11/11
あの夏がくれたもの
季節は巡って、また夏が来た。
海星は大学を卒業し、小さな出版社で働いている。忙しない日々の中でも、ふと、あの夏を思い出すことがある。
夕とは、それ以来会っていない。連絡も取っていない。ただ、SNSの向こう側で、彼女が誰かと並んで写る写真を見ることもある。幸せそうな笑顔に、もう胸を締めつけられることはなくなった。
陽菜から、一通だけメッセージが届いたことがあった。「元気にしてる?」とだけ書かれたその文章に、海星は長いこと返信を迷った挙句、「うん、なんとか」と返した。
その後、返信はなかった。でも、それでよかった。言葉にしなくても、互いに少しだけ、前に進めた気がした。
今も、誰かと恋をしているわけじゃない。だけど、独りでいることが怖くなくなった。
いつか、また誰かをちゃんと好きになれる日が来るのだと、そう思えるようになっただけで——それは、あの夏が残してくれた、一番の贈り物だったのかもしれない。




