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第11話 新しいメイドと歓迎の大爆発

「お嬢様、お帰りなさいませ」


屋敷の玄関で出迎えてくれたのは、執事のハロルドと——見慣れない少女だった。


茶色の髪をきちんとまとめ、真新しいメイド服に身を包んだ彼女は、私よりも少し年上に見える。

緊張した面持ちで、丁寧にお辞儀をした。


「初めまして、お嬢様。本日よりアルケミ家でお世話になりますセレーナと申します」

「あら、新しいメイドさん!」


私は嬉しくなって手を叩く。

冒険から帰ってきて早々、新しい出会いがあるなんて素敵だ。


「よろしくね、セレーナ! 私はルナ・アルケミよ。気軽に呼んで」

「恐れ入ります……ル、ルナお嬢様……」


セレーナは頬を赤らめながら答える。

とても真面目で礼儀正しい子のようだ。


「セレーナは今日から、お嬢様の身の回りのお世話を担当していただきます」


ハロルドが説明する。

その時、彼の表情がふと曇った。


「あの……お嬢様」

「何?」


「旅の間、実験は控えていらしたのですよね……?」

「もちろんよ! 代わりに外で色々——」


私がリュックを降ろそうとした瞬間、中から『未知の鉱石』がころりと転がり出た。


「あら」


薄紫色に光る美しい石だった。

魔王城の近くで見つけたものだが、見ているだけでわくわくしてくる。


「お嬢様……それは……?」

ハロルドの顔が青くなる。


「旅の途中で拾った鉱石よ。きっと面白い実験材料になると思うの」


「実験材料……」

セレーナが小声で呟く。


「セレーナ、お嬢様の『実験』については、追々説明いたします」


ハロルドが深いため息をつく。


「とりあえず、お部屋をご案内しましょう」



「まあ、何て素敵なお部屋ですの」

一緒についてきたカタリナが、相変わらず優雅にコメントする。


「セレーナも、大変でしょうけれど頑張ってくださいませ」


「大変って、どういう……?」

セレーナが首をかしげた瞬間——


——ポンッ!


私のリュックから小さな爆発音。中に入れておいた『携帯用芳香剤(改良版)』が勝手に作動してしまったらしい。


甘い香りが部屋中に漂い始める。


「きゃっ!」

セレーナが驚いて後ずさり。


「あ、大丈夫よ! これは香りの実験で——」


説明している間にも、香りはどんどん濃くなり、ついには廊下まで広がっていく。


「お嬢様、また……」

ハロルドが頭を抱える中、屋敷中のメイドたちが次々と現れた。


「何この素敵な香り……?」

「まるで花畑にいるみたい……」

「お嬢様がお帰りになったのね……」


みんな、うっとりとした表情で香りを楽しんでいる。


「あら、思ったより好評ね」


私が満足そうに頷くと、セレーナが恐る恐る尋ねる。


「あの……お嬢様は、いつもこのような……?」


「ええ、まあ……」

カタリナが苦笑いしながら答える。

「ルナさんのいるところに、平穏はありませんの」


「平穏!?」

セレーナの声が上ずる。


「でも慣れると楽しいですよ」


別のメイドが声をかけてくる。


「最初はびっくりしましたが、今では毎日が楽しみです」

「そうそう、退屈しませんから」

「ただし、命の危険は常にありますが」


「命の危険って!?」

セレーナがますます青ざめる。


「あはは、大げさよ。せいぜい髪の色が変わるくらいだから」


「髪の色が変わる!?」

私の軽い説明に、セレーナは混乱を深めるばかり。


「まあ、百聞は一見にしかず、ですわね」

カタリナがため息をつく。


翌朝、私が書斎で『未知の鉱石』の分析を始めていると、セレーナがお茶を運んできた。


「失礼いたします……」

彼女は恐る恐るドアを開け、机の上の実験器具を避けるように歩いてくる。


「ありがとう、セレーナ。ちょうどお茶が欲しかったの」

「お役に立てて光栄です……あの、それは何を……?」


セレーナが指差したのは、私が観察していた紫の鉱石だった。


「昨日の石よ。魔力に反応して光るみたい。今、成分分析をしているところなの」

「成分分析……」

「そうそう、こういう風に魔法を当てると——」


私が軽く魔力を込めた瞬間、鉱石がぱあっと明るく光った。


「わあ、綺麗……」

セレーナが思わず感嘆の声を上げる。


「でしょう? きっと素晴らしいポーションの材料になると思うの」


調子に乗った私は、もう少し強く魔力を注いでみる。

「あ、ちょっと強すぎた——」


——ビカッ!


鉱石から稲妻のような光が放たれ、部屋中の実験器具が一斉に反応し始めた。


「きゃああああ!」

セレーナが悲鳴を上げて飛びのく。


「大丈夫よ! これくらいなら——」


——パパパパンッ!


机の上の小瓶たちが次々と小爆発を起こし、部屋が色とりどりの煙で満たされる。


「お嬢様あああああ!」

執事のハロルドが慌てて駆け込んできた時には、もう手遅れ。


書斎は完全に実験室爆発状態になっていた。



「……すみません」


煙が晴れた後、私は正座して謝っていた。


目の前には、全身煤だらけになったセレーナ、疲れ果てた表情のハロルド、そして呆れ顔のカタリナ。


「セレーナ、初日からこんなことになって……」

「い、いえ……」


セレーナは震え声で答える。

しかし、よく見ると彼女の髪の先端が薄く虹色に染まっている。


「あら、綺麗な色になってるじゃない」

「え?」


セレーナが鏡を見ると、確かに髪に美しいグラデーションがかかっていた。


「これは……『魔力増幅の副作用』ですわね」

カタリナが分析する。


「多分、一週間くらいで元に戻るわ。でも、その間は魔力が少し上がってると思うの」

「魔力が……上がる?」


セレーナが手のひらを見つめると、確かに薄く光が宿っている。


「あら、本当ですわね」

「すごいじゃない! メイドの仕事も魔力があった方が楽になるわよ」


私が嬉しそうに言うと、セレーナは複雑な表情を浮かべた。


「あの……お嬢様」

「何?」


「毎日、このような……?」

「まあ、だいたいね」


「だいたいって……」


「たまに、もっと大きな爆発もありますが」

ハロルドが遠い目をして呟く。


「もっと大きな……」

セレーナの顔がさらに青くなる。


「でも大丈夫よ! 慣れちゃえば楽しいから」

「楽しい……」

「そうそう! 毎日がサプライズの連続なの」


私の明るい説明に、セレーナは困惑を深めるばかり。


「セレーナさん」


カタリナが優雅に近づく。

「もしこのお屋敷の生活に不安を感じるなら、遠慮なくおっしゃってくださいませ」


「い、いえ……そんな……」


セレーナは慌てて首を振る。


「確かに驚きましたが……でも、お嬢様はとてもお優しい方ですし……」


「優しいのはそうですが、危険でもありますのよ?」

「危険……」


「命に別状はありませんが、常に何かが爆発しますの」


カタリナの率直な説明に、セレーナは深く考え込んだ。


そして——


「私、頑張ります!」


意外にも、力強い返事が返ってきた。


「え?」


「確かに驚きましたが……こんなに刺激的なお仕事は初めてです。それに——」

セレーナが虹色に染まった髪の先を見つめる。

「髪の色が変わるなんて、普通は体験できませんもの」


「セレーナ……」

私は感動で目を潤ませる。


「ありがとう! 一緒に頑張りましょう」

「はい! お嬢様」


「でも、安全第一でお願いします」

ハロルドが念を押す。


「もちろんよ! 今度はもっと気をつけて——」


私が『未知の鉱石』に手を伸ばした瞬間、全員が一斉に後ずさりした。


「まだやるんですの!?」

「え? だって、まだ分析が終わってないもの」


「お嬢様、せめて今日は……」

「大丈夫よ! 今度は優しく——」


——ピカッ!


またしても光る鉱石。


「きゃあああ!」

セレーナの悲鳴が屋敷に響く中——


——ボンッ!


今度は小さな爆発で済んだ。

しかし、部屋には甘い香りと虹色の光が充満している。


「……慣れるまで時間がかかりそうですわね」


カタリナが苦笑いしながら呟いた。


「でも、きっと慣れますわ。みんなそうでしたから」

「そうですね……」


セレーナが震え声で答える中、私は満足そうに鉱石の分析結果を眺めていた。


「面白いデータが取れたわ! 明日はもっと詳しく——」

「明日って!?」


セレーナの絶叫が、夕焼けの屋敷に響いたのだった。


こうして、新しいメイドのセレーナを迎えた私たちの日常は、相変わらず爆発と驚きに満ちていた。

果たして、セレーナは無事にこの屋敷での生活に慣れることができるのだろうか。


——答えは、きっと「YES」である。


なぜなら、アルケミ家のメイドたちは皆、最終的には爆発に慣れてしまうからだ。


「お嬢様、明日の朝食の準備を……」

「あ、セレーナ! 朝食のお供に『栄養増強パン』を作ってみない?」


「栄養増強って……まさか、また爆発……?」

「大丈夫よ! パンが少し光るだけだから」


「光るパン!?」


セレーナの新しい日常は、まだ始まったばかりだった。

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