第118話 ギャルと王女様の本当の友情
「おはよ〜♪ みんな〜♪」
フランが相変わらずの明るい口調で私たちに近づいてくる。
虹色の髪はまだ健在で、今日もとても可愛らしい。
「おはよう、フラン!」
「おはようございます」
私とエリオットが挨拶を返すが、カタリナの返事がいつもより少しそっけない気がした。
「あ〜♪ 王女様たちまだなのね〜♪ 待ってる間、ここ座っていい〜?♪」
「もちろんよ」
でも、その時だった。近くのテーブルに座っていた貴族の令嬢たちがひそひそと話し始めた。
「あの子、王女様に対してもタメ口なのよ」
「信じられない……平民のくせに」
「礼儀も何もあったものじゃないわ」
声は小さいが、フランにも聞こえているはずだ。
彼女は相変わらずの明るい笑顔を保っている。
カタリナが微かに眉をひそめた。
私に対してなら全く気にならない話し方だが、王女様に対してあの話し方は確かに……と思っているのが表情から分かる。
「私たちは二年生だから、授業が違うの。また後でね、フラン」
「了解〜♪ 午後に会おうね〜♪」
私たちが去った後、フランは一年生たちと過ごすことになった。
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一年生の昼休み時間、ノエミ様とエミリがフランが一緒にいた。
「皆さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様です!」
「ノエミちゃ〜ん♪ エミリちゃ〜ん♪ お疲れさま〜♪」
フランがいつものように明るく声をかける。
その瞬間、周りの一年生の貴族たちがざわめいた。
「王女様に『ちゃん』付け……」
「あり得ない……」
「どういう教育を受けてきたのかしら」
フランの表情を見ていたエミリが気づく。
一瞬、ほんの一瞬だけ、笑顔が固まったような気がした。
でもすぐに、いつもの明るさに戻る。
「今日の午後の授業も超楽しみ〜♪ 魔物学でしょ〜?♪」
ノエミ様は全く気にした様子もなく、優しく答える。
「ええ、私も楽しみです。フランさん」
でも周りの冷たい視線は続いている。
特に、同じ一年生の貴族グループからは明らかに不快そうな表情が向けられていた。
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午後の魔物学の授業で、グループワークが始まった。
「それでは、4人1組でグループを作ってください」
他の生徒たちは自然とグループを作り始めたが、フランだけが一人で座っている。
「あの……」
エミリが手を挙げようとした時、ノエミ様が立ち上がった。
「フランさん、私たちのグループに来てください」
「え〜?♪ いいの〜?♪」
「もちろんです」
エミリも嬉しそうに手を振る。
「フランさん、一緒にやりましょう!」
「ありがと〜♪ 超嬉しい〜♪」
でも、エミリには分かる。フランの声が少し震えていることを。
授業中も、他の生徒たちからの冷たい視線は続いた。
特にフランが王女様と普通に会話している姿を見ると、明らかに眉をひそめる生徒が何人もいた。
「ねぇ〜♪ ノエミちゃん〜♪ この魔物の生態って超面白いよね〜♪」
「ええ、本当にそうですね」
王女様が自然に答えるたび、周りのざわめきは大きくなった。
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翌日の放課後、エミリは偶然廊下を歩いていた時、思いがけない光景を目にした。
図書館の片隅で、フランが小さな一年生の男の子に優しく話しかけている。
「大丈夫〜?♪ どうしたの〜?♪」
男の子は泣きそうな顔をしていた。
「僕の教科書……なくしちゃったんです……」
「あ〜♪ それは大変〜♪ 一緒に探そっか〜♪」
フランが明るく提案すると、男の子の表情が少し和らいだ。
エミリがそっと見ていると、フランは男の子と一緒に図書館中を探し回った。
本棚の下、机の隙間、窓際……どんなに汚れそうな場所でも、躊躇なく手を伸ばして探している。
制服が汚れても、髪が乱れても、全く気にしていない。
「あったよ〜♪ ここにあった〜♪」
本棚の隙間から教科書を見つけたフランの顔は、汗で少し汚れていたが、とても嬉しそうだった。
「ありがとうございます!」
男の子が深々と頭を下げる。
「全然平気〜♪ また困ったことがあったら、いつでも声かけてね〜♪」
その時、図書館の別の入り口から、ノエミ様も同じ光景を見ていた。
二人とも、フランの本当の姿を目の当たりにしていた。
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翌日の昼食時、ノエミ様がフランに話しかけた。
「フランさん、昨日図書館で一年生の子を助けていましたね」
「え〜?♪ 見てたの〜?♪ 別に大したことじゃないよ〜♪」
「いえ、とても素晴らしいことでした。あなたはとても親切で優しい方ですね」
王女様の言葉に、フランの頬がほんのり赤くなった。でもすぐに明るく笑う。
「まあ〜♪ 私は誰にでも優しいからね〜♪」
エミリも続ける。
「私も見ていました。フランさんって、本当に優しいんですね」
「そんなことないって〜♪ 普通でしょ〜♪」
その時、また近くのテーブルから嫌味な声が聞こえてきた。
「王女様に馴れ馴れしくして……」
「きっと下心があるのよ」
「平民らしい浅ましさね」
今度ははっきりと聞こえる声だった。フランの笑顔が一瞬止まる。
でも、その時だった。
「そのような発言は慎んでください」
ノエミ様が立ち上がり、毅然とした声で言った。
「フランさんは私の大切な友人です。彼女を侮辱することは、私を侮辱することと同じです」
王女様の威厳ある声に、周りが静まり返った。
「私も同じ気持ちです」
エミリも立ち上がる。
「フランさんは本当に優しくて、素晴らしい人です。身分なんて関係ありません」
フランが呆然としている。そして、ゆっくりと涙が頬を伝った。
でも、相変わらずの口調で答える。
「み〜んな〜♪ 超優しい〜♪ ありがと〜♪」
声が震えているが、最後まで明るい口調を崩さない。
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その日の帰り道、ノエミ王女様がフランに話しかけた。
「フランさん」
「何〜?♪ ノエミちゃん〜♪」
「これからも、そのままでいてください。あなたらしさを大切にして」
「え〜?♪ 何それ〜?♪」
「あなたの優しさも、明るさも、全部素晴らしいものです。私は身分や言葉遣いではなく、心を見ています」
王女様の言葉に、フランがまた涙ぐんだ。でもすぐに笑顔になる。
「ノエミちゃん〜♪ 超いい子〜♪ 私も友達でいてくれる〜?♪」
「もちろんです。ずっと友達でいましょう」
エミリも微笑んだ。
「私も、フランさんとずっと友達でいたいです」
「エミリちゃんも〜♪ みんな超大好き〜♪」
三人が寄り添って歩いている姿を、少し離れた場所から私たちが見ていた。
「良い友情ですのね」
カタリナが呟いた。表情は先ほどまでより柔らかくなっている。
「ええ、本当に」
エリオットも微笑んでいる。
私はフランの横顔を見つめていた。
彼女は最後まで素直な気持ちを言葉にしなかった。
でも、その涙と笑顔で、全てが伝わってきた。
「フランって、本当に面白い子ね」
ふわりちゃんが「ふみゅ〜♪」と嬉しそうに鳴き、ハーブが「ピューイ♪」と賛同するように鳴いた。
身分や言葉遣いなんて関係ない。大切なのは心の優しさだ。
フランはそれを教えてくれる、かけがえのない友達なのだ。




