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第121話 新しい実験室

「お嬢様、朝でございます」


セレーナの声で目が覚める。

窓から差し込む陽光が、虹色に染まった彼女の髪をキラキラと輝かせている。


「うーん、おはよう、セレーナ」

私はゆっくりと起き上がった。


肩の上で「ふみゅ〜」とふわりちゃんが小さく鳴く。

真っ白でふわふわな毛玉のような愛らしい姿に、今朝も心が癒される。


「今日はサークル活動の初日でしたよね?張り切って参りましょう」


セレーナが手際よく制服を用意してくれる。

ポケットの中で茶色い毛玉がもぞもぞ動いた。薬草ウサギのハーブも一緒だ。


「ピューイ」

ハーブの泣き声が聞こえる。きっとお腹が空いたのだろう。


「朝食の準備ができております」

食堂に向かう途中、兄さんに会った。


「ルナ、今日からサークル活動だったな。爆発しないよう気をつけろよ」

「兄さん、失礼ね 私だってそんなに爆発ばかりさせてるわけじゃ……」


そう言いかけて、昨日の実験を思い出す。

確かに小爆発で青い煙がもくもく上がって、ハロルドが慌てふためいていたっけ。


「……気をつけます」

素直に頭を下げると、兄さんは苦笑いを浮かべた。


朝食を済ませて学院に向かう。

今日は待ちに待ったサークル『ミックス・ワンダーズ』の初活動日だ。

特例でサークル設立を認められたのは、私たちの成績が優秀だかららしい。

でも、常に他の生徒の手本となる行動が求められているから、気を抜けない。


「おはようございます、ルナさん」

学院の門で、縦ロールが美しいカタリナが声をかけてくれた。いつ見ても完璧なお嬢様だ。


「おはよう、カタリナ!今日は楽しみだね」


「ええ。でも、ルナさんの実験は心配でもありますの」

カタリナの鋭い突っ込みが胸に刺さる。確かに私の実験は予測不能なことが多い。


2年生の教室では、同じクラスのエリオットが待っていてくれた。

「おはようございます、ルナさん。今日のサークル活動、楽しみですね」


エリオットが丁寧に挨拶してくれる。


「そうね。でも爆発しないか心配されてるのよね」

「まあ、それは……」


エリオットが苦笑いする。やっぱり信用がない。


放課後、1年生たちと合流してから、モーガン先生に案内されてサークル専用の実験室に向かった。


「おはよ〜♪ あ、違った、お疲れ様〜♪ ルナちゃん、今日はどんな爆発を見せてくれるの〜♪」

フランが楽しそうに話しかけてくる。

赤い髪のツインテールが揺れて、いかにもギャルな見た目だ。


「爆発前提で話さないでよ」

私が抗議すると、みんなが苦笑いする。うう、やっぱり信用がない。


「こちらがあなた方の実験室です」

モーガン先生が扉を開けると、そこには……


「うわあ」


思わず声が出てしまった。

ボロボロの実験台、ひび割れた床、くすんだ窓ガラス。

まさに廃墟のような実験室だった。


「なんと申しましょうか……歴史を感じる実験室ですわね」

カタリナが上品にコメントする。さすがお嬢様、表現が優雅だ。


「ちょ〜ボロボロじゃん♪でも逆に爆発し放題って感じ〜♪」

フランは相変わらず前向きだ。


「ルナさんの実験を考慮すると、確かに最適な立地かもしれません」

ノエミ様まで私の爆発を前提に話している。みんなひどい。


「まあ、あなたの実験の威力を考えますと、ここが一番被害が軽微で済むでしょう」

モーガン先生も苦笑いしながら丁寧に説明する。


「被害前提なんですね……」

私はがっくりと肩を落とした。


ふわりちゃんが「ふみゅ〜」と慰めるように鳴いてくれる。


「さて、私たちの活動方針はどうしようか?」


ノエミ様が提案した。

「学院の生活をより良くする研究活動はいかがでしょう?」


「生活をより良く?」

「はい。例えば、勉強に集中できる薬とか、美味しい食事を作る錬金術とか……」


「それいいわですわね!実用的ですし」

カタリナが賛成してくれる。


「掃除が楽になる魔法とかも〜♪」

フランが楽しそうに付け加える。


「古代技術で効率化も図れるかもしれませんね」

エリオットも乗り気だ。


「それじゃあ、まずはこの実験室を片付けましょうか」


私は辺りを見回した。

確かに、このボロボロの状態では実験どころじゃない。


「そうですわね。まずは環境を整えませんと」


カタリナが袖をまくる。

お嬢様なのに、掃除も完璧にこなすに違いない。


「みんなで協力すれば〜♪あっという間だよ〜♪」

フランも張り切っている。


まずは実験台の上に散らばった古い器具を整理することから始めた。

錆びた器具、ひび割れた試験管、得体の知れない液体が固まった容器……まさにお化け屋敷レベルだ。


「これ、何の実験に使っていたのでしょうね」

エミリが不思議そうに古い実験ノートを見つける。


「古代文字が書かれていますね。解読してみましょう」

エリオットが興味深そうに覗き込む。


1時間ほどかけて、ようやく実験台がきれいになった。

床の掃除も済ませて、窓も磨いて……


「だいぶきれいになりましたわね」

カタリナが満足そうに頷く。


「じゃあ、今度こそ実験を始めよう。何か簡単なものから……掃除用薬剤を作ってみない?」


私の提案に、みんなが賛成してくれる。


『清浄の草』『浄化の石』『澄んだ水』を用意する。これなら爆発の心配はないはず。


「一応防護結界を張っておいた方がいいのでは?」

カタリナが心配そうに提案する。


「あ、そうだった」


私は魔力を込めて小さな結界を張る。

でも、いつもよりちょっと雑になってしまった。


鍋に材料を入れて、魔力を込めた炎で加熱する。

前世の化学知識を活かして、温度と時間を調整していく。


「順調ですわね」

カタリナが記録を取りながら呟く。


「今回は爆発しないかも〜♪」

フランが期待を込めて言う。


その時だった。


ボコボコと鍋の中身が泡立ち始めた。

あれ? こんな反応は予想していない。


「あの、ルナ先輩……」

エミリが不安そうに指差す。鍋から紫色の煙がもくもくと立ち上っていた。


「ちょっと待って、これは……」


私が慌てて火を弱めようとした瞬間。


ーードーン!


小爆発と共に、実験室が紫の煙に包まれた。


「ルナちゃん!」

フランが『魔法障壁』で煙を防ごうとしてくれる。

でも、煙はその隙間から漂ってきて……


「なんだか、周りがピカピカに見えてきましたわ」

カタリナが驚いたように言う。


「本当だ〜♪汚れが浮き上がって見える〜♪」

フランも目を輝かせている。


「これは……清浄化効果が予想以上に強いようですね」

エリオットが分析する。


紫の煙が晴れると、鍋の中には美しい透明な液体が残っていた。

さわやかなミントの香りが実験室に広がる。


「成功……したの?」

私が恐る恐る確認すると、みんなが頷いた。


「むしろ、通常の錬金術では得られない強力な浄化効果が出ていますわ」

カタリナが興奮気味に記録を取っている。


「爆発が成功の秘訣だったりして〜♪」

フランの言葉に、みんなが苦笑いする。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんが嬉しそうに鳴く。

ハーブも「ピューイ」と鳴いて尻尾を振っている。


「まあ、結果オーライということでしょう」

モーガン先生が呆れたように笑った。


「次回はもう少し制御された実験を心がけましょう」

ノエミ様の優しい注意に、私は頭を下げる。


「はい、気をつけます」


でも、心の中では思っている。

爆発があった方が面白い発見があるのは確かだ。

これからのサークル活動が楽しみになってきた。


実験室の窓から夕日が差し込んで、透明な液体をきれいに照らしている。

みんなで掃除したおかげで、ボロボロだと思った実験室も、なんだか愛着が湧いてきた。


「明日はどんな実験をしましょうか?」

私の問いかけに、みんなが一斉に身構えた。


「今度こそ爆発しない実験を……」

カタリナの願いが叶うかどうかは、また明日のお楽しみだ。


「ふみゅ〜♪」

ふわりちゃんの鳴き声が、実験室に響いた。

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