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第105話 祝福の花火と祝福の花(偶然)

それから約一時間後、王国軍の野営地では祝勝会の準備が進められていた。

兵士たちが焚き火を囲んで歌を歌い、勝利の美酒に酔いしれている。


「ルナさん、少し休んでいてくださいな」

カタリナが心配そうに私の様子を伺っている。


確かに、多層効果薬の調合はかなり体力を消耗した。でも、あの虹色の煙が気になって仕方がない。


「でも、あの残留魔力を調べたいの。きっと新しい発見があるはず!」

私が立ち上がろうとした時、セレーナが慌てて駆け寄ってきた。


「お嬢様!大変です!」

「どうしたの?」

「あの…戦場に残った多層効果薬の残滓が…なんだか変な反応を起こしています!」


え?残滓が反応?


私たちが戦場を見ると、確かに先ほど多層効果薬を使った場所で、地面から薄っすらと光る蒸気が立ち上っている。


「これは…予想外の化学反応ね」


「化学反応?」エリオットが興味深そうに眉をひそめる。「多層効果薬の成分が地中の鉱物と反応しているのでしょうか?」


私は空間収納ポケットから『魔力可視化薬』を取り出した。

これを使えば、どんな魔力が働いているか分かるはず。


「ちょっと調べてみるわね」


瓶の栓を開けた瞬間、薬が勢いよく泡立った。

「あれ?いつもよりも反応が激しい…」


ーーぽん!


小さな爆発と共に、薬が私の手からこぼれてしまった。慌てて拭き取ろうとしたその時—


ーードドドドーン!!!


突然、戦場全体で連鎖爆発が始まった。

といっても、危険な爆発ではない。まるで花火のように、色とりどりの光が空中に舞い上がっている。


「きゃー!何これ!綺麗!」

「美しいですわね…でも、これは一体?」


カタリナが呆然と空を見上げている。


ピンク、青、緑、黄色…まるで虹の花火大会のようだった。

そして、その美しい光と共に、とても良い香りが戦場に漂い始めた。


「この香り…まるでお花畑みたい」セレーナがうっとりと呟く。


「ふみゅみゅ〜♪」

ふわりちゃんも嬉しそうに羽をパタパタと動かしている。


『これは…』氷竜が驚いた様子で声を上げた。『「祝福の花火」に似ている』


「祝福の花火?」

『勝利を祝う時に自然発生する魔法現象だ。めったに見られるものではない』


つまり、私の多層効果薬と戦場の勝利の気持ちが合わさって、偶然この現象が起こったということ?


「すごいじゃないですか、ルナさん!」セレスティアが感嘆の声を上げる。「ルナさんの錬金術は本当に奇跡を起こしますね」


でも、まだ爆発は続いている。

今度は地面から小さなキノコのような煙がぽこぽこと噴き出していた。


「あ、あれは…」


私の顔が青くなる。あのキノコ型の煙は、確実に私の実験でよく起こる「予想外の副作用」の兆候だ。


ぽこ、ぽこ、ぽこ…


戦場のあちこちで、カラフルなキノコ雲が次々と立ち上がる。そして、それと同時に—


「あれ?なんだか体が軽い…」

「魔力が増強されているような…」

「傷が完全に治ってる!」


兵士たちから驚きの声が上がった。

どうやら、このキノコ雲には治癒と強化の効果があるらしい。


「偶然だけど、すごい発見よ!」


私が喜んでいると、今度は別の場所で新たな爆発が起こった。


ーーバーン!


今度は紫色の煙が立ち上る。そして、その煙を吸った兵士たちが…


「あははは!なんだか楽しくなってきた!」

「踊りたい気分だ!」

「歌おうぜ、みんな!」


明らかに気分が高揚する効果があるようだ。

まるでお祭りみたいな雰囲気になっている。


「ちょっと待って!これは『踊るツタ』の葉の成分に似ている効果ね」


以前調査した魔物の特性が、偶然再現されているのかもしれない。


ーーバーン!バーン!バーン!


今度は三連続で爆発が起こる。

オレンジ、水色、ピンクの煙が空中で混ざり合って、まるでパステルカラーの絵の具をこぼしたような美しさだ。


「お嬢様、これは…」セレーナが心配そうに言う。「止めた方がいいのでは?」

「でも、みんな楽しそうよ?」


確かに、兵士たちは誰も怪我をしていない。

むしろ、治癒効果や気分高揚効果で、戦いの疲れがすっかり吹き飛んでいるようだった。


「殿下はどう思われますか?」カタリナがアルカデ王子に尋ねる。


王子は腕を組んで、興味深そうに爆発の連鎖を眺めていた。


「面白い現象だな。兵士たちの士気も上がっているし、怪我人も出ていない。むしろ、これは良い祝勝会になるのではないか?」


「兄上の言う通りですわ」ノエミ王女も微笑んでいる。「まるで自然が勝利を祝ってくれているみたい」

その時、最後の大爆発が起こった。


ーードッカーン!!!


今までで一番大きな爆発と共に、巨大な虹色の花が空中に咲いた。

それはまるで、本物の花のように美しく、優雅に空中で舞っている。


「うわあ…」


全員が息を呑んで見上げる。


虹色の花びらがゆっくりと舞い降りてきて、私たちの肩や髪に優しく舞い散った。

花びらに触れると、ほんのり温かくて、とても良い香りがする。


「これは…本当に魔法ですわね」カタリナがうっとりと呟く。


「『祝福の花』だ」氷竜が感動した様子で言った。『古代の書物でしか見たことがない。まさか実物を見られるとは』


「ふみゅみゅ〜♪」

ふわりちゃんも嬉しそうに羽をパタパタと動かしながら、虹色の花びらと一緒に空中で舞っている。


「私、何もしてないのに…」


私が困惑していると、セレスティアが優雅に微笑んだ。


「いいえ、ルナさん。あなたの純粋な気持ちと、みんなを思う心が、この奇跡を起こしたのです」


「そうですわ」カタリナも頷く。「あなたの錬金術には、いつも愛情が込められている。だから、こんなに美しい現象が起こるのですわ」


エリオットも感心している。「理論的には説明できませんが、確かに愛情という要素が化学反応?に影響を与えることは十分考えられます」


虹色の花びらがゆっくりと地面に降り積もり、戦場はまるでお花畑のように美しくなった。

兵士たちは花びらを拾い集めて、お守りにしようとしている。


「これで本当に戦いが終わったのかもしれませんね」セレーナが安堵の息をつく。

「そうね。こんなに美しい終わり方なら、きっと平和が続くはず」


私がそう言った時、ハーブがピューイと鳴いて私の肩に飛び乗った。

小さな前足で虹色の花びらを掴んで、嬉しそうに匂いを嗅いでいる。


「ハーブも気に入ったみたいね」


こうして、ドラゴニクス帝国との戦いは、予想外の美しい花火と祝福の花で幕を閉じた。

私の実験がまた予想外の結果をもたらしたけれど、今回は本当に良い結果だった。


友達みんなと一緒に虹色の花びらに包まれながら、私は心から幸せを感じていた。


そして、また新しい実験のアイデアも浮かんできた。今度は「祝福の花火薬」を作ってみようかな?


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