は棍棒でデスナイトの鎧を思い切り叩く。

金属音が響いて、鎧に凹みができる。


「うわああああ!」


私は脳筋全開で、とにかく殴り続ける。

デスナイトが剣を振ってきても、棍棒で受け止めながらひたすら叩き続ける。


ガンガンガンガン!


「ルナさん、すごい迫力ですわ!」

カタリナが驚いている。


ドガーン!


特に強烈な一撃で、デスナイトの兜が歪んだ。


「グアアア……」

デスナイトがよろめく。


「今度は胴体よ!」


ベキベキベキ!


私は胸当ての鎧を棍棒で叩き割る。

物理攻撃の威力は絶大だ。


最後に、思い切り振りかぶって頭上から叩きつける。


ガッシャーン!


デスナイトが鎧ごと砕け散った。


「やりましたわね」

カタリナが息を切らしながら言う。


「鎧相手には、やはり打撃武器が有効ですね」

エリオットが分析する。


さらに奥に進むと、小さな広間に出た。

そこには古い棺が並んでいて、宝箱のようなものが置かれている。


「お疲れさまです。ここが最深部のようですわね」

カタリナが周囲を警戒しながら言う。


「古代の埋葬室ですね。学術的に価値がありそうです」

エリオットが壁の碑文を調べ始める。


私は少し落ち込んでいる。

いつもは魔物と友好的に接することができるのに、今回は戦闘ばかりだった。


「仕方ありませんわ。アンデッドは死者の魂が宿った存在ですから、生者とは根本的に違うのでしょう」

カタリナが慰めてくれる。


「でも、ルナさんの戦闘能力は十分に発揮されていましたよ」

エリオットが褒めてくれる。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも嬉しそうに鳴いている。

「ピューイ」とハーブも尻尾を振った。


帰り道、私たちは疲れた足取りでダンジョンを後にした。


「今日は戦闘ばかりでしたわね」

カタリナが疲れた様子で言う。


「アンデッド系のダンジョンでは、ルナさんの特殊能力が活かせませんでしたからね」

エリオットも残念そうだ。


ダンジョンの外に出ると、他の班もちょうど帰ってきたところだった。

みんな疲れた顔をしている。


「お疲れさまでした。『古の墓所』はいかがでしたか?」

グリムウッド教授が声をかけてくる。


「アンデッド系の魔物との戦闘を通して、実戦経験を積むことができました」

エリオットが報告する。


「そうですね。アンデッドとは意思疎通ができないことも学びました」

私が付け加える。


「ほう、それも重要な発見ですね。魔物にも様々な種類があることを理解できたでしょう」

教授が満足そうに頷いた。


学院に戻る道すがら、カタリナが呟いた。


「今日は戦闘ばかりで、いつものルナさんらしさが発揮できませんでしたわね」

「そうね。仕方ないわよね」


私が少し落ち込んで答えると、エリオットがフォローしてくれる。


「でも、戦闘での連携は素晴らしかったです」

「ありがとう」


夕日が学院の建物を美しく照らしている。

今日は戦闘中心の探索だったけど、チームワークは確実に向上した。


「明日はまた実験室での活動ですわね」


カタリナの言葉に、私は頷いた。


「今度は意思疎通ができない魔物のための薬を作ってみたいな」

「また爆発しそうな予感がしますわ」


カタリナの突っ込みに、私たちは疲れた笑顔を浮かべた。

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