第115話 爆発する猫と錬金術少女
「ふみゅ〜?」
肩に乗ったふわりちゃんが首をかしげている。
私も同じ気持ちだった。
冒険者ギルドの掲示板に貼られた依頼書を見つめながら、思わず声に出してしまう。
「爆発する猫って……一体どういうこと?」
「それが私たちTri-Orderの新しい調査対象ですのね」
隣でカタリナが優雅に微笑みながら依頼書を指差す。
相変わらず完璧な立ち振る舞いで、縦ロールの赤茶色の髪も美しく輝いている。
「古代の記録にも記載がない未知の魔物……興味深いですね」
エリオットも銀髪を揺らしながら真剣な表情で依頼書を見つめている。
ギルドマスターの執務室で詳しい話を聞くと、どうやら王都郊外の森で「ポンッ」という音と共に小さな爆発を起こす猫のような魔物が目撃されているらしい。
「この魔物、人を襲うわけではないのですが、爆発の原因が分からず住民が不安がっておりまして」
「大丈夫ですわ。私たちにお任せください」カタリナが品よく答える。
「はい、よろしくお願いします」ギルドマスターが深々とお辞儀をする。
そして私は……
「爆発!それってもしかして錬金術と関係があるかも!」
目をキラキラ輝かせていたら、ポケットの中でハーブが「ピューイ?」と心配そうに鳴いた。
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翌日、森の入り口に到着した私たちは、さっそく『魔物感知薬』を使って辺りを調べることにした。
「『風の草』『感知の石』『透明な水』……よし、完成!」
青い煙がもくもくと上がる中、私は満足そうに調合結果を眺めた。
「ルナさん、煙の色が少し濃すぎませんこと?」
「あ、ちょっと魔力を込めすぎちゃったかも」
カタリナの指摘に苦笑いしながら薬を振ると、森の奥から微かに魔力の反応が感じられた。
「あっちの方角ですのね。『探知の魔法』でも確認いたします」
カタリナが杖を振ると、淡い光の粒子が森の奥へと導いてくれる。
「僕の『軌道修正』も使って、正確な位置を特定しましょう」
エリオットの魔法で光の軌道がより鮮明になり、私たちは茂みの奥へと向かった。
そして……
「あ!いた!」
小さな茶トラ模様の猫が、木の根元でまんまるになって眠っていた。
「可愛い〜!」
思わず駆け寄ろうとした瞬間——
ーーポンッ!
猫の周りで小さな爆発が起こり、薄紫色の煙がふわりと舞い上がった。
「きゃっ!」
「ルナさん、大丈夫ですの!?」
「大丈夫よ……この爆発、何か変ね」
煙の中から這い出しながら、私は興味深げに煙を観察した。
化学知識をフル活用して分析すると……
「この匂い……もしかして体内で何かの反応が起こってる?」
猫は爆発にも関わらず、のんびりと毛づくろいを始めている。
どうやら本人……いや、本猫には害がないようだ。
「ふみゅ〜」
ふわりちゃんが猫に近づくと、なぜか猫の方も「にゃ〜ん」と友好的に鳴いた。
「意思疎通してみるわ!」
私が魔物との意思疎通能力を使うと、猫の心の声が聞こえてきた。
『おなかがぽんぽんするにゃ〜。でも気持ちいいにゃ〜』
「お腹が?」
よく観察すると、猫が特定の木の実を食べた後に爆発が起こることが分かった。
周りにまだ木の実が落ちているが猫が第字層に抱えている。
「カタリナ、その木の実を採取できる?」
「もちろんですわ」
カタリナが『拘束の蔦』で実を器用に採取すると、私は早速現地で簡易分析を開始した。
「『魔力可視化薬』で成分を調べて……あ!」
薬を垂らした瞬間、木の実が虹色に光った。
「これ、天然の魔力結晶が含まれてるのね!猫の体内で消化される時に魔法反応が起こって、それで爆発するのよ!」
「なるほど……古代の魔力樹の変異種かもしれませんね」エリオットが木を調べながら推測する。
「でも爆発しても猫は平気なのですのね」
カタリナの言葉通り、猫は相変わらずのんびりしている。
『爆発すると周りが静かになって眠りやすいにゃ〜』
……なるほど、爆発は猫なりの環境整備だったのか。
「それじゃあ、この子には専用の『魔力鎮静薬』を作ってあげましょう」
『静寂の花』『安らぎの石』『深い眠りの水』を調合し始めると、今度は綺麗な水色の煙が立ち上った。
「今度は成功の予感!」
案の定、さわやかな花の香りが森中に広がり、猫も気持ち良さそうに「にゃ〜ん」と鳴いた。
薬を与えると、爆発の頻度が格段に減り、猫もより穏やかになった。
「これで住民の皆さんも安心ですのね」
「ええ、でもこの子は森の自然な一部だから、完全に爆発を止める必要はないと思うの」
『たまには爆発したいにゃ〜』
猫の本音を聞いて、私たちは微笑ましく思った。
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ギルドに戻って報告書を提出する際、ギルドマスターが驚いた顔をした。
「まさか天然の魔力結晶を食べる猫だったとは……」
「人に害はありませんし、むしろ森の魔力バランスを整える役割を果たしていますわ」カタリナが説明する。
「調査結果を学術論文にまとめて、学院にも提出いたします」エリオットが資料を整理しながら付け加えた。
「ありがとうございました。Tri-Orderの皆さんのおかげで、また一つ謎が解けました」
帰り道、ふわりちゃんが満足そうに「ふみゅ〜」と鳴いた。
「今日も良い調査だったわね」
「ですが、ルナさんの実験で私の髪がまた少し虹色になりましたわ……」
カタリナが苦笑いしながら髪を確認している。
「あ、ごめんなさい!でも綺麗よ?」
「まあ、慣れましたけれど」
森では「にゃ〜ん」という鳴き声と共に小さな「ポンッ」という音が今でも鳴る。
爆発する猫は、今日も森で元気に暮らしているのだった。
「次はどんな魔物に出会えるかしら」
私の呟きに、ハーブが「ピューイ♪」と嬉しそうに答えてくれた。




