第119話 ギャルの本物の優しさ
ーーポンッ!
今日もまた、実験室から虹色の煙がもくもくと立ち上った。
「お嬢様〜!また爆発ですよ〜!」
セレーナが慌てて駆け込んでくる。
「あ、ごめんなさい!今度は『集中力向上薬』を作ろうとしたんだけど……」
煙の中から這い出すと、なぜか私の髪がキラキラと星屑のように光っている。
「今度は星が散りばめられたような効果ですね……」
「綺麗でしょう?でも集中力は向上しなかったみたい」
「ふみゅ〜?」
ふわりちゃんが心配そうに鳴くが、すぐにいつもの「ふみゅ〜♪」に戻る。慣れたものだ。
「今日は休日だし、みんなに会いに行こうかしら」
ポケットの中でハーブが「ピューイ♪」と賛成の声を上げた。
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その頃、カタリナは王都の『光の園孤児院』へ向かう馬車の中にいた。
週一回の訪問日である。
「今日もお弁当とお菓子をお持ちしました」
ジュリアと一緒に、いつものように子供たちに勉強を教え、一緒に遊ぶために向かっていた。
孤児院に到着すると、いつもと違う光景が目に入った。
庭で子供たちが大勢集まって、誰かと一緒に遊んでいる。
「あら?」
近づいてみると、その中心にいたのは……
「フラン!?」
虹色の髪をツインテールにしたフランが、子供たちと一緒に鬼ごっこをしていた。
「待て待て〜♪ 捕まえちゃうぞ〜♪」
「きゃー!フランお姉ちゃん速い!」
「こっちだよ〜!」
子供たちの笑い声が庭に響いている。
フランも心から楽しそうに走り回っていた。
「鬼交代〜♪ 今度はマリーちゃんが鬼ね〜♪」
「はーい!」
小さな女の子が元気よく答える。
カタリナは驚いて、その光景を見つめていた。
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「カタリナ様!」
シスター・マルゲリータが気づいて近づいてきた。
「こんにちは、シスター」
「今日もありがとうございます。あ、フランさんをご存知ですの?」
「ええ、学院の後輩ですが……まさか、ここに?」
「そうなんです。最近、週に2〜3回は遊びに来てくださって」
シスターが優しく微笑む。
「最初は偶然通りかかって、子供たちが遊んでいるのを見て『一緒に遊ぼ〜♪』と声をかけてくださったんです」
「そうでしたの……」
「子供たちも、フランさんが大好きなんですよ。とても優しくて、一緒になって遊んでくださいますし」
庭を見ると、今度は年上の男の子が転んで泣いている。フランがすぐに駆け寄った。
「大丈夫〜?♪ 痛いの痛いの飛んでけ〜♪」
「うん……ありがとう、フランお姉ちゃん」
フランが優しく男の子の頭を撫でている姿を見て、カタリナは心を動かされた。
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「それに」シスターが続ける。
「フランさん、子供たちにお菓子やおもちゃを買ってきてくださることもあるんですの」
「お菓子やおもちゃを?」
「ええ。『みんなで食べよ〜♪』と言って、手作りのクッキーを持参されたり」
「手作りの……」
「とても上手に作られるんですよ。子供たちも大喜びで」
カタリナは思い出していた。
フランが平民出身で、学費も自分で工面していると聞いたことを。
それなのに、子供たちのためにお菓子を……
「この間は、古い絵本を新しいものに買い替えてくださって」
「そんなことまで……」
「『子供たちが喜ぶ顔が見たい〜♪』とおっしゃって。本当に心優しい方ですの」
その時、フランが子供たちと一緒にこちらに向かってきた。
「あ〜♪ カタリナちゃん〜♪ こんにちは〜♪」
「こんにちは、フランさん」
「カタリナお姉ちゃんも一緒に遊ぶ〜?」
子供たちが嬉しそうに飛び跳ねている。
「お姉ちゃんたち、お友達なの?」
「そうよ〜♪ 学院のお友達〜♪」
フランが自然に答える。
「じゃあ、みんなで遊ぼう!」
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気がつくと、カタリナも子供たちと一緒に遊んでいた。
「だるまさんが転んだ〜♪」
フランの声に合わせて、みんなでぴたりと止まる。
「あ〜♪ トミーくん動いた〜♪」
「えー!動いてないよ〜!」
「動いてた動いてた〜♪」
フランが楽しそうに笑いながら、子供たちとじゃれ合っている。
カタリナは改めて思った。
フランの笑顔は作ったものではない。
本当に心から楽しんでいるのだ。
「カタリナちゃん〜♪ 次は何して遊ぶ〜?♪」
「そうですわね……折り紙はいかがかしら?」
「折り紙〜♪ 超楽しそう〜♪」
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室内で折り紙をしていると、小さな女の子がうまく折れなくて困っている。
「できない……」
「大丈夫〜♪ フランお姉ちゃんが手伝うよ〜♪」
フランが女の子の隣に座り、一緒に丁寧に折り方を教えている。
「ここをこうして〜♪ それでこっちに折って〜♪」
「あ!できた!」
「上手上手〜♪ 超可愛いクレーンの出来上がり〜♪」
女の子が嬉しそうに笑う姿を見て、フランも満面の笑みを浮かべた。
カタリナはその光景を見つめていた。
王女様に対する言葉遣いは確かに気になるが、フランの心の優しさは本物だった。
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帰りの馬車の中で、ジュリアが話しかけた。
「お嬢様、今日はいつもより楽しそうでしたね」
「そうですわね……フランさんという子の影響かもしれませんわ」
「あの虹色の髪の方ですか?とても子供たちに慕われていましたね」
「ええ……私、少し彼女を誤解していたかもしれませんわ」
カタリナは窓の外を見つめながら呟いた。
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翌日の学院で、カタリナはフランに声をかけた。
「フランさん」
「何〜?♪ カタリナちゃん〜♪」
「昨日は孤児院で楽しい時間をありがとうございました」
「こちらこそ〜♪ 一緒に遊べて超楽しかった〜♪」
「あの……シスターから伺いましたが、よく孤児院に通われているそうですね」
「あ〜♪ バレちゃった〜♪ 子供たち超可愛いから、つい遊びに行っちゃうの〜♪」
「とても素晴らしいことですわ。私も見習わなければ」
フランがきょとんとした表情を見せる。
「え〜?♪ カタリナちゃんも十分優しいよ〜♪ 勉強教えてくれるし、お弁当も美味しかったし〜♪」
「ありがとうございます。でも、あなたの自然な優しさには敵いませんわ」
「え〜♪ 何それ〜♪ 照れちゃう〜♪」
フランの頬が少し赤くなっている。
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その日の放課後、私が廊下を歩いていると、カタリナが近づいてきた。
「ルナさん、少しお時間よろしいですの?」
「もちろんよ。どうしたの?」
「フランさんのことで……」
カタリナが昨日の出来事を話してくれた。
「そうだったの。フランらしいわね」
「ええ。私、彼女のことを少し誤解していましたの」
「誤解?」
「ノエミ様への言葉遣いのことで、内心良く思っていませんでした。でも、彼女の心の優しさは本物ですのね」
「そうよ。フランは本当に優しい子なの」
ふわりちゃんが「ふみゅ〜♪」と同意するように鳴いた。
「言葉遣いよりも、心の方が大切だということを教えてもらいましたわ」
「カタリナがそう言うなら、きっとフランも嬉しいと思うわ」
ハーブが「ピューイ♪」と嬉しそうに鳴く。
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翌日、フランが相変わらずの明るい口調でみんなに挨拶していると、カタリナが微笑みかけた。
「フランさん、今度また一緒に孤児院に行きませんこと?」
「え〜♪ いいの〜?♪」
「ええ、あなたと一緒なら、子供たちももっと喜ぶでしょう」
「やった〜♪ 超嬉しい〜♪」
フランが飛び跳ねるように喜んでいる。
「それに、手作りクッキーの作り方も教えていただきたいですわ」
「もちろん〜♪ 一緒に作ろ〜♪」
その光景を見ていて、私は微笑ましく思った。
カタリナが本当の意味でフランを受け入れたのだ。




