第120話 新サークル設立
「ふみゅ〜?」
ふわりちゃんが首をかしげている。
今日は学院のサークル勧誘日で、校内があちこちで賑やかになっていた。
「ルナさん、こちらへ!」
廊下を歩いていると、『魔法研究サークル』の上級生に声をかけられた。
「私たちのサークルに入りませんか?あなたの錬金術の才能があれば……」
「あの、ありがとうございます。でも……」
その時、ポンッという小さな爆発音が聞こえた。
私のポケットから薄紫の煙が立ち上っている。
「あ、『安定化薬』が暴走しちゃった」
上級生が青ざめる。
「や、やはり……少し危険すぎるかもしれませんね……」
そそくさと立ち去る上級生を見送りながら、私は苦笑いした。
「ピューイ…」
ハーブも困ったような鳴き声を上げている。
中庭でカタリナとエリオットと合流すると、二人も似たような経験をしていたようだ。
「『貴族社交サークル』から勧誘を受けましたが、お断りしましたの」
「僕も『古代技術研究会』から声をかけられましたが、ちょっと方向性が違うようで……」
「私も『魔法研究サークル』から声をかけられたけど、実験で煙が出たら逃げられちゃった」
三人で顔を見合わせる。
「そういえば、私たち既にTri-Orderという研究班を作ってますのよね」
カタリナの言葉に、私は目を輝かせた。
「それよ!いっそのこと、私たちで新しいサークルを作りましょう!」
「新しいサークルですか?」
「そう!錬金術と魔法と古代技術を融合した、誰にも真似できないようなサークルを!」
「でも、1年生も入れたいわね。後輩を指導するのも大切だし」
私の言葉に、二人も同感という表情を見せた。
「確かに、王女様やフランさん、エミリさんのような優秀な1年生と一緒に活動できれば……」
「でも、通常は2年生以上でないとサークル設立できませんわよね」
ふわりちゃんが「ふみゅ〜?」と心配そうに鳴いた。
職員室で、グリムウッド教授にサークル設立の相談をした。
「新サークルの設立ですか。しかも1年生も含めた……」
教授が困ったような顔をする。
「やはり無理でしょうか?」
「通常の規則では確かに難しいですが……実は、特例制度というものがあるのです」
私たちは身を乗り出した。
「特例ですか?」
「ええ。学院に対して顕著な貢献をした生徒、または学術的に特筆すべき成果を上げた生徒については、特別な審査を経てサークル設立が認められる場合があります」
「学術的な成果……」
「ルナ君の時空間錬金術研究による王国発展貢献賞、君たちの『歌うハリネズミ』『踊るツタ』『虹泡スライム』の魔物研究は、学院でも高く評価されています」
私の胸が高鳴った。
「それに、王女殿下の参加は学院の模範的活動として期待されるでしょうし、フラン君のような平民出身でありながら優秀な成績を修める生徒の参加は、学院の多様性推進にも貢献します」
「つまり、私たちでもサークルを作れるかもしれないということですか?」
「特例申請してみる価値はあると思います。必要な条件は、最低5名のメンバーと顧問教員、そして設立趣意書。それに加えて、特例申請書と研究実績書が必要ですね」
「審査はどのようになりますか?」
「校長先生、副校長先生、それに各学部の代表教授による審査会が開かれます。通常は一週間程度で結果が出ますが、特例申請のため、より厳格な審査になるでしょう」
希望が見えてきた私たちは、さっそく1年生の教室を訪ねた。
ノエミ王女様、エミリ、フランの三人がいた。
「あら、ルナ先輩。どうしたんですか?」
「実は、新しいサークルを作ろうと思ってて……特例申請でね」
事情を説明すると、三人とも興味深そうに聞いてくれた。
「錬金術と魔法の融合研究〜♪ 超面白そう〜♪」
フランが目をキラキラ輝かせている。
「私もぜひ参加させていただきたいです。王女として、学院の新しい研究活動を支援することは意義深いことですわ」
ノエミ様が上品に微笑む。
「はい!先輩方に教えていただけるなんて光栄です!」
エミリも嬉しそうだ。
「ただし、特例申請が通った場合、私たちは学院の模範となる責任があるの。学業を最優先にして、他の生徒の手本になるような活動をしなければならないのよ」
「もちろんですわ。その責任の重さも理解しております」
「了解〜♪ 超頑張る〜♪」
「はい、責任を持って活動します!」
「ありがとう、みんな!これで6人プラス1人ね」
「プラス1人?」
「ふわりちゃんも大事なメンバーよ」
「ふみゅ〜♪」
図書館で設立趣意書と特例申請書を書くことになった。
「サークル名はどうしましょう?」
「『錬金魔法融合研究会』とか?」
「ちょっと堅いですね」
「じゃあ『マジカル☆アルケミー倶楽部』〜♪」
フランの提案にみんなが苦笑い。
「『奇跡の調合サークル』はどうかしら?」
「それも良いですが……」
悩んでいると、エミリが提案した。
「『先輩方の研究みたいに、いろんなものを混ぜて新しい発見をする』という意味で、『ミックス・ワンダーズ』はどうでしょう?」
「それいいわね!」
「素晴らしいですね」
「『ミックス・ワンダーズ』に決定ね!」
ふわりちゃんも「ふみゅ〜♪」と賛成してくれた。
特例申請の理由を書く段階で、みんなで知恵を絞った。
「私の錬金術研究による王国への貢献……」
「私たちの魔物研究の学術的価値……」
「それに、王女様の参加により、サークル活動が学院の模範となる可能性……」
エリオットが付け加える。
「フランさんの平民出身でありながら優秀な成績と、学院の多様性推進への貢献も書きましょう」
ノエミ様が言った。
「みんなさんの個性を活かした総合的な研究ができることを強調しましょう」
カタリナがまとめてくれる。
「それに、特例として認められた場合の責任についても明記する必要がありますね」
エリオットが真剣な表情で言う。
「学院の模範となる活動を行い、他の生徒への良い影響を与えることを約束しましょう」
翌日、完成した書類をグリムウッド教授に提出した。
「見事な申請書ですね。君たちの研究実績と、サークル設立への真摯な想い、そして特例としての責任感がよく伝わります」
「審査はどのくらいかかりますか?」
「特例申請のため、通常より厳格な審査になります。一週間程度はかかるでしょう。その間、君たちの学業成績や日頃の行動も評価対象となりますので、普段以上に気を引き締めて過ごしてください」
「分かりました」
みんなで決意を新たにした。
審査結果を待つ間、私たちは仮の活動として研究を続けていた。
実験室で『勉強効率向上薬』の改良版を作っていると、モーガン先生がやってきた。
「おや、何か良い香りがしますね」
「モーガン先生!実験の途中です」
今度の調合は大成功で、淡い青色の煙と共にさわやかなミントの香りが広がった。
「これは素晴らしい。材料のバランスも完璧ですね。2年生が1年生をしっかり指導している様子も見事です」
先生が感心したような表情を見せる。
「もし君たちのサークルが認可されたら、ぜひ顧問を引き受けさせてください」
「本当ですか?」
「ええ。特例としての責任を理解し、真剣に研究している生徒たちを見ていると、私も嬉しくなります」
一週間後、グリムウッド教授から呼び出しがあった。
「審査結果が出ました」
みんなで緊張しながら職員室に向かう。
「特例申請、承認されました!」
「やった!」
「やりましたわね!」
「超嬉しい〜♪」
みんなで喜びを分かち合った。
「校長先生からのコメントで、『学院史上初の特例によるサークル設立であり、申請者たちの学術的実績と責任感を高く評価する。今後の学院の模範となることを強く期待する』とありました」
「責任重大ですわね」
「でも、やりがいがありそう」
「みんなで頑張りましょう〜♪」
「ただし」と教授が続けた。
「特例として認められた以上、常に他の生徒の手本となる行動を求められます。学業成績の維持はもちろん、サークル活動も学院の名誉を傷つけることのないよう、細心の注意を払ってください」
「はい、肝に銘じます」
私たちは改めて身が引き締まる思いだった。
正式にサークルとして認められた記念すべき第一回活動で、完成した『勉強効率向上薬』をみんなで試してみた。
「それでは、特例サークルの門出に……乾杯!」
「乾杯〜♪」
薬を飲むと、確かに頭がすっきりして、集中力が高まった。
「これで明日のテストも安心ですね」
「次は何を研究しましょう?」
「『美味しい料理を作る錬金術』なんてどう?」
私の提案に、みんなが賛成した。
「それ面白そうです。 料理が苦手だから、先輩に教えてもらいたいです」
「でも、常に学院の模範であることを忘れずに活動しましょう」
カタリナが責任感のこもった声で言う。
「そうですね。特例として認められた私たちには、それだけの期待がかかっているのですから」
エリオットも同意した。
ふわりちゃんが「ふみゅ〜♪」と嬉しそうに鳴き、ハーブも「ピューイ♪」と元気よく返事をした。
新しいサークル『ミックス・ワンダーズ』の活動が、今日から本格的に始まったのだった。




