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第103話 多層効果薬のチート級効果

帝国軍が一時撤退してから約2時間後、戦場に不穏な空気が漂い始めた。


地平線の向こうで、再び黒い軍勢が動いているのが見える。しかし、今度は様子が違った。


「あの炎竜…怒っているようですわね」

カタリナが望遠魔法で確認しながら呟く。


確かに、炎竜の動きは先ほどよりも激しく、攻撃的になっている。

翼を大きく羽ばたかせて、まるで戦場全体を焼き払おうとしているかのようだ。


「プライドを傷つけられて、本気になったのか」


氷竜が空中で身構える。


『ルナ、今度は手強いぞ。先ほどとは比べものにならない』

氷竜の声に緊張が宿っている。


帝国軍も隊列を再編成していた。

今度は炎竜を中心とした攻撃陣形で、明らかに総攻撃を仕掛けてくる構えだ。


「殿下、状況はいかがですか?」

第一王子アルカデ殿下に確認する。


「厳しいな。敵は本気で来る。こちらも全力で迎え撃たなければならない」

殿下の表情は険しい。


「ルナ、何か奥の手はないか?」


私は持参した材料を確認する。

『星屑の欠片』『時の砂』『究極の触媒』…まだ使っていない最高級の材料が残っている。


「多層効果薬を作ってみます」


「多層効果薬?」

エリオットが興味深そうに尋ねる。


「複数の効果を同時に発現する錬金薬よ。士気上昇、味方補助、敵の行動封鎖を同時に行う」


「そんなことが可能なのですか?」

カタリナが驚く。


「理論上は可能。でも、調合の難易度が非常に高いの。一歩間違えれば大爆発を起こしかねない」


戦場での大爆発は絶対に避けなければならない。味方を巻き込んでしまう。


「でも、今はそれしか方法がない」

私は決意を固める。


セレスティアが空中から声をかけてくる。


『ルナさん、何かお手伝いできることはありますか?』


「セレスティア、帝国軍の指揮官を牽制してもらえる?調合に集中したいの」

『承知いたしました』


セレスティアが優雅に舞い上がり、帝国軍の上空に向かう。


調合を始める。まず『星屑の欠片』を最高純度の魔力で溶解する。美しい銀色の液体が輝く。


次に『時の砂』を慎重に加える。時間の流れを操作する危険な材料だ。液体が淡い金色に変化する。


最後に『究極の触媒』を一滴だけ加える。これが全ての効果を統合する鍵だ。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

セレーナが心配そうに見守る。


「集中しているから、話しかけないで」


液体が複雑な色合いに変化していく。銀、金、青、緑…まるで虹のような美しさだ。


しかし、不安定でもある。わずかな魔力の乱れでも爆発する可能性がある。


慎重に、慎重に…


「完成!」


多層効果薬が完成した。瓶の中で七色の液体が美しく輝いている。


その時、帝国軍が再び攻撃を開始した。


炎竜が先頭に立って、王国軍に向かって突進してくる。その怒りに満ちた咆哮が戦場に響く。


「今よ!」


私は多層効果薬を高く投げ上げる。空中で瓶が割れ、七色の光が戦場全体に拡散した。

効果は驚異的だった。


まず、王国軍の士気が劇的に向上する。兵士たちの目に強い決意の光が宿る。


同時に、味方の身体能力が大幅に強化される。動きが速くなり、力も増す。


そして、帝国軍の動きが鈍くなる。まるで重い泥の中を歩いているかのように。


「すごい効果ですわ!」

カタリナが感嘆の声を上げる。


「これなら勝てる!」

エリオットも興奮している。


しかし、炎竜だけは効果が限定的だった。強大な魔力で薬の影響を部分的に打ち消している。


「氷竜、一緒に炎竜を封じ込めましょう」

『いいだろう』


氷竜と私が同時に行動する。

私は残りの氷結粘着薬を全て投擲し、氷竜が氷の息吹で炎竜の動きを制限する。


炎竜の行動範囲が徐々に狭まっていく。


空中では、セレスティアが帝国軍の指揮官と対峙していた。


『指揮官殿、このような無謀な攻撃を続けるおつもりですか?』


「魔王よ、我らの邪魔をするな!」

『魔王ではありません。そして、邪魔ではなく、忠告です』


セレスティアの声は冷静だが、その魔力は凄まじい。帝国軍の指揮官が身を震わせているのが分かる。


『あなた方の戦術は破綻しています。撤退なさることをお勧めします』


地上では、王国軍が圧倒的優勢に立っていた。多層効果薬の効果で、帝国軍を圧倒している。


第一王子アルカデ殿下が前線で指揮を執り、王女ノエミ殿下が完璧な後方支援を行っている。


「カタリナ、追加の治療魔法を!」

「はい!『癒しの光輪』!」


負傷した味方が次々と回復していく。


「エリオット、戦術支援を続けて!」

「『精密誘導魔法』、継続展開!」


王国軍の攻撃がより正確になる。


「セレーナ、前線の支援を!」

「はい!『反撃の壁』!」


セレーナの衝撃波魔法が帝国軍の攻撃を逸らす。


完璧な連携だった。


炎竜も、氷竜と私の連携攻撃でついに動きを封じられた。氷の檻に閉じ込められて、もがいている。

帝国軍の指揮官が絶望的な表情を浮かべる。


「こんなはずでは…」


『申し上げた通りです』


セレスティアが優雅に微笑む。


『無謀な戦いは、このような結果を招くのです』


戦局は完全に決した。


帝国軍が全軍撤退の号令をかける。

炎竜も氷の檻から脱出すると、怒りを込めて一度咆哮してから帝国軍と共に撤退していった。


再び、戦場に静寂が戻る。


「やったあ!」


王国軍から大きな歓声が上がる。


私は疲労で座り込んでしまった。多層効果薬の調合は、想像以上に魔力を消耗する。


「お疲れさまでした、ルナさん」

カタリナが駆け寄ってくる。


「ルナさんの薬がなければ、この勝利はなかったでしょう」

エリオットも感謝を込めて言う。


「お嬢様、本当にすごかったです」

セレーナが誇らしげに微笑む。


セレスティアも地上に降りてきた。


『見事な連携でしたね。これで当分、帝国軍も無謀な攻撃は控えるでしょう』

「ありがとう、セレスティア。あなたの牽制があったからよ」


『いえいえ、私は少しお話ししただけです』


氷竜も満足そうだ。


『ルナ、君の成長は目覚ましいな』


帝国軍の撤退を見送りながら、私はゆっくりと立ち上がった。

多層効果薬の調合で消耗した魔力が、少しずつ回復してきている。


「本当に終わったのかしら…」


戦場に漂う静寂が、まだ少し不安だった。

でも、地平線の向こうで帝国軍の黒い軍勢が完全に姿を消すのを確認して、ようやく安堵の息をつく。


「ふみゅ〜♪」

ふわりちゃんが私の肩で嬉しそうに羽をパタパタと動かしている。

戦いの間、ずっと心配していたのが伝わってくる。


「お疲れさま、ふわりちゃん。みんなのおかげで勝てたね」


脅威はなんとか退けられた……と思う。

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