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SF作家のアキバ事件簿229 ミユリのブログ 渦巻き象形文字の謎

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第229話「ミユリのブログ 渦巻きヒエログリフの謎」。さて、今回も萌え始めたミレニアムの頃の物語です。


秋葉原に開いたワームホール"リアルの裂け目"の影響で腐女子のスーパーヒロイン化が止まらない中、彼女達の誕生の謎に迫る謎の象形文字が発見されて…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 足音の正体

"5月12日。私は、東池袋の乙女橋パークにある山型遊具の土管トンネルの中にいる。もちろん、テリィ様と一緒。でも、デートじゃナイわ。だって、地下に"秘密の部屋"を見つけた私達は、伝説の"ミレニアム時空旅行者(トラベラー)"の足跡を追っていたんだもの。


その時、私達を追う足音が…"


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


土管トンネルの地下に"秘密の部屋"を発見した僕達は、息を殺して天井を見上げる。

僕達を追ってトンネルに入って来た"誰か"は"何者"かに襲われ気を失ったようだ。


今度は"何者"かの足音に集中スル。


「マリレ、何してる?」

「私達、そのうち見つかるわ。その前に"ミレニアム旅行者"に関する手がかりを探さないと」

「なるほど…何だって?"時空波動帯もつれジャンプ理論"?何なんだ?ココは誰かの研究室だったのかな?」


僕達は松明の灯りを頼りに"秘密の部屋"の中を探し回る。一方、頭上の土管トンネルの中では…


「ううう」


トンネル内で襲われて失神していた万世橋警察署の敏腕警部ラギィが息を吹き返す。薄く目を開けると…


「あったわ。鍵穴かしら」


ペンライトを口にくわえ、ナイフで鍵穴を掘り出しているのは…メイド服だと?メイド協会のトポラ?


再び気を失ったフリ。目を閉じるラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"秘密の部屋"にネズミが出て、悲鳴をあげそうになるスピアの口を慌てて塞ぐ。ネズミは部屋の奥にある暖簾のように垂れた新聞紙の奥へと走り去る。


「ミユリさん、見てくれ。抜け穴がアルぞ」


新聞紙をめくると何処に通じてるかは不明だが、非常口的な抜け穴だ。トンネルではトポラが鍵穴と格闘中…突然扉が開く。気配に振り向くミユリさんw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ミユリさん、脱出用の非常口カモ」

「テリィ様、逃げましょう!みんな早く!急いで」

「待ってぇ姉様!」


難解な数式が描かれた書類の束をバッグに詰め込み真っ先に抜け穴に飛び込むマリレ。大脱走のスタートだ。


「エアリ、何してる?!」


エアリは、壁にかけられたペンダントを見つける。


「早く逃げるのょ!」


ペンダントを手に抜け穴に飛び込むエアリ。僕は、最後に新聞紙を暖簾のように垂らして逃げる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


朝焼けに染まる乙女橋パーク。突如マンホールの蓋が開き書類箱が現れる。続いてメイド服のマリレw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"秘密の部屋"に入ったトポラは難なく抜け穴を見つけるとペンライトを口にくわえ自分も飛び込む。

トポラがマンホールから顔を出すと目前をベンツとケッテンクラートの車列が猛スピードで走り去る。


第2章 事故現場みたい


首都高5号池袋線をベンツG4型で東進。誰も話さない。風に髪をなびかせ遠くを見ているミユリさん。


"5月28日。"覚醒"前の、あの愛おしい日々は木っ端微塵に吹っ飛んじゃった。


昨夜の私の予定は、御屋敷(メイドバー)で働いた後、食事をしてスピアとチャット。洗い物をやっつけて、キュリー夫人の伝記のドラマを見て…


なのに、実際はヲタ友にはウソをつき、違法車に乗り込み、不法侵入の末に泥棒までして、この時空に吹き溜まった時空旅行者達(トラベラー達)のリーダーになる決意を固めてる。コレが…私の人生?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


朝焼けの首都高。ベンツG4型を追尾するケッテンクラート。自分を見て微笑むスピアを見てマリレ。


「何ょ?」

「別に。たった一晩で変われば変わるモンだなと思って。もうびっくりよ。私、マリレのコトはズッと違う時空の人で、どこの誰ともわからない変な人種だと思ってた。もちろん、ソレは今も変わらないけど…でも、貴女にも意外な一面があったんだなと思って驚いたわ」

「意外な一面って、私が生まれた時空のコト?」


軍人らしく武骨な答えのマリレ。


「生まれた時空?まあソレもあるけど…いいえ。時空とか、そーゆーコトじゃないの。その薄汚れた格好の内側に、実は傷つきやすい繊細な心を隠していたってコトょ」

「マリレ。ちょっと待って。昨夜のコトは1時の過ちょ。そもそも、話をしただけでしょ?」


ニヤリと微笑むマリレ。


「当然よ。貴女こそ何か勘違いしてない?それじゃ何か間違いがあったみたいだわ。私、貴女と百合だなんて、頼まれたってゴメンだから」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"マチガイダ・サンドウィッチズ"は僕達のアキバの居場所。ヲタクが逝き交う人間交差点みたいな店だ。


因みに、お薦めはチリドックだ。


「あ。YUI店長、私達ネバーね」


メイドの間で流行ってる"朝ドッグ"の注文を済ませたミユリさんは"秘密の部屋"で見つけた資料をタブレットでパラパラめくる。ソコヘエアリ登場。


「ミユリ姉様。御屋敷(メイドバー)の春イベで鎌倉にピクニックに行った時のコトを覚えてる?」

「あ、エアリ。貴女が日射病になって、私が足首を挫いたイベント?」

「YES。あの時、御主人様達と海岸で砂の城(サンドキャッスル)を作って遊んでた時に、砂に象形文字(ヒエログリフ)を描いたのを覚えてない?」


ヒエログリフは、ピラミッド時代のパピルスなどに描かれている絵文字のコトだ。見たコトあるだろ?


「うーん象形文字?」

「ねぇ思い出して。あの時2人とも意味も知らずに描いてた。アレって、きっと私達の記憶の何処かに眠っていた何かだと想うの」

「え。記憶の何処かって…何処?」


呆気にとられるミユリさん。因みにミユリさんもエアリもメイド服だ。何しろココはアキバだからね。


「エアリ。急に何を逝い出すの?」

「描いて」

「え。何を?」


メモ用紙とシャープペンを渡される。


「ヒエログリフょ。あの日と同じように」

「何も覚えてナイけど」

「描けるって。良いから、ホラ」


無理やり目を閉じさせシャープペンを握らせる。すると、不思議な渦巻きの絵を描き出すミユリさん。


「ホラ!姉様、コレと比べて」


砂の城(サンドキャッスル)で遊んでいる2人の水着画像。そーゆーイベントなのでスク水だ。激レアな貴重画像だょ眼福。


で、砂に描かれた文字は…


「驚いた。エアリ、そのペンダントを見せて」

「でしょ?同じ渦巻きだわ。このペンダントは、東池袋の"秘密の部屋"で見つけたモノょ。姉様、きっとコレは…」

「2人とも!何ノンビリしてルンだ?ネバードッグが出来てるぞ。熱い内にやんな!」


カウンターからYUI店長が呼ぶ。ネバーはYUI店長が考案した納豆ドッグ。コレがウマい…かは微妙w


「424回混ぜた納豆だ。混ぜたてを食べてくれ」

「いただきます。YUIさん、おはよー」

「おや?メイドさん達どうした?2人とも疲れた顔だな。昨日は何時頃、御屋敷を閉めたんだ?」


急いでペンダントを胸の谷間に隠すエアリ。その深く、陰影のある谷間に溜め息をつくミユリさんw


「ごめんなさい。チェキのオーダーが止まらなくて遅くなっちゃった」

「今度お絵描きスル時はココを使っても良いンだぞ。常連に絵描きがいる。下請けに出せょ」

「ソレ、GOOD IDEA!」


笑顔でネバーを受け取るエアリ。そっとミユリさんに耳打ちスル。


「thank you…YUIさんをダマすのって嫌だわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その後、御屋敷に出勤したミユリさんは早速openの準備に取り掛かる。スピアが擦り寄って来る。


「ミユリ姉様。マリレって確かに変わってるけど、超面白いの」

「え。気になるの?」

「待って。百合だと思ってる?ソレはナイわ」


手を止めて腕を組むミユリさん。


「あら。どーゆー意味かしら」

「だって、マリレって問題児でしょ。髪型も性格も怪しいし、もしかしたら、別の時空で卵から生まれてたりして」

「差別発言…で、池袋のラブホで何かあったの?」


ミユリさん、突っ込む。


「何もなかったって」

「マジ?」

「まぁ肉体的にはねってゆーかー…気持ちが通じ合ったのよね。同じ振動を共有したって言うか…彼女は、姉様達がいつも使ってるバイブレーターみたいな感じ」


真っ赤になるミユリさん。


「ちょ、ちょっち待ってょバイブレーター?」

「え。何?つまり、周囲の空気を振動させる独特のオーラというか、電波を出す人って意味だけど…違う?」

「うーん。とにかく、他の人の前では、その逝い方はヤメてね」


どーやらウブなスピアは、バイブレーターを知らないようだ。まぁソレはソレで健全な証拠ではアル。


「ごめんなさい、スピア。私、カレルと話して来なくちゃなの」

「え。あの姉様の池袋時代のTO(トップヲタク)と?今じゃ姉様の立派なストーカーに成り下がってるのに…頑張って。モテる(メイド)は辛いわね」

「お互いにね」


見つめ合い、やがて笑い出す2人。


「じゃ姉様、後で。テリィたんの部屋でね」

「テリィ様の部屋?どうして?」

「だって、池袋から持ち帰った資料をみんなで調べルンでしょ?私は、マリレが帰りに車で送ってあげるって、向こうから言って来たのょ?」


微笑むミユリさん。


「そうなの。じゃ後でね」


開店即御帰宅のカレルに絡むミユリさん。


「カレル」

「何だょ今更"お帰りなさいませ、御主人様"でもナイだろ?」

「今、ちょっちお話し出来る?」


意味深にニヤリと笑うカレル。


「俺に何か話すコトがアルのか」

「お願い。2人きりでょカレル」

「2人きりで?ソレじゃ仕方ナイな」


マンザラでもないカレル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ミユリさんは、御屋敷のバックヤードにカレルを押し込む。キョロキョロ周囲を見回して施錠。髪をかき上げてから、腰に手を当ててカレルを振り向く。


「カレル…」

「ミユリ!ココが御屋敷のバックヤードか。池袋の御屋敷に比べると随分狭いな…池袋のバックヤードでミユリと初めてキスしたよな」

「YES。懐かしいわ。良い思い出よ」


真正面から睨むカレル。ミユリさんは目をそらす。髪を耳にかけて再び得意技の上目遣いで仕掛ける。


「昨夜は貴方のコトを傷つけたんじゃないかと思って…大丈夫?落ち込んだりしてない?」

「ふーん。ソンな気遣いをスルためにココに連れ込んだのか?マジで俺を心配して?」

「モチロンそうょ」


唇を固く結び、うなずくミユリさん。


「俺は落ち込んでないさ。しかし…気にしてくれたのなら、ありがとう。ウレしいょ」


何かを期待するカレル。が、何も起きナイ。露骨にガッカリしバックヤードから出ようとするカレル。


「待って。カレル」

「まだ何かあるのか」

「昨夜見たコトは誰にも話さないって約束して。私達が何処にいたとか」


露骨に絶望するカレル。


「結局、俺のコトを心配してくれたンじゃないンだな?ミユリの心配はソッチだったんだ。おい、東池袋で、みんなツルんで何をしてたんだ」

「ソレは言えないわ」

「ヒントで良いからくれよ。ドラッグ?カルト宗教?乱交パーティ?池袋じゃベリーダンサー風情だったクセにマハラジャの言うコトが聞けないのか?」


最低の御主人様だなw


「ヤメてょカレル」

「ミユリ。俺は誰にも言わないから安心しろよ」

「…ありがとう」


率直にカレルの言葉を受け止めるミユリさんだったが、続く言葉に凍りつく。


「テリィのシッポを掴むまではな。黙ってるさ」


眉をヒソめるミユリさん。ニヤリと笑うカレル。バックヤードを出て逝く。取り残されるミユリさん。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


マイク付きハンドフリーヘッドホンでヨガをしながら誰かと話すトポラ。自分のオフィスでメイド服。


「ターゲットの動きは全て把握しています」


通話の相手は大統領府別班のレイカだ。デスクで執務中だが、同じくマイク付きヘッドフォンで会話。


デスクから立ち上がるレイカ。


「トポラ。私が与えた任務を理解しているの?」

「もちろんです」

「では、言ってみて」


トポラはヨガを続けながらも少なからず驚く。レイカはサイドテーブルからベーグルを出して頬張る。


「補佐官。今、なんとおっしゃいましたか?」

「自分の任務を言ってみてと言ったわ」

「…私の任務は、ターゲットを監視し、彼女達に関する、ある仮説を実証するコトです」


幼稚園児みたいに暗唱させられるトポラ。


「あら。ちょっと違ってるわ。"全て内密に"よ。貴女の任務は、ターゲットを内密に監視し、彼女達に関する推論をあくまで内密に実証するコトよ」


執務室の中をグルグル歩きながら話すレイカ。

一方のトポラは、ヨガの"蓮の花"のポーズ。


「もちろん内密に動いていますが」

「では、なぜ所轄の警部を殴り倒したの?」

「私の作戦の障害になって…」


地雷を踏むトポラ。


「私の作戦ですって?!」

「失礼しました。私達の作戦です」

「貴女のでも貴女達のでもナイわ!コレは私の作戦なのよっ!」


デスクをドンと叩くトポラ。ピタリとヨガを止め、頭のてっぺんにポトリと手を置く。一方のレイカは興奮の余りベーグルを誤嚥し、激しくムセかえる。


「ごめんなさい。食道にベーグルのかけらが引っかかったわ…新たに双子のメンバーを入れてチームを補強します。2度と失敗は許さないから。彼女達が東池袋の"秘密の部屋"から持ち帰ったモノを全て押収して。今、彼女達が何をしてるのかも全て調べ上げて報告して。OK?」


今やヨガは完全に中断、腰に手を当て、憮然とした顔で部屋の中央に立つトポラ。額を伝う汗を拭う。


「わかりました…(何ょベーグル食べながら?)」

「どんな手段を使っても構わないわ」

「了解です」


地雷原の上で立ち往生のトポラ。


「良いわね?今度は絶対にヘマしないで」

「肝に銘じます」

「絶対にょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


パーツ通りの"タイムマシンセンター"。インバウンドにレクチャーする館長女子。プロジェクターに何かの残骸が写ってる。ただの産廃にも見えるが…


「コレは、ミレニアムの頃、秋葉原に墜落したブラックホール第2.5惑星人のUFOの破片と言われていますが、実際は時空ジャンプ機、つまり"タイムマシン"の破片なのです。その証拠に、この金属は地球上に存在するどの元素とも一致せず、いかなる金属とも異なる性質を持っています。即ち、折り曲げても元の形に戻り、いかなる高温にしても溶かすコトは不可能なのです…」


インバウンドの客の半分は寝ている。そもそも日本語が通じないのだ。突然肩を叩かれ振り向く館長。


「ちょっと来て。話がアルの」

「ラギィ警部?あぁ、はい…えっと説明の途中ですが、ココからはスライドショーでお楽しみください」

「自発的な捜査協力、thank you」


館長を力づくで物陰に引っ張り込むラギィ。


「警部、何ゴトですか?」

「貴女、ジムズ・アトンを知ってる?」

「YES。モチロン知ってます。2000年(ミレニアム)にあったとされる秋葉原へのUFO墜落は実は"時空ジャンプ"の事故だと最初に看破した人物です。"時空波動帯もつれジャンプ理論"を唱えた"汝等の中に"は名著ですよ。警部、お貸ししますので、ぜひ感想を聞かせてください」


慌てて首を振るラギィ。


「no thank you。で、彼女は今も存命なの?」

「ソレが…消息不明ナンです。何しろ跡形もなく失踪してしまったので」

「疾走した?」


フランス人みたいに肩をスボめる館長。


「走ってません。姿を消す方です。その直前に、何か重大な発見をしたと私達は睨んでいます。"影の政府"に誘拐されたとの説もありますが…因みに、彼女の失踪が明らかになったのはミレニアムが明けた2001年です」

「2001年?」

「警部。善良なヲタク、かつ時空ジャンプ研究家として伺いますが…何があったんです?」


フト視線を泳がせるラギィ。


「タイヘン!スライドから煙が出てるわ!」


ギョッとして振り向く館長。


「ぎゃー大変だ!みなさん、落ち着いて!着席してください。貴女お願いょ席を立たないで…ご心配なく!どうぞそのママで!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋警察署。


結局、館長に名著?"汝等の中に"を推しつけられたラギィ。背表紙にある"著者近影"と光る手形付きミレニアムの変死体の写真とを慎重に見比べる。


千年紀(ミレニアム)の変死体の正体は、ジムズ・アトンだったンだわ。何てコト」


警官が駆け込んで来る。敬礼。


「警部、事件発生です」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


昭和通りを北上中のSASジープ。ミユリさんのアパートへと急ぐ、ミユリさん自身とエアリとマリレ。


「私のアパートに缶詰めで、あれだけの資料の読み込みは結構大変ょね」

「ワケわかんない数式ばかりだし」

「少しずつやりましょ」


運転はミユリさんだ。後部座席のマリレがボヤく。


「姉様、3人でヤルの?」


運転中のミユリさんが振り向く。危ねぇ。


「そうょナゼ?」

「ただ、その、ちょっと手伝いたがってる奴がいたりスルのょ」

「あーら何方のコトかしら?」


先輩のエアリがヒヤかす。3人ともメイド服。(ハイみなさん御一緒に!)何しろココはアキバだからね。


「えっと、そぅ、あのスピアとか言うメイド」

「スピアとか逝うメイド?」

「スピアとか言うメイド?」


最後のセリフはミユリさんとエアリが異口同音。ニコニコ笑いを抑え切れない2人。赤面するマリレ。


「あ。姉様、やっぱり3人でやった方が良い?」

「ごめんね、マリレ」

「いいえ。実は私もそう思ってたンだけど」


ミユリさんとエアリは顔を見合わせて微笑む。


「でも、実は一緒に調べようって、約束して迎えに行くって言っちゃったンだけど」

「あらあらマリレ」

「困ったメイドさんね」


大げさに驚いてみせる2人。


「ソレが、ホント、あのメイドしつこくて。マジ、バイブレーターだわ」

「はあ?」

「バイブレーター?」


一斉にマリレを振り向く。ミユリさん、前!


「え。何かヘンなコトを言ったかしら。バイブレーターって時空共振をシンクロさせる装置ょね?」


マリレの生まれた時空ではそうなのだろう。時空トラベラーにありがちな間違い、というか勘違いだ。


「せっかくだけど、スピアに証憑を見せるわけにはいかないわ。スーパーヒロインonlyでやりましょ。今回はテリィ様にもお声かけしてナイの。私達3人でやるのょ」

「わかりました、姉様。エアリ、スマホあったら貸して。忘れてきちゃった」

「OK。でも、長電話しないでね。バッテリーが切れそうだから」


メイドのポーチからスマホを取り出すエアリ。マリレに渡す…そこにサイレン。何とミユリさんのアパート前にパトカーが2台、黒い4WDも止まってる。


「何?まるで事件現場だわ」

「姉様、行かない方が良いくない?」

「でも、私のアパートだし…堂々としてて。しかし、嫌な予感がスルわ」


駐車場に止めSASジープから降りる3人。黄色い規制線が張られ、制服警官や鑑識が右往左往してる。


声をかけて来たのは…ラギィ警部だ。


「あら、ミユリさんにエアリ?残念ながら悪い知らせがアルの」


第3章 may the WOTAKU be with you


do not enter と描かれた黄色い規制線のテープを潜る。大家さんが飛び出して来てミユリさんに力説。


「アパートに泥棒が入ったの!」

「ラギィ警部から聞きました。いつのコトですか?」

「多分、朝のウチょ。お昼休みに戻ったら、この有様なの。全部屋が荒らされてるわ!」


初老の大家さんは大騒ぎだ。


「大家さんは大丈夫だったの?」

「えぇ何とかね」

「何か盗まれたの?人間洗濯機とか?」


勢い良く首を横に振る。


「私の部屋は大丈夫かしら?」


アパートに飛び込む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ミユリさんの部屋も完全に荒らされている。


「ナイわ」

「何てコトなの!」

「犯人は、最初からアレを狙っていたのょ!」


ドアをノックされる。片手を上げ挨拶するラギィ。


「失礼スルわね…わぉスゴいわね!しかし、ミユリさんも自分の部屋をココまで荒らされたら、さぞかしショックでしょ?ヒドい奴ね。何か盗まれたモノは?」

「いいえ。何も盗られてません」

「変ね。この部屋がアパート中で1番荒らされているのに?まるで何かを探してたみたいょ」


ベッドの下を覗き込むラギィ。


「マジ何もありません。被害ゼロ」

「他のメイドさん達は?泥棒とか入られてナイ?」

「多分大丈夫。ってか未だ帰ってナイし」

「自分の家よりこの部屋が気になったの?」


ヒッカケだ。黙るメイド達。ソコヘ援軍。


「ラギィ警部さん、ウチの店子を尋問スルの?私達は被害者ナンですけど」

「あぁすいません。マジ失礼しました。でも、私は尋問なんかしてませんよ。コレも捜査の一環なんです。何処に犯人が手がかりが残したのか分かりませんからね」

「あら。そうだったの」


アッサリ納得する大家さん。


「私、自分の部屋を見て来るわ」


エアリが胸のペンダントを握りしめて部屋を出ると外でアイヌ出身のヲエン警部補が声をかけて来る。


「すみませんが、後で供述書をお願いします」

「モチロンです」

「おや?どこでそれを?」


エアリのペンダントに目を止める。


「末廣町のショッピングモールよ。レトロでスチームパンクな感じが良いでしょ?」

「…私が参戦してたスチームパンク同好会で見た覚えがあって」

「そうなの?物販に出したのカモね」


ナゼか簡単に納得スル警部補。


「ところで、スチームパンク同好会?何処の?」

「乙女ロード近くの池袋メサリコ会。確か今でも定例ミーティングをやってるハズょ」

「そうなの」


エアリは、ペンダントを握りしめる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夜のパーツ通り。路地を歩くマリレ。何度も振り向く。路地を横切るメイドと目が合う。やり過ごす。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の御屋敷(メイドバー)。バックヤード。


ブラックホール第2.5惑星人のコスプレ用エプロンを脱いだトコロでマリレと出くわし驚くスピア。


「2度とヤらないで」

「マリレ?何をょ?」

「私を驚かしたでしょ?」


傍目にはメイド同士がジャレてるよーに見える。


「私が?」

「ミユリ姉様は?」

「知らないわ」


ソコヘ入って来る僕とミユリさん。


「話がアルの。みんな、作戦会議ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「姉様、ずっと尾行されてたような気がスル」

「マリレ、どんな人だったの?」

「姉様、相手もメイドでした。アラサーで背が高く髪は茶色」


バックヤードのソファにミユリさん、エアリ、マリレ、スピア。僕は…立ってるw頭を抱えるエアリ。


「勘違いカモしれないけど、私も昨日尾行されてた気がスルの。心配させたくなかったから、黙っていたけど」

「エアリも?一体何が起きてるのかしら。姉様のアパートに泥棒が入るわ、私達は尾行されるわ」

「何にもされないのはテリィたんだけ?」


余計なお世話だ。その時、身を乗り出すマリレ。


「エアリ。ソレって…」


エアリの深い胸の谷間のペンダントに気づく。


「何よ、マリレ。巨乳で悪い?」

「エアリ。余裕の上から目線、ウザい」

「じゃなくって、エアリのペンダントの渦巻きマーク。ソレ、知ってるわ」


(エアリの深い胸の谷間を)指差すマリレ。


「マリレ、貴女も?実は、私達もそうなの。スーパーヒロインに共通スル過去の記憶なの?」

「姉様。このペンダント、東池袋のジムズ・アトンの"秘密の部屋"で見つけた奴だから」

「ジムズ・アトン…何か意味がアルのかしら」


ペンダントをとってミユリさんに見せるエアリ。


万世橋(アキバポリス)のヲエン警部補が乙女ロードのスチームパンク同好会で同じ渦巻きを見たと言ってました」

「乙女ロード?今、また池袋に逝くのは危険だわ。私達"影の政府"に見張られているし」

「"ハゲの政府"?…でも姉様、突き止めなきゃ」


ソファによっかかるミユリさん。深呼吸して。


「いいえ。今はダメょ。少し様子を見ましょう」


水戸黄門が問題をこじらせるパターンだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋の北詰にある秋葉原メイド協会。神田リバーを見下ろすトポラのオフィスをノックするラギィ。


「どなた?」


答えを待たズにドアは開き、ラギィ警部が現れる。


「お邪魔かしら?」


マグカップ片手にスゴいスピードでPCを叩いてたトポラは手を止める。左右に手をダラリと垂らす。


「あら、ラギィ警部。いいえ、とんでもない。今日は何の御用かしら」


さりげなくPCを閉じるトポラ。


「協会のお力をお借りしたくて」

「まぁ何でしょう?」

「実は…」


デスクに斜めに腰掛けるラギィ。


「盗難事件が発生したの。昨日の朝、ミユリさんのアパートに泥棒が入った」

「アパートにご入居のみなさんはご無事?」

「YES。店子はホボ全員外出中だったから…ソコで1つお伺いしたいのだけれど…」


先手をとるトポラ。


「私のアリバイ…かしら?」

「貴女のアリバイ?まさか。最近アキバのメイドで問題行動をとる者はいないかなと思って」

「泥棒するようなメイドはいないわ」


腹を探り合うメイドと警官。あ、トポラはメイド服だょ。秋葉原メイド協会のカウンセラーだからね。


「当然だわ。貴女のような公式カウンセラーが目を光らせてるし」

「仕事ですから」

「お仕事には非常に熱心な様子ね。秋葉原の中でも外でも仕事、仕事。私は、どうも朝から頭が痛くて」


警部は室内を歩きながら振り返る。


「頭の使い過ぎですよ」


艶然と微笑むトポラ。


「そうかしら」

「きっとそうですょ」

「では、失礼。ごきげんよう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


窓を叩く音で目が醒める。カーテンは開けズに、僕は窓の外に向かって手を合わせ小声でお願いスル。


「ミユリさん、もう勘弁してくれ」


カーテンを引く。窓の外には…エアリ?


「姉様じゃナイけど、お邪魔しても?」

「え。あ?どうぞ…(どーしてメイド連中は窓から入って来るンだ?)」

「姉様が来てたの?かなりの乱戦だったみたいね」


僕のベッドは確かに…乱れまくってる。大乱戦だw


「次回の"メトロ戦隊 地下レンジャー"のアクションシーンを考えてたら、なんか夜中に暴れちゃったみたいだ。ほら"地下レンジャー"はアクションが命だから…ソレでどうしたの?何か飲む?」

「先程姉様の前では言わなかったけど、私1人で乙女ロードのスチームパンク研究会に行って来るわ」

「おいおいおい。大丈夫かょ誰かがスーパーヒロイン狩りをやってルンだぜ?しかも、その"誰か"は、昨日は資料を漁りに強盗を働いた。今後もドンドン"覚醒"した腐女子狩りを進めるつもりだぜ?」


マジ心配スル僕。


「でも、テリィたん。このペンダントに私達3人が生まれた時空を明らかにスル秘密が隠されているの。ソレを突き止めないと」

「気持ちはワカルけど、今はダメだろ。ミユリさんも逝ってたじゃナイか」

「だから、姉様には内緒で行くのょ」


ベッドの横に座り、上目遣いで攻めて来る。


「だって、いつだってテリィたんは、私達スーパーヒロインの味方でしょ?」

「ソレとコレには相当因果関係が認められないな」

「でも、あの日、姉様がテリィたんにモーションをかけたばかりに全てが始まった。ソレがなければ、みんなアキバでヲタクとして平和に暮らしてたわ。でも、貴方は平和なヲタクの暮らしを捨ててまで、私達スーパーヒロインとつき合おうとしてる」


ソレは、ミユリさんが僕の推しだからだ。ヲタクは推しのためなら人生を捨てて廃人にだってなれる。


「でも、ダメだ。僕の返事は変わらないよ」

「私の気持ちも変わらナイわ。ソレに姉様と違ってテリィたんに許可は求めない」

「じゃ僕に何を求めルンだ」


次の瞬間エアリは僕に抱きつく。メイド服の下に熱い肢体。いつも食欲、物欲の次に来る性欲の出番?


「姉様の次で良いの。抱いて」

「ほんの少しでも危険を感じたら、直ぐ秋葉原に帰って来るんだ。約束できなきゃお預けだ」

「いやん」


kiss & may the WOTAKU be with you


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夜の首都高を走るケッテンクラート。運転しているのはエアリ。彼女はメイド服だ。しかも乱れてるw


「東池袋ランプ。ココだわ」


夜の首都高を下りると有機野菜ショップを併設した水素スタンド。ケッテンクラートを降りるエアリ。


「ココがスチームパンク同好会の溜まり場?」

「このブレスレットお勧めなのょ」

「え。とても素敵…カモ?」


ほとんど老婆?な店員が声をかけて来る。仕方なく売り物の安っぽいブレスレットを手にするエアリ。


「でも、実は私、こーゆー渦巻きデザインのを探してルンだけど…ナイかしら」

「ソレは…"イタチの樹"だわ!でも、コッチのブレスレットこそ貴女に似合うンだけど」

「要らないわ」


アラビア商人みたいに安物を売りつける老婆な店員を制スルと老婆は露骨に大きな音を立てて舌打ち。


「実を言うとアタシも良く知らないのさ。その渦巻き、かなり古いモノみたいだね」

「そうなの。おばーちゃん、何か知ってるの?」

「貸して!」


突然横から黒のアンティークロリータにゴーグル的なスチームパンク女子が現れペンダントを鷲掴むw


「何?今度は誰?貴女、何か知ってるの?」


エアリを直視するスチームパンク女子。老婆な店員は明らかに何かを知っている目で女子を見てる。

この2人、デキてるわ…エアリは女の直感で確信する。唐突に立ち上がって姿を消すパンカー女子w


「老婆な店員さん。あの人は誰?」

「教えられないわ(アタシの情婦(イロ)だなんて)」

「…えっと、おばーちゃん。私、そのブレスレット、気に入ったわ。いただこうかしら」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夜の乙女ロードを逝くエアリ。気配に振り向く。


「近くに誰かいますか?」

「そのペンダントを寄越しなさい」

「貴方は誰?マジでスチームパンカーなの?」


例の黒ゴスだ。エアリがペンダントを渡した瞬間、何処かで犬が遠吠え。怯えて周囲を見回す黒ゴス。


「秋葉原のメイドさん。何処でコレを?」

「見つけた…いいえ、拾ったの。私が1人で見つけて拾ったのょ地下アイドル通りで」

「他に知っている者は?」


抜かりなく四方を見回す黒ゴス。


「誰も知らないわ。私だけょ」

「では、なぜ東池袋に来たの?誰かに尾行されてない?衛星軌道からは?」

「軌道から?"何者か"は偵察衛星まで持ってるの?誰にも追われてナイけど、コレは何なの?教えて」


何かに怯えながらも厳かに語る黒ゴス。


「コレは、スーパーヒロインに死をもたらす非常に危険なモノょ」


第4章 神田リバーキャット


万博マニアが高じて、僕がヲーナーの御屋敷(コンカフェ)では、各国の料理を幅広く提供スルようにしてる。今日も、ミユリさんがカウンターでデーツをスタンドに盛付けているが、ソコへ見知らぬ黒ゴスの女子が声をかけてくる。


「このアイヌプレートって何かしら?」

「ごめんなさい。料理名がアイヌ振興法に抵触スル恐れがアルのでメニューから外します」

「とんでもない。私達の部族の代表として御礼を言おうと思って…私は"時空旅行者協会"のエリィ・マイラブ」

「こんにちは。私はメイド長のミユリです。ごきげんよう」


"日本語会話"初級編って感じの会話w


「私は"神田リバーキャット"の使いで来ました。貴女にメッセージとお渡しするモノがあります」


手の平にネックレスの破片だ。エアリが持っていたモノに似てる…黒ゴスはもう1つの破片を取り出す。


2つを合わせると1つになる。息を飲むミユリさん。


「今宵10時。必ず来ると約束して。場所は池袋の乙女ロード」

「今宵10時?…エアリは大丈夫なの?」

「来ればワカルわ」


またまた周囲を見回しながら歩き去るエリィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


昭和通りを南下スルSASジープ。エアリの運転で、助手席にはマリレ、後部座席には僕とミユリさん。


「テリィたん。奴等は未だついて来てる?」

「うん。黒いユニバーサルキャリアが追尾して来てる。恐らくトポラの運転だ」

「こんなコトになるナンて信じられない。元の平和なヲタク暮らし…いいえ、秋葉原を出て普通のパンピーに戻りたいわ」


溜め息をつくエアリ。マリレもボヤく。


「テリィたん達の囮なんてゴメンょ」

「おいおいおい。コレしかないんだ。話したろ?」

「その"神田リバーキャット"って言う人に私も会いたかった」


口を尖らすマリレ。


「次の角だ。直角に曲がろう」

「飛ばして、エアリ」

「姉様、飛ばしてます」


急カーブ。昭和通りにブレーキの音が響く。車体をハデに軋ませ尾行して来るユニバーサルキャリア。


「スピアは何処?」

「すぐ来る。心配ナイ」

「テリィたんは元カノに甘いのょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


裏通りを疾駆するSASジープ。急停車してバック、路地に隠れてユニバーサルキャリアをやり過ごす。


「まるで悪夢だわ」


目の前を通り過ぎるユニバーサルキャリアを見てボヤくエアリ。ソコヘベンツG4型が乗り付ける。


「ママを針治療に送ってたの。ごめん」


スピアだ。僕とミユリさんはギャングみたいな目出し帽を被って、スピアのベンツG4型に乗り込む。


「テリィ様?」

「やってくれ、メイド長」

「ROG」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


中央通りにユニバーサルキャリアが路駐してる。前を塞ぐ形で停車している黒い4WD。

4WDからラギィ警部が降車しユニバーサルキャリアに手を置き運転者に話しかける。


「おや?メイド協会のトポラさんじゃナイですか?何か探し物でも?」

「ラギィ警部こそ。非番なのに職務質問ですか?それとも人を尾行スルのが御趣味とか?」

「いいえ。私の趣味は信号無視に一時停止と速度制限を全部無視して夜の秋葉原を走り回る違反車を取り締まるコト。切符を切らせてね、トポラ先生。貴女は非常に危険な人だわ」


艶然と微笑むトポラ。


「最高の褒め言葉ですわ」

「私としては直ちに万世橋(アキバポリス)にお連れして一晩拘留し、メイド指導カウンセラーのリアル経歴やマジな狙いを徹底的に調べたって良いの。でも、そんな不粋なコトをスルより、ココは2人で少し飲みに行かない?」

「とても良い提案だわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


東池袋ランプを降りたトコロにある水素スタンドでベンツG4型を降りる。既に閉店しており真っ暗。


「ミユリさん。場所はココで良いの?」

「乙女ロードに来いとしか…」

「その男は?」


背後からの声に振り向くと黒ゴスのエリィだ。


「私のTO(トップヲタク)ょ」

「1人で来てと言ったハズだけど」

「ごめんなさい。でも、ヲタと推しは一体なの」


瞬間うらやましそうな表情を浮かべたエリィだが…


「帰って。残念だわ」


クルリと背を向けるエリィ。呼び止める僕。


「待てょ」

「貴方は誰?」

「この渦巻きには、見覚えがアル。超古代メソポタミア象形β型文字だ。その意味は"嘆きの…"」


ペンダントのカラーコピーを見せる。


「待って。ソレ以上は言わないで」

「僕達を"神田リバーキャット"に会わせルンだ」

「…貴方が"神田リバーキャット"のテストに合格すれば会ってもらえるわ」


テスト?水着審査でもアルのかなw


「来る?」


数歩歩いてから振り向くエリィ。


「来ないの?」


僕達は、エリィを追い闇に踏み込む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


囮役の大任を果たしたアキバ組は閉店した御屋敷(メイドバー)に集まる。エアリとマリレとスピア。全員メイド服だw


「姉様達、遅いわね」

「待ちましょ。未だ1時間しか経ってないわ」

「手がかりをつかんだのは私ょ?その私が御屋敷でお留守番ナンて」


頬を膨らますマリレ。


「あのね、マリレ。そもそもペンダントを見つけたのは私ナンだけど」

「ソレもそーね。あぁお腹空いた」

「ちょっと」


ケーキスタンドのデーツを摘むマリレ。サウジアラビア珈琲と良く合うお菓子だ。スピアがとがめる。


「それタダで食べる気?」

「そうだけど?」

「そーゆーの無銭飲食って言うのよ」


無視してデーツにタバスコをかけるマリレ。


「なんでタバスコをかけるの?」

「美味しいからょ。甘くてピリ辛になったわ」

「ソレがおいしいの?」


呆れるマリレ。エアリが解説スル。


「私達スーパーヒロインは、激辛と激甘を混ぜて食べるのが好きなの。理解できないでしょうけど」

「理解できないけど、せいぜい覚えとく」

「頼むわ」


美味しそうに頬張るマリレ。ソレをスピアは…ウットリと見てる?今度はエアリが目を丸くスル番だ。


「何なの?このムード?」


見つめ合う2人を見てウンザリ顔だ。


「どうして私の周りはみんな百合でくっついちゃうの?わかったわ。お邪魔虫は消えるから」


お出掛けするエアリ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


真夜中の乙女ロード。エリィのあとをついて逝く僕とミユリさん。果たして逝く先では…水着審査?笑


「待ってエリィ。どこまで逝くの?」

「もうすぐょ」

「テリィ様。何だか変です。何処に逝くにせよ"遠すぎた橋"だわ…エリィ、待って。目的地はどこなの?」


クルリと振り向く黒ゴスのエリィ。


「ココょ」

「ココって?」

「幸運を」


突然、闇に消えるエリィ。僕は持参してる"スパイ7つ道具"のペンシルライトであちこちを照らす。


「どういうこと?」

「ハメられたのかな」

「そんな。あんまりです」


ドサクサ紛れに僕に抱きつくミユリさん。


「テリィ様。あそこ」


ライトで照らすとトンネル遊具だ。乙女橋パーク?


「きゃー。いや離して」

「ミユリさん?どこ?どうした」

「きゃー」


次の瞬間、暗闇を紫色の電光が切り裂く!ミユリさん、いや、彼女が変身した姿である"ムーンライトセレナーダー"の必殺技"雷キネシス"が光を放つ!


「僕の推しを離せ。貴女は?」

「私は"神田リバーキャット"。貴方の推しはテストに合格した」

「貴女が…"神田リバーキャット"?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


東秋葉原の安酒場。Tシャツ姿のむさ苦しいバーテンダー。カウンター席で向き合うラギィとトポラ。


「貴女がこんなにイケる口だったとはね」

「あら、意外だったかしら?」

「貴女のような女性は、ひたすらヘルシー指向かと思ってたわ。ジムで鍛えて有機野菜を食べる」


当たってるwつまらなそうに微笑むトポラ。


「警部。どのくらい私を尾行していたの?」

「あら。ほんの少しょ」

「そ。で、何か不審な点でも?」


不審だらけょ。ウンザリ顔のラギィ。


「東秋葉原に"南秋葉原条約機構(SATO)"のエージェントが潜入してるってコト以外には特に。しかも、そのエージェントは、現役警部を殴り倒す、スゴいキックの持ち主。すっかりやられたわ。貴女の延髄切りに不覚にも脳震盪を起こしてしまった。華奢(きゃしゃ)な腐女子ならとっくに死んでたカモ」

「どうかしら。新橋での汚名を注ぐコトに人生を捧げる女警部も充分繊細だと思うけど」

「あら。誰ょソレ?」


トボけるラギィ。グラスを飲み干すトポラ。


「確かに繊細でなければ、汚名や失敗のコトなど気にしなかったカモ。自分の失敗に手一杯で」

「あら何の話?」

「いつも"彼等"を指の隙間から取り逃している」


ラギィは逆襲スル。警戒に転じるトポラ。


「"彼等"とは?」

「狙いが誰であれ、SATOが狙ってる連中ょ。貴女は、所轄の警察に正体を知られた。もう好き勝手に秋葉原を歩き回って欲しくナイな」

「あらら。貴女は何か勘違いをしてるわ」


ラギィは逃さない。


「果たしてそうかしら。貴女達は、正体がバレると必ずそうゴマカそうとスル訓練を受けてるみたいね」

「マジ何の話かワカラナイわ」

「とにかく!貴女の直属の上官に報告スル前に警告だけはしておこうと思ったまでょ」


カウンターをポンと叩いて席を立つラギィ。


「待って…私が任務から外されるコトが貴女の得になるの?それより、もっと良い方法がアルと思うけど」

「おやおや。今度は一体何を考えてのかしら」

「私は、警察が知らない情報を持ってる。でも、貴女も何かお持ちのようだわ。ねぇ私達、手を組まない?」


ラギィは鼻で笑う。


「考え直す時間をもらうわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆⭐︎


乙女ロードにある児童公園"乙女橋パーク"。そのトンネル遊具地下の"秘密の部屋"で、萌える松明の焔が乱雑に散らかった室内を照らし影を揺らす。


「昔、貴女の同僚を知っていた。どの時空から来たのかは知らない。彼女は、長い旅の果てに乙女ロードに住み着いた。池袋のヲタクは、彼女に心を許し信頼した」

「神田リバーキャット、その人は今どこに?」

「もう半世紀も会ってナイわ。彼女がもう1人、私以外に心を許したのがジムズ・アトンだった。だから、彼女は、あのネックレスをアトンに送ったの」


トンボ眼鏡にサイケなコスプレ。"神田リバーキャット"はサイバーパンカーだ。いや、パンクスか。


「ジムズ・アトンって…あの"時空波動帯もつれジャンプ理論"の提唱者か?」

「で、そのアトンは今どこに?」

「彼女は…殺されたわ」


神田リバーキャットの答えに凍りつく僕達。


「殺された?誰に?」

「その女子にょ」

「そんな…」


小さく首を振る神田リバーキャット。


「きっと彼女は、自分の身を守るためにアトンを殺した。実は、ジムズ・アトンはUFOオタクで、彼女のコトも宇宙人だと思いたがっていたの」

「そして、そのコトを公表して既成事実化したがっていた?」

「YES。私が2人に駆け寄った時は、アトンは既に死んでいたわ」


ミユリさん、ではなくて、彼女がスーパーヒロインに変身した姿であるムーンライトセレナーダーが質問。


「ソレはいつのコト?」

「2000年の11月。未だミレニアムの頃だった」

「その人が"ミレニアム時空旅行者(トラベラー)"なの?」


老サイバーパンクスは立ち上がる。


「スーパーヒロインょ。貴女には、もう1つ見せるモノがアル。こっちに来て」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(コンカフェ)のカウンター席。何度もシュガーをポットに入れ替えるスピア。ソレをボンヤリ見てるマリレ。


「遅過ぎるわ。何かあったのカモ」

「落ち着いてょスピア」

「ねぇ乙女ロードまで迎えに行きましょ?」


首を横に振るエアリ。


「ダメょ。ミユリ姉様に言われたでしょ?」

「じゃどーするの?」

「待つの」


溜め息をつくマリレ。


「なんでエアリが帰ったのかわかったわ。スピアといるとイライラが憑依(ひょうい)スルのょ」

「マリレ、あのね。私は帰って来るまで御屋敷(メイドバー)で待っててと言われたから待ってるの。イライラしてるのは貴女の方でしょ」

「違うわ!」


思わズ立ち上がるスピア。


「違わないわ、スピア。貴女、さっきからずっと同じポットのシュガーを入れたり出したりしてるだけじゃナイの。私までイライラしてくるわ」

「もっと優しく言ってよ」

「優しくなんて言えば良いの?」


何と涙目になるスピア。


「あのね。普通は、大丈夫ょとか何とか、パートナーには気が紛れるようなコトを言うんじゃないの?」

「パートナー?大丈夫じゃないカモね」

「フン。お優しいコト」

「じゃ何ょ」

「もう良いわプンプン」

「じゃ黙ってて」

「大嫌いよ」

「上等ね」


完全に売り言葉に買い言葉モードだ。2人ともわかってるけど、言葉が勝手に口をついて出てしまう。


「私は…私はただ貴女に安心させて欲しかったのに。パートナーらしく、もっと、こう…もう良いわ。貴女に何を言っても無駄よね」


マリレは、突然スピアにキス。


「落ち着いた?」

「…え。まぁ、少しはね」

「そう」


プイと背中を向け合う2人。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


乙女橋パーク地下の"秘密の部屋"。極彩色がグルグル渦巻くイメージの"神田リバーキャット"は、トンボ眼鏡にバンダナのサイケデリックな女子だ。


「この渦巻きペンダント、彼女が私に?」

「YES。いつかココにスーパーヒロインが現れると予言してた」

「確かに…なぜだか懐かしい感じがスルわ」


ペンダントを首にかけるミユリさん。


「昔は象形文字の意味を知っていたわ。ただ、今は何もかもが思い出せない気がスルの」

「ミユリさん、いや、ムーンライトセレナーダー。きっとコレは貴女が生まれた時空の文字に違いない」

「私もそう思います、テリィ様」


意味深な言葉をつなぐ神田リバーキャット。


「彼女は殺されると怯えていたわ」

「殺される?誰に?」

「わからない。ただ、追手が迫っていると感じていた。だから、いつか自分の仲間がココを訪ねて来るまで秘密を守れと。その時、コレを見せろと言い残した…そして、私は約束した」


場には重積を果たした安堵感が漂う。


「他にテストに合格した者は?」

「いいや。汝の推しだけだ」

「コレは、僕達へのメッセージなのカモ」


象形文字の前で腕を組む。


「きっと何かを伝えたかったんだ。コレは警告なのカモな」

「ソレはワカラナイ…TOょ秋葉原へ帰る時が来た」

「また来ても?」

「私は約束を果たした。これ以上語るコトはナイわ」


話は終わりだ。僕達は(きびす)を返す。


「待ちなさい。スーパーヒロインょ汝のTO(トップヲタク)は…ヲタクね?」

「YES。私のTOはヲタクょ」

「スーパーヒロイン、汝はヲタクを信じるか?」


ムーンライトセレナーダーの唇が動く。


「YES」



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"謎の超古代文字"をテーマに、秋葉原で腐女子がスーパーヒロイン化する現象の謎に迫ります。y2kに追われてたミレニアムの頃を思い出して楽しく描けました。


大阪万博で感動、未来や科学に希望的な色彩を帯びた作品となっています。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、ほとんど万博会場並みインバウンド率の秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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